リーガンが哨戒艦隊に配属されてから2か月。
さすがに部下たちも手馴れてきたようで、MSの操縦をはじめとして哨戒行動そのものに無駄がなくなってきている。ただ、同時に気になる事は出てきていた。
「今日で3機目だな。」
「隊長。いささか気になる事態です。いくらなんでも回数が多いです。」
そう、俺は先週から3機の敵機と立て続けに遭遇している。
連邦のMAだ。もっとも、それは戦闘機の部類に属すもので戦闘力という面では我が方が圧倒的に上である。負けることもなく撃墜もしくは取り逃がしているのだが、いささか多いと思う。
「確かに。連邦の偵察とみるのが妥当だが、ここは我が方の防衛圏内でもある。そこにこう複数回も接敵が続くといささか問題だな。」
「順当に考えるなら敵艦がいるのは間違いありませんが、敵の拠点はルナⅡやサイド6のはずです。一週間続けてともなれば戦力の維持や食料補給は必要になります。」
「そうなると敵の拠点があると考えるしかないな。補給の梯子はあり得ないな。」
「この辺りの制宙権を確保しつつある現状では、敵にとって物資・人命双方にとってリスクが高すぎます。まず、ないでしょう。」
もし、拠点が存在するならこれはゆゆしき問題である。
連邦軍がこのあたりに手ごろな拠点を持っているということは、そこを中継拠点にしてソロモンやア・バオアクーへの攻撃の可能性も高まる。いや、哨戒網の裏をかけば本国への攻撃も十分にあり得るのだ。
「敵の発見された場所は記録しているか?」
「念のため残しています。このあたりのマップデータとともに光点で表示させます。」
その後、旗艦内のパネルにその光点が照らし出される。
距離的にはばらけているように見える。
偵察に用いられた機体は、三回全てがセイバーフィッシュ。
場所も見事に違う。だが、全体図で確認すると共通項が見えてくる。
「隊長。どう見ますか?」
「近くに廃棄されたコロニー群があるな。」
「はい。しかし、あそこには酸素も既になく湾港としても機能しないことが昨年の調査で確認されています。」
「確かにな。だが情報がそれを否定している。見てみろ、その廃棄コロニー群を中心にセイバーフィッシュの片道後続限界距離を円にしてみると見事に全機、その円状に収まる。」
「!!」
そう、拠点をおく以上偵察は必須となる。
とはいえ、MS・MAの航続距離には限界があるし敵との接触は極力避けなければならなくなる。戦艦を用いるのは論外だろう。
秘密裏に拠点を設営しようとするなら哨戒には使えない。そうなると余計に後続距離と用いる物が問題となる。我々のような哨戒部隊から拠点を隠さなくてはならない状態だと考えるなら、大規模な偵察は不可能だ。そこで、最低限の範囲でセイバーフィッシュによる偵察という苦肉の対策をとっているのだろう。
「しかし、廃棄コロニーを拠点にするのはかなり至難です。資材や時間が必要になりますし、発見されるリスクが高まります。仮にも、我が方の防衛圏内ですよ。」
「それでもできなくはない。資材に関してはデブリを利用することも可能だ。」
前世で『デラーズフリート』がそれを実践していた。
通称『茨の園』。UC0079年以降では、敗北したジオン残党にとって拠点づくりは困難を極めたはずである。アクシズなども確かにあったが、あれは距離があるし連邦も承知の上で黙認した経緯がある。それを考えると多大な労力が伴ったことは想像に難くない。
だが、同時に不可能ではないことを証明した事例であるといえるだろう。
「問題は食糧や酸素、武器弾薬、整備機材などをどのように確保しているかだな。」
「・・隊長。ばかげたことかもしれませんが意見を言っていいでしょうか?」
そこで口を開いたのは今まであえて意見を言わなかった艦長であった。
その態度には確信に満ちた自信が見て取れた。
「問題ない。言ってみたまえ。」
「フォン・ブラウンを経由して物資を調達しているのではないでしょうか?」
「しかし、あそこはグラナダも目を光らせている。そう簡単に物資輸送はできないしできたとしても気づかれるのではないか?」
「武器弾薬は無理でしょうが食糧や酸素、設営機材などは他のサイドとの交易品に紛れ込ませてしまえば可能かと。アナハイムは民間企業として中立を唄っています。ですが、それなりに得るものがあれば連邦の無茶を飲む可能性も捨てきれません。武器弾薬はリスク覚悟の長距離輸送を用いていると考えれば不可能ではないかと。」
(確かにアナハイムが中立とは言っても母体は民間企業。故に利益になる条件を提示すれば乗ることはあり得る。弾薬の長距離輸送もこちらの哨戒に補足されれば、物資を放出してしまえばいい。後は機器故障による漂流と言い逃れができる。何より、設営中の基地があるとは考えない可能性も高い。)
俺は艦長の意見にうなづきながらその考えを肯定しつつ、自分たちが何をするかを部下たちに指示した。
「そのあたりはグラナダや情報部に後々確認してもらおう。だが、とりあえず本当に拠点が存在するかどうかを調べる必要がある。各MS部隊やドップを交代で動員して先ほど指摘したポイント周辺を重点的に捜索する。だが、敵に悟られるな。交戦も極力避けて、こちらが気づいたと向こうに思わせるな。僚艦の各MS部隊にも伝えておけ。」
「了解!」
かくして、2日に渡って廃棄コロニーやその残骸を捜査した結果、ついに網にかかった。
偵察に出していたザク改修型の一機が廃棄コロニーの一つ、『グリーンフォート』跡にて敵戦艦が寄港しているのを確認した。
さらに、その報告をもとにドップを残骸に紛れさせて偵察させた結果、拠点工事は着工したばかりらしく周辺監視も穴が多いことが分かったのである。
「報告によるとサラミス級2隻、マゼラン級1隻、コロンブス級2隻。」
「どうやら本格的な拠点化前に発見できたようだな。」
「ええ。敵の構成もあらかたわかりました。MS・MAともにこちらの戦力で鎮圧可能であると考えます。」
敵のMSはザニーが4機。ボールが2機。後、セイバーフィッシュが6機。
どうやら、支援・増援部隊はまだ到着していないようで戦力的には基地を運用するギリギリの数で作業を進めていると考えられる。
「いささか危険ではあるが、今後のためだ。完膚無きまでにつぶしてしまおう。ただ、敵を逃すといろいろ厄介なことになるし、戦力的にはギリギリだ。MS部隊を最大限利用して殲滅する。」
「そうなると戦艦による砲撃後、MS部隊による強襲ですね。セオリーではありますが。」
「敵にとっては常識ではないだろう。だが、逃すとアドバンテージがなくなる恐れがあることを各自認識しておいてくれ。」
「はい。」
攻撃に当たり各隊に配備されているMSに不安要素があったが、何とかなると考えを改めて指揮を執り始める。
この隊で使用されているMS、『ザク改修型』がその懸念事項だ。
この機体は『ドムB型』配備に伴って性能のアップグレードを図った機体だ。スラスターやバーニアの出力向上。装甲の配置見直しによって基本性能を底上げしている。
さらに武装もみなおされているので、旧式機でも一級のスペックを維持していた。
主武装 ヒートホーク
120マシンガン改(弾薬増設型)
240mmバズーカ
3連装ミサイルポット
この改装によって各種戦線への対応が可能とみられている。だが、装備はともかく使う側がそれを使いやすいかはまた別の話だ。
しかも、事実上初の実戦使用となる以上、不具合が出る恐れもあるのだ。
過信は禁物であろう。そのような不安を抱きながらも作戦を各隊員に説明するのであった。