『黒鉄会』に通うようになり始めて早くも3年がたとうとしていた。
UC0073年。国内ではザビ家独裁による各種政策がなされている中、前世とは異なりMS開発と量産の目途が立ちつつある『ザク』が話題になっていた。
情報を見るに、前世の『ザクⅡ』と同様の機体であると考えられる。
いずれ、うちにもロールアウトした機体が回るはずなので確認はたやすい。だが、俺を含めメンバーの多くはこれでは足りないと判断していた。
「前世なら高い戦果を期待できる報告ではありますが、この世界では性能不足になりかねないと考えます。」
「私も同意見です。連邦軍内部では支援用として量産体制に入りつつあると聞いていますが、遅かれ早かれより実戦向きの機体も配備されるはずです。」
そうなのだ。この後世では、連邦軍は『ザニー』という遠距離支援型MSを量産する体制を確立しつつある。この機体は前世にも実験機として開発されたと聞いているがこの後世では基本性能が飛躍的に改善され、ジム並みに取り回しのよい機体になっているらしい。まだ、ビーム兵器の小型搭載は行われていないようだがそれも時間の問題かもしれない。
「私もそう思う。会での討論をジオニック社の同志にも伝えたところ、各社がそう考えていたようで『ザク』に代わる量産機開発は継続しているとのことだ。すでに案が出ているとのことで1年以内には成果が出せるとみているらしい。」
「おお、それは一安心だ。続報に期待が持てるのなら、こちらもいうことなしです。」
「これからは、MSの性能向上は必須事項の一つになります。」
俺は先日から書き始めたレポートの内容をここで言っておくべきだと考えて口を開いた。
「それも事実でしょうが、それだけではまだ不足です。肝心なことがまだ、解決していません。」
「リーガンさん、なんですその肝心なこととは?」
「MSがいくら高性能でもそれを運搬する運用艦の問題です。」
「ムサイ級がすでにあるではありませんか。」
「前世のことをお忘れですか?あの艦には致命的欠陥があるのを。」
皆が思い当ったようにざわめきだす。
ついつい、失念しがちだがジオンが一般に用いている船はムサイ級が大半だ。
運搬だけならそれでもいいが、連邦も今後はMSを運用してくる。そうなると実は問題があるのだ。
ムサイ級はもともとMS運用のために作られた船である。そのため、専用格納庫を備えているのだが、その反面防御の問題があるのだ。
おそらく、前世では連邦軍がMSを導入する前だったためであろう、対空砲火が少なくMSに接近されるとほぼ無力になるという欠点があった。
帰る場所のないMS。敵にとっては格好の的になりかねない。
捕虜になるという方法もあるが、ジオン公国は国として連邦から認められていない節がある。対応は押して知るべしだろう。
「そうなると『ムサイ級』に対しての大幅改修をするべきでしょうか?」
「コストの問題もあるが1年の間にできることは少ない、そのあたりが妥当だろう。」
「チベ級の改造案も出ているようですが。」
「我々の技術者はあれを前世とは違う形に大幅改造する案を出している。私見を言うならもはやあれは空母だな。」
会話を整理してみるとムサイ級に行われる改修は、おそらくデラーズフリート時に行われた砲塔増設と対空砲設置の流れになりつつある。
チベ級に関しては俺の後輩が絡んでいるようだ。
最近聞いた話ではいつの間にかこの会の連中と関わり合いを持ったらしく現在では戦艦改修・開発を行っているらしい。その後輩によると、今までのチベ級の形状を世襲しつつ、後方に増設格納庫を溶接し艦橋スペースを前方から後方に移動。左右どちらかに偏らせる案らしい。
それに合わせて砲塔の設置を片方に集約する形に変更するといっていた。さらに、前方スペースにはC型ミサイル、将来的にはJ型ミサイルを設置するつもりだとか。
(ただ、これはすでにチベ級ではなくなるかもしれない。むしろザンジバル級?)
