機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第六十四話 困難な撤退⑤

ジェイド達はようやく敵を補足することに成功していた。

もっとも、2機では心元ないことや近づきすぎると敵に気づかれると考えたために距離を置かざる得ない状態ではあった。そのために敵船を確認することはできなかった。だが。

 

「隊長、6機全員がそろいました。」

「1小隊半という中途半端な陣容だが、敵はここからの離脱に集中している。故に守備のMSは無いと同様だろう。」

 

とはいえ、油断は禁物と皆が考えていた。隊長も同様なのだろう。

しかし、言葉とは裏腹に目つきは鋭いものだ。考えてみれば、基地潜入から強襲まで油断し続けた結果、常に後手に回り続けた。

試作機奪取、基地機能マヒ、追撃B班全滅。

今日一日で起きた事とは信じられないほど失敗の連続である。

 

「カーリング大尉。全員がそろったことですし、すぐに攻撃の詳細案を説明された方がいいでしょう。何らかの理由で敵がこちらの現状を察知している可能性もあります。」

「確かにその通りです。大尉、すぐに攻撃をかけて殲滅してしまいましょう!」

 

ジェイドの意見に対して、部下の一人がより過激な口調で攻撃を促す。

だが、ジェイドとしてはそこまで過激に率先したくて言ったわけではない。そもそも、彼は既にカーリング大尉と事前に打ち合わせ、どのように攻撃するかを説明するための雰囲気をつくるためにそう発言しただけであった。

 

(B班がやられた不安を消すためとは言え、こんな特攻思考の意見すら利用しなくてはならないとは。事前に聞いてなければ呆れている。)

 

イマクルス隊の壊滅によって低下した士気を引き上げ、いざという時に逃げ腰にならないようにする。その一環ゆえの発言だ。

だが、それで猪突猛進されては困るのですぐに大尉がそれを諌めつつ指針を示すために言葉を発した。

 

「その意気はいいだろう。だが、ただ突っ込むのと手順を定めて行動するのとでは危険度が全然違ってくる。こらえるのだ。・・それでは説明する。」

 

カーリング大尉は作戦案を説明し始めた。

もっとも、時間が少ないのだから内容はかなり単純なものだ。先に2機を先行警戒させつつ、可能な限り速やかに敵を補足殲滅するというものだ。

 

「先行させるといっても時間の問題や、敵の逆撃態勢を取って時間を稼ぐリスクもあり得る。偵察中も隊員全員が警戒を怠らないように努めて前進する。何か質問は?」

「敵が湾岸部分に逃走しようとしていることは確実なのでしょうか?敵の陽動という可能性もあるのでは?」

「これは私の感だが、敵にとってもそれほど余裕はないと考えている。その理由としては基地内で敵に多くのメンバーが死亡しているという事実だ。これは敵にとっても予想外の事態だと考えている。」

 

そう口にする大尉にはいささか不安な様子であったが、一方のジェイドは自信ありげな様子である。この発言はジェイドの考えである。

彼は追撃前に聞いた情報から恐らく、内部で裏切りでもあったのか他の勢力が横やりを入れたのではないかと考えたのである。

 

(それがアナハイムかサイド2か、それとも旧ザビ家の生き残りかは知らないが予想外な事態が生じたのは間違いない。ならば、敵に余裕はないはずだ。敵が態勢を整えてしまう前に敵を補殺してしまえれば。)

 

その様はジェイドの思考はともかくも、カーリング大尉も敵を早期に補殺すること事態には賛成なのであえてその言を借りることにしたのである。

そして、さっそく行動を開始してものの数分だっただろうか。先行させた2機から通信で援護を乞うと連絡があったのだ。

 

「何があった。敵か?」

『現在、複数の敵に攻撃を受けている。岩陰に隠れた敵機からマシンガンを随時浴び去られている状態で身動きできない。至急、援護を!』

 

カーリングとジェイドは即座に仲間と共にそこに急行した。

そして、そこは弾幕と煙が渦巻く場所と化していた。各所からマシンガンが飛び交っていると聞いて居たが、バズーカらしき爆音も聞こえる。

ふと、そこに敵機のザクが確認できた。頭部をこちらに向け持っていたマシンガンをこちらに向けようとしている。

 

「チッ!」

 

