遊戯王GX ~もしもOCGプレイヤーがアカデミア教師になったら~   作:紫苑菊

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お久しぶりです、紫苑菊です。

・・・今回も長いです。てか、廃人の方が思いつかなくなったから逃げの一手でこっちに投稿しました。そしたらいつの間にかとんでもなく長くなってしまいました。あと、若干アンチ・ヘイトに引っかかるかもしれませんが、もし嫌な方はプラウザバックお願いします。

さて、FGOですが、今回のイベ全然やってません。クソ過ぎた。おかげでパズドラが凄いログイン率に。ラードラつえぇよ。買って正解でした。

ちなみに、最近武神デッキを作ったんですが、皆さんデッキ構築どうしてます?やっぱ成金いるのかなと悩んでいます。余った成金は沈黙の魔術師のデッキに使いたいんですよねぇ。ただ、沈黙の魔術師が高すぎて作るの悩んでいますが。もしよければ、だれか武神の上手い回し方教えてください。今の作者の実力だとRRとどっこいの勝負をするのでギリギリなんです。

※融合解除でプロト・サイバー・ドラゴンは出せない上、一度融合回収を発動したのを忘れていました。申し訳ありません。代わりに、ソウル・チャージ(アニメ効果)を使いました。ライフコストは500のバージョンで、バトルフェイズに移行可能というインチキ仕様です。ご了承ください。


第8話

「それで、これはどういうことかな?」

 

 沖田は目の前の生徒たちを見下ろして言う。そこには、5人の生徒たち。夜空の野外の中、なぜか教師の前で正座している生徒は右から遊城十代、天上院明日香、前田隼人、丸藤翔。そして、丸藤亮。

 

「せ、先生?」

「なんだい?忠告を守らなかった大馬鹿者。」

「何でもないです。」

 

 「十代、しゃんとしなさい。」と、隣に座っている明日香が言うが、沖田に睨まれ、その気概は消化される。

 

「・・・君たちに言います。先日、夜間外出で指導を食らったのはどこの誰ですか?」

 

 その言葉に黙って十代以下4名が手を上げる。

 

「その指導で、一歩間違えれば退学になりかけていたのは?」

 

 これには十代が手を上げる。

 

「夜間に一人で外出して、その結果誘拐されたのは何処の誰でした?」

 

 明日香が手を上げる。

 

「・・・不審者が出たから、夜間外出を控えるよう連絡がいっていたことを知っていたのは?」

 

 これには全員が手を上げた。それもそのはず。これは校内放送とそれぞれの学年のHRできっちり説明されていたことだったからだ。

 

「・・・先生。」

 

 この空気の中、口を開いたのは丸藤亮だった。

 

「なんです?」

「先生には、あらかじめ外出の件を伝えていたはずですが。」

「ええ、そうですね。ですがそれは、夜間外出にならない時間帯だったはずでした。指定された時間は6時半。この島は南の島ですから、本土よりは夜までに時間があります。私は、それを考慮していました。ですが、今の時間帯は?答えなさい。」

「・・・8時半です。」

「周りは?明るいですか?ああ、どうやら先生は目が悪くなったようですね。後日眼科に行かなければいけないようだ。」

「・・・夜中です。もう日は沈みました。先生の目は正常です。」

「ほう、どうやら悪いのは私の目じゃなかったようですね?」

「・・・すいませんでした。」

 

 皇帝、ここにひれ伏す。それぐらい綺麗な土下座を披露した亮。周りの、十代以外の3人はその光景に唖然としている。・・・十代だけは、のほほんとしていたが。

 

「嘘でしょ?あの亮が?あの何事にも我関せずの優等問題児の亮が?!」

「お兄さん、まさかそんなことをするなんて・・・。」

「驚きなんだなぁ。」

「綺麗な土下座だなぁ。」

「明日香、お前だけは後で話がある。翔、何も言うな・・・。」

 

 兄の威厳かたなし亮の姿に十代だけは呑気なものである。まあ、逆に言えばそれくらいに沖田の目線が痛かったのだろう。今の沖田はそれこそトリシューラを凌駕しそうな絶対零度の目線で彼らを射抜いている。その目線が何やら呟いていた彼らに行くと、明日香達もなんだか居た堪れなくなった。

 

「それで、どうしてこんなことになったんですか?」

 

 少し目線が暖かくなったのと同時に行われたその質問に、皆が口々に答える。十代は翔を元気づけるため。明日香は亮を連れてくるためと翔君が心配だったから。翔は僕が悪いんですと話しだし、隼人はなるようになれとなにもせずに判決を待つ。亮に至ってはなぜか口ごもり、何も言おうとしない。

