機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第二十八話 腹案

 

リーマとザンバットのやり取りで一時期緊迫した雰囲気になった艦隊であったが、時間がたつにつれて将兵間では折り合いをつけつつあった。

もっとも、当人たちはいまだにスクリーン越しに舌戦を繰り広げることが多いが。

 

『大佐の懐の広さは軍では有名ですからな。まるで海賊のようだと。』

「私もあんたの噂を最近聞いていたよ。顔だけでなく行動まで野生動物並みだとね。」

 

このような会話を常に繰り返す上司を見続けているとむしろ周りは落ち着いてくるものらしい。

ブリューナクなどは既に当たり前のような感じで傍らに立っているほどだ。

ちなみに、彼の扱いに関しては『客員パイロット』という状態であるため、MSデッキにある自身の機体を整備し終わると任務が無い。

故に、時間があるときは艦橋にある副長用座席を借りることが既に日課になりつつあった。

 

「哨戒活動は今のところ予定通りですが、そろそろ行動に移りますかい。」

「ああ、頃合いだね。進路変更!サイド4哨戒用ルートを通過しつつ、地球方面まで移動する。サイド4を過ぎる前に一度ブリーフィングをするから主だった責任者を集めときな。」

「「イエッサー!」」

「ブリューナク中尉。あんたも出席してもらう。」

「私がですか?私は客員とはいえ一介のMSパイロットでしかないのですが」

「あの顔を見たくないんだよ!あんたが参加して内容を後で伝えな」

 

そういってリーマは艦橋を出て行った。自分用の個室に向かったのだろう。

 

(しかし、これほど大佐を怒らせるとは。少佐殿はいったい何をしたのだか)

 

ブリューナクはもし、自分にその矛先が向いたらと想像して背中を震わせた。

 

 

リーマの僚艦から艦長クラスとMS隊小隊長、実験部隊からザンバット特務少佐の代理でブリューナク中尉が参加することになり、リーマの副官が今回の作戦を行う理由を大まかに説明し、その内容を話し始めた。

 

「今回の作戦は軍から指示を取り付けていないものだ。だが、時間をおけば敵が補給地を変える恐れもある。敵に再度侵攻の意思を与えないためにも破壊し、いずれ行われる交渉を有利に進める足掛かりとすることが最大の目的だ。」

「艦長。それはわかりますが具体的にはどのように攻撃を?」

「わが艦隊は数こそ少ないですが曲がりなりにも『艦隊』です。しかも、地球軌道に近いこともあって敵の哨戒に発見される恐れもあります。」

「同感です。それに、衛星周辺にはデブリは少なく艦を隠したりすることも不可能なため攻撃を行うとなると目立ってしまいます。」

 

意見が会議で飛び交っていた。

その内容は、この少数部隊でいかに被害少なく作戦を成功させるかに集約している。

順当に攻めるとなると無益な犠牲を生む可能性もある。

 

「姉さん。私に一つ腹案があるのですが」

 

そう口にしたのは旗艦MS小隊の隊長だ。確か『レイギャスト・ギダン』大尉という。

腕のたつMSパイロットとして先の『ルウム戦役』で少尉から一気に昇進し、この艦隊付き小隊長に抜擢された。同時に切れ者とも周囲からは言われている。

 

「かまわない。言ってみな」

「はっ!衛星を攻撃するにあたって艦隊での接近が困難である以上、とるべき手段は限られます。小官はMSによるアウトレンジ戦法を具申します。」

 

アウトレンジ戦法。後世ジオン軍でMS運用が盛んになるにしたがって生み出された戦術の一つだ。

敵よりも全般的に優れた機体後続距離能力を利用し、敵の索敵有効範囲外から急速に接近・強襲するというものだ。

ルウム戦役後、連邦でも少数ながらMS配備が行われているのは確認されたが基本スペックではまだこちらに分があるのも明らかになっている故に有効とも言われている。

連邦軍では、MAの戦術体系で『一撃離脱戦法』と呼称されるものだ。

 

