機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第七十六話 長い帰路へ②

ガトー達のHLVに合流する直前だった偽装ムサイは何とか現状を立て直そうと必死にあがいていた。

既に任務の半分以上は完了しつつあったのだ。HLVの乗組員とMSを回収し、本国に帰るだけだった。無論、言うほど簡単ではなかったろうが不可能なことではなかったはずだったのだ。しかし、その希望的観測は連邦軍MS隊の強襲で水泡に帰した。

勿論、強襲したのはヤザン達『ハイエナ』隊である。回収作業に移行しつつあったムサイを見たヤザンは即座にビームライフルを敵艦横っ腹に叩き込んだのだ。

 

「ヒュー!見事に命中だ。」

「隊長、ずるいですよ。一番でかい獲物を。」

「まてまてあわてるなよ、一番の獲物は的と言っていいHLVの方だ。とはいえ、いいところを持ってかれたのは確かだがな。」

「みなさん、ふざけてる暇はないですよ。敵も気づいたようです。」

 

サラの言ったように攻撃を受けたムサイからは迎撃態勢を敷くようにMSが出てくる。

形状を見るにドムだ。ちなみにサラはルウム戦役には参加してなかったので実物を見るのは初めてであったが、隊への配属前に映像資料を見ている。

 

「敵の主力機です。ザクとは違ってかなり火力があると聞きますが。」

「落ち着け新人君。確かにその通りだが、数を見ろ。たった2機だ。恐らく、隠密任務故に戦力を最小限にしていた結果だろう。」

 

ヤザンはサラに幼子を諭すような、それでいて侮るような口調で自分なりの戦力分析を口に乗せ始めた。

そして、サラはそれに気づきながらも納得しておくことにした。考えてみれば隠密任務を行っていた部隊の回収だ。故に回収そのものも秘密裏に行う必要があったのだろう。

それに我が方から奪取した機体を収容することも視野に入れていたのかもしれない。

 

「2機とはいえ油断はできません。敵には船があります。その火力も入れるとこちらと同等、あるいはそれ以上に」

「まだまだ甘いなお嬢ちゃん。敵はHLVの乗員・MSの収容を行おうとしている直後だった。つまり迎撃態勢も万全ではない。それに彼らはHLVを守りながらという枷もある。さて、これほどの条件を入れると敵の戦力はどうだ?」

 

(確かに、枷がある以上は非常に戦いずらいはずだ。そうなるとこちらの方が優勢に立っている部分も多いかもしれない。)

 

「理解したか?」

「はい、未熟な自分を恥じています。」

「嬢ちゃん、解ればいいんだよ。大尉殿はその辺寛容だから気にしてないはずだしな。」

「乱暴に見えて隊長は部下思いだからひどいことはしないさ。」

「お前ら、余計なことは言わなくていい!それよりこのまま的に畳み掛けるぞ。」

 

ヤザンはそう部下たちに指示して攻勢を強めた。

ヤザン機は速度を上げて敵艦側面、先程ライフルを見舞ってやった部分に肉薄する。

さすがに、敵もそれはまずいと判断したのか船を回頭させながら対空砲を撃ってくる。だが、その間隙を縫うようにヤザン機とは逆方向から回り込んだヒューゲル機とラムサス機が三連ミサイルポッドを逆側面に叩き込んでいく。

 

「まるで派手な花火だな。綺麗だぜ。」

「不謹慎だ。敵に敬意を払えよ。」

 

ミサイルを放った両機はすぐに対空砲の弾幕から離脱してしまう。一方、ヤザン機に対してはすぐに2機のドムが反応していた。

肉薄される直前、ドム二機は呼吸を合わせるように一機はバズーカ、もう一機は120mmマシンガンを放ってきた。

 

「ザクの装備も共用できるんだったな。だが、小賢しいんだよ。」

 

スラスターを調整して機体をジグザグに動かす。その上で、的確に敵の攻撃を躱してしまった。マシンガンは何発か被弾しているが、大半はシールドで防いでしまっているので直撃弾はまだ負っていない。

 

(本当、操縦がうまいんですよね。とても野獣とは思えないほど。)

 

サラはヤザン機支援のために牽制攻撃を敵機や敵艦に行いながらそう思わずにはいられなかった。

それほど支援が必要ないのではと思うほどうまく立ち回っているのだ。その強かさには下を巻いてしまいたくなるほどだ。

 

「!新たに敵機らしきMSを補足。HLVから出てきたようです。」

「おいおい、随分と無茶なことをした奴がいるようだな。」

 

ヤザンはそう言いながらドムの攻撃を回避・交錯する。そして、振り向きざまにライフルのトリガーを引いた。その刹那、球状の火が上がりMSの反応が一つ消えた。

 