 

「・・・一人ずつ喋れ。話はそこからだ。」

「どうでもいいけど先生。スラング多いんだなぁ。」

「ほんとにどうでもいいわね。」

 

 そんな軽口を叩くと、また沖田の絶対零度の視線が刺さる。それならそんな言葉使うなよと思わなくもないが、今は明日香が一から順番に何があったのか白状していく。

 

「・・・それで要するに、タッグデュエルの練習の時に翔君が逃げ出し、それを勇気づけるためにここで十代君と亮君がデュエルした。だけど、そっちに夢中になるあまり、夜間外出の時間を過ぎていた。更に言うならそこの馬鹿皇帝は教師を呼び出したことをすっかり忘れて弟探しとデュエルに夢中になっていた。その解釈でいいですか?」

「はい。ですが、決して忘れてたわけではな」

「なら、連絡ぐらい入れれたでしょう。レッド寮の大徳寺先生に伝えるとか。それなら俺だってこんな時間まで貴方たちを探したりしませんし、翔君がいなくなったのならその捜索だって協力しました。むしろ、夜間外出の件をクロノス先生のところまで持っていかなかっただけ感謝してほしいのですが。」

「・・・本当にすいません。」

 

 反論しようとした亮に言葉が突き刺さる。がっくりうなだれるその姿に「こんなの僕が知ってるお兄さんじゃない!」と喚く馬鹿者は、再び沖田の視線に突き刺さり、「ヒィッ!」っと短い悲鳴を上げた。そのうなだれた亮に沖田は続ける。いや、この場合は全員にと言った方が正しいか。

 

「そう思うのなら時間を返してほしいくらいですねぇ。貴方たちを捜索するのに1時間かかりました。大徳寺先生はその辺ルーズですし、許してくれるかもしれませんが、あんな事件があった後にこれです。さすがに怒ると思いますよ。舌の根の乾かぬ内とはまさにこのことです。大徳寺先生とみどり先生が心配して先ほどまで捜索に協力してくれてました。」

「はい。申し訳ありませんでした。」

 

 微妙に言葉にとげを感じるが、何も言えない彼らはただ謝るだけだった。今回はさすがの十代も反省しているらしく。

 

「・・・ここから、生徒寮まで距離があります。みどり先生も大徳寺先生も、職員寮にいてもらってます。なので先に、今から職員寮にいって謝りなさい。」

 

 そう言うと、十代以下5名はすいませんでした、と沖田に謝り職員寮に向かう。その後を冲田もついていくが、その道中、思い出したかのように声をかけた。

 

「十代君。」

「なんだ?先生。」

 

 だが、其処まで呼び掛けて、何を思い至ったのか口ごもった。

 

「あー、その、ですね。・・・いえ、ここじゃ何なので、また今度にします。」

「・・・それ言われると尚更気になるんだけど。」

 

 まったくである。

 

「いえ、大したことではないんですが・・・。話と言うのはこの前のハネクリボーの件です。」

 

 そこまで言うと、十代は沖田が何を言いたいのか分かるようになった。

 

「あ!先生精霊見えてたよな!」

「大声を出さない。・・・制裁デュエルが終わったら呼び出します。その時に話をするので覚えておいてください。他人に聞かれるとまずい話でもありますし。」

「?」

 

 その沖田の深刻な様子に、十代はどうやら何かを感じ取ったらしい。十代は話は終わったとばかりに先に行こうとする沖田を見ながら、何か不安なものをかんじた。

 

「アニキ、どうしたんすか?早く職員寮に行こうよ。」

「十代、どうしたの?亮に負けたのがそんなに悔しかったのかしら?」

 

 せかす翔と冗談交じりの明日香にちげーよと言いながら十代はあとで考えればいいかと楽観的に思い直し、先生の後を追う。この後、恐怖の説教が待ち受けているとも知らずに・・・。

 

 

   ◇

 

 

 みどり先生(と途中から怒っているみどり先生に対してドン引きだった沖田と大徳寺)に1時間こってり絞られた十代以下4名は、食堂が完全に閉じてしまい、途方に暮れていた。

 

「どうするのよ、十代。食堂しまっちゃってるじゃない。」

「アニキ~。」

「なんで俺なんだよ!」

 

 その理不尽さに、思わず十代も抗議の声をあげる。

 