「MS部隊による攻撃は敵に十分の備えがある場合、逆に殲滅される可能性もある。さらに、出撃の間はこの艦隊の防備を薄めることにもなるよ。それならギリギリまで接近しドップを用いた衛星の現在位置を特定。しかる後にミサイルによる長距離攻撃と並行して行った方が確実じゃないかい?」

「このあたりは連邦軍も勝手知ったる宙域です。時間をかければ敵の哨戒に補足される危険が増します。下手を打てば周辺の敵を集めることになり補殺される危険も増しましょう。ですが、アウトレンジ戦法であれば最悪でも補殺されるのはMS隊だけです。その間に艦隊は離脱できます。」

「バカ言ってんじゃないよ。あたしに部下をみすみす犠牲にすることを前提にした作戦を行えってかい?!二度というんじゃないよ!」

「あくまで可能性です。何も前提にする気はありません。自殺するには私も艦隊所属のパイロットたちもまだ若すぎます。」

 

最後は冗談交じりであったが目は真剣そのものだ。本気で引く気がないらしい。

リーマもそれを察したようだが、目はさらに激烈なものに代わっていた。

 

「ならこの作戦を強行したあたしが一番大きなリスクを背負わないと示しがつかないね。私用のドムをあとで微調整するからそれまでは待機しな。」

「待ってください!それは危険すぎます。艦隊指揮官である大佐自ら出るなど正気の沙汰じゃありません。ご自重ください。」

 

他の部下からも自制(悲鳴交じりの)を求める声が上がったが、ドスの聞いた命令でことごとく撃沈された。結果として、レイギャスト大尉の意見が採用されたわけだが本人もこんなはずではなかったという顔だ。結果、隊を大きく二つに分けることになった。

 

第一斑は衛星攻撃隊。指揮官はリーマ大佐で補佐に旗艦MS部隊隊員の若手、キール・シュレディンガー中尉が当たる。

さらに、他の僚艦からそれぞれ2機が抽出され計8機でことにあたる。

第二班は艦隊護衛隊。艦隊指揮は旗艦副長が行い、MS部隊はレイギャスト大尉が取ることになった。また、ブリューナクも護衛メンバーに回された。本人は衛星攻撃組を志願したが、苛烈な言葉と目で報われただけだった。

もっとも、異論は別の人間からも出た。今回の攻撃案を出したレイギャスト大尉だ。

彼自身は艦隊護衛に回されたため、発案者として自身も攻撃隊にと嘆願したがリーマはそんな彼に対しても厳しく反対した。

 

「私もあんたには攻撃隊の方が向いてると思ったよ。だけどあたしとは相性悪そうだと感じたからね。今回は私のためにあきらめな。・・ただ、私がいない間のMS部隊指揮はあんたに任せることになってる。そっちで手腕を見せな!」

 

そう言われたため、レイギャストは自身の出した案に湧き出した不安を心に飲み込むことしかできなくなっていた。

 

 

そのような作戦がジオン側で決定した頃、攻撃目標にされた連邦軍管轄の太陽光発電衛星『ハリームバード』では定期補給艦到着に向けて周囲の護衛を終えたばかりであった。

補給艦の中継基地として使われるようになったとは言え、複数の問題から艦一隻がギリギリ常駐できる程度である。現に今も連邦のサラミス級巡洋艦が2機のMSと2機のボールで周辺警戒と衛星の整備作業をしていた。その船のオペレータが艦長をブリッジに呼び出したのは平和の終了を告げるかのようであっただろう。もっとも艦長は最初、睡眠時間を邪魔されたとしか思っていなかったが。

 

「艦内シフトでは副長に知らせてからとなっていただろうが!」

「申し訳ありません。緊急事態と判断したため咄嗟に」

 

緊急時?こんな簡素な衛星護衛任務に何が起きるというのだ。

 

「何が起きた?」

「『サイド2』からの使者と名乗る者から『指揮官と話したい』という通信がきたのであります。」

「サイド2の使者?」

 

それは連邦軍人としてもっとも関わりがないと思われるものからのコンタクトであった。

 

 


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