機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第三十話 攻撃隊の一幕

 

リーマ艦隊は作戦遂行のため、『S4P02』宙域でMS部隊を発艦させ始めた。

そこはサイド4駐留軍の制宙権外延部に位置する地球よりの宙域であり、普段は連邦も哨戒ラインから外しているほど戦略的に利用する機会が無い場所である。

故に、ジオンも哨戒頻度は少なく互いに接敵機会すら起こりえないという認識が生まれつつある宙域となっていた。故に、リーマはここを待機場所としたのである。

 

「ここから目標までは片道で30分。往復1時間だ。武装を維持できるギリギリの距離なのだから、寄り道はできない。予期せぬ戦闘もあり得る。場所はたしかなんだろうね」

「情報部からの最新情報と最近のサイド4周辺での哨戒ラインから特定したものです。確率は70%。少々のずれはあるでしょうが、目視で視認できるレベルです。」

「残りの30%とパイロットの運が結果を隔てるなんて洒落にならないね。」

「先輩、そういわないで上げましょうよ。もともと綿密に練った作戦ではないのですから。」

「ここでは先輩とは呼ぶなと言っといたはずだね!ここでは」

「!失礼しました大佐。」

 

リーマを先輩と呼んで親しげに会話をしようとしていたのはユーリー・アベルマ伍長。

最近、軍学校から戦時特例で繰り上げ配属された女性パイロットで、軍学校ではリーマの3年後輩にあたる。本来であれば、MSパイロットは男というのがジオン軍の暗黙の了解となっていた。

前世でも正規パイロットでジオン軍にいたのは少数だ。いたとしても貴族・家柄・実験部隊と本来であれば実戦からほど遠い。例を挙げるなら、『アイナ・サハリン』や『ララァ・スン』が有名だろう。だが、この後世ではいくつかの要因が女性パイロット進出を後押ししていた。

UC0070年初期はロズル・ザビとリシリア・ザビの派閥争いが本格化しだした。それを受けてリシリアは女性のMSパイロット育成を推奨し、軍学校に助成枠をゴリ押ししたのである。結果、女性士官でも優秀でありかつMSパイロットを志望すれば十分成れる可能性が出たのである。その第一期生がリーマ・グラハムである。

そして、現在ではそれが軍学校ではあたり前であり、何の違和感もないのはリーマが戦場で華々しい戦果をはじきだした結果でもあったのだが、それは本人も知らぬことであった。

 

「各機、この艦からの出撃はスリルあるから騒ぐんじゃないよ!」

「大丈夫ですせんぱ・・大佐!」

「ユーリ伍長。公私混同は極力避けるように。」

「ベレル少尉。ひどいです。私がいつ公私混同なんか」

「してたじゃないか。さっきの復唱の時にもそうしようとしてたよね。」

「バルダー准尉もひどいです。私が上官になったらお二人ともこき使ってやります。」

「嬢ちゃん。俺たちを追い抜かすこと前提の会話はやめてくれよ。」

「カミンスキー准尉。やけにお酒臭いのですが、任務前に飲みましたね。あれほどやめろと言われたのに。」

「匂いだけだよ。既にアルコールは抜いてきたから問題ない。」

「大佐。日頃から言おうと思っていたのですが人選を間違えているのでは?」

「いや、腕は確かな連中だから問題ないよ。それにカミンスキー准尉のお酒は今頃、真空の彼方に消えているはずだからね。」

 

リーマの指示に対してこのような会話が行われるのは日常茶飯時である。

しかもメンバーもかなり独特だ。リーマの後輩であるユーリ伍長。

先のルウム戦役で生き残ったハーディー・ベレル少尉。

軍学校とは別に徴兵され、適正を認められて訓練を受けていたところをリーマにスカウトされたバーナード・バルダー准尉とアクセル・カミンスキー准尉。

工作班から万能作業ができるとして引き抜かれたヴァンクー・ヘルシング伍長など癖の強いメンバーぞろいとなっている。これらのメンバーは前世でも実力者として知られていた。

