機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第五十八話 地上での戦い~トリントンの嵐③~

場面はマフティー達の会話より少し前に戻る。

ガトーがジェイドをあしらっていた頃、地上の新造艦『メーゼルダイス』艦橋では艦長のシグナプス中佐が基地司令部と相互で情報をやり取りするのに躍起になっていた。

艦内に正体不明の敵兵が侵入したのだから当然の処置であろう。

だが、その敵が既に全滅しているということが解るとさらに訝しんだ。

少なくとも、自分達は先ほど知ったばかりだ。となると基地の警備・巡回関係か監査部が動いた結果かも知れないが確信がない。つまり、まったく答えが導けない状態であった。

 

「サツマイカン少佐。『リターンズ』とはここまで内密にことを行うものなのですか?」

『私は知らんよ。報告も受けていない。それに、こちらも混乱していて忙しいんだ。そっちはそっちで対処してくれたまえ。』

「勝手なことを言わないでもらいたい。こちらはマスク大佐を迎えに行く準備もあるのです。こちらも人員や時間に余裕はない。」

 

シグナプス中佐は最近、正規軍からリターンズに移ったばかりの士官であるが経験や実績から中佐という地位をそのまま引き継いでいる。彼自身はリターンズへの転属は遠慮したかったのだが、半ば脅しのような形で新型艦の艦長をやらされている。

 

(いったい、何が起きているんだ?基地周辺に関する情報はよこしてもらえないし。ええい、転属したての士官に対してここまで露骨な嫌がらせをするのか!)

 

シグナプス中佐は舌打ちしながら、艦橋の部下たちに周囲警戒と火器管制システムを起動して待機するように命令を下す。その直後であった。

 

「レーダーに熱源反応あり!湾内拡張予定の敷地から約10キロと思われるポイントです。」

「なに?そこは確か立ち入り禁止指定の場所だな。友軍か?それとも」

「データ照合に該当する機体なし!敵と推測されます。熱量と大きさからみてMS・・いや、MAクラスと推定されます。」

 

その報告の直後、その機体から火花のようなものが何回か点滅した。

発光信号かとも思われたが、違う。その後、艦橋に叫びがこだまする。

 

「上空にミサイル多数!基地と我が艦上空に多数飛来してきます!!」

「迎撃しろ!基地守備隊にも念押しで伝えておけ。」

 

その指示が飛んだ時に鋭い揺れが基地の主要部にとどろいた。

ミサイル着弾にはまだ少し間があったはずだが、メーゼルダイスのすぐ隣に停泊していた水上用戦艦が吹き飛んでいた。真っ二つに折れて水中に没していく光景は原始的な恐怖を艦橋要員全員が抱くのに十分だったろう。

 

「せ、戦艦『ローラン』が」

「ミサイルではない。では・・!砲撃だ、このままでは狙い撃ちされる。機関始動!急速上昇して湾港付近より浮上する!」

「だ、ダメです。ミサイルが既にそこまで来ています。間に合いません。」

「已む得ない。対空砲火に撃ち落とさせろ!何とかしのぐしかない。その上で緊急発進する。各員、直撃に備えておけ!!」

 

その後、メーゼルダイスをはじめ基地周辺にミサイルの雨が降り注ぐことになった。

ルウム戦役の地上版と言える状態。ガトーはそれを実行するために事前にある機体を基地から距離のある場所に伏せさせていた。

 

 

「着弾確認。戦艦一隻、轟沈か。悪くない戦果だ。後は、ミサイル次第だな。」

 

そう呟いたのはその攻撃を仕掛けた兵士であった。

ガトーが地上降下に際して持ち込んだ地上用MSによる奇襲・陽動作戦を実施するように言われた兵士である。ただし、ガトーはそれとなく命令書に一言手書きを付け加えていた。

 

『陽動ではあるが、徹底的に破壊しても問題ない。』という一言を彼は忠実に守っている。

ガトー少佐からの合図を受けて、即座に機体にかけた熱源遮断用の偽装を解除した。その上で、敵新型艦とその周辺並びに司令部付近に集中的に打撃を加える。

この『ザメル』ならではの遠距離砲撃任務であった。

 

