機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第六十七話 捻くれ研究者

 

紹介が終わり、互いがソファーに腰掛ける。

サミトフは直後に足を組み、マスク大佐はその傍らで立ったまま控えている。

一方、ジェーンは落ち着いた動作で静かにたたずみ、助手のレイシャルはマスク大佐と同じようにその傍らに立ったまま待機する。ただ、マスク大佐と違っておどおどしているのが目立つ。とてもローカスト研究所職員とは思えないと『リターンズ』の二人は思った。

 

 

前にも軽く触れたが、ローカスト研究所は前世のオーガスタ研究所に位置づけられる施設であり、人口ニュータイプの製造・研究に主眼を置いた機関だ。

前世同様、多くの者はそこが『マッドサイエンティストの実験場』だと暗黙の裡に理解していた。

サミトフが今回会う人物はその中でも少し風変わりな研究者として知られた人物である。

その当事者と助手は研究所でもかなり変人、もとい狂気じみた人物だと聞いていたので想像と現実のギャップに戸惑うことになった。

それをどう感じたのか、ジェーンはニッコリ笑いながら口を開いた。

 

「この前はお時間をつくっていただいたにも拘わらず私の体調のせいで助手を行かせたこと。大変失礼しました。」

「かまわん。君の助手とやらからも大まかな確認はできたからな。『被検体08番』はかなり使えると思えた。だが、本格的なところはやはり本人としっかり話したかったのでな。」

 

そう答えながら、彼女の隣りにいる助手を見る。

実は、彼には少し前にワダムの代理として顔合わせをしていた。今はあの時より砕けた服装だが、見た目にそれほどこだわりを持たないのは優れた研究者と助手の悪い癖なのだろうか。

 

(これ以上、閣下への心象を悪くしないでくれ。この俺の立場が無いではないか!)

 

マスク大佐などはそう心で叫んでいた。無理もないことかもしれない。

何しろ、当初顔合わせを予定していた日。突然、キャンセルされたのだから当然だ。

だが、後から来た助手から『病気のために隔離された』と聞いたのでやむなく面談を延期にしたのである。已む得ない事情とはいえ、心象は非常に悪い。

 

「まさか、研究者がこの時代にインフルエンザとは。いささか驚いたよ。」

「研究所では研究者・被検体にかなり広がりまして、大規模な隔離をしなければならないほどでした。いつの時代も根本は変わりません。」

 

二人はそうたわいないやり取りから会話に入っていった。

もっとも、この会話がそんな和やかに終わることはないだろうと当人たちは理解していたが故の会話だったと、後にマスク大佐は振り返ることになる。

 

「その被検体を我が『リターンズ』に納入するという件だが。君もタダで手放しはすまい。見返りは何を求める?」

「閣下は率直であられる。別に大したことは望んでいません。ただ、二つほど確約していただきたいことが。」

 

ワダムはそこで一呼吸開けて、再び口を開いた。

 

「私を正式にリターンズ所属の技術将校にしていただきたいのです。階級は特に問いませんが自分の研究を継続できるように手配をお願いしたい。」

「それはフランクリンのような待遇、またはそれよりは上の優遇をしてほしいという意思表示かな?」

 

サミトフはさらに露骨に考えを口にした。

フランクリン・ボルダーのことはローカスト研究所でも有名である。詰まるところ、機体開発にも口出しすると言いたいのだろう。

 

考えてみれば、強化人間をつくるとなると機体とのセットが基本となってくる。

前世でもその傾向が強かった。

ジオン系ならば、キャラ・スーンとゲーマルク。マシュマー・セロとザクⅢ改だ。

ティターンズならば、サイコ・ガンダムとフォウ・ムラサメ。さらに極端な例ならばロザミア・バダムがいい例だろう。

初期はギャプラン、中期はバウンド・ドック、後期にはサイコ・ガンダムMk‐Ⅱを乗機として使いこなしていたのだから。

どの機体も癖が強すぎる。それ故に正規パイロットではほとんど使いこなせない機体と言えた。

どうやら、後世も例外ではないらしく似たようなことを考える者がいたらしい。

 

「畑違いのことにまで口を挟まれるのはこちらとしても不快なのだが。」

「重々承知しております。ですが、優れた兵に優れた武器を持たせるのは決して組織にとってもマイナスではないはずです。」

「どんな機体でも使いこなすことも強化人間の重要要素だと私は思っているが。」

「失礼ながら、閣下は『使いこなせる兵士』より『勝利できる兵士』を求めているように感じました。もしそうならば、確実に強化人間の性能を引出切れる外部装置をつくる事は重要です。」

 

サミトフはワダムの受け応えを冷めた目で見据え続けている。

見られている当人は自分の言に酔っているようで気づいていない。いささか不快であった。

だが、同時に気になる事もある。

 

(こんなに軽い人間が本当に一流の研究者か?)

 

サミトフはそう感じ始めていた。

彼の知る限りではローカスト研の者たちに共通の素養がある。それはどんなものでも利用して自分の成果を獲得する強かさだ。

無論、頭がいいのは最低条件だがそれに加えてそのような側面が強い連中が集まっている節があるのだ。だが、彼女から感じるのはそれとは程遠い。

まるで夢を見続けている女性の妄言を聞いているような感じだ。そして、ふと気づく。

 

「わかった、善処しよう。少なくとも自分の研究室を持たせるというのは保障する。ただ、その前に一つ確認したいことがある。」

「検体のことであれば何でもお聞きください。閣下の期待を裏切るようなことだけは無いとお約束できますので。」

「では。いつまで検体に話させておくつもりか?」

「!!」

 

マスク大佐などはその言葉に驚いた。

この女性が研究者だと紹介されてサミトフに伝えていたのは他ならない彼だったからだ。

 

