機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第六話 壺と縁

(なぜ、ロズルがここに来るんだ?!)

 

俺がそう叫びそうになるのは他の誰もが納得してくれるだろう。

彼はこの事態を作っている原因の一人である。

リシリアと争い軍部を真っ二つにしている張本人と言っていいはずだ。そんな人物がここに。

 

「デラーズ准将から話を聞いてな、貴官らの気高い精神に俺は感動した。同時に、俺は自分が情けなくてしょうがない。」

 

そう口を開いた途端、ロズルは目頭を押さえている。目からはこれでもかというほどの落涙が見えた。

 

「兄の暴走を止めること叶わず、妹との対立で軍を割る醜態。俺は、俺は、」

「ロズル閣下、もう十分思いは伝わりました。これ以上、言葉は不要です。」

 

最初は演技かとも思ったがそうでもないらしい。

そもそも、彼の性格とあまりにかけ離れている。

前世のドズル・ザビにしても戦略・政略家ではなく、職業軍人気質ということで知られている。

一部では彼を無能とののしるものもいるが、『V作戦』に気づいて即座に対応している手腕やソロモン防衛時の対応は末期のジオンとしては及第点であったと思う。

いささか感情的な部分はあったが、そこは半分個性であろう。それに人は変わるものだ。

 

「ロズル閣下は我々がことを起こす際には、軍部の代表として我々の行動を擁護することを確約してくださった。すでに私と連盟の血判状もある。」

 

オオ、と全員から声が上がった。

確かにこの意味は大きい。今まで問題となっていた『顔』が解決したのだ。

しかも、連盟という形にすることでデラーズ自身の影響力を大きくすることができるから政治・戦略両方でよい手ともいえる。となると問題はあと一つ。

 

「となると後は、リシリア派をどうするかですね。」

「ロズル閣下は自身が体を張って黙らせるといっておられたが、恐らくリシリア派はおとなしくするポーズだけをする可能性が高い。」

「とはいえ、開戦が迫っているのですからあからさまな対応はリシリア派決起に結びつきかねません。下手をするとジレンと結びつく恐れもあります。」

 

ジレンであれば、権力復帰後の要職と権限増加を認めて協力するだろう。リシリアならば、その言に乗って我々を葬ったのち、ジレンを暗殺して我々の残党による犯行と言い張る可能性もある。転び方によってはリシリアが離反する前にジレンがリシリアを討ち、国内ドロドロの内戦に突入もあり得る。

 

「とはいえ、あの人はまだないもしてないから下手に手は打てない。」

 

皆が考えこんでいる中で俺にはふとある考えが浮かんでいた。それはいささか邪悪とさえいえるものであったが、うまくいけばリシリア派を抑え込める。俺は心の中で計算を始めていた。

 

その夜、『黒鉄会』での会合の後に、『宇宙機動軍』に所属する同志からリシリア・ザビの関係者で面会できそうな人物を紹介してもらい俺はある屋敷に立ち寄った。

そう、スゲー覚えのある名前の人の家だ。門番らしき男が出入り口に立っていた。

それなりに権威ある家柄だったようだと考えつつその門番に確認をとる。

 

「失礼します。マ・グベ少佐はいらっしゃいますでしょうか?」

「少佐は現在お忙しい。言伝なら聞いておいてやる。」

 

ずいぶん無礼な口ぶりだ。階級自体はこちらの方が上なのだが、上役の小姓みたいな者だからかすごく礼を失している。いじわるもできるがここは預かってもらおう。

 

「ではお願いしまう。内容は『少佐殿がご所望の壺にいくつか心当たりがあります。お返事をお待ちします。リーガン・ロック中尉』でお願いします。一時一句、間違いなくお伝えください。あなた自身のためにも。」

 

そう言って、俺はその屋敷を後にした。おそらく早ければ明日中には返事が来るはずだと考えながら。

次の日に、予想通り返事がきた。というより、本人が来た。

MS用のシュミレーターに入っている時、いきなり呼び出しを食らったのだ。

交代の人間にデータを変えてから訓練をしてくれとつぶやいてから俺はシュミレーターを離れた。

俺が訓練に用いてるデータは後輩による改造データだ。大抵の者が使うといじめになる。

 

(後輩に頼み、前世のアナベル・ガトーとジョニー・ライデンのデータを再現した仮想敵を相手に行っていが。・・いまだに勝てない。自信を失くしそうだが、生き残るためには必要なことなんだよな)

 

士官用の待合室に入ると、マ・グベ少佐が俺を待っていた。不機嫌そうな顔だが、落ち着いていないのがわかる。これでも策士なのだから人間わからないものだ。もっとも詰めが甘いと酷評されてもいたが。

 

