遊戯王GX ~もしもOCGプレイヤーがアカデミア教師になったら~ 作:紫苑菊
それから、長くなりすぎましたので2話か3話、もしかしたら4話に分けたいと思います。次の回はしばらくしたら投稿しますので少々お待ちください。
デュエルアカデミアには、多くの校則がある。それは一般的なものだったり、一風変わったものも。その中でも特に異質なのが、『廃寮には入ってはいけない』といったものだろう。
それだけ聞くと、どこもおかしくないように思うかもしれない。廃屋に入るなと注意を促すのは学校側としては当然のことだろう。現に生徒の大多数はあそこをただ危険な場所として認識し、興味を示さない。たとえ興味が出ても、そのあとに待ち構えている罰則やクロノスによる説教が嫌なのであきらめる。
だが、その異質を知っている者もいる。今から2年前の生徒たちだ。
なぜ知っているのか。想像力豊かな人なら気付くかもしれないが、これは2年前に本当に事件が起こったからである。更に言うならこの事件はそれなりに学内で有名だったし、この手の話には珍しく、生徒にとっても他人事ではなかった。
まあ、仕方のないことだろう。当時の成績優秀者、学内でも有名だった生徒を筆頭に何人もが行方不明になったのだから。
学内では大騒ぎになり、大掛かりな捜査もされたのだが、成果はなかった。
そこでアカデミア側が打った手は、これ以上事件が起こらないように、当時事件があった寮を出入り禁止にすることだけ。これを犯した生徒には厳罰が下されることとなった。面白半分で入られて、被害を増やされても困るのでこれは仕方のないことだろう。
その寮が、件の廃屋である。
そんな寮だから、新任であるにもかかわらずこの寮の特異性を聞かされて見回りに抜擢された不憫な男、沖田はこんな危険なところに好き好んで入るようなバカはいないだろうと思っていた。
だからこそ、見回りも大して意味はないように思っていたし、帰ったら何をしようか、今度の休日に相棒の溜め撮り一気見ぐらいしようか、なんてくだらないことを考えながら明かりも点けずに適当に各寮と件の廃屋の周りを見るだけで済ましていた。
今この時までは。
(なんで天上院さんがこないなとこに来ているんですかねぇ?!)
思わず素で思ってしまった。関西弁なことを突っ込む人は周りにいない。
無理もないだろう。普段は素行良好な彼女がなぜ校則を破ってこんなとこにいるのか。普段の彼女を、教師の立場としてみている彼は疑問に思った。
だが、そんな考えも彼女の手元をみて止まる。そこには花束があった。
(ああ、そうか。行方不明者の中には彼女の兄がいたんだったか。)
彼がとある手段で手に入れた行方不明者のリスト、その名簿の中に彼の兄の名があった。成績優秀眉目秀麗、非の付け所がない生徒だったらしい。
(・・・今日は見逃してあげましょう。明日、注意すればいい。)
そう思い見回りを続けることにした。幸い、今日の見回りは彼一人である。今日は兄思いの彼女に免じて許してあげようと思った。精神年齢も肉体年齢も彼はほかの教師たちよりも若く、何か近いのもあったのだろう。彼女を見逃すことにして、でも後が不安なので一応彼女についていく。
するとやはりというかなんというか、廃屋の前にたどり着いた。更に頭痛の種も増えたが。
(なんでや!!なんで遊城はんまでいるんや!!)
