その頃、拠点港付近での戦闘は一応収束に向かっていた。
連邦軍はボールやセイバーフィッシュなどで果敢に応戦していたが艦船機動力を喪失し、拠点防御施設が無力化、機動戦力まで失った段階で既に大勢は決していた。
こちらのMS部隊は蜂が群がるように動けない戦艦に殺到する。
さらに、後方からは『バードシック』が援護射撃を随時加えているから、波状的に攻撃を加えれば決着が着くだろう。
一方、唯一封殺から免れた敵改装艦については残った2隻と俺が指揮するMS一個小隊からの集中攻撃を浴びることになった。
敵戦艦からは応戦のためのメガ粒子砲が放たれ続けている。一方、こちらの戦艦からもその倍にあたる艦砲から粒子ビームが向けられる。
こちらの艦への命中もあったが、それ以上に敵側の被害が大きい。艦そのものの推進力が見るからに落ちた。
(推進系に損害を受けたな。この機に敵砲塔を破壊する!)
俺は部下のMSとともに敵へ迫る。機体摩耗はあるが、戦闘に支障はない。
部下たちはミサイルポッドからミサイルを一斉に発射して敵の対空砲を潰しにかかる。
一部は敵戦艦の装甲に剃れたが、左側面は既に内部がむき出しになっているほどの損害を受けている。対空砲の有効範囲も縮小していた。
俺は、それを見て穴が開いたに左から敵艦の懐に潜りこみ敵主砲を一門破壊した。
「これだけ接近すればマシンガンでも十分!」
他の僚機もそれを見て同様の方法で敵の懐に潜り込み、敵に一撃を加えていく。
戦闘から15分たったころには既に主砲は全壊、対空砲は数門、推進力喪失という状態になった。さすがにここまで来ると俺も降伏を勧めた。
「こちらジオン哨戒艦隊のリーガン・ロック中佐だ。既に貴艦の戦闘能力は喪失している。これ以上の犠牲は当方も望んでいない。ただちに降伏せよ。捕虜としての待遇を約束する。」
「通信は受信した。こちらは地球連邦軍『リターンズ』のハロルド・ブルーザー大佐だ。我々は最後まで戦う。降伏などしない!」
「貴官の軍人精神には感服する。だが、乗員の命は何者にも代えがたい。ただちに投降していただきたい。」
「拒否する!再考の余地はない!!」
そう言って、通信が切られた。それと前後して各所からロケット砲で武装した兵士がこちらのMS部隊に発砲をしはじめた。
(命を粗末にすることが国や軍への忠誠か?!こんな連中がいるから無益な犠牲が出る!!)
俺は敵艦橋へ接近しながらヒートサーベルを抜く。
虚しい思いが心を占めるのを感じたが、放置すると味方へ被害が出かねない。
俺は敵艦橋に逆手で持ったヒートサーベルを突きたてた。
艦橋をつぶしたが兵士たちの抵抗は一向に止まず、曳航も困難であると判断されたため仕方なく砲撃による撃破に踏み切った。メガ粒子の光に包まれて爆発する敵艦から人の叫び声が聞こえた気がした。
嫌な仕事を終わらせ、残った敵を殲滅するために艦を向けたところ、あちらから通信が入った。
なんでも降伏したいとのことである。勿論、捕虜としての安全を保障してほしいとの事だったので、地上で定めている条約を一時的に適応させることにした。
「いずれは、連邦との交渉をするときに定めておく必要があるな。停戦交渉がどうなるにしても捕虜に関しての記述は双方にとってメリットがあるし、向こうも乗ってくる公算が高い。」
「そうなると交渉は『フォン・ブラウン』で行うことになるのでしょうか?」
「閣下はあそこも信頼できないといっていたから別の場所を指定するだろうな。私はペズンなどはどうかと提案してみたが」
「これまた連邦にとっては皮肉な場所ですね。」
俺もそう思ったが、決して悪くないと考えている。
小惑星『ペズン』は作戦終了後、実際に運びこまれていた核パルスエンジンを取り付けて移動させていたのだ。ただ、移動場所は『サイド5』と『サイド4』の間に置かれている。
移動後はパルスエンジンは取り外され、必要最低限の戦力を残している意外は資源衛星として機能している。
(もっとも、連邦にとっては何か別の意図があるのではと深読みしている節があるが。)
「たしかにな。だが、連邦も『フォン・ブラウン』は信用できないと考えているだろうし、乗る公算はある。提案だけはしてみるし、ダメなら改めて考えればいい。」
「まあ、確かにそうなのですがいささか安易な気もします。」
「外交交渉とは慎重さもそうだが大胆さも必要な時がある。それだけの事だろ。」
そうこう話しているうちに、連邦兵士を被害の少ないコロンブス級輸送艦に押し込んだと連絡が入った。一応、まだ修理すればつかえそうなマゼラン級戦艦は『サイド5』の駐留拠点まで曳航することにし、捕虜は残っていた輸送艦でグラナダの収容所に送ることになる。
その上で、基地の徹底破壊とサラミス級の残骸へダメ押しの攻撃を加えた。
拠点として機能しないようにするための一時処置と敵にここが使えないとあきらめさせるためである。
(帰還後、デラーズにここのコロニー群も再開発に加えるように進言しておかないと。また、連邦に拠点化されるのはかなわない。)
俺たちは、敵の捕虜とともに艦を駐留拠点に向けて進めた。
一応、作戦自体は成功したし、成果もあったことは行幸と言える。
成果として、敵輸送艦1隻(今後は捕虜輸送用に再利用)、マゼラン級1隻(改装予定)、敵MS1機(連邦特殊部隊仕様)が今回大きな収穫だった。
だが、問題がなかったわけではない。とらえた連邦兵を尋問したところ、今回俺たちが相手した敵の中で、装備がやたらとよかった部隊はサミトフ少将の私兵であるとのことだ。
通称『リターンズ』。
そのサミトフなる人物を俺は知らなかったが、聞いた話を総合すると『地球至上主義』を信奉している兵士・将校の集まりらしく『ルウム戦役』を受けて新設されたらしい。
反ジオンというよりも反スペースノイド思想が色濃い組織らしく正規軍内でも過激な行動や言動が多いらしい。今回捕虜となった指揮官や士官たちからも以下のような酷評が数多く聞かれた。
指揮官曰く、『地球外に住む宇宙人共を我々が殺すのに理由など不要』。
士官曰く、『核弾頭装備が許されるなら蛆虫のごとき連中を駆除できるのに』。
などなど、実に過激な発言を日ごろから聞いていたようだ。
何より驚いたのは、調書している時にさえ両者が不仲であることが容易に見てとれるほどだったことだ。正規軍の機密に関しては口を閉ざすのに『リターンズ』のことにはまるで仲間の一員とは考えていなかったと言わんばかりに皆が情報を口に乗せる。その光景は非常に印象に残っている。
「しかし、連邦内部でここまで露骨な状態に陥っていたとは」
「確かに、俺もデラーズ閣下も予期していなかった。これほど極端に派閥が分かれているとはな。これは今後の戦局にも影響があるかもしれんぞ。」
俺は、調書をまとめつつため息をついた。
同時に、デラーズと直接話すべきかもしれないと思考を進める。
(エリート部隊と正規部隊。正規軍将兵からは忌避されている節があるが過激で感情的なことも行うエリートの組織か。新設されたばかりでこれほどだとよほど極端だ。これもデラーズと機会を持って話さなくてはな。)
俺はそのように考えながら駐留基地への帰途に着いたのであった。