ラブライブ! ―目覚める魂―   作:ボドボド

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連続投稿です。


第1話 謎の戦士

「はぁ……どうしろって言うのよ……」

 

 

 

西木野真姫は悩んでいた。それと言うのもつい先日入学したばかりの高校、国立音ノ木坂学院の理事長から来年度の入学志望者数が定員を下回った場合、三年後に廃校になることを全校集会で告げられたのだ。

つまり下手をすれば今の一年生は後輩がいない高校生活を送ることになる。

しかし人との関わりを自分から避けている真姫にとって下級生の有無はあまり気にした問題ではなかった。

むしろ一番頭を抱えているのは……。

 

 

 

「真姫ちゃん、ご飯できたよー」

 

 

 

そこまで考えていると不意に部屋の外から声が掛かった。

自分が悩んでいることなどいざ知らず。能天気なくらいに明るい声が聞こえてきた。

声を掛けてきたのは、半年前からこの家に居候している賀上昇一だった。

 

 

 

「早く降りてきなよ。今日の夕飯けっこう自信あるんだよね~」

 

 

 

真姫は椅子から立ち上がってだるそうな顔を出して元気のない声を返した。

 

 

 

「昇一……今日は食欲がないの。悪いけど私の分は片づけておいて。明日の朝食べるから」

 

 

「あっ、もしかして風邪ひいた? まさか五月病とか? 春は体調を崩しやすいって聞くし」

 

 

「そんなんじゃないわよ……心配しなくていいから」

 

 

「俺、後でお粥作って持ってくるからさ、少し待ってて」

 

 

 

足早に階段を下りていく音が聞こえた。余計な心配をさせてしまっただろうか。そう思いながら机の上に置いてあるノートパソコンに向かい合う。マウスを操作してフォルダを開きパソコンに取り込んだクラシックやジャズの曲をランダムで再生する。こうやって音楽を聴いていたり、ピアノを演奏していると心が落ち着くのだ。聴くのも演奏するのもクラシックやジャズであれば何でも良い。真姫にとって音楽とは精神安定剤みたいなものでもあるのだ。ただ、今日みたいな憂鬱な日に聴くのはリラクゼーション音楽だと決めている。

 

 

そのまま音楽を聴き続けること十数分。

 

 

 

「真姫ちゃん、お粥できたよ~」

 

 

 

するとまた昇一が部屋の外から呼び掛けてきた。どうやらお粥を持ってきてくれたらしい。

 

 

 

「ちょっと待って。……入って良いわよ」

 

 

 

音楽を一時停止させノートパソコンをスリープ状態にしてから入るように言った。

 

 

 

「おかゆどーさま」

 

 

 

入ってきたかと思うと開口一番に微妙なダジャレを言い放つ昇一。『お粥』と『おまちどおさま』を掛けたのだろうが、面白くない。本人としては面白いことを言った自信があるのだろうか。満面の笑みで真姫を見ている。だからと言って甘やかす真姫ではない。

 

 

 

「なにそれ、意味わかんない」

 

 

「え~、わかんないかなぁ。お粥とおまちどおさまを掛けてみたんだけど」

 

 

「そんなこと言わなくても誰でもわかるわよ」

 

 

 

昇一のダジャレにダメ出しをしながらお粥が乗ったお盆を受け取り椅子に座る。

一人分の土鍋からは出来立ての湯気が上がっており、真ん中に盛り付けられた白ごま、細ネギ、生姜、梅干しが食欲をそそる。

 

 

土鍋からレンゲでお粥を掬い息で熱を冷まして口へ運ぶ。

ふとベッドに腰を下ろしている昇一を見ると相変わらずふやけた笑顔でこっちを見ている。だが昇一の笑顔を見ていると何となく全て許せる気になる。このまま見続けているとつられてこっちの顔までふやけそうになってしまうと感じた真姫は、素早く顔を横に逸らしてお粥を食べ進めた。

 

 

 

「どう、お粥の味?」

 

 

「……美味しいわよ」

 

 

「よかった。俺の真心が詰まってるからね」

 

 

 

この居候、料理はプロ並みな上に、まめで気が利く。微妙なダジャレが玉に瑕だが客観的に見ればイケてる男の部類に入るだろう。料理以外の家事もよくやってくれている。

そんなこともあって以前はどこかの料理人、もしくは介護関係の職業に就いていたのではないかというのが西木野一家の推測だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直なところ真姫は両親から居候が来ると聞かされたときは絶対に無理だと最後まで反対し続けた。見ず知らずの人間と一つ屋根の下で暮らすことなど出来ない、と。

