機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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今回はリターンズ内での出来事。



第七十九話 リターンズにてⅠ

 

ジェイドが出た後であるが、サツマイカンにはマスク大佐からの通信が待っていた。

それは出だしから怒気をはらんだもので非常に居心地の悪い物であったが。

 

「少佐。君には失望を禁じ得ない。前の報告であれほど忠告してやったのに成果どころか、失態を上塗りしてくれるとは思わなかった。」

「た、確かに機体奪還には失敗しましたが宇宙に上がった連中も我が組織子飼いの部隊が補足するはずです。それに地上の残党も殲滅済みですし」

「地上に関しては『クレイモア』にわざわざ手柄を与えてしまったというではないか!それに、宇宙に逃れた連中も追撃は不可能だということだぞ」

「え?」

 

マスク大佐は気のない返答をしたサツマイカン少佐に正規軍・『リターンズ』・そして『クレイモア』共に敵の大規模攻勢に対処するため追撃に余力を避けないのだと説明した。

それを聞き終えたサツマイカンは真っ青だった顔が灰色に変わっていた。

誰が見ても今の彼は失態しか報告できていないし、念を入れていた対策も期待以下の成果しか出せない状況であると知ったためであった。

 

「正直、俺でもかばい切れん事態だ。・・少佐、君を大尉に降格し『ルナⅡ』勤務を命じる。」

「ま、待ってください!転属はこの際受け入れますが、降格はあんまりです。今回の失態は一重にジェイドの独断によるところが多く。」

「彼については先ほど処分を言い渡した。彼はしばらく『ラズベリー・ノア』周辺での哨戒任務に就いてもらう。前線であり、もっとも敵との交戦が激しい場所の一つだ。処分と言ってよいとサミトフ閣下も了承している。」

「甘すぎます!奴の失態は本来軍法会議ものであり、除隊処分を与えてもいいはずの物ではないですか。」

「これは閣下の決定だ。変更はあり得ない!これ以上、私を怒らせるな!!」

 

そう言ってマスク大佐は通信を切ってしまった。

この時、サツマイカン大尉は不満たらたらであったが、それを必死に飲み込んだ。

当然ともいえる。彼の今までの横暴な行動は組織の権力を背景にしていたのだから。

追い出されれば残る肩書は地球連邦軍大尉でしかない。

 

(おのれ、宇宙人共めが!この屈辱、決して忘れんぞ)

 

 

サツマイカン少佐に対して処分を言い渡した後、マスク大佐は自分の部下たちと調整に入った。誰をサツマイカンの後釜として使うかである。

 

「シロッコなどはいかがです?癖が強いですが極めて優秀ですし、人材を見抜く目も確かだと見ますが。」

「いや、確かに優秀だが危険人物でもある。あれに下手な権限など与えるのは癇癪持ちの子供にナイフを持たせるようなものだ。」

 

比喩としてはいささか理解しがたいがまあ、そういう側面のある人物だと部下たちも評価はしていたので納得はしていた。

 

「では、ロディ・キンゼー大尉などはどうです?彼は近く昇進予定でしたし、この際大佐直轄に転属させてしまうのもいいかもしれません。」

「私も賛成です。彼は下の者たちからもそれなりに信用されています。」

 

マスク大佐はそこまでの会話からキンゼー少佐を改めてサツマイカンの後任とすることを決めることにした。

それに彼にとってもこの人事は都合がよかった。失態を演じたうえに、部下たちからも嫌われている節があるサツマイカンを異動させてより人気のある人物を後任とする。

それによって自分への批判のガス抜きを行うべきだと考えていたのだ。

 

「そうだな。少し、早い気もするが彼なら十分にやれるはずだ。」

 

マスク大佐は部下の意見を集約し、キンゼー大尉を本日付で少佐に昇進させ、サツマイカンに代わって大佐直轄の艦隊を受け持つことになった。

だが、その背後では今少し面白い事態が起きていたのを知るのは二日後のことである。

 

 

 

マスク大佐がキンゼー少佐をサツマイカンの後任に決めていた調度その頃、サミトフ・ハイマンは彼の秘書官とレイシャル技術大尉を集め、マスク大佐には内密に会談の席を持っていた。