それでも彼は体裁を保つために、あくまで冷静を装うとする。ここ数日に増えてきた自分をなぜか慕う変態な生徒たちに悩まされている胃痛(アロマージhshsと言い出す生徒やその同類ども、年下好きの百合系女子まで入っていたと知った時は胃薬の量が増えた。)にくわえ現状が追加されキリキリと胃が痛みだしている。
(落ち着け俺。素数を数えるんだ。素数は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字・・・。わたしに勇気を与えてくれる)
プッチ先生ありがとう。と彼は心の中で呟いた。幸いにも彼の面倒ごとを増やしたくないという願いが通じたのか、天上院が彼らを諫めてくれたらしい。天上院は帰ろうとしていた。
だが、天上院の姿が見えなくなった後、十代達は廃屋に入ろうと足を進める。
とりあえず彼らには注意すべきだろう。ここで止めれば未遂で済むが、見回りのことを知り、再度来ないように促すべきだ。そう思いあの問題児3人組(実際、素行不良なのは遊城十代だけだが。他の面々は気乗りしていなかった。)に向けて声を放つ。
「待ちなさい、十代君達。」
げ。と声をだし彼らは恐る恐る振り向いた。さすがに彼らもこの状況はまずいと思ったのだろう。
「あの・・・沖田先生。なんでここに?」
「見回りです。」
「あ、そうですかお疲れ様です。」
会話終了。この空気の中次に口を開いたのは沖田だった。
「安心してください。はいてますよ。」
「いやここでそのネタぶっこんでこないでほしいんだなぁ。」
まったくである。
「そ、それはともかく。」
あ、流した。3人組はそう直感した。だがこのネタのおかげでいささか沖田の周りの空気も和らいできたので幸いというべきか。3人と沖田はレッド寮まで向かいながら話す。
「ほんとに安心してください。廃屋には入ってないみたいですし、今回は深夜徘徊の厳重注意だけで済ましておきますから。」
「ほんとかよ先生!!」
「あ、ありがとうございます。」
「ありがとうございますなんだなぁ。」
「ですが!!2度目はありませんよ?」
「わかってるって先生!流石に見つかったんだからもうやらな『きゃああああぁぁぁぁ?!』っ明日香?!」
そんな会話の折、叫び声が聞こえてきた。あの声はおそらく、というよりは間違いなく天上院の声だろう。
(しまったぁぁぁ・・・。)
彼は心の中で後悔していた。予防できていたかもしれない事実がさらに追い打ちをかけて彼の胃を刺激する。なぜ自分は彼女を一人にしてしまったのだろう。だが、悩んでもいられない。
「君たちはレッド寮まで行ってだれか先生に連絡してください!!」
「え、でも先生は?!」
「俺はあの叫び声のところまで行きますからはやく!!」
「わ、分かりました!!」
そういって走り出す生徒たち。沖田もぐずぐずしていられない、大急ぎで走り出す。彼女の持つカードの精霊については把握している。精霊の雰囲気というのはGPSのようなもので追尾することが可能だ。沖田はそれを利用して彼女のもとへ走る。ついたのはやはりというべきか、さっきの廃屋だった。このことは彼女のデッキの精霊の痕跡を見るに間違いはない。
「あ、先生!これ!!」
そう言って彼が見つけたのは1枚のカード。どうやらその件の精霊のカードらしい。このカードが落ちているとは運が悪い。最悪このカードが彼女の手元にあれば探すのも楽になったのにと、そこまで考えてはたと気付いた。
「・・・遊城君。俺、君に他の先生を呼んできてくれって頼みませんでしたっけ?」
「でも探すのは一人より二人のほうがいいだろ?俺だって明日香が心配なんだ。あ、安心してくれよ先生!ちゃんと翔のやつが大徳寺先生に伝えてくれるって。それに、ここの場所教えてくれたの、その大徳寺先生だから、多分すっ飛んでくるだろうしな!」
ああ、なんでこの子らがここに来たのかが分かった。分かってしまった。あの人が原因だったのか。余計なことを。飄々とした男を彼は思いだす。そして後で1発殴ろうと決心した。
まあ、彼がここに来たのは仕方がない。このままついて来てもらおう。事態は急を要するし、ミイラ取りがミイラみたいなことになっても困る。
「では、ついて来てください。」
「え、二手に分かれたほうがいいんじゃないか?先生。」
こいつはおれの仕事を増やす気ではないだろうか、と思ってしまっても無理はないだろう。ただでさえストレスマッハなこの状態で更に胃痛が増えるようなことを宣う少年を彼は本気で指導にかけてやりたくなった。
だが、今はそんなことをしている場合じゃない。時間も惜しいので捜索しながら彼に自由行動を禁止するよう呼びかける。
「ミイラ取りがミイラになる、という言葉があります。知っていますか?」
「それって聞いたことあるぞ。えーっと、ごめん。意味までは分からない。」
「人を連れ戻しに行ったはずの人が、その人まで居なくなってしまうことです。元々は七世紀ヨーロッパで万能薬と人気のあったミイラを砂漠へ盗掘に行った人が、その道の途中で力尽き、その人までミイラになることからこのことわざは生まれたらしいですが」
