機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第二話 出会い

「全員注目!」

 

格納庫全体に響き渡る野太い声で俺を含む兵士が視線を正面に向ける。

そこには例の尉官が真面目な顔で佇んでいる。

カーエル・マリクス大尉・・いや、先週少佐に出世したので今や佐官の一人なのだが、まだ慣れていないのか今でも同階級の人間に敬礼しそうになるのをたまに見かける。

後世に転生?してからはや一か月たち、ようやく俺もまわりの生活と名前に慣れてきている。その成果かどうかわからないが俺は先週、軍曹に昇進した。

本来は軍学校卒である俺は少尉任官になるはずだが、実験機の事故もあって療養も兼ねた階級保留措置のような事態を体験している。

 

凹んではいない。そもそも、自分があずかり知らぬところでの事故だ。

そもそも、前世では30代で中尉だったのだからこれくらいは全く気にならない。

・・なっていない!

 

ただ、驚きなのは先ほどのマリクス大尉との関係が理解できるようになってからだ。

 

(あれが、俺の直接の上司なんだよな。しかも、恩人にあたるらしいし)

 

軍学校にいた頃からの先輩であり、俺を『戦術機動大隊(今後は戦機隊と略す)』に引き上げることを上に進言してくれたらしい。ありがたいと思うべきなのだろう。

ただ、ないものねだりになるのだろうがもう少し、あの生真面目すぎる性格を軟化させれば他の部下や上役への評価は上がるとも思うが。

 

「少佐、軍務中に召集を受けたのですがいったいどのような要件でしょうか?」

「突然のことで困惑するかもしれんが、現在期待されている若手をねぎらうため、ジレン閣下直属の視察官殿がここにねぎらいに来られるそうだ。」

 

俺以外の多くの兵士たちがざわめきながらも顔を高揚させているのがわかる。

当然の反応ではあるかも知れない。ここに集めれた兵士は最年長の兵士でも20代後半の者であるから、『期待されている若手』ということでザビ家の実質的指導者の関係者に覚えられるのはうれしいのだろう。

ただ、やはり突っ込みたい。・・ジレンって、やはり前世のギレン・ザビのことなんだよな。

しかも、聞いた話だと弟が『ロズル・ザビ』とか。

微妙だ。微妙すぎるぞ神様。

その後、ほかの兵と一緒に格納庫で待機しているとカーエル少佐が戻ってきた。心なしか先ほどより緊張しているように見える。

その後ろに軍服の両肩をはじめ、ところどころに装飾を施した軍服を纏う男がいた。髪の毛は剃っているようなスキンヘッド、口周りに髭を蓄えている。年齢は30代であろうか、ただ、見覚えがある顔であった。

 

「諸君、紹介しよう。エギュー・デラーズ中佐。今回、ジレン閣下からのねぎらいもかねて立ち寄られた。失礼のないように。」

 

やはり、前世のエギーユ・デラーズだとわかる。少し若いが、面影が色濃くあり、前世の顔を知っていれば納得できた。

 

その後、ほかの兵士たちに声をかけられながら挨拶を交わしている。アピールをしようとしているようだが、デラーズは社交辞令的笑みとトークでいなしていた。

解散するまで1時間ほどだったはずだが、思いのほか長く感じたのは会話そのものよりもすこし気になっていたためだ。妙に背中にむず痒い感覚が付きまとっているのだ。

最初は俺の前世に関係ある人物の後世版を見たせいかと思っていたが、どうもしっくりこないために困っている。

そんな時だった、カーエル少佐に呼び止められたのは。

 

「リーガン軍曹。デラーズ中佐が君と話がしたいと言っているが何か心当たりがあるかね?」

「いえ、そのようなことは」

 

確実にないとは記憶の問題から言えないが、転生後は特にないと考えている。

・・いくつか個人的な『レポート』は提出しているがそれも一般兵の常識レベルを超えないものである。

 

「とにかく、中佐殿は会議室でお待ちだ。ただちに向かうように」

 

少佐に敬礼をし、ただちに会議室に向かった。

この格納庫備え付けの会議室は、普段使われることは少なくもっぱら『予備倉庫』と言われているのであまり待たせるのはいいことではないと思い自然と足早になる。

会議室に入った時には、デラーズ中佐も落ち着いて運ばれてきたと思われるティーカップに手をかけていた。

・・彫刻にできそうな描写とも言えなくないほど違和感がない。

 

「呼び出してすまんな。まあ、座りたまえ」

「失礼します。」

 

しかし、備え付けのパイプ椅子に折り畳み式の机、ティーカップ。

微妙な組み合わせなのに、違和感を醸し出さない。不思議なものだと場違いな感想を抱いた自分をデラーズ中佐は気づいたように口を開いた。

 

「いや、本当はその場にあった飲み物や食器を使うべきなのだろうがどうも性に合わなくてね。少佐に用意してもらったのだよ。君も飲むかね。」

「話のあとに頂きます。」

 

目上にこの回答は少し、礼を失しているとも思ったが本題を先に聞きたいとも思った。

決して暇ではないし、次の『レポート』もまだ書き終わっていないのだ。

 

「フム。では、本題に入ろう。君はここにきて何年だね?」

「・・閣下、経歴のことを言っているのでしたら私はまだ軍には1年ほどで」

「すまん、言い方を変えよう。この世界に来てどれくらいかと聞いているんだよ。」

 

俺は一瞬、ボー然と瞬きすることしかできなかった。

 

 

 




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