しかもわりと年の近い男性で、おまけに記憶喪失だと聞かされたときは衝撃的すぎて声も出なかった。それではまるで下手な少女漫画やドラマのような設定ではないか、意味がわからない。そんな風に思い、悩んで、悩んで、悩みまくった。それでも今更悩んだところで両親の決定が覆るはずもなく、諦めてどうやって接しようか考えた。が、余計に無理な気がして更に悩んだ。

 

 

そして居候当日。蓋を開けてみれば真姫の予想に反してなんとかなった。

家にやってきた当初から昇一は今みたいな感じで優しかったのだ。その日は、生憎両親が不在で二人きりのときだった。何を話せば良いかわからずにドギマギしている真姫に冷蔵庫の残り物で昼食を作ってくれた。今までに食べたことがないようなチャーハンと中華スープだった。

 

 

 

「美味しい」

 

 

 

それが真姫が昇一に言った最初の言葉だったことを覚えている。そこから十日もかからず日を重ねるうちに話しやすくなっていき、今では料理の作り方を聞いたりするようになった。加えて今まで一人で居ることがせいか物寂しさを感じていた心も落ち着いて、昇一といると安心するようにもなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさま」

 

 

食欲がないと言っていた真姫も一人分で作られたお粥を完食すると昇一は嫌な顔一つせずに鍋を片づけにいく。すると、何故かタオルと風呂桶を持って戻ってきた。

 

 

「昇一、何よそれ」

 

 

「汗かいてるだろ? 体を拭いてあげようと思ってさ」

 

 

「うぇええ!?」

 

 

 

さらっといきなりとんでもないことを言い出した。

 

 

 

「ほら、ちゃちゃっと脱いで」

 

 

「ど、どうしてそうなるのよ! 熱が出てるわけじゃないんだから!」

 

 

 

そのとおり。真姫は別に熱が出ているわけでも、病気に罹っているわけでもなく、ただ悩み事があって食欲がなかっただけなのだ。断じて病人ではない。

おまけに真姫は年頃の女子高生なのだ、例え信頼している人間であっても相手が男性であれば自身の身を晒すことなど到底考えられないのは当然だ。

 

 

 

「どうしたの? 早く脱ぎなよ」

 

 

 

しかしそのことを知ってか知らずか、はたまた天然か。昇一はパジャマを脱ぐように促してくる。相変わらず笑顔で言ってくるあたり後者だろう。ここまでくると何を言っても無駄だという結論に達すると真姫は観念したかのように返事をする。

 

 

 

「わかったわよ。……脱ぐから向こう向いてて。良いって言うまで絶対にこっち見ないでよ」

 

 

 

昇一は真姫の注意にうん、と頷くと体ごと部屋の扉ほうに向く。

真姫はパジャマのボタンを一つずつ外していく。

 

(……そんなに見たいなら、見せてやろうじゃない!)

 

内心はもはやヤケクソだった。

 

 

 

「良いわよ……こっち向いて」

 

 

 

昇一が真姫に向き直る。

真姫は腕で胸を隠し、パジャマの上着を肩に掛けて背を向けている。

 

 

 

「パジャマ取って」

 

 

「……はい」

 

 

 

昇一は真姫の背中を滑らせて上着を下ろす。上着を綺麗に畳んで脇に置き、持っていたタオルを三つ折りして背中に押し当てた。お湯で絞って為に温かい熱が伝わってくる。昇一は何も言わず、強くもなく、弱くもない、絶妙な力加減で背中を拭いていく。

 

(……気持ち良い)

 

こういうあたり本当に介護施設で働いていた職員だったのではないだろうかと思う。

しかし、よくよく考えてみれば母親以外の人に背中を拭いてもらうのは初めてだった。父親にも拭いて貰ったことはない。昇一は何を考えているのだろう。いやらしい妄想でもしているのだろうか?

そんなことを考えていると昇一が話しかけてきた。

 

 

 

「真姫ちゃん」

 

 

「何よ」

 

 

「真姫ちゃんの背中って、結構固いよね」

 

 

「それ、女性に言うことなの? ……背中が固いのは肉付きが悪いからよ。運動も苦手だし」

 

 

「もっと食べて運動もしなきゃ」

 

 

「言われなくても分かってるわよ」

 

 

 

背中を拭き終えると医者みたいに静かに寝るように告げてから、昇一は部屋から出ていった。

もはや何をする気にもなれず、再びパソコンに向かい合いスリープ状態を解除する。ネットに繋いでヤホーのニューストピックスをぼんやりと眺める。

 

トピックスの一覧には、

 

・女性を絞殺した男性 警察署へ自首。

 

という見出しが最新のニュースとして一番上にのっていた。そのまま一覧を眺めているとある記事に目が留まる。

 

・縄文時代の地層から男性の遺体。

 

世間を騒がせている例の事件かもしれない。そう思ってクリックして全文を読んでみる。

 

都内の大学の発掘調査団が遺跡の発掘中に掘り起こされた形跡のない縄文時代の地層から、死後数日しか経っていない男性の遺体が発見されたらしい。男性が身に着けていたスーツからは免許証が発見されたため、土の中で生き続けていた縄文人が最近になって死んだわけではなかった。

 

 

では、タイムパラドックスでも起きたのだろうか?