「へー、流石先生って感じだな。」
「ちなみに英語では『Many go out for wool and come home shorn.』と言います。」
「ごめん先生、発音が聞き取れない。てか先生って英語できたんだな。」
素直に感心する十代。それに沖田はため息をついて答える。
「俺、これでもインダストリアル・イリュージョン社の社員だって話してませんでした?」
「いや、知ってたけど。それがどうして?」
「・・・I2社の本社はアメリカですよ?」
「あ・・・。」
度忘れしていたのか、十代は思い出したかのように呟いた。沖田はこの子、大丈夫だろうかと思う。I2社は今現在、一般常識問題に出てくるほどの大企業なのだ。知っていなければ色々不味い。
「・・・これが終わったら、追試にならないように勉強することをお勧めします。」
「・・・勉強嫌いなんだよなぁ。」
「安心してください、自分もです。教職どころか学校なんて滅べばいいと思っています。」
「いや、どうして先生になったんだよ。」
もはや教師の言葉ではない。そのことに突っ込む十代。
「それは・・・いえ、この話はまた今度。どうやら居たようですね。」
「え?あ、明日香!!」
沖田との話を中断し、思わず叫んで駆け寄ろうとする遊城十代。だが、それは黒い影に阻まれた。
「デュエルしろぉ、遊城十代。」
「誰だ?!」
そう叫ぶ十代だが、沖田は内心名乗るわけないだろ、と叫ぶ。こんな所に不法侵入している輩がまともに身分をさらす筈がない。ましてや名乗るなどもってのほかだろう。
「私はタイタン。遊城十代、貴様に闇のゲームを申し込む!」
「いや、名乗るのかよ。バカじゃねぇの?」
「先生?!」
思わず十代が叫ぶが、沖田からしてみればバカ以外の何物でもない。確かに、タイタンというのは偽名かもしれないが、だからと言って名乗るということは足がつくということ。それが、名の知れたアングラ系デュエリストであるならなおさら。まあ、アングラ系デュエリストの名前など、堅気の人間が知っているわけでもないので仕方がないのかもしれないが。
だがタイタンにとっては不幸なことに、沖田はその手の情報に他の人よりも圧倒的に豊富である。これは彼の特殊な事情が原因だが、それによって彼は目の前の人物が何者で、どうしてこのような場所にいるのかを大体把握した。
タイタン。依頼すれば報酬次第でなんでも請け負う、所謂裏社会に近いところにいるデュエリスト。彼の特徴は闇のゲームを駆使すること。これによって何人もののデュエリストが病院送りにされているという情報まで上がっている。おおかた今回は誰かに依頼されてこんなことをしているのだろう。そうでなければ闇のデュエリストが十代を狙うはずがない。だが、そんなことはどうでもいい。いまの沖田にとって何よりも重要なのが・・・。
(あいつが本当に千年アイテムを持っているのか?)
千年アイテム。かつてエジプトのとある村で生まれた7つの道具。その内の1つであるアイテムを、彼が持っている。そういう噂話があった。
もし、これが本当だったとすれば・・・。
(絶対に十代君にやらせてはいけない。)
闇のゲーム。痛みが現実になり、最悪の場合は命にかかわるゲーム。その本当の怖さを知っている沖田は、タイタンの要求を呑むわけにはいかないと判断した。これはおそらく闇のゲームを知っている誰もが、いや、知っていなくても教師として彼のデュエルを認めるわけにはいかなかっただろうが、まあとにかく沖田はそう考えた。
十代が了承する前に口を塞ぎ、体を拘束する。そして後ろに放り投げた。とっさの行動だったがどうにか十代の返事を中断することができたらしい。
「おわあぁぁぁ?!」
そう叫ぶ十代だが、沖田としては投げることでけがをすることよりも、彼に闇のゲームをさせないことの方が重要だった。まあ、流石に彼も十代がけがをすることは避けたいので、受け身を取りやすいように計算して投げたが。そして幸いにも、十代に大したけがはなく無事・・・とは言えないものの何とか着地した。
「何すんだよ先生!!」
「十代君がデュエルを受けそうだったのでつい。」
「いや、ついで人を投げるなぁ。」
「ってどうして俺がデュエルしちゃあいけないんだよ!!」
「こんな所で不審者の言うとおりに行動して何の意味があるんです?ここは真っ先に天上院さんの安全を確保して逃げることに専念すべきでしょう。」
「・・・確かに。」
基本的にデュエル馬鹿である十代だが、今だけは彼の言葉に納得した。だが、それではタイタンにとって都合が悪すぎる。もしここで依頼失敗してしまえばこの先の依頼の信用度にも影響しかねない。こういう時のために考えていた出まかせをタイタンは決行した。
「待てぇ!!その娘は私の千年パズルの手によって眠りについているぅ。私を倒さなければ彼女を救うことはできないぞぉ。」
「な、なんだって?!」
十代は驚いたが、沖田はまた違うことを考えていた。
(千年パズル?そんなはずはない。あれはペガサスさんの話によると・・・。いや、でまさか、偽物?!)