「君がリーガン・ロック中尉だね。言伝は受け取った。」

「は、わざわざ小官ごときのためにお越しいただけるとは思いませんでした。本来、こちらから足を運ぶべきであるのに申し訳ありません。」

「昨晩はうちの門番が君を不快にさせたようだったからね。当然のことをしているだけだ。・・それに、私はこう見えて趣味人でね。骨董品収集もその一つだ。それで、例の壺は?」

「申し訳ありません。実は官舎の方においてあります。ただ、念のために写真と鑑定書が手元にありますので確認してみますか?実物はその後ということで。」

「・・まあいい。とりあえず見せてくれ。物は後の楽しみにさせてもらおう。」

 

実際、物も写真も鑑定書も本物である。

昨晩、同志の一人がコレクションしているのを思い出したので泣く泣く譲ってもらった。

二束三文で。その際に『ドロボー』とか『鬼』とか言われたが気にしない。

この国の将来のためである、俺は鬼にもなろう。なんか違う気もするが。

 

「本物だ。しかし、よく見つけたな。それに私の趣味まで知っているとは」

「こう見えて閣下のファンの一人です。閣下のような方に愛でていただけるのでしたらその壺も幸せでしょう。」

「ふふ、君もなかなか世辞がうまいな。」

 

正直、本題に乗せるための前段階であるこのやり取がつかれる。とはいえ、今後のためだ。

 

最近の状況を確認していると前世と同様、この後世でもマ・グベはリシリアに重用され始めている。

だが、まだ本格的ではないとも感じた。直接的な接触もいまだないと裏が取れている。こちら側に転ばせるなら今と判断したのだ。リシリア派中枢の情報を手に入れられる人間との繋がりは今後重要である。

 

「そんな少佐のことですからリシリア閣下からも期待されているのでしょう」

「期待かね?」

「違うのでしょうか?」

「判断は付きかねている」

「そうですか。私はデラーズ准将から少佐のご高名を聞いたのでてっきりリシリア閣下もそうだとばかり」

「・・ほう、デラーズ閣下がそんなことを?心にもない」

 

マ・グベは俺がデラーズの交流会に出席していることは知っている。だからこの会話も顔見知り故だとすぐに理解してくれたようだ。

だが、かなり冷めた反応だ。やはりデラーズとマ・グベは剃りがあっていないようだ。

もともと、ロマンチストと言っていいデラーズと自己陶酔型のナルシストであるマ・グベでは微妙にかみ合わないところがあるからだろう。だが、まだやりようはある。

 

「それは少佐殿の実力を軽視できないと考えているからですよ。露骨に評価できない立場です。もし、少将または中将ともなればそれもできますがあの方は准将ですから。」

「将官として微妙な位置だからだと?つまり目上を気にしているのか?」

「そのようでした。閣下は少佐殿の直接の上官殿からにらまれているようです。デラーズ閣下はマ・グベ少佐のことを『少佐にしておくには惜しい人材だ。私なら大佐でも惜しくない』とよくぼやいておりました。」

「ほう、私のことをそこまで買ってくださっていたとは。・・正直、信じがたい。」

「私も正直に少佐殿とじっくり話をすれば誤解も解けるだろうと勧めたのですが、その折にリシリア閣下の耳に入ったらしく露骨に釘を刺されまして。」

「釘を?」

「はい、『私の駒に勝手なことをするな』と。」

「!!」

 

いささかたちが悪いかもしれないが、リシリアはそのような発言はしていない。

思っている可能性は高いが口には出さないだろうと思う。

だが、前世では彼の死後にその傾向がある。マ・クベの戦死が確認されても当時のキシリアはそれほどショックを受けた様子はなかった。作戦行動そのものにも動揺が見えないことからもそれは紛れもない事実と言えるだろう。おそらく、シャアやララァという代わりの手駒を手にしたと思ったからに他ならない。

だからこそ、俺は今のうちにマ・グベにそれとなく言ってやったのである。『リシリアはお前を買っているのではない。捨て駒を集めているのだ』と。

 

「・・いささか口が過ぎました。曲がりなりにも閣下の上官に対して礼を失した言動であったと思っています。申し訳ありません。」

 

その気になれば先ほどのような発言はそのまま、親衛隊やリシリアに妄信的な兵に引き渡されても文句は言えない。だが、マ・グベは一笑にふした。

 

「他愛のない趣味の席での発言だ。私は何も覚えていないよ。ただ、モノはやはり別の機会に見せてもらうことにしよう。今回はこの写真で我慢する。」

 

そう言って彼は部屋を出ようとしたが、何かを思い出したように一言呟いた。

 

「今度は実物をこの手で触って愛でたいものだ。場所の指定は君のほうでいいからいつでも私に連絡したまえ。後、デラーズ准将殿にも『目に留めていただき感謝します』と伝えておいてくれ。」

 

そう言い残して、部屋を出て行った。

どうやら成功したといえるだろう。だが、念のため同志に頼んで様子はみてもらうつもりである。だが、これで楔を打ち込めたと俺は確信していた。

 

 


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