いいや、時間を逆行することなどありえない。仮に出来たとしたら、それこそアインシュタインが腰を抜かして驚くだろう。

とにもかくにもあり得ないことには違いない。やはり例の『不可能犯罪』だろう。

そこまで考えるとまた憂鬱な気分になってきた真姫は一時停止していたリラクゼーション音楽を再生し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『不可能犯罪』

 

全国の学校で入学式が行われてから間もない頃だった。

文京区の大場中学校の校庭で事件は起きた。第一発見者はこの中学に通う二年生の男子生徒だった。休み時間中にクラスメイトとボール遊びをしていた彼は取り損ねたボールを追いかける為に校庭の草むらに紛れたボールを手にしたとき、視線を感じた。後ろを振り返ると桜の樹が彼を見つめていた。

 

 

小さな洞の中にカッと見開かれた目があり、樹の根元には流行りの黒縁メガネが落ちていた。彼にはそのメガネに見覚えがあった。囲碁部に所属する同じクラスの男子生徒がいつも身に着けているメガネと一緒だったからだ。男子生徒は桜の洞の中で死んでいた。更にこの二日後、今度は男子生徒の両親も同じ手段によって殺害された

 

 

この事件において物理学の専門家は、桜の中の死体。小さな穴から死体を押し込むのは不可能であり、異次元からでも送り込まれない限りこんな状態はあり得ないと結論付けた。こんな嘘のような事件が今年に入ってから都内のあちらこちらで数十件発生しているのだ。年が明けてからの不可能犯罪の報告例をいくつかあげると、人体の自然発火による焼死、壁の中の死体、食後の飢餓など、聞けば耳を疑うようなものばかりだ。

 

 

極めつけは犯人に結び付く手掛かりがないことだった。これまでに起きた不可能犯罪の現場近くには複数の監視カメラがあるにも関わらず、犯人らしき姿が一切見当たらなかったのだ。通常であれば監視カメラには被害者の姿だけでなく不審者の姿も映っていることも多いが、頻発している不可能犯罪においてはいずれも例外なくその痕跡はなかった。このことが警察や一般市民の不安を一層募らせる原因になっていた。

 

 

アンノウンによる犯行だと認定された最初の不可能犯罪は昨年の十月のことだった。

その日は都内にある二十階建てのオフィスビルの屋上から女性が一階の床へ転落したのだ。屋上から身を投げたわけではなかった。その女性社員は各階の天井や床をすり抜けて一気にロビーの床まで落下した。各階で働いていた会社員たちが天井から降ってきて床に消えていった女性社員の姿を目撃していた。

 

 

恐怖の表情はなかった、という目撃証言が複数ある。花の蕾のようにスカートを脚に絡ませて落下する彼女は自分の身に何が起こっているのか理解できずに、不思議そうな顔をしていた、という。この物理的にはあり得ない転落死事件を皮切りに不可能犯罪が頻発し始めたのだ。

 

 

犯人不明、殺害方法不明、殺害動機不明。いつしか一連の事件を不安視する市民は猟奇的殺人事件の犯人に対して『アンノウン』と囁くようになり、ついにはマスコミや警察も『アンノウン』の名称を使い始め、巷やネットで一気に広がるようになっていった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……すっかり遅くなっちゃった。早く帰らなきゃ」

 

 

 

南ことりは都会の暗い夜道を一人で歩いていた。アルバイトの帰り道だった。

同級生で幼馴染みの高坂穂乃果、園田海未の三人でスクールアイドルを結成した当日、自分達のステージ衣装のデザインの参考になるファッションが秋葉原にあるのではないかと思って秋葉原一帯を練り歩いていた際に、客引きをしていたメイド喫茶の女性店長からうちで働かないかとスカウトされ、働き始めたのが三日前。

まだ働き始めて間もないが、ことりはこの三日間で驚くべき成績を残していた。それと言うのも彼女の接客スキルが他のメイドよりも抜群に高く、瞬く間にリピーターを獲得しメイド喫茶の一番人気になったのだ。今日は、人気のあまり時間が掛かってでも接客して貰いたい客が続出し、閉店するまで働き詰めの状態だった。

