機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第三十一話 攻撃成功?

 

リーマ達が艦隊を発ってから28分。当初予定された敵哨戒に補足されることもなく、予定時間より早く敵拠点へ到着しようとしていた。

 

「大佐。敵衛星を視認しました。」

「敵に察知される前に強襲。一機に破壊するよ。各員攻撃開始!」

 

リーマの指示を受けて真っ先に目に見えた攻撃を行ったのはカミンスキー准尉のザクだった。

彼は何を思ったのか、今回の出撃時に近接用兵装を丸ごと除外した。

ヒートホークまで完全に外したのは皆が驚いたが、今その成果が目も前で披露された。

 

「敵の守備に風穴を開けてやるからみんな群がりやがれ!!」

 

そう叫ぶと同時に、機体から大小さまざまな火器が轟音を上げてうなりだす。

彼は外した武器の代わりとばかりに過剰な遠距離実弾兵器を搭載したのだ。

三連装ミサイルポッド×2、240mmバズーカ×2、さらには『サイド4』補給時に実験部隊からただ同然で借りた、ザク・グフ共用ガトリングガンを腰にマウントしたのだ。

その分、速度・後続距離が問題となったが他の同僚たちに途中まで牽引してもらうことで事なきを得た。そして、そこまでした成果はすさまじかった。

ミサイルは発電用のミラーを次々と破砕し、バズーカはロックしようとしていた敵固定砲台に大きな穴をあけて爆散させていく。

さらに、バズーカを打ち尽くしたころにはガトリングガンに武器を変更し、さらなる破壊を周辺にもたらしていく。

 

5分とたたぬうちに衛星はもはや跡形もなく、ただのデブリの一つと言って差し支えないほどの状態になっていた。攻撃成功と言えるだろう。だが、違和感だらけだった。

 

「大佐。明らかに敵の守りが薄過ぎました。確かにカミンスキー准将の攻撃は効果大だったと思いますが、MSが一機もいないというのは解せません。」

「たしかにね。・・もしかして図られたか?」

 

リーマは手持ちの情報から嫌な予感が増大していくのを感じていた。

攻撃前の予想では、敵戦艦が一隻は駐在している可能性があり、MSも少数であるが配備されているはずだと考えていたのだ。だが、蓋をあけてみればあからさまなほど守備が薄い。

まるで放棄された後のような状況だ。

 

「先輩。敵が拠点を放棄したのでしょうか?」

「ユーリー伍長。だとしたら自動砲台をそのままにはしないだろう。武器・弾薬も撤去しているはずだ。」

「でも、実際は対空火器はそのままだった。それが何を意味するのか」

「敵の罠としたら我々を待ち伏せて殲滅すると考えるのが自然ですが、周辺に敵の反応はありません。こちらが狙いでないとすると後は」

 

会話しながらある残る可能性に至った時、リーマは唇をかんだ。

出し抜くつもりが逆に出し抜かれたことを悟ったゆえである。

 

「各員、切り離した増設タンクを再接続!急いで艦隊に戻るよ!!」

 

切り離していた増漕を戻して、急ぎ帰還ルートに着く。当初予定していた哨戒ラインを避けるルートではなく、艦隊との最短距離を取ることにする。

ユーリー伍長だけが、まだ状況を完璧に飲み込み切れていないようにリーマに接触回線を求めてきたのでリーマは機体を寄せる。

 

「先輩。敵がこちらの裏をかこうとしたのは理解しました。ですが、敵が我々と艦隊のどちらを狙っているかはまだ」

「もう少し頭を使え。敵がここを放棄して我々を狙うなら自動迎撃システムもOFFにしておいた方が、包囲した際に利用しやすいはずだ。予備弾薬として使えるから無駄を省けるしね。だが、艦隊を狙うなら時間稼ぎのために衛星の自動防衛システムはそのままにしておいた方が都合がいいはずだ。だから、そのままだった。」

「でも、私たちが衛星を攻撃したと敵はどのように判断するんですか?」

「確信はないけど、私らの『ドップ』のようなものを敵が持っている可能性を加味すれば遠隔観測を行っているとも考えられる。それによって、衛星破壊の光跡は見えたはずだしね。」

 

