リーガンが成果を上げ、リーマが謹慎処分を受けていた頃。
ガトーは、試作MSのデータ収集のためにいろいろな機体に搭乗することになった。
特に印象に残ったのが、『ドラッツェ』と『イフリート』だろう。
次期量産機ではグフが現在有力候補であるが、実はグフ以外にもいくつかの機体があるのだ。
そして、『ドラッツェ』は前世では悲運の機体だった。
UC0083年。デラーズフリートは戦力不足を補うべく、ザクのあまりパーツを利用して戦力とするべく機体を組み立てた。それがドラッツェだったのだ。
しかし、残念なことに急造だったので機体バランスが悪く、まさに穴埋め以上にはならなかった機体である。
だが、この後世では少し違う。前世同様の姿に酷似しているし、ザクのあまりパーツの有効利用が主題で開発が行われた経緯は近いが、性能・装備は比較にならない。
装備 ビームサーベル
80mmダブルマシンガン
240mm試作低反動キャノン
さらに基本スペックも一新されていた。
ジェネレーター出力は990kw、スラスター推進力に至っては117800KGとなっていた。
ジェネレーター出力の低さが前世の問題であったが、この後世では前世の『ザクⅡF後期型』とほぼ同等である。しかも、スラスター推進力も増加させることに成功しているのだ。
その分、機体重量は増加しているがそれは装備と装甲の拡張によるところであり、性能は全体的にUPしている。グフとの量産機争いでは結局負けたが、各サイドの自衛組織から受注があるので開発は継続している。
そして、『イフリート』は前世同様、ヒートソードとショットガンを装備した際物である。
装備面で量産機の座を争っていたグフに惜敗したが、決してこの手の機体は無駄にはならず隊長機用のオーダーメイド機として調整・改修作業を進めているらしい。
「しかし、この機体に乗る人がいるのですか?」
「当初は誰もいなかったのですが、最近気に入ったといってくれる方がいたので調整を進めています。しかも、先行改装されたザクの装備も流用しているのでかなりハイスペックな機体ですよ。乗りますか?」
「いや、別の機会にお願いします。今日も他の機体テストがありますし。」
そのように応答しながらも、彼はガトーにそのイフリートの改装スペックを話していた。
話によるとかなりの性能だ。火力はドムB型を凌駕し、機動力はグフを上回っているらしい。まとめると以下のような武装まで持っているから化け物と言っていいだろう。
イフリート(PT01型)
主武装 ヒートソード×2
ショットガン
補助 脚部装着型三連ミサイルポッド
PMシステム内臓
当初は火力・接近戦重視の機体にと調整していたが機動力の大幅向上も条件に加わったため、試作中のバーニアを追加したらしい。結果としてかなり無茶な機体となった。
確かにこれなら火力と機動力両方を補えるだろ。だが、パイロットが持つのかという疑問もある。極め付けは前世にはない『PM(パイロットモニタリング)システム』なる代物だ。
これは、各パイロットが操縦するうえで最適と思われる動作補正を記録し、後々OSが自動で行えるようにするアシストシステムである。
前世でガンダムが搭載していた『学習システム』の亜種と言える産物である。だが、それ故に使い手を限定していく仕様なのだ。ガトーは本心から使い手がいるのかを心配した。
そのような日常を送っている時に、本国からの連絡員がきたのだ。
ただ、その相手がかなり大物だっただけに驚いたが。
「マ・グベ少将閣下がわざわざこのような雑事をしておられるとは。」
「いや、デラーズ閣下から直接貴官に伝えてくれと頼まれてな。」
マ・グベ少将。リシリア蜂起の際、『黒鉄会』に味方した旧リシリアの部下の一人。
この後世の新ジオン軍では少将となり、現在はデラーズ直属として参謀部作戦室長として軍事作戦と兵力配置の草案作成を主な仕事にしていた。
「先ほど、並んでいた機体を見たが良い出来の機体ばかりだな。」
「技術責任者に言ってあげてください。精神的に逝けますよ。」
「『逝く』という漢字が違う気もする言い回しだな。まあ、いいだろう。しかし、あれがシュターゲンの乗る予定のイフリートかね?」
「少将はあれに乗る予定のパイロットをご存じなのですか?」
「まあな、私とは旧知の間柄だよ。名前は『レニバス・シュターゲン』。ジオンの藍騎士と自称している男だ。かなりの自信家だが腕は一流のパイロットでな。」
『レニバス・シュターゲン』。前世の『ニムバス・シュターゼン』であろう名が出てきた。
彼は前世で『ジオンの騎士』を自称していた男であり、試験機であるイフリート改を乗機としていた。『星一号作戦』前後に、独自行動をとり連邦のMSを強奪している。
『EXAM』搭載機である『ブルーデスティニー2号機』。疑似ニュータイプシステムに固執し、追撃してきた連邦の実験部隊と刃を交えた。
だがその結果、返り討ちにあっている。どうやら、この世界でも似たような人物がいるようだとガトーは思った。
「まあ、その手の話は別のところでしたいのだがいい場所はないかね?」
「少し、殺風景ですが安全に話せる場所があるのでそちらに」
そう言って、ガトートとマ・グベは防音・盗聴対策が取られた会議室に移動した。
