リーガンとマフティーが戦闘に突入していた頃、こちらでも戦闘が起きていた。
リーマ(ドム) VS アベル(ジムコマンド) である。
機体性能はおそらくリーマに軍配が上がるだろうが、武装面ではアベルに有利。
結果的に言えば、戦況が拮抗するのは必然であった。
「今度こそ、落とす!」
「私とためを張ろうってのかい?なめるんじゃないよ!」
リーマとアベルの機体が交錯する。ドムのヒートサーベルとジムのビームサーベルが鍔迫り合い始め、サーベル同士が火花を散らす。
リーマは距離をとりつつ、バズーカを当てようと苦心している。
だが、アベルが絶妙のタイミングでビームガンとバルカンを使って牽制してくる。
狙いがつけられないのだ。一方のアベルも、隙あらばビームガンとビームサーベルでたびたび反撃している。
「こっちは、少年のお守りをしてやってんだ。サッサと落ちちまいな!」
「口の悪い女性に落とされる気はありません。今少し、エスコートに付き合ってもらいますよ!」
両者、ともに友軍機の支援に行きたいと考えていたが、それを状況は許してくれない。
お互いにそう考えつつ、ビームガンとバズーカを交差させる状況が続くのであった。
一方、それとは別にこちらの戦場は砲火の応酬が絶え間なく続いていた。
ガトー(ガトー専用ドム) VS カレン/バルキット(ジムコマンド) である。
ガトーはこの時、自分の機体をカスタマイズしてくれた技術者に感謝していた。
ガトーはリーガンと同様に自身専用の機体を受け取っていたのだ。
もっとも、経緯はかなり異質だ。何しろいきなりリーガンの後輩が訪ねてきて。
「近々、戦場に出るんだよね。だったらついてきたまえ」
「何?」
一応、リーガンの後輩であることは知っていたのでついていくと、MS格納庫にあるそれを見て絶句したものだ。
配属と同時に受領する予定であったドムB型の原型はあるが明らかに違う。
全体的にリーガンの機体と酷似しているが、今少しスマートになっている。
だが、目を止めるのは傍目から見てもでかいあのバズーカである。360mmバズーカにしてはやたらとでかいのだ。しかも、大型エネルギーカップを付けてあるのが目立つ。
「あの、あれはいったい」
「現在試作中の武器なんだ。ただ、実戦データが欲しくてね。調度いいと思って」
詳しく聞くと以下の武器を常備装備する機体に調整したらしい。
①ヒートサーベル
②80mmマシンガン
③試作型高出力ビームバズーカ
何とも呆れたものだとその時は感じたものである。
装備を見るに80mmマシンガンは完璧に牽制目的であることがわかる。
威力・射程・連射ともに中途半端な武器なのだ。
そして、火力のほぼすべてを試作したビームバズーカが担うらしい。
ただ、エネルギーの問題があるのではと聞くと、『だから、専用のエネルギーカップを取り付けてあるんだ』と教えてくれた。結果としてかなり連射できるようにしたらしい。
『ゲージには注意するように』と言われたが、それは当然であろう。
そのような経緯で渡った機体であったが、今回はそれが幸いしている。
カレンとバルキットの技量はベテランパイロットのそれであるために隙がない。
連携もかなりの域である。もし、通常のドムなら今頃は撃墜されている。
「少佐の後輩には感謝せねばなるまい。」
ガトーは80mmマシンガンで迫りくるカレン機を狙うがギリギリ躱される。その直後にバルキットのビームガンがこちらを狙っているのが見えたので機体を即座にターンテーブルのようにスラスターで回転させる。そこをビームガンが通過するのを感覚で読みながらビームバズーカで応戦する。
反動そのものは360mmバズーカより少ないが、威力は完全に上回っていた。バルキット機にはあたらなかったがすぐ横にあったデブリが一瞬で粉々に吹き飛んだのが見えたのだ。
(これがビーム兵器。確かにMSに常備されれば便利だ。あの2機の主武装もビーム兵器だが、本当にやりづらい。実弾とは明らかに違う。)
『黒鉄会』でビーム兵器の小型化とMSへの携帯早期化が議論されていたことを思いだす。
当時は、これほど有用性があるとは想像していなかった。だが、実際に経験すると自身の視野の狭さがいやになる。デラーズからは何度も言われていたではないか。
『古き考えは安定的だが、その反面、良くも悪くも進歩を疎外する。ガトーよ、広い視野を持つのだ。さすれば、お前は我がジオンの鵬となるであろう。』
ふと、過去の言葉を思い出していたがそれどころでないことを思い出す。
こちらのビームバズーカも80mmマシンガンも決定的な結果を手繰り寄せていない。
ただ、勝ち目が見えてきていた。
何となくだが、打たれる前に反応できるようになってきている。
ガトーは知りようがないが、多くの人はそれを長時間かけて習得する。
それは『慣れ』であった。相手の二人もうすうす気づいてきている。
「さっきみたいに連携が機能しなくなっている。あんたがちんたらしてるせいじゃないだろうね!」
「そんな訳あるか!こっちは戦場にいるんだぞ。」
恐ろしい話であるが、ガトーは既に二人の連携に慣れつつある。
それを証明するように無駄な動きがどんどん減っていたのだ。
当初は、二人のうち一方を牽制している間にもう一方に攻撃を許す状態だった。
だが、現在は牽制しながらも既に意識はもう一方に傾けられるようになってきている。
結果、均衡が崩れた。
カレンがビームサーベルでガトーと格闘戦をしている時、バルキットが後方に回りこもうとしていた。だが、ガトーはそれを見越してスラスターを逆噴射させて真下へ逃れ、逆にカレン機を下から80mmマシンガンで狙い撃った。カレンは咄嗟に機体備え付けのシールドでガードするが弾薬の直撃による衝撃で機体が後方にのけぞる。
バルキット機がビームガンで再び狙うが、急激な制動をかけてまたもやビームが空を切る。
「うちらの隊長みたいなことしやがって!」
「それこそ、八つ当たりというもの。自分たちが未熟というだけのこと!」
バルキットはビームガンを殴り捨てるようにビームサーベルを握る。しかも、左右二本だ。
右からビームサーベルを振りかぶり、ガトーはそれを躱す。
だが、バルキットは待ってましたというように左のサーベルを逆手に持ち替えて反時計まわりで機体左腕を突き刺すように後ろに回す。回転気味に刺そういうのだろう。
だが、ガトーはそれすら見越していた。敵のサーベルを自分のヒートサーベルで受けながらサーベルをいなして行く。
しかも、そのまま自身のサーベルを沿わせるようにしてバルキット機の頭部を切り裂いた。
「先読みされた?!」
「私らの動きが読まれたと認めるべきだね。・・ここは引きよ。どちらにせよタイムアップだよ!」
二人は戦線が変化していることに気づいていた。当初は有利だと思っていた戦力が今は見る影もないほどすり減らされているのがわかるほどだ。
それを確認したカレンは破損したバルキットを引きずるように牽引して去っていく。
ガトーは初陣にして、敵のベテラン2人を退けたのであった。