機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第三十四話 二頭追うもの

 

戦闘はひとまず収束した。当初目的の敵中継拠点は破壊成功。敵機も撃退した。

だが、成果の一方で被害は甚大であった。

ブリューナクは艦隊に戻ってから知ったが、自分の同僚たちはほぼ全滅したらしい。

リーマ達が駆けつけた頃には、実験部隊はブリューナク機を除いて大破。パイロットは3名中2名は殉職。1名は艦内ICUで治療中とのことだ。随行のMS隊員も4人が戦死している。

さらに、ハリマは航行不能。ウールベルーンは装甲各所に被弾があり防御に致命的な損傷を抱えた状態だ。旗艦は右舷装甲部に一部破損と軽微であったが、それは残る1艦の働きによるものである。

次世代試験艦『グドラ』・・だったものが目の前にある。それは船体が真っ二つに割れ、船体各所は穴だらけ。側面装甲部などは融解して新造艦とは既に解らない状態だ。

救いなのは、敵が撤退したということだ。理由は不明。

だが、攻撃されたリーマ艦隊としてはありがたいことであった。ただ、その間にドップによる有線偵察を徹底させているので、即応も可能だが。

 

「レイギャスト大尉。ザンバット少佐は?」

「・・彼は旗艦を守るためにグドラに最後まで残って戦いました。そして」

 

勇戦・戦死したということだろう。実に彼らしい(?)最後ではなかろうか。

 

「現在は医務室で治療を受けています。」

 

という続きを聞いてブリューナクは滑った。それも盛大に。

おい、ではさっきの暗い前置きはなんだったんだ。一方リーマは。

 

「ちっ、死ななかったか!(小声)」

「先輩。もう少し声を落としてください。本音でしょうが回りの目があります。」

 

うむ。君もかなり黒いという自覚を持ってほしいな、ユーリー伍長。

というか、なぜここにいる?場違いだぞ。

なぜかって。ここは艦橋だからだ。しかも、旗艦の。

 

「姉さん。ストーカーがついてきてますよ。」

「仕方ないだろ。人員が不足気味なんだ。いないよりはましだね。」

「大佐も苦労してますね。変な後輩を持って。」

 

そういわれたリーマはさらに嫌な顔をした。

ブリューナクは気づいていなかったが、リーマとそれなりに縁があるリーガン・ロック中佐にも似たような後輩がいる。もっとも、リーガンの後輩は『先輩=実験協力者』という認識、リーマの後輩は『先輩=憧れのお姉さま』という認識。それぞれ、微妙に違ってくるのだが実害は限りなく近い。

 

「言っとくけど私が言いたい『ストーカー』はお前のことだよブリューナク。」

「えっ?」

「『えっ?』じゃない。あんたはザンバットの見舞いなり、代行なりを務めるのが筋だろう。本国への連絡もある。後、ジオニック社への謝罪もね!」

 

そうだった。実質、実験機で残ったのは自分の機体だけだ。他の機体はデータそのものは戦闘前に取っていたが、艦が残骸となった今データも失われた可能性が高い。

しかも、試験運用中の次世代艦も完全に大破というおまけつき。

 

「大佐。コネを使って私を部下にできませんか?」

「冗談じゃない。御免だね。それにその方があんたのためだ。私はおそらく降格か悪ければそれに加えて左遷されるだろうからね。」

 

そういわれると何も言えない。

今回の任務事態が本国の承認を得ないで行った独断。しかも、今回かなりの被害と人員を失っている。言い訳もできない。自分よりもリーマの方が深刻な状態だとブリューナクは気づいた。

 

 

その後、試験艦は完全に破棄することになった。機密遮断のために残骸まで爆破したので本当の意味で残骸となったのはいうまでもない。

そして、サイド4にある駐屯地に寄港した時には通信と安否確認。さらに、今回の戦死者・損失物資の報告と嵐のような雑務が待っていた。

リーマに至っては、目の前の画面に生真面目そうな男が出てきて。

『二時間後、駐屯地仮設会議室に来るように』とものすごく怖い顔で言われていた。

かくいうブリューナクをはじめ、生き残った実験部隊所属組はジオニック社から正式に契約解除の通知と軍からの無期限待機命令が出た。凹まない方が不思議な処置であった。

 

 

リーマは指定された会議室で査問されることを覚悟していたのだが、待っていたのは意外にも大型スクリーンとスピーカー、受信用の高感度マイクだった。そして、画面には少し前に話したことのある顔がある。

 

「気分はどうだね?大佐。」

「生憎とあまりよくないね。みすみす部下を死なせた身としては。そっちはどうなんだい?軍代表の椅子は心地いいかい?」

「残念ながらあの椅子には一度しか座っていないよ。それ以上に円卓会議の席上が多い。」

 

リーマと話しているのは、デラーズであった。

だが、なぜ彼がここに出てくるのか?いささか疑問だ。このようなことは現地の査問部に任せればいいはずだ。

 