「・・おっしゃっている意味が理解できかねま」

「いい加減、人形に話させないで自分で話して欲しいものだ。セリフはいろいろパターン化して覚え込ませていたようだが、いささか凝り過ぎた。逆に怪しいと感じるほどにな。そうだろう、『助手』のレイシャル殿。」

 

そう言われたレイシャルはサミトフの詰問するような目を受けてさらに狼狽し、おどおどしている。だが、それにかまわずにサミトフは言葉を重ねた。

 

「いい加減に自分の口で話たまえ。身を守るためか、我々を見極めるためかは知らないが我々の基に来るならそれぐらいの礼儀は弁えて欲しいものだ。それとも、大佐のブラスターに打ち抜かれるまでこの芝居を続けてみるかね?」

「わ、私は」

「大佐!10秒待ったら私の合図で撃ち殺せ。礼儀知らずな研究者にはお似合いの最後をくれてやれ!!」

「は!謹んで実行させていただきます。」

 

そう言って、カウントを始めるサミトフとブラスターを向けるマスク大佐を見て、当初はおどおどしていたレイシャルは驚愕の視線を二人に向けた。

だが、カウントが『5』を過ぎた頃、彼の表情と雰囲気が変わった。先ほどのおどおどしていた貌は完全に消え去り、目つきは鋭く口はやや吊り上った笑いの表情をつくる。

そして、ワダムの隣りに両手を上げながら座った。

 

「フッ。参った参った!降参、私の負けです閣下。」

「君が本当の研究員だな。それと、助手などはいないのだろう?その隣の女が秘書兼実験体と言ったところか?」

 

そう言ったサミトフの問に対して、レイシャルはうなずいて肯定した。

もっとも、それに付け加えるように『私専用の護衛としてです』と付け加えたが。

 

「つまり、実際の納入品は別なのだな?」

「はい。彼女より優秀だということは保証致します。そちらの新型ジム3機を旧式のザニーで単独撃破できる実力と言っておきましょう。」

 

これにはマスク大佐の方が気分を害したように笑顔を消してしまった。一方のサミトフとレイシェルは先ほどの緊迫感は既になく、和やかな会話と言った感じだ。

その後は互いに話合い、一度『ラズベリー・ノア』へ訪問して設備などを確認することなどを互いに話し合った。

 

 

そして、話も終盤といったところでレイシャルはさも当然と言ったように驚くべき話を口にした。

 

「そう言えば、最近はジャブローやルナⅡの幕僚方からも別の研究者に依頼が来るようになっていると聞きました。二股をかけるつもりなのかと訝しんでいるのですが、そちらとは無関係なのですか?」

「いや、それは初耳だ。ジャブローからというと、総司令官直属か参謀本部か?」

 

サミトフとしては非常に気になる情報である。

参謀部の連中を歯牙にもかけていなかっただけに、彼の言うところの『保身主義者共』がそんな思い切った行動をとっているとは信じがたかったのだ。

 

「参謀部の方だと聞きました。何でも人工的にNTを製造できないかと依頼があったようです。私とは微妙に意見が合わなかったので御鉢は来ませんでしたが。」

「大佐。ジャブローに関してはどうなのだ?」

「現地にいた時に噂の一つとしてはありました。ですが、ジオニズムに抵触する内容であるNTの模倣品を上役連中が求めるはずないと大半は考えていました。」

 

サミトフとしても信じがたい話ではあった。噂について説明しているマスク大佐にしても同様であるようだ。だが、現実としてローカスト研究所に接触してきている。

 

「閣下。この情報を聞いたからと言って他の研究者の囲い込みなどはご遠慮ください。もし、それをされるなら私は閣下との約束もなかったことに」

「いや、それはすまい。私としても、君という研究者とその成果が手に入れば上場だと思っている。囲い込みなどをする気もない。・・だが、念のため視察という形で定期的にこちらの関係者を訪ねさせることにしよう。上役連中の弱みになる情報に接することもあるしな。」

 

サミトフはそういってレイシャルの疑いを晴らすように説明した。

以降、『リターンズ』はローカスト研への積極的な接近を控えるようになる。その一方でジャブローをはじめとする正規軍上役などからの依頼などが増加することになるのだ。

だが、それが後日に何をもたらす結果になるのかそれを知る人物は地球にはいなかった。

 

 

 

 

サミトフ達が先の会話をしていた時と同時刻。

簡素なパイプ椅子と机が備え付けられた一室において以下のような会話が行われた。

 

「『鼠1』より知らせが来ました。やはり積極的に研究所へアプローチを掛けるようになっているとのことです。」

「予想していたことではあるが、正規軍の連中も『リターンズ』と変わらないな」

「確かに。だが、その『リターンズ』は逆に距離を置くような姿勢を取っているというのも事実か?」

「はい。一応、定期的な視察は継続しているようなのですが前のようにサミトフ中将やマスク大佐など重要人物は来なくなったとのことです。」

 

それを聞いていた一室の面々は口ぐちに不安を語りだす。

そして、それを代表するように一人が言葉を発した。

 

「閣下。当初の作戦に支障はないのでしょうか?もし、これに失敗しますと我々の立場はかなり危うくなります。」

「確かにそうだ。しかし、既に矢は放った後なのだ。その矢が的を射ぬいてくれるか?それとも途中で落ちてしまうのかはわからぬが、我々はその矢が成果を上げるのに期待して準備を進めよう。」

 

その言葉を合図とするように一室から次々と人が去っていく。

後に残ったのは、彼らが飲んでいたコーヒーのカップと冷めてしまった『あるモノ』であった。

 

 




今までの約3000文字を少し過ぎてしまいました。
ただ、この話はいろいろ伏線的な情報をちりばめる必要があったのでこうなりました。
ご了承ください。(-_-;)

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