本来は、フォン・ブラウンや捕虜との尋問の際に使っている部屋だが内緒話などの時も結構使われている部屋である。
「さて。雑談は本題を終わらせてからにしよう。実は、君の先輩にあたるリーガン中佐からの報告で看過できない情報があってその調査をすることになった。君にも協力を頼むかもしれないから心しておいてくれ。」
「調査、でありますか?」
「本来、このような仕事は旧リシリア機関の諜報員にやらせるべきなのだが、あちらは別件で手が離せない。そこで、私自身が行うことになった。」
「ちなみに、何を探るのでありますか?」
「アナハイム社が中立法を無視した物資輸送の手助けをしていないか。厳密には『フォン・ブラウン』だが本質は変わりないといえる。」
リーガンからの報告を受けて、マ・グベは調査を進めていたがアナハイムはなかなかしっぽを出さなかった。物資の輸送に関して各サイドの品目を調査させたが問題はなく、連邦の物資輸送の援助をしている証拠はなかった。
だが、さらに詳細な調査を行ったところ別方面から気になる情報があったのだ。
正規の輸送品目なのだが、『サイド2』方面の物資輸送がここ1か月の間に急増しているというものだ。
名目は、鉱物資源調査のための大幅受注となっていたがこれはいささか怪しい。
『サイド2』は現在、資源衛星採掘よりも食糧自給率上昇のためにコロニーそのものの農業設備増設を進めている。そのため、資源採掘用の設備は事足りているはずなのだ。
「『サイド2』ですか。最近不穏なうわさが多いと思っていたが、そこまで露骨に反ジオン姿勢を見せるとは。・・ばれるとは考えてないんでしょうか?」
「そうでもないらしい。むしろ、この情報が察知されたと見るやより強硬な手を打ってきていると連絡があった。」
聞くと、独自作戦を展開中だったリーマ艦隊が襲撃されたというのだ。しかも、連邦と別勢力の連合部隊だったらしい。そして現在、その別勢力の最有力候補は『サイド2』である。
マ・グベ少将は口をコーヒーで潤しながら、話をつなげてきた。
「『サイド2』については、『旧リシリア機関』の連中が調べている。君も身の回りには注意したまえ。中佐もデラーズ閣下も心配しておられる。」
「ご心配ありがとうございます。一応、テストパイロットは後2、3か月ほどで完了するみたいですので大丈夫だとは思いますが、警戒して損はないことでしょう。」
ガトーからすればわざわざこのようなことを心配されずともそれなりに周囲への配慮は行っているから問題ないはずである。だが、信頼できる上司二人から心配されているのは正直うれしいとも思った瞬間であった。
その後、マ・グベとはいろいろな話をガトーはした。
その中に、次期遂行予定の作戦が話題に上ったのである。
「現在のところ、我々は勝っているがそれは一時的なものというのが軍上層部の結論だ。このままでは停戦は難しい。やはり、次の手を打つべきという意見がある。」
「そうなると、次に狙うのはやはり拠点化が進む『サイド7』への牽制攻撃ですか?」
サイド7ではルナⅡに匹敵する要塞を建造している報告を受けている。
順当に工事が進めば半年から一年以内には最低限の機能は果たせるものになると軍部では要警戒と考えていたのだ。
だが、どうやらマ・グベの狙いは違ったようで首を左右に振った。
「それでは抜本的に敵の戦力を削げない。より効果的な方法がある。現在、私は『Lアタック』という作戦を上層部に進言し、近々了承されると見られている。」
「『Lアタック』?何ですかそれは。」
マ・グベは実にうれしそうな顔で自身が提案している作戦を話始める。
その作戦を聞いたとき、ガトーの持った感想は一言。『無謀』であった。
『Lアタック』作戦。『サイド7』に連邦が建造している軍用コロニー『ラズベリー・ノア』への攻撃を行うとして軍を進めるというものだ。
だが、実際には途上で進路を変更し連邦宇宙軍最大の拠点となりつつある『ルナⅡ』を奇襲しようというものだ。
確かに、『ルナⅡ』を攻撃・壊滅できれば連邦軍の宇宙における状況はさらに悪くなるだろう。停戦やむなしという声を軍内部で発生させられるかもしれない。だが、リスクもある。
「ですが、連邦にとって『ルナⅡ』は宇宙でにらみを利かせられる最大の拠点です。いくら『サイド7』で建造中の拠点攻撃を装ってもそれに乗るでしょうか?」
「確かに、そういう見方もある。だが、仮にそうなっても戦力的には連邦も『ルウム戦役』で主力を喪失している。半年で回復させるとしても、新造艦や新兵が多いことは間違いない。こちらが有利に戦況を進められると考えている。」
マ・グベは自信ありげに話しているが、ガトーはそうは考えなかった。
確かに、連邦は戦力を一時消耗した。
だが、『ルナⅡ』の要塞化が進んでいることを考えると奪取・破壊は容易ではないはずだ。下手をすると逆にこちらが殲滅される恐れも出てくる。
(ただ、気になるのはデラーズ閣下も知っているはずだということか。何か考えがあるのかもしれない。)
ガトーはそのように考えながら、マ・グベの作戦案についての補足と自分なりのアドバイス、グラナダにおける仕事についての雑談を軽く行って別れた。件の作戦についてデラーズが何を考えているのかを知るのは今少し後になってからのことであった。