「疑問に思っている顔だな。本来なら、私などが首を突っ込むことではないのだが今回はいささか状況が異なっていてね。」

「なんですか?まさかザンバットの狐顔が同行したのは閣下の手引きとかいうつもりですか?それともわざわざブリューナク中尉の初陣を私をダシにして行おうとした結果が現状とか。」

「大佐。このようなことは誠に不本意だろうが全部正解だ。」

 

それを聞いたリーマは近くにあったスピーカーを蹴り倒した。しかも、それを足蹴にしてさらに怒りを声に乗せてぶつけ始める。

 

「ふざけるな!私の行動も予測できたってわけだね。だったら、この結果もあんたの予想通りかい?あたしはいいピエロだったことだろうね!!」

「大佐。ひとまず落ち着きたまえ。事前にこちらも承知していたことを伝えなかったことは私にも非がある。すまないと思っているのだ。」

「口だけなら何とでも言える!」

 

リーマはその後も烈火のごとく感情を言葉に乗せてぶつけたが、部屋から出ようとはしなかった。おそらく、頭の片隅に残った理性の配慮であろう。周りには査問部の連中がいるし、部屋の外には部外者も大勢いるのだ。ここで飛び出せば、それ以外の連中にもそれを見られる可能性が高い。それは、どちらにとってもマイナスの要素だ。

ひとしきり、怒りをぶつけ終わるとリーマはデラーズを睨み付ける。促すような態度だ。

 

「・・まことに申し訳なかった。先にいっておくと降格は無い。ただ、ひと月ほど謹慎という形になる。厳密には本国帰還後に待機というのが対外的な処置だ。」

「記録上ではというわけだね。まあ、理解はしよう。納得はしてないけど。」

「ただ、言い訳になるが本来はここまで大事になるはずではなかったのだ。」

 

話を聞くに、デラーズとしては実験部隊出身者に戦場の空気を体験してもらうことが主目的であったらしい。それが可能な任務を割り振る準備をしていたところに、リーマの独断行動が耳に入ったのだ。そこで、ザンバット少佐に指示を出して随行するよう仕向けたらしい。実戦の空気を体験でき、かつ敵拠点攻撃を秘密裏に行うという『一石二鳥』を狙ったのだ。さらに、リーマほどの実力者であれば、おそらく大丈夫であろうとも考えていたようだが。

 

「結果として、実験部隊MS隊員で生き残ったのは初陣だったブリューナク中尉を含めて2人。しかも、もう一人は長期療養が確実。拠点破壊は成功するも、小競り合いの中では初めての損害らしい損害を出してしまったわけだね。」

「うむ」

 

デラーズも眉間に指を当てている。一方のリーマは、口が引きつっていた。

いろいろと突っ込みたい衝動もあったが、気になる事を確認しておく機会でもあったので、保留とした。それは、戦場離脱に際して、敵の追撃がそれ以降なかったことだ。

艦隊とMS部隊にかなりの損害を出したのだから、その後、追撃されてもおかしくない。

だが、それが一切なかった。それ故に、残った人員を無事サイド4駐留地に導けたのだ。

 

「一つ確認したいことが。あたしたちを攻撃した部隊はその後、一切追撃してこなかったんだけど、それについて詳しい情報は本国に入ってないかい?」

「確認はまだだが、先程別の哨戒部隊から妙な報告があった。何でも、連邦軍からのSOS通信を傍受したらしい。念のため警戒しながら探索したところ、サラミス級が一隻半壊状態で発見されたそうだ。」

「半壊?他の哨戒部隊が攻撃でも?」

「いや、それは無い。着いた頃にはその状態で、他の部隊にも心当たりはないとのことだ。ちなみに、連中は捕虜として現在輸送中だ。尋問を行ったところ、衛星で合流したMSと我々の哨戒部隊を攻撃していたらしい。だが、そいつらが撤退を合図し、合流したところで突然、艦橋を吹き飛ばされたそうだ。残った機体もその僚機に破壊されたために下手に動けなくなり、SOSを出さざるおえない状態だったらしい。」

 

リーマとしては意味が解らなかった。

話を聞くとそれがブリューナクたちを追い詰め、MS部隊を半壊させた新型機であろう。

だが、そいつらが味方を攻撃したということだ。そうなると、何のために?

導かれる答えは、証拠隠滅。口封じだ。

 

「デラーズ中将。仮定になりますが、今回の襲撃は連邦によるものです。しかし、誰かが助力した可能性もあります。そうなるとどこの勢力が加勢したと考えられますか?」

 

リーマの言葉に、デラーズは確信を持っているように口を開いた。

それは、リーマも抱いていた予測であり先のリーガン達の事件にもつながる相手だった。

 

「おそらく、サイド2だろう。」

 

前世とは明らかに違い、情勢は複雑な様相を呈していた。

 

 


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