機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第二十七話 独断

 

敵基地発見と攻撃成功の報告は、首都周辺警備を行っていたリーマにも伝わった。

その報告に、軍上層部や将兵たちは一時騒然となったり成果を評価したりしていたが、

彼女は周りのように安堵することなく即座に次の行動に打って出た。

彼女は、その情報から連邦軍の物資輸送用の中継地がサイド5周辺からそう離れてない場所にあると予想。そして、最近手に入れた情報がそれを確信させるに至った。

 

そこは地球、ルナⅡ、サイド4のちょうど中心に位置する宙域。会戦前、そこには連邦政府が建設した太陽光発電衛星があった。

後世連邦では、宇宙での資源・エネルギー生産施設の移動が行われた時期がり、エネルギー供給施設として期待されていた。

UC0050後半がより顕著で、ジオンが台頭するよりも前のことだった。

各サイドから独立機運が本格化する直前。地上では不可能な大型の太陽光発電衛星を建設・管理するという計画が進み、実行されたのである。

だが、サイド各所への棄民政策を強化する過程で計画が縮小。軍の拡大による維持費の増大。それに伴って、当初予定された発電能力に達しなかったという経緯を持つ。

 

そして、現在では連邦軍の小規模な監視部隊が待機するだけの忘れ去られつつある施設であった。戦時下故、最低限の監視部隊を置くことは当初から予想されていたため別段驚きも少なかった。

また、大規模部隊を駐留させるには手狭。長期滞在にも向かないため危険度はそれほどないと上層部では判断されていた。だが、リーガンの報告で状況が変わったのである。

 

(軍の連中は危機管理が甘かったのかもしれないね。状況が切迫するにあたって施設の利用法が変わったことをつかみ切れていなかった。)

 

リーマはそう心の中で毒づいた。

そう、太陽光発電衛星としてではなく軍補給艦の中継地として使われ始めたのだとリーマは確信していた。恐らく、本格的に稼働したのは『ルウム戦役』の敗北を受けてからだろうと推測できる。

艦隊の再編と並行してサイド3侵攻の機会をうかがうためにも前線への補給は重要となる。

だが、他のサイドとの折り合いはよくないため補給のための寄港も困難だ。

そこで、半ば忘れ去られていた衛星に白羽の矢が立ったということだろう。

 

「姉さん。僚艦であるハリマとウールベルーンから出航準備完了とのことです。」

「よし。手柄を上げるチャンスだよ、きばっていくよ!」

「「アイアイサー!!」」

 

リーマ指揮の艦隊は、第07機動パトロール艦隊と第零実験部隊が同時に行動することになった。本来は、リーマ旗下の艦隊だけで行う予定であったが、ジオニック社から出向中のザンバット特務少佐なる人物が目ざとく協力を申し出たためやむなく参加させることになった。

 

「しかし、あの連中。本当に同行させるんですか?邪魔になりかねませんが」

「仕方ないんだよ!好きで動向させてると思ってんのかい!!」

 

そういわれた副官兼艦長は、帽子をかきながら後ろに下がった。

そう、ザンバットの動向は実質リーマへの脅しによって実現したものだ。

そもそも、リーマ艦隊には出撃許可は出ていない。あくまで今回の出向は周辺宙域への哨戒ということになっており、上は知らないのだ。

厳密にはデラーズに相談しようともしたが、連絡が取れず返事を待っていては敵が補給基地を移動させる可能性があった。やむなく、独断で動くことにしたのである。

それを、ザンバット少佐が嗅ぎつけてしまったのだ。

 

「あのキツネのような顔の男。もし、機会があれば拳銃で打ち抜いてやる!」

「・・それは、光栄です。少佐殿にお伝えしておきます。」

 

リーマの怒気に満ちた愚痴に返事をした声はこの艦のどの士官でもないと気づいた艦橋全員が振り返った。そこにいたのは中尉の軍服を着た若い士官。金の髪にスラリとした鍛えられた肉体。だが、何より目立つのがその顔にまかれた帯状のアイマスクだ。

