機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第十五話 計略と欺瞞

 

連邦軍がルウムに向けて艦隊を移動させていた頃、そのルウム周辺のコロニー群では民間人の避難が行われていた。

交戦予定がない、安全宙域コロニーへの一時避難はジオンの補給・工作部隊などにも手伝わせつつ行っている。だが、そこにはあるはずの物がない状態だ。

 

そう、連邦が動いた理由でありジオンが総力を挙げて実行している『ペズン』の運送。

それが、影も形もない。代わりというように各所から集結したムサイやMSが所狭しと埋め尽くしている。そんな中、俺はデラーズが座乗している仮旗艦『グワジン』にいる。

 

本来はジレン専用旗艦として建造されたが、ジレンの総帥辞任に伴ってデラーズが新たに旗艦とすることになった。もっともデラーズ自身は『ロズル専用旗艦』にと推挙していたのだが、彼は辞退した。デラーズも遠慮していたのだが、『ハルマ・ザビ』のことを考えて借り受けることにしたのだ。

ちなみに、『ハルマ・ザビ』は前世の『ガルマ・ザビ』である。

この後世では、彼はまだジオン軍学校にいるのだが、性格は前世と同様にかなりの自信家。悪く言えばナルシストと言ってよいだろう。まあ、前世と異なり特権意識などはないらしい。ハルマ・ザビはMSパイロットとしてパッとしないが、政務執政能力や作戦構想力はかなり有るらしく、ロズルからも高い評価を受けている。

 

つまり、彼が出世したら旗艦として明け渡すことを考えているらしい。

実にデラーズらしい。もっともロズルからも懇願されたようだった。

・・どうやら前世同様、この世界でもロズルは弟には甘いようだと俺なんかは思ったものだ。そのような曰くつきの旗艦で私たちは集合していた。

 

「しかし、戦闘後に敵は悔しがるでしょうね。まさか『ペズン』が移動してないと知れば。」

「向こうが勝手に誤認しただけだ。」

「撒き餌は大量に撒きましたがね。」

 

この場合の『餌』の中にはシーサンが有力情報と言っている『コロニー公社の衛星目撃情報』も含まれている。既に、公社の人員はジオン工作員にすり替わっており、公社そのものも現地市民が管理を行っていたのだ。デラーズも俺も、各指揮官たちも笑うしかない。

 

当初、ここに集められた実働戦力はほとんどが『ペズン護衛』のために召集された部隊なのである。だが、そこには護衛対象は最初からなく、追加のパルスエンジンを運んできた工作部隊は民間人避難のための誘導員に割り振られている状態だ。

なぜ、このようなことになっているのか?

それは『黒鉄会』の立てた戦略の一環である。

 

 

それは、2年以上も前だ。俺が、『黒鉄会』への出入りに慣れ始めたころ。

デラーズとの会食の席で『ブリティッシュ作戦』に代わる代案とはいかなるものかを尋ねた時だった。彼は、刺身の口に入れながら答えた。

 

「『ペズン』を利用しようと考えている。」

「『小惑星ペズン』をですか?確か前世では『ペズン計画』が行われた場所ですね。」

「うむ。工廠として実に意義あることをしていたと思うが戦略的には遅きに失したことは否めない。そこで、より実用的に利用することにしたのだ。・・君は『バルディッシュ作戦』という内容は聞いていないか?」

 

『バルディッシュ作戦』。

当時、『戦機隊』に所属していた俺ですらその名称は聞いたことがなかった。軍関連の作戦や技術・訓練関係は収集していた状況で、一般に流れない秘匿作戦かと思われた。

 

「いえ、私は存じませんが」

「前世の『ブリティッシュ作戦』と考えて差し支えない。」

「!!まさか、ジレンがまたそのような計画を立てているのですか!?」

「ペーパープラン、と今はなっている。だが、このままでは実現する可能性が高い。」

「懲りない方だ。・・ところで、それと閣下の『ペズン』利用がどのように関連するのですか?」

「もし、軍事作戦を立案・実行できる立場になった時、私は『ペズン』と『バルディッシュ作戦』を併用しようと考えているのだ。」

「それはいかなるようにでしょうか?」

 

内容はかなり考えたものであった。

ジレン中心の体制に代わる政府樹立と同時に、『バルディッシュ作戦』のペーパープランを連邦にそれとなくリークする。前後して『ペズン』に工作部隊を派遣し、核パルスエンジンの取り付けをさせるのである。それを見た連邦はどう考えるだろうか?

