その露骨なまでにこちらを拒絶するような物言いにいろいろ言ってやりたい衝動を抑えながらもバルキットは交渉に専念することにした。
「地上に潜入したジオンが根城にしている場所についての情報が欲しい。あるいは、こちらの知らない敵艦の目撃情報などでもいいのですが」
「連邦お抱えの公社の連中に聞いてくださいよ。私たちはそちらから見てテロリスト予備軍なのでしょう?そんな半端モノを頼る必要はないと思いますが。」
「テロリスト・・予備軍?」
「まさか知らないのか?自軍の兵士・将官が私たち商会の人間をどうよんでいるのかも。」
正直、バルキットは全く知らなかった。大佐からもそのようなことは聞いていない。
それとなく、彼との会談を整えてくれた仲介人を見たが別段驚いた素振りすらない。
(つまり、地上勤務・ジャブロー本部の連中が公然と語っているということか。余計な手間になるようなことを!!)
それからバルキットは必死に交渉のためにしゃべることになった。
それはもう、軍務中の他愛無いことから現在の連邦上層部への不満など様々だ。
もっとも、そのようなことを会話に乗せたのには勿論理由がある。一言で述べるならそれはこうだ。
『俺は今の正規軍連中は嫌いだー!』
まさにそれがはたから聞いててもわかるほどなのだから、オウ・ヘンリなどはいささか呆れつつも、自分が思っていた連邦正規軍とはまた別の連中なのだとようやく理解してくれたようでしばらくしてからおもむろに真面目な話題を乗せてきた。
「しかし、なぜ我々から情報を買いたいのですか?あまり言いたくないですが、『大陸間横断公社』の連中から情報をもらうのが連邦軍人なら普通だと思うのですが。」
「あの『公社』は確かに情報収集の幅は広い。だが、あれはある組織の傘下に属しているので利用したくないのです。仮に利用できても、故意に情報を操作されそうで不安になる。正規軍連中はそこに気づいてないから普通に利用しているが、少なくとも私たちは御免だ。」
前にも述べたが、『大陸間横断公社』は『リターンズ』のサミトフが所有している会社でもある。『リターンズ』のバックボーンであり、地球上で最大の情報収集組織として今や、その影響力は正規軍にすら浸透している。
その現状がある以上、『クレイモア』は公社の連中に頼れない。それをすると重大な機密情報の伝達などは完全に『リターンズ』に筒抜けになるのは明白だからである。
それ故、マフティーやエビルなどはいつも部下たちにぼやいていたものである。
『内外両方で情報入手に油断できないというのはどうなのだろう?』
『まあ、正規軍のように食い物にされていないだけ我々はマシと思いましょう。』
非常に苦々しい顔で言っているのをバルキットも聞いたことがあった。
だからこそ、情報入手に際して『オウ商会』を用いるというのはクレイモアにとって当たり前のことであったのだ。
「・・まあ、いいでしょう。ですが、我々も商人です。代金をいただかないとそちらが要望する情報を提供できないかもしれませんよ?」
「つまり、こちらがいくら払えるか。または、その情報と同程度の価値があるモノを提供できるかということですか。では、こういうのはどうでしょうか。」
そういってバルキットが提示したのはマフティーから事前に渡されていた情報ディスクである。その内容はMSの設計図で、各種環境に対応した装備などをおおざっぱにではあるがまとめたものだ。ちなみに機体は『ザニー』である。
もっとも、『ザニー』はまだ連邦正規軍では正式機であり一応、『主力機』という位置づけである。だからこそ、その詳細な設計図とそれに対応した各種装備の価値はかなりの物となる。
「これはまた、思い切ったお客さんですな。いきなりでかいカードを切りましたね。」
「いやいや、実はそうでもないのですよ。むしろ廃物処理に近いです。それについても情報として売りたいのですがそれは後程。で、情報はいただけるのですか?」
「宇宙でのことではお助けできませんが、地上のことでなら情報料分提供しましょう。」
そう言って、オウは手持ちのPCを起動させた。
どうやら、手持ちの情報からそれに該当するものを抜粋してくれているらしい。