 

『サイクロプス隊』である。

前世UC0079年後半。一年戦争の末期、連邦がニュータイプ用ガンダムであるアレックスを開発しているという情報を察知したジオンが奪取あるいは破壊のために送り込んだ部隊だ。当初、地球での輸送阻止を図るはずであったが結局失敗し宇宙に上げられてしまった。だが、リボーコロニーにて組み立てられているとい情報を察知したために追撃隊として送り込まれた経緯がある。結果で言えば任務そのものは成功し、ガンダムの破壊には成功した。だが、部隊員全員が死亡したのだ。

さらに、悲劇なのはメンバーの中にガンダム搭乗員と恋仲であったものがいたという未確認の情報もあったため実に後味の悪い結果となったのである。

 

この後世ではその大半がリーマ艦隊に配属されジオンをはじめとするサイド独立のためにその任務に従事していたのである。

そのような経緯と先ほどの会話を終えた襲撃隊は自身のMSに搭乗を始めた。

リーマもその一人である。今回、彼女が使う機体は先と同様のドムB型である。

ただ、今回の出撃に先立つ2週間前、『ルウム戦役』時に使い難いと感じた部分を改修するように整備班に注文がなされた。結果、リーマ搭乗のドムB型はもはや専用機と定義されるものになっていたのである。

見た目はほぼ他機と同様だ。だが、微妙に違うのは両腕が少し盛り上がったようになっていることだろう。

 

「前回の戦いのときに火力重視のこいつには手を焼いたからね。これで多少は幅が聞くようになったといえるんだろう?」

「一応、ご要望には応えました。ただ、ありあわせの装備と装甲を用いているので機体バランスが少し取りづらくなっているはずです。問題ありませんか?」

「実戦は今回初導入だけど、慣らし運転の際は許容範囲だったね。後は装備の使いがっての確認を今回する。まあ、私の要望に沿っていることを願っとくんだね。」

 

微妙に空気が緊張しているのは気のせいではないだろうと皆が思っている。

ただ、これについては整備班に酷とも取れる。何しろ、彼女が指示したのは武装の追加と機動力の維持という急場ではありえない要望だったのだから。

それでも、以下の武装を維持しつつ機動力が基本機と変わらないのは改修した者の腕によるところが大きいと言えるだろう。

 

リーマ専用ドムB型(CODE:スコーピオン)

武装 ヒートサーベル

   内臓型80mmマシンガン×2

   360mmバズーカ

補助 増設エネルギータンク

 

普通なら満足のいく内容だが、リーマは不満そうな声色だ。いや、タイミングが悪かっただけだともいえるだろう。出撃前、リーガンの報告書を詳しく読む機会があったのだが、その中に試験中の次期量産機についての記述もあったためにそれと比較してしまっているのだ。

ようは使用機に対しての嫉妬とも言える。もっとも、直接口には出していなかったが。

 

「各員、機体のチェック終了と同時に出撃。敵の補給拠点を血祭りに上げる。いいかい、ジオン軍を舐めたことをたっぷり後悔させてやるんだよ!」

「「「「「了解!」」」」」

 

各自が機体搭乗を完了すると格納庫上部が開き機体を真上に押し上げるように射出する。

この艦独特のロケット射出方式だ。発案者はもちろんリーガンの後輩である。

理由は至って単純。

『花火のごとく機体を打ち上げるのは面白そう』とのことだ。無論、この発言を聞いたリーガンは彼を地面に沈めたのはいうまでもないことだが、結局はそのまま採用されたのだから不思議なものである。機体射出によってかかる体へのGはこの艦配属のMS隊員を当初は悩ませたが、現在では出撃前のアトラクションとなっていた。

 

出撃した機体はそのまま進路を敵衛星へと向けて進行を始めた。

この奇襲が今後、どのような影響を連邦・ジオン双方にもたらすのかはまだ誰も知らない。

 

 

 

 


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