二、人という夢
夢を見る。私より後に産まれて、先に死んでいった人たちの夢。
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何百年も生きていると、そのうち脳がいろんなことを忘れ始める。
脳の容量は人間の何倍も上だけれど、それでも限界があるということだ。
しかし、私は、思い出せないはずの記憶を、夢に見る。
最初のうちは良かった。
けれど、段々それを重ねているうち、人という存在が愛おしくなっていった。
お姉ちゃんに、聞いたことがある。
「お姉ちゃんは、人をどう思う?」
「…そうね。人間の発想力は凄いと思うわ。憶えてるかしら?ローマの水道橋。あれをつくったのは、妖怪でも神でもなく人間なの」
お姉ちゃんは、人間に執着していない。
私の思いを言っても、きっと入れ込みすぎだというだろう。
人の思いを、見て読んで、頭に流れ込んでくるイメージに、共感し、共有する。
心を読むっていうのは、そういうことなのだ。
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『化け物めっ』
『近づくなっ』
『殺せっ』
違う。
私たち化け物なんかじゃないの。
人と姿がちょっと違って、長生きで、心が見えるだけなの。
『殺せっ』
痛い視線。
怖い瞳。
読める憎悪。
恐怖。
人は、人じゃないものにあんなに残酷になれるんだ…。
いつもお姉ちゃんと一緒に、暗いところで震えていた。
その日誰にも会わなくても、怖くて怖くて仕方ない。
それでも、私は人が恨めない。
時間が経てば経つほど愛おしい。
人は、飴細工のように弱い。
あんなに美しく醜い生物はいない。
*****
「戦争が始まるそうよ」
「そうか」
「大丈夫かしら?こいしとさとりを連れて、田舎に戻らない?」
「私もそうしようと思っていたんだ。ここは都会だし、狙われやすいだろう」
「でもあの子達、不思議ね。何年も経ったのに、全然大きくならない」
「成長期が終わってるんだろう?」
「そうだけど…」
「こいしが最近、ずっと不安そうなんだ。私は可哀想で…」
「分かってますよ。たとえどんな子供でも、私はあの子達を愛しています」
「ああ、私もだ」
ドアの隙間から漏れる会話に、ため息をつく。
なにがどんな子供でもだ。
なにが愛しているだ。
どうせ私たちの本当の姿を知れば、怖がり、逃げ出すくせに。
自分の部屋に入る前に、こいしの部屋のドアに目が止まった。
「…入るわよ、こいし」
返事がない。
寝ているのだろうか。
ドアを開くと、ベッドが膨らんでいて、寝息が響いてきた。
「…恐怖?」
寝息とともに、かすかな恐怖が伝わってくる。
近づいても、こいしは眠っていた。
だが、これはこいしの感情だ。
よく見ると、こいしの額に、流したあとがあった。
「こいし、こいし、なんで泣いてるの?」
思わず、そう声をかけていた。
「……お姉ちゃん?」
疑問
「…大丈夫。ありがとう」
「本当?」
こいしは、私を安心させたい。
「大丈夫だよ」
本当
「よかった。嘘はついてないみたいね」
こいしは、わたしのこころを読んだようだ。
怖い夢。
私もよく見る。
「大丈夫なら、早く寝なさい」
「わかってるよ。おやすみ」
心にもないことを口走る。
「おやすみ」
そのまま自分の部屋に戻り、私は読みかけの本を見た。
開いたままになっている。
栞を挟み、本を閉じる。
「…おやすみこいし」
*****
屋敷から離れるのに、そう時間はかからなかった。
使用人の何人かの帰省を許し、両親は私達と共に古い館についた。
肌寒い森の中に建っている、古い洋館だ。
お父さんが最近購入したものだが、整備はうまくいってないようで、荒れ放題だ。
「数日後には住めるようになるそうだ。よかったなっ!二人とも」
「うんっ!」
「大きな館ですね…」
数日後…
森の奥だったから、都会のような賑やかさはなく、静かだった。
お姉ちゃんにとっても私にとっても、心の声が少ない場所は、好都合だったし、食べ物が、森の中で採れたものだったりして、新鮮だった。
私は暇だったので、裏でよく畑を作ったりしていた。
時々それを食べに来るのは、熊とかウサギとか、純粋な心を持ったものたちだった。
お父さんは、月に一回近くの村に配給を行っていた。
その村は貧しかったのだ。
戦争のせいで大きな館に住んでいても贅沢はできなかったが、それでも前の家よりこっちの方が好きだった。
…To Be Cont'nued
さとりが少し暗いキャラクターです。