情報の持ち歩きは危険ではと思いバルキットは訪ねてみたが、各種認証とパスワードでPC内の情報を守っている。また、24時間以上経つと自動でPC内のデータが消去されるようになっているので機密保持対策も万全との事だった。
「後、5時間は大丈夫ですが急ぎましょう。我々の『顧客』そのものはお教えできませんが、有力な客の大まかな場所と提供資材については以下の3か所ですかね?」
場所はまさにバラバラという感じである。
一つ目は、ヒマリヤ山脈付近で資材リストで目立つのは大量の食糧と何に使うのか不明な薬品ばかりだ。
二つ目はアフリカ大陸中央部に近い場所で、食糧などがその大半を占めているのは一つ目と同様であるが、中には犬・猫などの動物も含まれている。ただ、その値段が非常に高くとても動物購入とは思えない値段だ。恐らく実態は武器だと思われる。
三つ目は、カナダ北東部に近い位置で、一番資材が多かった。武器・建築機器、さらにはMWも数代含まれている。恐らくかなりでかい組織が受注したのだろう。金額も他二つとは桁が一つ違っていた。
「海岸沿いでないところを省くと三つ目が有力だが、いささか解せないな」
「我々の情報に問題があるとしても抗議は受けつけませんよ。こちらも商売なので」
「いや、そうではない。こちらのことだから」
三つ目だと考えると、いささか目立ちすぎるのだ。
これだけ大規模ならば、恐らく公社の情報網にも引っ掛かっている可能性がある。
だが、『リターンズ』側ではまだ動きがみられないのだ。
(もしかして、ここは奴らの関連施設かもしれん。無論、直接的な関係ではなく非合法なことを行う上で必要な窓口組織という線もあり得る。それならば、『リターンズ』が動かない理由も合点がいくし。)
そう考えると、残る二つで再度絞る必要がある。
正直、どちらもあり得るだろう。山脈付近と大陸内陸部であるから連邦の目も甘い。
そこまで考えて、あることを思い出した。
連中の移動手段が潜水艦だとするなら海に近い場所と考えていたが、果たしてそうだろうかというものだ。
(むしろ、こちらの思い込み付け込んでいる可能性もある。接岸拠点はあるが、それとは別に本格的な拠点は内陸とか山脈などの陸地奥に設営している可能性も高い。)
「もう一つ、これに関連した情報が欲しい。内容は一つ目と二つ目の場所に、『人口は少ないが村・町が10キロ圏内にあるかどうか』だ。さらに絞り込み要素として海に近い場所という条件も付けるが。」
「それについては別料金を提示させていただきます。先ほど仰っていた『廃物処理』云々というので手をうちましょう。」
正直、いたい出費だが仕方がないと口に出しながら情報を出すことを確約した。
もっとも、マフティーからこの情報は無償で与えてもいいと言われていたが交渉事であるから向こうが真相を知っても納得してくれるだろう。
「その条件にあてはまるのは二つ目の顧客ですね。8キロほど離れた場所にさびれた港があります。もっとも、今ではタンカーの中継地以上の価値は無い場所なのですがね。」
そう含みをもって言われた情報でバルキットは確信を深めた。
恐らく、移動に用いた潜水艦ドックをそこに持っているのだろう。そして、積荷などは夜間に輸送して奥地にある拠点へ運びこんでいるのだ。
後は、この大雑把な位置をより絞るために手に入れた情報と該当する可能性が高い場所をクロス検索して特定していけばよい。
「助かった。感謝する。」
「いいですよ。お客が望むものを可能な範囲で売るのが仕事なんで。では、報酬の情報をお願いします。」
そう言われたバルキットは手持ち最後のカードを公開した。
曰く、連邦正規軍では『ザニー』が既にそれほど高い評価を受けていない。
曰く、正規軍は新型の『ジム』量産と配備に際し、ザニーを民間警備会社並びに各国に払い下げることが既に決定している。
曰く、軍での需要はなくなるがしばらくは地上での運用が広がるので『ジム』に関連した機密情報を入手・或いは実機入手までの資金調達・顧客獲得には最初に渡した情報は有用となるだろう。
という内容をしっかり教えてやった。
最初、これを聞いたロウは非常に損をしたという顔をしたが今後も有益な常連としてお世話になるのでと説明して納得してもらった。
良き関係を維持できれば互いに有益であると信じたいと両者共に儚いながらも期待を持つことで納得するのであった。