一方、リーガンとマフティーも戦いは激化の一途をたどっていた。
リーガンなどはヒートナギナタを回しながら何度も刃を交えているのだが、その度に紙一重で躱し逆にビームサーベルで切り付けようとしてくる。
「ええい、ちょろちょろと」
「先読みばかりしているお前に言われたくない。」
互いに叫びつつも手は緩めない。
マフティーは60mmバルカンを撃ち込む。
だが、リーガンはそれを後ろに回していたバズーカを盾替わりにして逆に前進する。
そうと見たマフティーは、肩に付いている270mmキャノンを収納モードから砲撃モードに変え、リーガンを撃った。実弾ならではの反動があるはずだが、それを気にする余裕はない。
それどころか、無意識にそれを利用した。
キャノンを撃つと同時に武器の反動を利用しつつ、後方への推進力を増大させて下がる。
キャノンが命中して爆散したのがわかる。だが、それでも直感的にいやな予感を覚えたのだろう。
即座に機体を立て直し始めた。その直後にリーガンの機体が爆炎の中から姿を現す。
破損は激しいが、戦意が失われていないのを機体からの気配から彼は理解した。
(あの爆発は、バズーカが爆散した結果だったのか。だが、武器はもう無い。代償は大きかったようだな。これで終わりだ!)
マフティーは勝利を確信して再度、肩のキャノンをリーガンの機体に向ける。
だが、リーガンはそれでも速度を緩めないで突っ込んでいく。
(まだ、未完成の武器だろうからできる限り近距離で使わないと)
マフティーも訝しんではいたが、特攻と判断したのかキャノンで狙っている。
だが、そこがねらい目となった。
「食らえ!」
その直後、リーガンの機体胸部が開いた。
中から高速回転する何かが射出され、敵の機体に向かっていく。
その形状は、まさに電動ノコギリに酷似している。
だが、刃先に用いているのはヒートサーベルを小型にし、扇風機のように配置している。
(我が後輩作、『トライブレードもどき』。実戦初使用がこのタイミングとは。だが、俺も死にたくない!)
リーガンが命を懸けた攻撃である回転する兵器が二機、マフティーに向かっていく。
さすがに近すぎたのか、マフティーはキャノンの使用をあきらめた。
即座に両腕にビームサーベルを握り、ビームの刃で薙ぎ払おうとする。
一機は弾くことができたが、もう一機がキャノンと胸部の間にめり込んだ。
ギリギリと音を立てながら機体と武器を切り裂く音が今にも聞こえてきそうだった。
そう思った直後に、敵のキャノンが吹き飛んだ。どうやら誘爆したらしい。
結果的にはブレードも破損したが、損傷は大きかった。
右肩は腕と共に喪失、バルカンは先ほどからの戦闘で弾切れ。左腕は無事だが、これ以上の戦闘継続はかなりのリスクが伴う。そう考えた時、戦場各所で合図の閃光弾が打ち出されていた。
(撤収か。どちらにとって運が良かったのか)
マフティーはそのような思いを抱きながら敵MSの周波帯に向けて言った。
「運に恵まれたな。だが、次はこうはいかない。心しておくのだな!」
「それは、こっちのセリフだ。・・お互いに命拾いしたというのが正しいだろう?」
「・・・」
そう返されて、マフティーは黙りこんだ。それも事実である。
確かにマフティーの機体は左腕が無事なので戦えなくはないが、エネルギーがもうないので撤収するべきタイミングだ。また、そうしなければ死ぬのは必定。
一方のリーガンも既に勝てないことが解っている。切り札も使い切り、武器も喪失した。
まだ、110mm機関砲が残っているが暴発の可能性がまだ拭いきれていないので使用は避けたい。
結果、引き下がるしかないという結論に至ったのだろう。双方、しばし無言で向き合っていたが、マフティーが背を向けて飛び去って行った。
どうやら、ここでの戦闘も推移し始めたようである。見るに、ガトーもリーマも無事だったようだ。リーガンはひとまず胸をなでおろしながら母船に進路をとるのであった。