でも、万が一本物だったら。そんな思いが沖田の中に渦巻く。
(・・・確かめてみるか。)
それは危険な手。もし、本物であれば最悪命はない。だが、この状況で他に天上院さんを救うすべはない、と彼は判断した。
「タイタン、と言ったな。」
「ああ、貴様は?」
「俺は沖田曽良。まあ、ちょっとした縁でここの教師をやっている。あんたの名前は聞いているよ。何人も病人送りにした、依頼さえすればどんなやばい依頼でも引き受けるデュエリスト。違うかい?」
その言葉に驚くタイタン。まさか自分の素性を知っている者がこんなとこにいるとは思わなかったのだ。
「・・・貴様ぁ、なぜそれを知っているぅ。」
「蛇の道は蛇。まあ、それなりに俺にも伝手があるのさ。そこで提案なんだが、その闇のゲーム、俺が代わりに受ける。」
「先生?!」
そう提案する沖田だが、タイタンはそれを承知しなかった。
「・・・ダメだぁ。デュエルをするのは遊城十代だけだぁ。」
「このカードをアンティにかけたとしても?」
「それは・・・?!」
彼が出したのは、とあるカテゴリの、それもタイタンが使用するカード群の中でもトップクラスにレアなカード。
だが、それでもタイタンは首を縦に振らない。
「・・・いや、ダメだ。この道に詳しいらしいお前なら分かるだろうが、この業界は信用でやっていく世界。目先の利益に捕らわれてはいけないのだ。」
タイタンの言う通り。もしここでデュエルを受けてしまえばタイタンは依頼よりも自分を優先するデュエリストとして活動することになる。それは絶対に避けねばならない。信用度の問題があるからだ。
「ああ、だから彼とのデュエルは、自分に勝てたなら続行してかまわない。」
「何ぃ?!」
沖田の言葉に驚くタイタン。
「お前が勝てば依頼を遂行したうえで更にこのカードも手に入れられる。どうだ?悪い話じゃないだろう。」
「・・・負けたら?」
「お前には依頼主を吐いてもら「それだけは出来ん!!」・・・仕方ない。ならば警察に出頭してもらお「やらん」・・・大譲歩だ。この島を出ていけ。」
条件を大幅に下げた沖田。まあ、
(ここ出た瞬間に、110番するか。)
・・・約束を、鼻から破る気でいるのだが。彼はどちらかと言えばリアリストなのである。それに、彼はあくまで出頭するように促しただけであって、警察に通報しないとは一言も言っていない。詐欺一歩手前である。
「・・・いぃだろう。」
タイタンも、自信があるのだろう。多少不気味ではあるが、そこらのプロに負けないというタイタンの自尊心は、彼に対する不安よりも、勝った時のリスクを考え、そちらを優先することにした。勝てばいいのだ勝てば。その考えが、タイタンを動かした。
「先生!!俺もやらせてくれ!!明日香を助けたいんだ!!」
「ダメです。」
「先生!!お願いだ!!」
「・・・。」
「・・・。」
はあ、とため息を沖田はついた。彼が絶対に引かないと感じてしまったから。自分も、もし同じ状況ならそうしただろうという思いが、彼を妥協させる。
「タイタン、タッグはダメか?」
「・・・いいだろう。よほどこの子が大事と見た。今時中々いない、その仲間を守る根性に免じて許可しよう。」
「言っておくが、彼女に妙なことはしていないよな?」
「安心しろぉ、今はまだ何もしちゃあいない。後遺症一つないだろうさ。」
「そうか、安心した。なら、ルールを決めよう。そっちのライフは8000。こちらは共通で4000だ。」
「何?」
これはまたおかしなことを言いだした、とタイタンは思った。戦力が倍とはいえ、ライフを倍の差をつけるのはこちらにとって有利だからだ。
「その代わり、ターンは1週をそれぞれ1度ずつ回す。先行の攻撃は全員行えない。つまり、タッグフォースルールではなく、限りなくバトルロイヤルルールに近い形式で行わさせてもらう。なんならそっちはライフだけでなく、手札もドローも手札制限も倍で行っていい。」
確かにいくらか譲歩されたが、それでも圧倒的にタイタンにとって有利な条件。手札の数だけ可能性があるこのゲームは、手札が多いだけ戦略も広がるからだ。手札は倍。更に言うならライフも倍。さすがに召喚権は1回だが、実質一度に2ターン行えるのとほぼ同義であるルール。さすがにタイタンもいぶかしげに思った。
「・・・なめているのかぁ?」
「大真面目さ。」
そう思われても、不思議ではない。この状況で相手と自分をほぼ同じ、いや、タイタンの有利なように行動させるなど正気の沙汰ではないからだ。
「・・・まさか、デッキ破壊とか言うまいな。」
その瞬間、沖田が凍った。ばつが悪そうに言う。
「・・・ばれたか。」
「おい貴様ぁ。」
「冗談だ。」
デッキ破壊。その戦略ならああ、なるほどと考えてしまう。それならばあえて相手に手札消費を多くさせ、デッキ破壊をより確実なものにできるからだ。
「・・・分かったよ。ここでごねられても仕方がない。別のデッキを使うよ。」
「・・・いいだろうぅ。」
これでタイタンも了承した。そして3人の変則なデュエルが始まる。
・・・まあ。
「「「デュエル!!」」」
・・・そのデュエルで、タイタンは、これから地獄を見るのだが。
まずは一つ目。カットを繰り返すうちにだいぶ短くなりました。