機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第六十二話 困難な撤退③

 

イマクルスのジムが突っ込んでくるのを迎撃していたガトーは焦燥感を覚えながらも、敵に対して『小気味よし』と思っていた。

敵の立場ならば持久戦をとるという選択もあったはずだからだ。その考えに固執して戦法を維持するということも十分あり得たのだ。だが、敵はあえて正面攻撃に打って出た。

 

「潔しというべきか。だが、そろそろこちらも時間が厳しくなっている。それに、向こうも攻勢をとった。ならば、こちらもそれに応じて迎え撃つ。」

 

ガトーは機体のビームサーベルを抜き放つ。ライフルはあえて脇に放り投げて両方ともサーベルを握った。シールドを構えて突っ込んでくる敵にライフルは現状効果は低い。

ならば、サーベルでの肉弾戦に持ち込んでしまうのが妥当という判断である。

敵機に対してドゥバンセも相対するように走り出す。互いに示し合わせたように相手に向かって歩を進めていく。

最初に変化が生じたのは敵機だった。

ジムが持っていたシールドを上に薙ぐように振り上げたのだ。その拍子にドゥバンセの右腕がサーベルと共に弾かれる。そして、敵の懐にはサーベルを突きだそうとしているジムの右腕があった。

どうやら、初めからこうするつもりだったようでサーベルの出力を暴発寸前まで引き上げているらしく、通常よりも分厚いサーベルの形状となっていた。

 

「もらったぞ!仲間の敵、打ち取った!!」

 

イマクルスはそう叫びながら右腕のサーベルを突きだそうとした。これでコックピットを貫くつもりだったのだ。だが、刺し貫いたのはドゥバンセの右肩部分であった。

ガトーは持っていた左腕サーベルを逆手もちに変えて敵サーベルをコックピットよりも自機右側にずらしたのだ。サーベルでのつばぜり合いは無理と判断して力に逆らわずに流したのである。

 

「!まだだー」

「そうそう何度もやらせん!」

 

イマクルスは弾くのに使ったシールドを再度上から振りかぶるように敵に振りかぶったが、ガトーは右肩にサーベルが刺さった状態からさらにスラスタースロットルを全開にして前進させた。無論、サーベルはさらに深々と突き刺さり、火花を上げながら右腕に致命的な損傷を与えていく。

だが、同時に彼は敵機のシールドをかいくぐり敵の懐にまですべり込ませることに成功した。互いの頭がまじかにあるほどの近距離である。

 

「シールドも無い上にこの近距離ならばバルカンでも火傷では済むまい!」

 

ドゥバンセのバルカンが敵ジムの頭部とその周辺に近距離から放たれた。

頭部のメインモニターをやられたイマクルスはバルカンの衝撃が断続的に襲うコックピット内で叫んでいた。思考が完全に真っ赤になり、先程までの冷静さなどは完全に吹き飛んでしまっていた。

 

「どこまでも小賢しい!バルカンを持つのはそちらだけではないんだ!こちらもたっぷりくらわせてやる!!」

 

イマクルスの言葉と同時にジムの頭部にあったバルカンからもドゥバンセに向けてバルカンが発射され始めた。

互いに組み付いてのバルカン撃ち。このまま消耗戦ならばイマクルスにとっては死んでも勝利と言えただろうが。

 

「・・ここは下がるべきだったな。そうすれば死ぬことまではなかったかもしれないのに」

 

ガトーはそう言いながら、機体をさらに操作する。

イマクルスは失念していたのだ。

ジムの左腕はシールドを持ったまま動きが死んでしまっている事を。

右腕はドゥバンセの右肩に突き刺さったままであることを。

そして、ドゥバンセの左腕が完全にフリーになってしまっていることを。

逆手に持っていたサーベルの持ち手を戻し、出力をギリギリにして敵機胸部に押し付けた。

コックピット部分が砕け、サーベル先端部分がビーム粒子の閃光を放ちながら、奥に侵略していく。

ジムは断末魔の叫びのようにシールド持った左腕を震わせながら頭上に高々とあげたが、数瞬後にはだらりと地面に落ちた。

 