戦場全体では、ジオン優勢が確定しつつあった。
結果的に連邦軍は残存艦艇をまとめあげ、包囲が薄い左翼より離脱を図った。
ジオン軍はMSと戦艦による3方向からの砲火を退散する敵に浴びせ連邦軍機動艦隊は多大な損失を被ることになったのである。しかも、ルナⅡ周辺宙域に至るまで執拗な追撃を受け続けたために、生き残った将兵も精神的ダメージを背負うことになった。
連邦軍動員艦艇数詳細および被害数
340隻中200隻が撃沈・轟沈(内マゼラン級45隻 サラミス級155隻)
80隻が未帰還(内マゼラン級1隻 サラミス級79隻)、
60隻が中・小波(内マゼラン級2隻 サラミス級58隻)
MS部隊生存率 27%
さらに将兵に多数のPTSDの可能性有り、という状態であった。
一方のジオン側の動員戦力と被害は最小限であったことが、その後の調査で判明する。
ジオン軍動員艦艇数詳細および被害数
200隻中56隻が撃沈・轟沈(ムサイ級未改修型37隻 改修型19隻)
40隻が中・小波(ムサイ級未改修型25隻 改修型15隻)
MS部隊生存率 89%
この結果と前後して、ペズン自体が動いていなかったことが参謀部の調査で判明する。
この段になって、ジャブロー上層部は嵌められていたことを知るのである。
同時に、自分たちが危機的状態に陥りつつあると彼らは理解した。
この後世では連邦軍の機動戦力は400隻がほぼ全艦。つまり、『ルウム戦役』で機動戦力の大半を失ったことになるのである。
軍戦力差3:1であった戦いはその後、一変することになるのだが、それは少し後の話。
かくして、『ルウム戦役』と呼ばれる戦いは前世と同様にジオン側勝利で幕を閉じることになる。
ただ、ジオン側はただ勝利したわけではない。実は、勝利後こそ忙しかったのだ。
デラーズは避難誘導を完了した工作部隊を呼び戻し、抵抗力を失った敵艦の占領・鹵獲を命じたのである。艦橋席に座っていたデラーズに、彼の副官が報告交じりの会話をする。
彼ももとは『黒鉄会』メンバーだ。それ故に気楽に話せるゆえの本音と指示が双方で飛び交った。
「工作班からは増員要請の悲鳴が上がってますよ。後、捕虜をどうするかについても」
「捕虜に関してはグラナダにしばらく勾留。時期を見てルナⅡかフォン・ブラウンに送還する。将兵に捕虜への虐待は行うなと厳命しておけ。もし、行ったものには軍籍剥奪の上で極刑の適用もあると。・・努々忘れないように。」
「了解。・・しかし、敵は失った機動戦力の回復に苦心するでしょうね。マ・グベ少佐と私はおそらく半年は大規模攻勢を抑制できると踏んでいます。」
「その半年の間に鹵獲した艦艇の使い道ができそうだな。」
今回の戦闘で連邦軍内で行方が分からなくなっている艦艇の内、60隻がジオン軍に鹵獲され『サイド3』にて修復・改装が行われることになる。
これによって、ルウムでの損害の補填が迅速に行われ各サイドからも一目置かれる存在となっていくことになるのである。
対して連邦側では今回の戦いが原因で陸軍出身将校が発言力を増すことになり、MS配備が急速に遅れていくことになった。
特に決定的だったのは、現場指揮官であるシーサンの発言であった。
「高い有用性があると考えられていたMSだが、今回の戦闘ではほとんど役に立たなかった。ジオン側はミサイルとメガ粒子砲を多数搭載した艦艇によって我が方のMSの大半を遠距離から撃破していた。これに対応するには戦艦そのものの兵装充実と敵同様にメガ粒子砲搭載を視野に入れた改装を積極的に進める必要がある!」
この発言により、連邦とジオンは決定的に前世と違う道を歩むことになるのである。
ようやく『ルウム戦役』終了です。
MSの戦闘部分。文章が拙いですが、読んでいただき感謝します。
今後、さらにいろいろ展開させるので愛読お願いします。