即座に反応したのはカーリングとジェイドの機体だった。

敵がトリガーを引く前にジェイド機がビームライフルで敵機頭部を撃ち抜く。

それで体制を崩した敵にカーリングの機体のビーム粒子がコックピットを貫いて敵機を爆散させる。

 

「大尉。どうやら敵も死にもの狂いで我々を足止めするつもりのようですね。」

「だとしたら侮れない。それ以上に時間もかけられん。」

 

大尉は返答しつつ、再び機体のビームライフルのトリガーを引く。

そして、放たれたビームは先ほど打ち抜いた敵機の後方でバズーカを撃とうとしていた別の機体胸部を撃ち抜いた。だが。

 

「・・妙だな」

「どうかしたのですか大尉?」

「敵の反撃、もとい攻撃が単調すぎる気がする。」

 

先程の敵もバズーカを構えていた敵にしても移動するでもなくその場所に陣取りつつ砲撃を加え続けていた。

それにMSのもう一つの攻撃手段であり、優位性の一つでもある格闘戦を行う素振りがまるでない。

無論、砲撃に徹して時間稼ぎというのは解る。だが、目の前で味方機が打ち抜かれていたはずなのだから、せめて移動しながら砲撃なり位置を変えようとするのが自然である。

 

「もしや無人なのではないか?」

「いささか突飛な考えとは思いますが、確かに気になります。」

 

そう返したジェイドは、さっそく撃破した機体の1機をチェックし始める。

血なまぐさいようだが、遺体があるかを確認すれば懸念も晴れるというものだ。

 

「どうだ?」

「・・う、確認しました。遺体です。ただ、黒焦げな上にバラバラなので長時間見ていたくないですね。」

「そうか、こちらの取り越し苦労だったようだ。だが、これだけ決死の守りを固めているのだから、その先に敵の離脱手段があると見て間違いない。叩いて進むぞ!」

 

それからの戦闘は各機がペアを組んで警戒しつつ、敵を排除していくというものだった。

敵もところどころで攻撃を加えてきたが危なげなく各機に撃破されていった。

 

途中、沿岸部が二股に分かれている部分があり双方に偵察を出すべきかとも考えたが敵は左側の道にMSを配置して守りを固めているようだった。

兵士を犠牲にしてまで沿岸への道を死守している点から見ても、敵がそちらに離脱手段を配置していると判断した。何よりも時間をかけると敵を取り逃がしかねない。

 

「蹴散らして突破するぞ、必ず敵を補足し、基地の連中の敵をとる!」

「当然です。」

「踏み台にされた屈辱、今度こそ晴らしてやる!」

 

カーリングの叱咤、部下たちの戦意、ジェイドの非常に気になる独白などを否定するようにMSがマシンガン、バズーカを構えてゆく手をふさぐ。

だが、機体の性能やパイロットの質が勝っていたためかついに敵の守りを突破することに成功、ついに沿岸に到着した。・・したのだが、そこには敵機の影も形もない。

船・潜水艦の影すらない。

 

「大尉、もしや」

「そのまさかだが、嵌められたかもしれない。」

 

そう通信を聞いた直後、突破してきたMSが吹き飛ぶのが聞こえてきた。

必死に突破していた敵機が各所で自爆していくのが彼らの目に飛び込んでいた。

 

 

 

調度その頃、ガトーとドライエ艦長は船内で腕時計を確認していた。

それは、出航して2分ほど経ったときの一風景である。

 

「そろそろ、配置しておいた機体が自壊しているころですな」

「ええ。この段になって攻撃を受けないことから見ても何とか敵が嵌ってくれたようで一安心しています。」

「しかし、最初聞いたときにはいささか無理のある策だと思いましたよ。」

「苦肉の策です。今後はこのような一か八かの賭けは控えたいと思っています。」

「かなりギリギリの案でしたが、なんとか兵士たちに犠牲を出すことなく済ませられた時には胸をなでおろしましたよ。」

「私もです。何よりも、時間が無い中で私の無茶な策に協力してくれた整備班やパイロット達には感謝してもしたりません。」

「そう思っているなら、彼らと君自身が必ず本国に帰還することでチャラにするので任務遂行に専念してください。」

 

そう言われたガトーはドライエに無言で頭を下げた。

そして、ドライエはそれをちらっと見ただけでそれ以上、策について批評することは基地に着くまでなかった。

 


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