「状況終了。無事、敵機の足止めに成功した・・と言いたいところだが、我が身の未熟さを痛感させられる状況だな。」

 

ガトーとしては機体は最低限の損傷で済ませたかった。だが、結果として右肩を深く損傷して連動した右腕もほとんど上がらなくなってしまった。

マニピュレーターは何とか動くが、武器をもっても狙えないというのでは意味がない。

幸いなのは敵のバルカンによる損傷が軽微に済んだことくらいである。

 

「基地で突っ込んできた連邦パイロットを未熟とは俺にも言えなかったな。」

 

そのように自分の醜態を見て、過去の自分を振り返ったガトーであるが、一先ずの目的である追撃を排除したのを確認し機体を仲間たちが待つ合流地点に向けた。

戦果だけをみれば連邦のジムを4機撃墜という戦果であったが、それを行った本人はそれほど誇れないと思っていた。

 

 

それから約15分後、ようやく不信に思ったA班はその惨状を見て多くのメンバーが逃げ出しそうな状態になっていた。

無理もないことかもしれない。トリントン基地は前線からもっとも遠い地上勤務地だ。

試験機の運用でMSに関するテクニックはその辺の正規軍将兵よりよほど優秀であるが、実戦を知らないという点では同じなのだ。

 

(宇宙で戦闘を経験した連中は大半がまだ前線かルナⅡでの警戒任務に駆り出されている。しかもその数は敗北のせいで少ない。・・こんなひよっこ連中ではたして通用するのか?)

 

「隊長、敵は手練れですね。イマクルス隊を全滅させるとなると隊長と同等かそれ以上かもしれないですよ。」

「隊長に対していささか正直すぎる意見だとおもうのだが」

「ジェイド殿。私は戦闘に関する率直な意見を討議するとき、礼儀は二の次でもいいと考えているのだ。別に気にしないし、君にもそう理解しておいてもらおう。それが、この隊で共に行動するうえでの最低条件だ。」

 

正直、普段ならばたしなめるくらいはしているのだが現状それどころではない。

彼としては、率直に意見を言ってくれた方が今は良かった。

 

(油断があったとはいえ、イマクルスほどのパイロットを返り討ちにしたのだから、相手の腕も一級品なのは事実だ。そんな相手が通信に関してあんな初歩のミスをするだろうか?)

 

ここまで考えると、イマクルス隊は敵にはめられたのではないかという疑念が生まれ初めていた。

通信の内容がどこまで真実を内包していたかは不明だが、少なくとも聞かれていることをある程度理解したうえで、敵機殲滅に利用されたとカーリングは感じていた。

 

「・・こうなったら、危険を承知で隊員を分散させて探索する。ただし、敵機もしくはその痕跡を見つけたらすぐに知らせろ。単独での攻撃は絶対に許さない。いいな!」

 

カーリングの指示を受けた隊員たちはその場から四方に散開していく。

残ったのはジェイドとカーリングのみだった。

 

「カーリング大尉。私は内陸に面した西よりの岩石地帯を探索し」

「いや、ジェイド殿には私と共に沿岸部探索をしてもらう。」

 

カーリングはそういってジェイドの意見を止めた。そうしながらも、さらに言葉を続ける。

 

「イマクルス達は当初、沿岸を集中的に探索していた節がある。どうやら、海から脱出する手段があると踏んでいたようだ。もっとも、私もそう考えていたのだが隊間の立場もあったから彼らに譲った。しかし、そのイマクルス達がやられた。恐らくこの推測は正しいと私は考えている。」

「では、なぜ他の部下に散開探索など」

「あくまで一部の者の『感』だったからだ。それに、宇宙にすぐ離脱する手段がないと断言もできない。だからこそ、先程の命令を出した。その上で、我々が疑いのある沿岸を探索すればいい。見つければ他の連中と合流して敵をたたく。」

 

カーリングはそういって、ジェイドと共に機体を動かし始めた。

ガトー達にとって、敵の追撃機自体は大幅に減らせたが危機はまだ乗り越えたとは言えない状況であった。

 

 


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