 

 

 

「あれ? 人が誰もいない……」

 

 

 

交差点に差し掛かり信号待ちをしているとあることに気が付いた。何となくふと、周りを見渡すとことり以外の人間が誰一人として見当たらない。人間だけでなく自動車やバイクさえ走っていない。まるで世界にことりだけが取り残されたように。

 

 

 

「誰か! ……誰か居ませんか!」

 

 

 

急激に言い表しようのない不安がことりを襲う。自分以外の人間が突如いなくなったという事態に、ことりは思わず声をあげて他の人間に呼びかける。微かな可能性を信じて。しかし彼女の声は誰にも届くことはなく虚しく消えていった。

その時だった。視界の端に何か赤いものが目に入った。視線を移すと街路樹の陰で一メートル以上はある赤いスカーフが靡いている。

次の瞬間、スカーフに続いて肉食獣を思わせる黄緑色の眼光が闇に光り、豹と人間を融合させたような異形の生物、ジャガーロード=パンテラス・ルテウスが姿を現す。このルテウスこそが、文京区の大場中学に通う男子生徒とその両親を殺害した犯人なのだ。

 

 

 

「ひっ!」

 

 

 

ことりとルテウスの距離はおよそ十メートル。にも関わらず重く生暖かい息づかいが伝わってくる。同時にあり得ないものが存在するという存在感に空気が震えている。

 

 

 

(は、早く逃げないと……)

 

 

 

自分の生物としての本能が必死に逃げろと叫んでいる。しかし尻餅をついて倒れた体は本能に反して動いてくれなかった。

獲物を追い詰めるかのようにゆっくりと歩を進めるルテウスは、意味不明な仕草をした。左手で右手の甲に五芒星を潰したような模様を描く。これはアンノウンが人間を殺すときに必ず切る、闇を象徴する殺しのサインだった。

 

 

ついに一メートルの距離まで迫って来た瞬間、ルテウスは歩みを止めて後ろを振り返った。

するとルテウスが呻くような低い声で呟いた。

 

 

 

「AGITΩォ」

 

 

 

アギト―――。

ことりには確かにそう聞こえた。

ことりはルテウスが言葉を発したことに驚いたが、更に驚くべきものを目の当たりにした。

闇の中から金色の生命体が現れ、ルテウスと向かい合った。昆虫を連想させるような真っ赤な複眼に、頭には金色の二本の角を持ち、腰のベルトのバックルが繰り返し眩い光を放っている。

 

 

ルテウスに比べるとアギトと呼ばれた金色の生命体は限りなく人間に近い姿をしていた。ルテウスは咆哮をあげ、猛烈な速さでアギトに襲いかかった。

ことりはその光景に目を見開いていた。何よりもアギトの戦いぶりが信じられない。

アギトはルテウスの拳や蹴りを最小の動きで躱し、あるときは素手で受け止め、的確にカウンターを当てていく。一方的に攻撃を仕掛けているのはルテウスなのに、一方的に攻撃を当てているのはアギトという構図だった。

 

やがて戦いにも終わりが見えてきた。アギトはルテウスの突進を両腕で受け止めるとそのまま投げ飛ばし、投げ飛ばされたルテウスは受け身も取れずに背中から落下する。同時にアギトの額にある秘石・マスターズオーヴが光り、二本の角が六本に展開する。

アギトの足元には龍の顔を模したような紋章が浮かび、大地のエネルギーが両足に集束する。アギトはそのまま空高くへと跳び上がり、ルテウスに光のような跳び蹴りを放つ。蹴りをくらったルテウスは胸に凄まじい衝撃を受けて後方へ吹き飛ばされる。必殺の一撃を受けてもなんとか立ち上がろうとするが、胸を掻き毟るように数秒もがき苦しんだあと轟音と共に爆発してルテウスは跡形もなく消滅した。

 

 

その様子を見ていたアギトは何事もなかったかのように平然と踵を返し歩き始めた。

 

 

 

「ま……待って下さい……」

 

 

 

近くの電柱を支えにしてようやく立ち上がることに成功したことりは、歩き去っていくアギトを引き留めようと手を伸ばした。アギトは一度だけことりに振り向いて無事を確認すると、歩いて静かにその場を去って行った。

 




というわけで、最初にアンノウンに襲われたのはことりでした。

ついでに。真姫ちゃんファンの方、申しありません。真姫ちゃんがキャラ崩壊を起こしてしまいました。真姫ちゃんはこんな娘じゃない!と思われるでしょうが、本当にごめんなさい。
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