以後、投稿速度を戻していきますのでご容赦ください。
そして、次話も楽しみにしていただけると嬉しいです。
ガトーが機密を受け取ることに成功した頃。新造艦と思われる船に潜入したガレリー大佐たちは機密情報へのアクセスを急いでいた。
そもそも、本来は行わない予定だったことだから準備不足は否めない。
それでも決行したのにはいくつかの理由があった。
一つは、先にガレリーが言っていた通り『リターンズ』の情報は機密事項が多いため正規軍に比べて解らないことが多いためだ。機会があるならやるべきである。
もう一つは、意地であった。ニック・ガレリーは今回の任務に飛び入り参加的に加わった若手を警戒していたのだ。ガトー少佐という若手を。
(そんなに俺の班は信用できないのか?それとも、ただ若手に手柄を上げさせたいと考えた故の判断か。それとも、俺に代わる人材の育成と俺に対する警告!?)
ガレリー大佐はそのように考えていた。
このことをガトーが知れば、『そんなこと微塵も考えた覚えはない。』と言っただろうがそう判断することはできるのも事実であり、無理からぬことともいえる。だからこそ、目に見える成果を上げる必要があると判断し、予定外の作戦を追加したのである。
「まだデータはコピーできないのか?」
「整備士用の艦内PCでは限度がありますので、最速でも15分はもらう必要があります。それに、さすが最新鋭艦のセキュリティーです。ファイアーウォールが厚く破るのが容易じゃありませんでした。」
「痕跡は残すなよ。最悪、バレるとしても脱出までは悟られるわけにはいかない。」
「だからこそ、15分いただきたいんです。痕跡除去も含めるとこれが最速ですよ。」
ガレリー大佐とその部下は潜入した艦内の整備士用個室でそのような会話をこっそり行っていた。
艦内潜入後、ガトーが行ったように制服を拝借して士官用個室からデータを奪取するつもりであったが、士官用の各部屋にはID・指紋認証をはじめ音声認証まで含んだ機密処置が用いられていることが解ったため不可能と判断した。
いや、正確には事前準備があれば可能であったろうが今回は準備不足が祟っていた。
そこで、士官用に比べ防犯が甘かった整備士用個室に目を付けた。整備スタッフを数人ほど昏倒させて部屋を拝借している。正直、いつ後退の整備士が来るかとヒヤヒヤしながらの作業を行っているので安心できない。
ピコーン!!
そのようなPCの音でガレリーは部下を睨む。内容報告は部下の義務である。
「コピー完了しました。」
「それは後程チャックしよう。ところで、他に重要そうな情報は?」
「主だったものはコピーしましたが、気になると言えばこのアクセスした高級士官個人の持つ情報ですね。」
「何?軍そのものではないのか?」
「どうやら他の士官たちとは違い、別枠で情報を隠していたのを見つけました。」
軍においては、情報は大抵上からもたらされるものを下も共有する。
それによって意思統一を図り、任務を成功させる確率を上げるのだ。無論、ガレリーたちのようなものはその範疇ではないが、正規軍人である士官がわざわざ秘匿している情報というのは裏があると考えるべきだろう。
「そちらもコピーしよう。内容は解るか?」
「見た限りではMSに関連したものでしょうか。装甲材に関連する数値データと別系統技術への転用につい」
それ以上、部下の言葉が発せられることはなかった。不意に、後方から濁ったような小さな音と共に、鮮血があたりを覆うことになったからだ。先ほどまで隣にいたガレリーの血によって。
「!!」
「な、何のマネだ。貴様!」
「ガレリー大佐。それとここにいる人間は知りすぎた。余計なことまで調べなければここまでする気はなかったのに。」
そう言ったのは一緒に艦内に潜入したメンバーの一人だ。名前はカルニエス中尉。
サイド3郊外区出身の中年男性。各補給部署を転々とした後、格闘技術を見込まれてこの隊に回された男だった。大佐の酒飲み仲間の一人でもあり、PCを調べていた部下とも気軽に話す間柄の仲間だった。少なくとも、この瞬間までは。
カルニエスは持っていた銃をさらに発射して周りの仲間たちを撃ち抜いていく。サイレンサー付の銃が発する乾いた音が数度、部屋に響く。