目元全体を覆うようにしているので目の色など顔全体の特徴よりそちらに意識が行ってしまう。わざとなら確信犯だ。

 

「貴官は?」

「ご紹介が遅れてしまい失礼しました。私、第零実験部隊所属のMSパイロットで『ドゥーエ・ブリューナク』中尉と申します。」

「その中尉がなぜこの艦にいる?中尉の所属はそのモニターの艦だったはずだね?」

 

そこには実験部隊専用の船が写し出されている。

大きさはムサイより一回り大きい。その一方で、稜線的なシルエットや色・意匠などはムサイと同系だと主張している。

ジオニック社が運用を開始した次世代試験艦『グドラ』。

コンセプトはMS運用を維持しつつ艦そのものの火力を増強するという基で作られた船だ。

リーマは知らぬことであるが、この船は前世のエンドラとムサイ後期型の間に位置する船であった。それが、第零実験部隊唯一の所属艦である。艦の武装は以下の通り。

 

武装:船首固定式単装メガ粒子砲2門

   回頭式単装メガ粒子砲3門

   艦橋部対空機関砲

搭載 MS最大数 6機

 

ムサイに代わる戦艦として現在、実験部隊に貸し出されテスト中であった。

では、なぜブリューナクがリーマの旗艦『ツェベリン』にいるのか。

 

「いずれ正式配備されるかもしれない空母をじかに見て起きたかったのです。それに、リーマ大佐の下でこき使ってもらうよう上司から指示されました。」

「あたしは許可した覚えがないんだけど」

「大佐は必ず理解を示してくれるはずだと上司は言っておりました。後、これを大佐にお渡しするようにと。」

 

そう言って手渡された封筒。

何の変哲もない茶色に丸秘のスタンプが押されたものを渡された。

 

(なんだってんだい?)

 

そう思いつつ、その封筒を開き中を確認する。

出てきたのは写真だ。背の高いサングラスを付けた男とキャリアウーマン風の女性が向き合って食事をしている。男性の方は実にうれしそうだが、女性の方はいかにも困った表情であるのが一発でわかるものだ。

 

「姉さん、それはなんですかい。問題なければ私にも確認させてもらえやせんか?」

「いや、いささか問題のあるものだ。作戦には関係ないから忘れな」

 

そう言いつつ、それを部下が見るか見ないかする瞬間にリーマは写真を封筒に戻した。

先程までの憤りとは別。強いて言うなら怒りのオーラが全身を包みつつあった。

もし、アニメや漫画であればその後ろに赤黒いオーラが蠢いているのが見えるほどに。

 

(あの狐男!人様のプライベートを勝手に。新手のストーカーか?!)

 

そう、それはリーマ自身と彼女にアタックを繰り返していたカーエル大佐の食事風景だったのだ。あまりに真剣に何度も誘うため、一度だけという条件付きで食事をしたのである。

後に、まんざら悪くなかったと振り返るのだが。

それはさておき、リーマは怒りを面に出さないようにしつつ、ブリューナクに尋ねた。

ただ、声が先ほどより低くなっていたのに周りの部下たちは気づいていたが。

 

「中尉。その上司から他に何か預かったりしていないかい?」

「ええ、封筒を見せた後にそう聞かれたらこちらの手紙を渡すよう言われております。」

 

それをリーマはひったくるように受け取り、中身を確認する。

それを見た直後、ブリューナクをはじめリーマの部下たちは艦橋から脱兎のごとく逃げ出したいという衝動を抑えなくてはならなくなった。

リーマ自身は平静そのものの声で発進の指示を出し続けていたのだが、その手紙を見た後の顔は怒りと笑顔を同居させたようなものだった。任務後、多くの部下たちが大佐を怒らせるべからずと胸に刻むことになるほどである。

その手紙にはこう書かれていたのだ。

 

『許可が降りない場合、艦隊各員に一斉送信されますのであしからず』と。

 

 


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