機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第九話 決起

件の『ヒュドラ文書』によれば、戦争開始と同時に各コロニーで女性の死亡率低下を図るために女性をパイロットから外す。

戦後からは戦争に貢献したパイロットや軍人を評価するために女性の身分を低下させる階級制度を作るつもりだったようである。その階級制度の形には見覚えがあった。

人類が地上だけで争っていた頃に、ある国で作られた階級制度で一般では『カースト制度』として知られている。細部には違いがあったが、根っこが同じなのは見て取れた。

 

「確かにこれは見過ごせませんね。しかし、なぜこのタイミングで」

「それは、ジレン閣下が連邦との戦端開始を今年中にするべきだと考えていた故らしい。」

「!!」

 

それは初めて聞く情報であった。

各所から集めた情報では軍部をはじめ他の機関や政治関係者は後1、2年先だと考えていたのだ。我々『黒鉄会』も前世と後世の比較から似たような予想を立てていたのだが、どうやら遥かに早く情勢が動き始めていたらしい。

 

「いくらなんでも早すぎませんか?それに、何を口実に」

「貴官は知らないだろうが先週、連邦から再び圧力がかかったのだ。各サイドから産出される鉱物資源をさらに5%多く地球に輸送、もとい収めるようにと。このままではMSや戦艦建造に回す余力が一切ない状態に追い込まれる。その前に動くつもりだったようだ。」

 

頭の痛い問題がまた浮上してきた。この時期に連邦からそのような要請があったとは。

前世では公表すらされていなかったが、水面下で資源の融通や強要命令があってもおかしくない。

それは、この後世でも同様の問題点であった。

 

「となると今回の事件は開戦を急いでいたジレンの動向を探っていた『雌豹』の密偵が『ヒュドラ文書』を発見してしまい。ジレン主導下で開戦させるわけにはいかないと考えたために引き起こされたというわけか」

「『雌豹』からすれば、せっかく築き上げた自分の派閥を『女だから』という理由でつぶされかねないと考えたためだろう。だとしても浅はかなことだ」

 

他人事ではあるのだが、巻き込まれてしまった以上は対策が必要である。

そして、皮肉なのは開戦が予想より早まっていることが判明した以上、『国の首を挿げ替える必要が出てきている。』という意見はリシリアと意見が一致しているのだ。

ただし、巻き込まれた側としては組むのは論外なので排除することに変わりはないが。

 

「マ・グベ少佐。『雌豹』の一派に今からいう情報を意図的に触れるようにしてくれませんか?」

「私の立場を保障してくれるならば。」

「それは大丈夫です。内容は『ロズル中将に謀反の可能性あり、近日中にソロモンに向かい決起の準備に入る公算高し』と。」

「・・ちなみにその情報は事実なのかね?」

「少なくとも、明日巷ではその噂でもちきりになるはずです。それに、ロズル中将は明日の朝にソロモン宙域の要塞視察で艦船とMSを率いる予定になっていますから。」

「まあいい。それとなく『蛾の森』の耳に入るようにしておこう。」

 

この情報は一部が真実である。ロズルは新編成されたムサイ級艦艇の演習を行う予定になっていた。

ただし、爆殺事件後に予定を変更せずに行う素振りをすることでそれをジレン暗殺未遂を受けた行動とリシリアに思い込ませることができる。同時に情報をあえてリークしてやれば疑う余地もない。

恐らく、早ければ明日の夜。遅くとも明後日には本格的に行動に移るはずだと俺は予測していた。

 

 

次の日の夕刻、予想にたがわずリシリアが動きだした。

今朝、同志から爆殺事件の調査本部に顔を出さなくなったと連絡があったのだ。それと前後するようにリシリア派の兵士がズム・シティの軍主要施設に集まりつつあるという情報が入ってきている。

 

「リーガン少佐の読み通りなのですか?」

「まあ、今のところは予定通り。首都から現存する最大の敵対派閥のリーダーであるロズルが離れたとなればこの気に政権奪取を企てる可能性は高かった。・・まあ、エサを撒いて誘導したのだけど。・・後はデラーズ閣下と連絡を取れればいうことなしなのだが、あの方はうまくやるはずだ。」

 

ただ、いささか気になるのはジレンとその親衛隊の対応があまりに緩慢であることだろう。

いくら、負傷しているとはいえこうも露骨にリシリアとロズルが政権獲得に動こうとしているのに何のアクションも起こさない。そこが気になるところではあるが、今はリシリア排除と実権奪取が優先である。

 

「頃合いだな。巡洋艦『ファブメル』に打電。『雌豹は餌を食らう、トラバサミを望む』と。」

「はっ!」

 

 

あくる日の03:00、リシリア派兵士がズム・シティの各軍拠点と軍ご用達の軍事会社を襲撃した。各所に100人から150人で構成されたジオン兵士がライフルを持って自分たちの首都を蹂躙するのは異様な光景であっただろう。

迅速な占領が開始され、レキン公王は即座に身柄を拘束された。ここまではリシリアの予想通りであったといえるだろう。だが、問題はこの後であった。

 

同日04:00、占領完了と報告を受けていた宇宙港の通信が途絶したのが皮切りであったといえる。リシリアは知りようがなかったが、これはソロモン視察に出ていたはずのロズル旗下の部隊が取って返した結果である。

さらに、ジレン確保に向かわせた兵士が鎮圧・無力化されたという連絡も重なった。

これを行ったのはリシリアの不穏な挙動を漏れ聞いていたデラーズが親衛隊指揮に復帰し、兵を動かしたからであったが凶報はさらに続いた。

マ・グベに預けていた兵士200人が、情報省を占領していた200人に突如攻撃し始めたという内容の報告が届いたのだ。それを止めるはずの指揮官マ・グベはその翻意した200人の一人だから事態は深刻であった。

リシリアはこれを鎮圧するために拠点としていた宮殿の警備から兵力を割いてマ・グベ一派の鎮圧にあたらせたがこれこそが『黒鉄会』の狙いであった。

 

04:25、宮殿から兵力が割かれたのを確認したのちに『黒鉄会』同志とその支援者で組織された500人が決起。各所の混乱の中、宮殿へ突入した500人はリシリアの確保には失敗するも、中枢の指揮系統掌握に成功した。

04:45、宮殿から辛くも逃れたリシリアは残った兵士を伴ってコロニーからの脱出を図るもあらかじめ予期されていた。デラーズとリーガンの忠言で待機されていたMSに脱出直後、船ごと拿捕された。

この時、ズム・シティ内のリシリア派兵士はほとんどロズル派・『黒鉄会』連合の兵士によって鎮圧されていたため抵抗はなく、あっけないほど簡単に身柄は拘束された。

 

かくしてサイド3内(ズム・シティ近辺)でのリシリア内乱は短期間で武力鎮圧されたのである。

だが、これはその後長く続くことになる戦争の序章に過ぎなかった。

 

 




名称を微妙に変える意味についての回答
あくまで似ているけど同じではない等ことの象徴と考えてくださると助かります。

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