俺は密かにそんな感想を抱いていた。
直接聞いてはいないが、デラーズも同様に考えているのだろう。この改修案を聞いたときには苦笑いを浮かべていた。
「運用艦に関しては何とかなりそうですね。後は、国内体制の問題か。」
これが一番の問題事項となりつつあった。
ジレン・ザビは日に日に権力を手中に収めつつある。もはやレキン・ソド・ザビ(前世のデキン公皇)が傀儡化するのは時間の問題となりつつある。議会の方はもはやあってなき状態だ。
『黒鉄会』の見解は、このままでは前世と同様に非人道的な作戦も辞さない状態になると考えている。
(やはり荒療治しかないかもしれない。だが、そのためには『顔』となる人物が必要だ。)
俺をはじめ皆もそう考えているようだった。
荒療治・・クーデターである。単純でありきたりの結論であるが、ジレン・ザビから実権を奪うにはこれしかないのも事実である。
それに向けてこの三年間、それぞれが軍務で成果を上げ続けた。
結果、それなりの役職に就いた者も多い。
俺もようやく少尉まで昇進(事実上の復帰?)し、明日には中尉昇進との辞令も受け取っている。
実際、戦場に出る機会もないモビルスーツパイロットに活躍の場はあまりない。
それを見越して、入れ替わる前の俺はテストパイロットとして経歴づくりを考えていたようだが。
・・実験中の事故がなければ今頃佐官なのにと上司兼先輩がいっていたのを思い出す。
記憶から抹消するよう努めている今日この頃だ。
そして、デラーズも准将に昇進していた。前世より早い昇進は軍内部でのMS開発推進を評価されてのことで意外にもロズルからも推薦があったらしい。
だが、クーデターを行うとなると実行者の影響力が重要である。
デラーズは優秀ではあるが、現在ではまだ影響力はそう強くない。
国民がついてこない可能性がある。つまり、責任者として政治的な影響力を持たせられる『顔』がない状態である。それに、問題はまだ多く積載していた。特に軍そのものに。
この三年の間にやはりという状態に陥っていたのだ。
ロズルとリシリアの間で派閥争いが起きたために、二派の軍に分裂したのである。
ロズルの『襲撃専門部』は『宇宙襲撃軍』と、リシリアの『戦機隊』は『宇宙機動軍』と名称を改め正式に軍部に座を持つことになった。
ちなみに俺は、先輩とともに『宇宙機動軍』に籍を移している。
(ロズルの『宇宙襲撃軍』はともかく、俺の所属する『宇宙機動軍』は違和感ないんだけど、あんな女の下ですり潰されるのは御免だ。そろそろ移動を真剣に考えるべきか?)
そのような微妙に違った方向に思考が働き始めていたところにデラーズが会に戻ってきた。
先程、討議の途中で話したい人物がいるとのことで出ていたのだ。
「みんなすまんな。先ほどある方が我々の会のことに気づいてそのことで話さなければならなくなってしまって。」
「!クーデターが漏れているということですか!?」
「いや、そうではない。ただ、どうも直感で来られたようだ。そこで場を設けて話を聞いていた。すると、少し面白い流になってな。つい話こんでしまった。」
「いったいどのような内容だったのです。」
「我々と同様の懸念を持っているというものだったのだよ。」
「クーデターを考えていると?」
「いや、そこまでは考えてなかったようだ。ただ、今の態勢に対していささか疑問を持っているという方が正しい。だが、このままでは危険だということを私から説明したら国のためにと協力を申し出てくれたのだ。」
そう説明したときに、後ろのドアからその人物が入ってきた。
でかい図体、筋肉質でがっしりとした体格、いかつい印象的な顔。
そして、何よりも印象に残るのはその顔の傷。
ロズル・ザビであった。
『ザニー』。資料上は存在した機体ですが、アニメ出演はなかった(ジム以上に存在が薄い機体)