たぜ、マスク大佐に秘匿するか?理由は単純である。

 

「大佐の日頃の行動は過激すぎます。今までは成果もあったから黙認していましたが、もはや限界です。」

「技術者としてあまり口を出す気はありませんが、だからといって簡単に排除してしまうというのも考えものですよ。彼の直属は納得しないでしょうし。」

 

そう、『リターンズ』を私物化しているマスク大佐をどうするかを話し合うのが主だった理由だったためである。

当初、サミトフは様子を見るべきだと考えていた。近々予定されていた反抗作戦『アームストロング』が終了するまでは顔役でもあるマスク大佐の件は黙認しておくべきだと考えていたのだ。

もっとも、連邦軍の一部を私物化しているサミトフがそれを言う資格はないのだろうが、本人はそう考えていなかったし、彼自身はそれが地球圏のためになると本気で考えているので始末に負えないのだが。

 

「一先ず、実働部隊の長をマスク大佐から独立させ閣下の意思で動かせるような人事を行うべきだと思います。」

「そうだな。では、キンゼー大尉などはいいのではないか?彼は実直だし職業軍人気質で部下たちからも一定の信頼を得ている。」

「閣下、彼は既に大佐のお手付きです。表向きはそう見えませんが、彼の忠誠はマスク大佐一筋でしょう。」

「それに私も反対です。技術者側としてはあまり軍思考に傾きすぎる人事をされると窮屈で開発がはかどりません。」

「うむ、思ったより大佐は手が早かったか。誤算だった。となると他には」

 

サツマイカンは論外、ライヤーは一度失態してしかも潜在的な敵、他の者たちも小隊までなら可能だが艦隊は厳しい。

 

「・・メッシュ・クレイ中尉などはどうだろうか?」

「閣下!彼はまだ佐官ですらありません。論外ではないでしょうか。」

「だが、見識や作戦構想能力は申し分ない。しかも彼はまだ二十六歳だが、気骨のある男でもある。キンゼー大尉と十分張り合えるだろう。」

 

サミトフとしては軍内で信用に値する人材としては彼が適任だと思ったし、彼ならば今後の作戦でも手腕を振るってくれるだろうと考えた故の意見であった。

そこにレイシャル大尉が口をはさんだ。

 

「閣下。私はファティマス大尉の方が妥当だと思います。」

「確かに彼も優秀ではあるが」

 

秘書とサミトフは互いに難色を示した。秘書としては彼の内面にある危険なものに気づいていたから。サミトフは前世の経験で知っている彼の野心故である。

だが、現状では互いに確固たる証拠があるわけではない。偏見である。そんな理由で能力ある人材を放置する方が問題となるだろう。それこそ、前世連邦軍と同様の衰退につながりかねない。

 

「閣下、いっそ発想を変えて三名とも少佐に昇進させてはどうかと」

「それこそ意味が解らん。何を理由にするのだ。マスク大佐が納得するとも思えん。」

「いえ、理由ならあります。彼の子飼いであったサツマイカンの失態、これを理由に使うのです。」

 

秘書はさらに自分の意見を披露した。

サツマイカンの直接の上司であるマスク大佐がなんの処断も受けないのは問題になりかねない。そこで、彼が管理している軍を整理するという名目で分散させる。

細かいところは今後の調整となるだろうが、大枠としてはキンゼー少佐、ファティマス少佐、クレイ少佐にほぼ同等の実働戦力を管理・指揮させればいい。

 

「全ては無理ですが、これならマスク大佐の戦力を分散できますし、こちらも実働戦力を直接傘下に置けます。また、下手に持ち過ぎて大佐から不審に思われ過ぎないようにとの配慮と目くらましとしてファティマス少佐を用いれば問題ないと思います。」

「ファティマスに戦力を持たせるのは不安だが、仕方がない。」

「??」

 

唯一、組織に入ったばかりのレイシャル大尉はファティマスを危険視している上司たちを怪訝な表情で見たが、それだけであった。

彼としてはファティマスが技術者よりの思考をしているという一点のみが重要だったのだから仕方がないことではあったが。

 

 

 


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