連邦内部で侵入したジオンに対してどう対処するか対応が分かれていた頃、ガトーたちは現地支援者たちと合流を果たしていた。
「ご協力に感謝します。ところで、連邦の動向はどうですか?我々の降下に対しての反応によっては作戦に支障がでる恐れもあるのですが。」
「いえ、問題ありませんな。正規軍は隕石落下としか考えてません。平和ボケが抜けきって無いのでしょうな。今が戦時だという理解が追いついてないようです。」
部隊長であるニック・ガレリー大佐の確認に対して、現地協力者である男が現状を大まかにそれでいて実に有益な情報を掻い摘んで伝えてくれた。
今我々がいるのは、元々ダイヤモンド鉱山として採掘が進んでいた場所である。
しかし、資源枯渇が決定的となってからは採掘も放棄され今ではオデッサ地方に人員が割かれているらしい。その結果、その跡地を仮設基地として改装して現在に至っている。
部隊長はその協力者の説明に対してさらに言葉を重ねた。
「正規軍は?つまり、非正規軍の中に訝しんでいる連中がいる可能性があるのですね。」
「ええ。特に反応が顕著なのが『リターンズ』というエリート組織です。地上でも過激な行動をとる連中ですので注意が必要でしょう。」
大佐と共にガトーもうなずく。
リターンズはかなり歪な組織であると先輩であるリーガンからもメールで注意を受けている。
正直、戦うべき時が来れば戦うがそれ以外は御免こうむりたいと彼は考えていた。
「ところで、協力者であるみなさんを率いているのは恐らくあなたのようだが、我々は貴殿をなんと呼べばよいのでしょうか?」
「これは失礼しました。自己紹介がまだでしたな。私、現地潜入班責任者のノイゲン・ビッターと言います。正式な階級は少佐で止まっていますが、以後お見知りおきを。」
ノイゲンと呼ばれるこの恰幅のよさそうな男は歴戦の猛者の空気がある。
恐らく、宇宙でも会戦前まで活躍していた実力者であるとすぐにわかった。とはいえ、ガトーは自分の真の任務はまだ伏せておくべきだと結論を出した。
指定の時間は今から72時間後。正確には表向きの任務遂行中に受け取ることになっている。
「ガレリー大佐。任務の詳細についてですが、攻撃目標の正確な場所をそろそろ部下一同に開示していただけませんか?準備ができませんので。」
「そうだったな。すまん、うっかりしていた。調度、ここには全員がいる事だし休みながら聞いてくれ。」
ガレリー大佐は到着早々、ようやく落ち着いていた面々に詳細を開示しはじめた。
それは、かなりの強硬策であり秘密裏に終えるのは恐らく無理であろう作戦であった。
目標は連邦軍の試作MSテストが行われているトリントン基地。
夜間、事前に潜入させていた工作員の手引きで基地に侵入。警報システムを全面で誤作動させ、その隙に試作機を破壊するというものだ。
また、その過程で連邦のMS設計情報もコピーして奪取することも作戦に含まれている。
「大佐。いささか危険ですし、強硬過ぎませんか?」
「そう思うのは無理ないか。だが、今回に関しては問題ないと考えている。同基地の警報システムはここ1、2週間ほど不調でたびたび誤作動を起こしている。故に危機感が薄い反面、突発的な事態への対処はできまい。」
「そして、その誤作動も事前の『仕込み』なのですね。」
「そうだ。なお作戦遂行後、速やかに潜入している同志を回収し基地を離脱する。この任務が成功すれば連邦内の新型機開発は遅れ、より戦線を有利に持って行けるはずだ。諸君の奮闘を期待する。」
そう言葉を結んで、ガトーたちは解散を命じられた。
出発は30分後。トラックで近場の町まで移動して潜水艦による移動が待っている。
また、ガトーとしては稀有な体験ができると少し期待もあった。
今回乗船予定の潜水艦は高速潜水艦として竣工したもので性能も高いと聞いたからだ。
前世において潜水艦と言えば、連邦なら『ユーコン』。ジオンの最新鋭であれば『マッドアングラー』が知られている。後年、改修型の『ユーコン99』なるものもあったらしいが、それほど種類も多くなく性能もパッとしなかった。
だが、この後世では現地協力者が独自のスタンスから建造した潜水艦が誕生したのである。
U-Z00『セロ』と呼ばれるものだ。
MS収容は2機と少ないが、その代わり特殊任務をこなせる潜入用として重宝されている。
武装は対艦魚雷管2門、対空ミサイル発射管4門が搭載されている。だが、新の売りはその材質だ。アフリカ鉱山でジオンが後世独自に採掘した希少金属である『スビルス10』を加工しているのだ。
この金属は後世UC0066年に見つかったが、加工に手間がかかる上にMSへの装甲材としては非常に不向きだと軍とジオニック社は考え、実用化を見合わせた。
しかし、非常に有益な特徴を持っていることにMIP社が目をつけて別の視点からの開発利用に着手。その結果、潜水艦の装甲材として流用された。なぜか?
「ドライエ艦長。この船は『消える』海中艦と呼ばれているそうですが本当ですか?」
「『消える』というのはいささか誇張かもしれませんが、この船特有のレーダー透過機構は極めて優秀なのは事実です。」
そう、この潜水艦はステルス性を追求した物なのだ。
『後世の際物兵器の一つに数えられる』と後にリーガンは語り、デラーズも無言でうなずいていたのは『黒鉄会』のお約束の場面である。
その後、約2日をかけてガトー達はトリントン基地近くの沖合に到着した。
ただ、前世と異なりこのトリントン基地の位置はより沿岸よりとなっている。
より正確に補足するなら船舶の乗り入れと物資の直接輸送まで可能な湾岸併設基地という体だ。恐らく、前世のようにコロニーが落ちていない故の変化だと思われる。
「船舶は輸送艦2隻、海上戦艦3隻、巡洋艦5隻。駆逐艦は認められず。」
「多分、すぐ隣の第二軍港に別停泊させているのだろう。だが、これで発見されるリスクがさらに減った。」
なお、第二軍港はネレクド基地と呼ばれる小規模軍港である。ここも後世独自の連邦軍所属軍港である。もしかしたら前世でも状況次第ではあったかもしれないが、それは蛇足であろう。
「艦長。軍港奥に別の艦影を確認しました。」
「陸上艦か?もしや、連邦の新造戦艦?!」
潜望鏡からでは詳細は確認できなかったが、大きさからして前世のペガサス級と同等かそれより一回り小さいと思われる。
だが、明らかに前世連邦の『ビッグ・トレー』やジオンの『ダブデ』の戦艦とは別系統であることはすぐにわかった。
「しかし、連邦はつい最近サラミスやマゼランを大規模改修したばかりだ。その矢先に新造艦を建造するとは」
「いえ、あり得ることです。コストなどは過分にかかるでしょうが、あの基地では次世代MSの試験ベッドが作られているのです。ならば、戦艦なども別に建造されている可能性はありました。」
ガトーは驚きながらも冷静に補足して現状を受け入れる。
だが、この情報が作戦成功に吉と出るか凶と出るかはさすがにわからず潜水艦の面々を重い沈黙が支配していった。
ただ、この時はガトー達も自身の任務に専念するあまり失念していたことが二つあった。
一つは、現在の情勢は連邦軍内でも派閥化によって混迷しているということ。そして、もう一つはジオンでも連邦でもない第三勢力が介入する可能性についてである。
それに気づくのは今少し後、事態が急転した時であった。