ザメルは前世にもあった機体である。一年戦争後期にはあったという説もあるが誕生までの過程は謎多き機体である。その大きさは重武装を可能とするためにMSというよりもホバー型MAという感じになっている。

前世においても同トリントン基地強襲に加わり、基地破壊の成果を出した実績もある。

もっとも、その後のコウ・ウラキらによる追撃によってバニングに撃破されているが。

 

「カノン砲は冷却がまだか。少佐たちの脱出はまだなのか?」

 

パイロットであるロブ・ラップ曹長は焦りを隠すこともせずに不安げにぼやいた。

そもそも、いきなり新型機のパイロットにされて困惑しているのだから当然である。

それに、時間が無いのも事実だった。

ザメルはもともと対MS戦用ではない。コンセプトは移動砲台というコンセプトで開発が開始され、グラナダで試験開発された機体である。

だからこそ、敵に発見される前に離脱する。または、発見された場合は即座に離脱行動をとることが運用面では絶対となっているのだ。

 

「ええい。少佐、急いでください。そろそろ、やばい気がするんですよ。」

 

そう呟きながらモニターの望遠機能で基地を睨んでいたが、期待していたことがようやく見えた。

基地出口上空に赤・青紫の信号弾が上がったのだ。それと同時に、通信機を受信のみにする。

少佐の指示を再度確認するためである。返事は不要だから交信する必要はない。

 

『トロイの騎士より砲台へ、行動プランはBを採用。人命を尊重されたし。その上で、貴官の役割を遂行されたし。』

 

その内容は指示書にあった内容通りである。

基地脱出が確認された後、パイロットは即座に機体を放棄。機密保持作業を行った後に脱出せよというものだ。なお、この場合の放棄は機体の自爆もかねている訳だがこの『ザメル』においては少し違った意味を持つ。

 

「了解です、少佐。しかし、まさかこの機能がこんな形に使われる日が来ようとは開発者も考えてなかったでしょうがね。」

 

ロブはそう言いながら操縦桿隅に設置されていた錨模様のボタンを押す。

それと同時に機体胸部にあたる部分が分解し、中から見覚えのある機体シルエットが姿をあらわした。地上用戦闘機のドップである。

前世と異なり、この後世『ザメル』は脱出機能を備えた機体となっていたのだ。

開発当初は、パイロット保護を優先するための処置として模索されたものだったが、この場合は機密保持の手段として利用されたわけだから面白いことである。

 

「脱出完了。同時に自爆用プログラム『炸裂』を起動。これより、現状より離脱する!」

 

ロブは急ぎ、合流地点へとドップを躍らせた。

 

 

そして、時を同じくして『メーゼルダイス』より連絡を受けた警備隊が空と地上から基地を強襲した敵機を発見、攻撃を加えようとしてた。

なお、空はMAである『フライ・シャーク』が四機、地上は『61A式戦車』が四機それぞれ攻撃しようとしている。

なお、『フライ・シャーク』前世の『フライ・マンタ』、『61A式戦車』は前世の『61式戦車』であることは容易に想像できることだろう。

 

それはともかくも、その計8機に補足され攻撃が加えられようとしていたが、この時既にロブは脱出している。しかも、敵機接近と同時に自爆用プログラム『炸裂』が起動した。

冷却が既に終了していたカノン砲が再度軋みを上げながら固定され、トリントン基地へと自動照準される。

攻撃隊も敵機の意図をいち早く察知し、バルカン・ミサイル・砲撃と集中的に攻撃が加えられ結果として弾道は逸れた。だが、その結果として射線上にいた戦車一隻が瓦礫のごとく吹き飛ぶことになってしまった。だが、それで終わりではなかった。

脱出前に残存していたミサイルがすべて上空に垂直発射されたのだ。目標設定もせずに垂直発射すれば後は落ちるのみだ。

 

結果、さらに上空にいたシャークが2機墜落し戦車がさらに1台吹き飛ばされた。そして、陶然と言わんばかりにこの戦果を挙げた『ザメル』も原型をとどめないほどにバラバラに破壊されたのであった。

 

 


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