『バルディッシュ作戦』のプランでは、コロニーを落下させる予定である。

だが、何も落とすものがコロニーである必要はない。

同等かそれ以上の質量を落下できるなら何にでも代用できる。それがペズンである可能性は高い。

しかも、それを立証するように核パルスエンジンの取り付けを行っている。

さらにペズンに多数の護衛艦を派遣したところを連邦の少数艦艇に見せればどうなるか。

情報に信憑性を持たせることができる。

 

「しかし、本当に『ペズン』を落下させればいろいろ問題があります」

「落とす気はない。取り付けるパルスエンジンも見た目だけのダミーだからな」

「それでは、いったい何のために?みすみす敵を挑発するような」

 

そこまで言って俺は気づいた。

連邦がこの危険な情報に飛びつかないはずはない。

事実の是非はともかく、ジャブローの責任者連中は保身で必ず迎撃を命じるはずだ。

後は、それに合わせて敵の集結地点をこちらで誘導してやれば。

 

「・・戦場の選定、民間人の避難、将兵の士気。すべてにおいてこちらが優位に立てる。」

「しかも敵は焦りますから、情報の確認はおざなりになる可能性が高いですね。」

 

前世においてはギレン・ザビが『ブリティッシュ作戦』の後、似たようなことをしている。

レビルをはじめとする連邦軍残存艦隊をおびき寄せるためにだ。結果、『ルウム戦役』が起きた。

あの時、ギレンは二度目の『コロニー落とし』を撒き餌にして連邦軍の危機感を煽って艦隊決戦に持ち込んだ。デラーズはそれをこの後世でやるつもりのようであった。

ただし、戦略的価値は遥かに違っていたが。

 

 

そのように立てられたこの作戦はデラーズによって『マスラオ作戦』と命名され、連邦軍艦隊の機動戦力を殲滅することを表向き目標として行われようとしている。

ただ、気がかりなことがないわけではない。物量の問題は特に重要といえた。

 

「閣下。作戦自体はいいですが、連邦との物量差はどうお考えですか?敵は戦艦だけでなくMSも動員しています。まともに正面から激突すれば被害は甚大です。」

「臆したのかい?リーガン少佐。なんだったらあんたの部隊は後方で工作部隊の護衛でもしてればいい。代わりにうちのMS部隊が戦果を挙げてやるよ。」

「・・リーマ少佐、失礼だと思わないか?少佐は『負ける』とは言っていない。『被害』の話をしているのだ。戦場で勝って戦争で負けるでは洒落にならない。そうでしょう?」

「失礼。」

「危惧自体は正しい。だが、今回に限れば問題はないと考えている。作戦が予定通りであれば連邦は総崩れ、戦略的な目的も同時に完遂できる。ジャブローでのうのうとしている連中は気がきでなくなるはずだろう。」

 

作戦の進捗状況と今後の展望について佐官クラスを含む者たちが意見を出している。

俺の意見に対して、ストレートに感情含みの反論を言ってきたのは『リーマ・グラハム』少佐。その意見を正しく補足してくれたのが俺の先輩であるカーエル・マリクス大佐。

『リーマ・グラハム』は前世の『シーマ・ガラハウ』である。

前世より上司に恵まれたためかこの時点で既に少佐に上りつめている。性格はかなりきついが俺の知っているシーマよりはまだ女性らしさが見えるし険がない。

一応、信用できると思うが前世経験のためかどうしても一歩引いた態度になってしまう。

ただ、それより。

 

(先輩、いつの間にか大佐に昇進していたのか?俺が少佐になってからなんかヒヤヒヤしてるみたいだったけど、よかった。いつも通りの先輩だ。)

 

そのような感想を抱く俺であったが、俺は知らない。

その先輩がヒヤヒヤしていた理由が俺にあることを。

俺が少佐に昇進したので追い抜かれるのではと、内心カーエルの精神状態を不安定にしていたことを。そして、リーマにカーエルが最近、猛烈なアタックを繰り返していることも。

 

知らぬが仏とはよく言ったものである。

 

 


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