「早くも一機撃墜ですか隊長。いいところばかり」

「そういうお前らはどうなんだ。」

「俺はついさっき一機落としたぜ。」

「俺だけ戦果なしかよ。・・こうなったら残りの奴らは俺が総取りだ。」

「敵艦は共同で当たってるから戦果には入らんぞ。それにHLVは可能な限り回収・投降させるべきだ。」

「あんまりです隊長!俺の活躍の場がありません。」

「敵艦メガ粒子砲塔2門を破壊し、対空砲数門をつぶしたのに?」

 

サラはそう補足した。もっとも、共同での戦果なので目立つ評価にならないのだろう。

それに、この様子だとどうやら仲間内での賭けもしていたようだ。恐らく撃墜数などを競っていたとみるべきだ。

 

「・・また嗜好品を賭けていたのですか皆さん?」

「いや、任務後の食費三日分を。」

 

どうやら、自分たちが死ぬという結果は一切考えていないようだとサラは再確認してしまうのであった。

 

 

そんな中、ガトーは奪取した『ドゥバンセ』をHLVから出したところだった。

状況はまさに最悪であると解るほど雌雄は決しつつある。

護衛のMSは全滅、回収任務を帯びていた迎えのムサイは主砲・対空砲を敵MSに破壊されてまともに迎撃すらできない。

しかも、敵のMSはまだ全機健在なのだ。これでは一機加わったところでどうしようもない。しかも、ガトーは機体を出したところでさらに苛立ちを濃くしていた。

 

「!!機体が思うように動かない。ちっ、やはり宇宙用への調整が甘かったのか。」

 

HLVを出る前から覚悟していたことだが、予想以上に機体が動いてくれない。

まるで最初期の試験型MSと同等、あるいはそれ以上に動かすのが困難であった。

だが、それでもガトーは機体を必死に動かしていた。

スラスターでの移動は無理でも、ライフルを敵に向けるだけならばなんとかできる。

そして、ライフルの銃身を敵機に定めトリガーを引く。

その瞬間、ビームの閃光が敵に向かっていくが敵はそれを上昇して躱してしまった。

容易に回避できるほど誰が狙われているのか。わかってしまうほどに鈍重だと撃った側も撃たれた側もこの時に理解できてしまった。

 

(これでは砲台としても使えない。地上と宇宙では調整不足がこれほど影響するものなのか!)

 

ガトーはそう舌打ちすると共に敵による攻撃を浴びることになった。

 

 

彼が狙った機体はヤザンの駆る機体であったが、狙った相手を視認し、さらに相手が半身不随に近い機体だと察すると苛烈な逆襲に打って出た。

 

「いいね。やる気のある敵は好きだぜ。だがな、相手が悪かったんじゃないかい、えぇ!!」

 

彼は叫びながら、三連ミサイルを敵に叩き込む。

一発は敵のライフルに当たったのみに終わったが、残り2発はドゥバンセの左足と右肩に直撃した。

爆炎によって機体が無事では居られないと踏んでいたヤザンであったが、以外にもドゥバンセはいまだに機体として原型をとどめていた。

それはルナ・チタニウム合金の賜物であったが、ヤザンからすれば忌々しいことでしかなかった。

そもそも、本来はこちらの機体なのだから当然だ。

 

「こっちの物だった機体まで担ぎ出しやがって。さっさと落ちろ!」

 

ヤザンはさらにビームライフルで敵を貫くがそれでもまだ動いている。自由の利かない機体でここまで耐えるのは機体強度を考えてもたいしたものだろう。だが、それも時間の問題であった。

 

(あの野獣は容赦ないからもう時間の問題。それにたった今、彼らの希望は完全に断たれた。)

 

サラはそう心で結論を出した。理由は単純だ。既に離脱手段がなくなったからだ。

HLVの要員・機材を回収する予定だったムサイがヒューゲル、ラムサス機によって宇宙の藻屑になったからだ。

生存者はいないだろう。何しろ、脱出する間もなく艦体が真っ二つに割れつつ轟沈してしまった。

しかも、そこに両機はライフルを浴びせて残骸を破壊する徹底ぶりだ。

 

「大尉。そろそろ頃合いでしょう。敵機に降伏を勧告してください。今ならHLVと奪取された機体両方を拿捕できま」

「うるせえ!今、いいところなんだ。ようやく仕留められるというところで邪魔をするな。」

 

サラからすればだからこそ通信で話しているのだが、ヤザンは聞く耳を持とうとしない。

戦闘によって興奮しているのも理由だろうが、この性格を今少し何とかしてもらえると苦労が減るのにと日頃から思うほどだ。

 

「大尉。上への手土産にもなりますから抑えて下さい。ただでさえ命令違反でここにいるのにこれ以上は」

「戦場では臨機応変に対応しろよ。嬢ちゃん。敵機撃墜はやむなきことなんだ。」

 

そう言ってヤザンは自機のライフルと装填し直したミサイルを敵機に向けている。

いかに頑丈だとしてもこれほどの集中攻撃を受けた後にダメ押しの砲火を浴びれば撃墜は避けられない。

ヤザンはようやく悪あがきをしていた相手を叩き潰せるという確信をもってトリガーに手を掛けた。

 

 


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