それを確認した敵は、MS隊が衛星付近にいると確認できる。さらに、戻るまでには30分はあることが確定するのだ。短時間であるが、敵の戦力が半減しているこのタイミングを逃す手はない。

そして、リーマ達の予感は的中していた。

 

 

同じ頃、リーマ達が出撃した艦隊では『ドップ』を使った遠隔観測によって攻撃隊が目標破壊に成功したことを確認していた。艦内の全員が一様に安どの表情を浮かべる。

 

「とりあえずは目標達成ですね。代行」

「ええ。ですが、指令代行などは二度と御免ですね。精神衛生上、私には合わない。」

「私も、司令官が不在の状態など御免ですな。姉さんにも意見具申はしておかないといけねえです。」

 

リーマの副官と代行を任されたレイギャスト大尉はやれやれといった感じで互いの考えを述べ合った。レイギャストからすれば自分が出ればこんな余計な苦労はなかったと感じないではなかったが、艦隊司令の命令では仕方ないのであった。そう思った時だ。

 

「副長!周辺のミノフスキー粒子の濃度が急速上昇中!!」

「何!僚艦および本艦所属のMSにスクランブル。敵がいるぞ!全方位警戒。」

 

副長の命令を受けて僚艦2隻と旗艦に残存したMSが緊急発進を順次開始した。

そして、そのそばにいる第零実験部隊の艦からもMSが発艦を始める。

ジオニック社でテスト中だった、4機も否応なく実戦でお披露目ということになった。

今回の実験では各種戦闘ケースに特化した評価データの収集を視野に入れたものだった。

それ故に、4機共に癖が大きい。機動力中心の1号機(ブリューナク搭乗)、近接戦中心の2号機、遠距離支援中心の3号機、NT実用中心の4号機である。

全機がコスト問題解消のため、中古のザクを改修・強化したものであるが性能は現在のザク改修型を凌駕するとパイロットたちは確信していたので戦場への恐怖より高揚感の方が全体的に強い雰囲気だった。

 

「ブリューナク中尉からも連絡がありました。各自、船の守備に努めよとのことです。」

「1号機パイロットだからって上官に命令とは偉くなったものだ。」

「大尉。それは仕方ないですよ。今、彼の立場はザンバット少佐から一定の権限を委託されてますから。それに、この指示はおそらく旗艦からの指示をそのまま伝えたものでしょうから彼に非は」

「そんなことはわかってるよ。」

 

お互いにユーモアや皮肉を入り交えた会話ができるのは各自に自信があった故であっただろう。その自信を疑うことなく彼らは艦外へと飛び出した。

 

 

「敵艦隊、予想ポイントにて補足しました。なお、遠距離観測班より通信。『衛星ノ破壊ヲ確認』とのことです。」

「ますます『使者』殿の読み通りですな。」

 

一方、これまた同じ頃。

連邦軍のサラミス艦艦長は隣のスクリーンに映し出されている使者に複雑な表情のまま話を振った。振られた女性自身はどこ吹く風のような落ち着いた声で答える。

 

「ええ。故に予定に変更はありません。行けますか?」

「ああ、既にボール2機には遠距離特化の仮設装備を取り付けた。艦から離れられないが、おかげで本艦の火力は1.5倍ほど増加すると見込まれている。だが、MS隊がそちらを含めてたった5機で大丈夫なのか?」

「問題ありません。それでは始めましょうか。」

 

そう言い残して、サラミスの格納庫から彼女の乗った機体が出撃する。

それは異様な形状の機体だった。MSと言えば基本的には両手・両足を持つ人型兵器を連想するのが自然だ。だが、この機体は違う。形状は十字架。

足は存在せず、代わりというように半身部分に装甲で覆われた大型のスラスターが集積している。さらに、上半身はかろうじて人型の両腕となっているがそれはコンテナをいくつか連ねたように横一文になっている。

彼女の僚機2機も同様の形状。しいて違いを上げるなら彼女の機体各所に意匠があることだろう。

茨の蔦が絡みつくような文様が印象に残るものだ。

 

「我が同胞諸君。司教様のため、マリアレス教会繁栄のために異教徒に天罰を与えん。」

「「異教徒に死を!」」

 

狂信という名の意思に支配された3機と共にザニー2機が、リーマ艦隊攻撃を敢行せんと動き出したのである。

 

 


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