正確に眉間や心臓を撃ち抜いていくからあっという間に皆が大佐の後を追っていく。
無論、他のメンバーも反撃をしようとしたが、いきなり仲間だった人間から武器を向けられたためか抵抗らしい抵抗をできたものはいない。
そして、部屋が静かになった時にはただ一人立っているカルニエスが、無表情で血塗りされたPCを操作している音と声だけしか聞こえなくなっていた。
「余計な手間を増やしてくれたよ。この高級士官はいずれ『浄化』リストに加えておかないとな。後、この死体の山を連邦兵に発見させて侵入している連中を始末しないと。」
そう言葉を発しながら、持っていたトランシーバーの周波数を変えてスイッチを押した状態で通信を始める。
「こちらD1。艦内侵入組は始末した。コピーした情報も回収してある。そっちは?」
『D2とD3は、完了との報告があった。ただ、D4の応答がない。時間通りなら終わっているはずなんだが。』
「D4は任務失敗と判断しろ。予定通り、警備システムを通常通りに戻して後は連邦に始末させればいい。その間に我々は撤収する。我々の存在はできる限り残すなよ。」
『了解。ところで、任務終了後は予定通りに合流すればいいですか?』
「いや、連中の基地には戻れまい。このまま基地を脱出してそれぞれ、別身分で『宇宙』に戻れ。以後の任務は『審議官』どのの指示あるまで待機だ。」
そう言って、カルニエスはトランシーバーを銃で破壊して部屋を後にする。
先程まで仲間だった者たちへの感傷は微塵も感じられない足取りであった。
一方、ガトーがMSドックに戻ってみると予想外の光景があった。
一緒に来たはずの仲間の死体が3つ並んでいる。しかも、明らかに仲間同士で殺しあったことが解るほど血まみれな者がいたので、異常事態だとすぐに察することができた。
「おい!何があった。これはお前がやったのか?」
「し、少佐。わ、私はいきなりお、襲われたから、あ、あの」
「ええい。埒が明かない。そこのお前でいい。何があったかわかるか?」
ガトーが目の前の別のメンバーに話を聞くと以下のようなものだった。
試作されたMSのデータを回収したので、各種兵器とMSそのものの設計データをコピーしていた。
そして、後は爆薬を設置して離脱するという段になっていきなり仲間の一人が別の仲間を銃で打ち抜いたというのだ。
それを見ていたものが、咄嗟に反撃して血まみれとなっていたあの兵士を助けたようだ。だが、その結果として助けた当人はかつての仲間に殺された。
感情的になった助けられた兵士が、ナイフで反撃して刺殺してしまったらしい。
(どういうことだ?なぜ、味方を殺そうとした。・・まさか、連邦側の潜入者か?!)
そうガトーは一瞬考えたが、その考えをすぐに捨てた。
そもそも、連邦の潜入者であればこちらの侵入直後に自分たちを囲んでとらえればそれで済んだ。
殺すより捕えて情報を引き出した方がずっと向こうにとって得るものがあるはずだ。
それが無理でも、人質として軍との交渉を有利に進める材料に使えるのだから殺すメリットがこの場合は無い。戦場ならいざ知らず、こういう場合は捕えるという選択が最も連邦を利するはずなのだ。
(そうなると、考えられるのは別勢力。連邦内の派閥に関連した破壊工作に巻き込まれたか。あるいは、サイド2の息がかかっていた可能性だ。)
ガトーは現状で考えられる情報ではこれ以上の判断は不可能と判断。
即座に残ったメンバーに指示を出して撤収を開始した。なお、別場所に侵入しているはずのメンバーに連絡を取ろうとするも応答はなかった。こちらと違い、やられたと見るべきだと結論付けた。
「少佐。データのコピーは完了しました。死体の始末も終えています。」
「できれば本国に連れ帰りたいところだが、現状は無理だ。許してくれ」
ガトーはそう言って二人分の遺体があった場所で軍隊式の敬礼をとる。
せめてもの死者に対する祈りといったところだろう。
その後、残ったメンバーと共に基地からの脱出を図るための行動に移るために思考を切り替えた。
ガトーにとっての長い一夜の始まりであった。
次話は伏線の人物が登場?