「だが、実際どうする?食堂が閉まっている以上、ここで議論していても腹は膨れない。」

「そうよねぇ・・・。せめて寮の部屋に備え付けのキッチンがあればよかったんだけれど。」

「それがついているのは職員寮だけなんだなぁ。」

「どうすんだよ~。俺腹減ったぜ。」

「それはみんなもだよアニキ。」

 

 皆が途方に暮れる。だが、救世主は居たらしい。

 

「・・・皆さん。何してるんです?」

「うわ、先生!いつからいたんだ?!」

 

 いつの間にか、十代の背後に居たのは沖田とさっきまでかんかんに怒っていたみどり先生だった。みどり先生の姿に、思わず隠れる翔。その姿には、弟に散々男勝りだとか鬼神だとか言われていたみどりは心に来るものがあったらしい。

 

「先ほど、皆さんを送ろうという話になってここに来ました。ところで、まさか食事はまだだったんですか?」

 

 なら、先に食堂に行かせるべきでしたね。そういう沖田だが、時既に遅し。すでに各寮の食堂が閉まってる以上、ご飯を食べる場所も手段もない。

 

「なら、皆私の部屋で食べる?食材ならあるけど。」

「いいんですか?!」

「もちろん。」

 

 そう言って喜ぶ明日香と翔。亮もどこか嬉しそうだったが、そのセリフを聞いて、そろりと忍び足で逃げようとするものが二人。

 

「どこ行くんですかアニキ?」

「どこに行くのよ曽良。」

 

 ビクッっと肩を震わせる沖田と十代。その姿に、両者は悟る。

 

 ああ、こいつも被害者だ、と。

 

 ・・・わずかな沈黙。それだけで、両者は口裏を合わせることにした。

 

「いやぁ俺、さっき沖田先生から話があるって言われてたからさぁ。な、先生。」

「ええ。ちょっと先日の件で話がありますし。ついでにちょっとした個人面談でもしようと先ほど十代君と決めていたんです。」

 

 そのセリフに、意義を申すのが明日香。

 

「それなら、私も当事者ですし、話なら食事をしながらでもいいじゃないですか?」

「・・・いやいや、それでは・・・その・・・なんていうか。」

 

 若干間が空いたことに怪しむ明日香。そしてさらに追い打ちをかけたのが・・・。

 

「でもさっき、アニキ俺らと一緒に帰ろうとしてたじゃないですか。」

「うっ。」

 

 弟分である翔である。その発言に、両者は汗をダラダラと流しながら目をそらす。

 

「曽良君?十代君?まさかとは思うけど私の料理に対して誤解があるみたいね。」

 

 誤解じゃねぇよ!と心中で叫びまくる二人。だが、こうなったらヤケクソだと沖田と十代は心中を吐露する。

 

「・・・だって、当たりはずれ激しいですし。」

「みどりさん、料理3回に1回失敗してたし・・・。」

 

 その言葉にマジで?と言った顔をした明日香たちだが、さらに沖田たちは続ける。

 

「納豆をハンバーグにした時は正気かと思いました。」

「俺はサラダ用のパスタでスープパスタ作ったの食べさせられて超のびのびだったことが・・・。」

「何年前の話よ!」

「6年前か?」

「5年前?」

「それだけ経ったんだから流石に上達してるわよ!」

「この前、紅葉さんからメールで姉貴が失敗して後始末がやばいって来たけど?」

「同じく三日前に失敗した料理の処理を手伝ったのは誰だったっけ?」

「あれは・・・その・・・。」

 

 思わず言葉に詰まるみどり。彼女の料理はときたま大事故を引き起こすと評判である。それも、食える食えないのギリギリで、やっぱり食えないといった微妙なラインを突いてくるのだから性質が悪い。

 

「・・・分かりました。俺が手伝います。」

「先生、俺も手伝うぜ。・・・味噌煮込みサンマの悲劇だけは、繰り返しちゃいけないんだ。」

「普通においしそうじゃないですか。自分の麻婆納豆よりは・・・。」

「下処理してなくて内蔵出てきたんだ・・・。しかも煮込んだ時にそれが一部爆発して肝の苦みが・・・。」

「それは・・・実にギリギリ食えるかどうかですね・・・。」

 

 こいつらは・・・とこぶしを震わせるみどり。だが、原因は自分の多少ずぼらなところと自覚はしているので、反論できない自分がいる。確かにあの失敗は悲惨だった。あの時はテンションがおかしかったのだ。弟が倒れたときは、本当に半分自棄になっていて、アメリカに居たときからの友人だった彼には大変迷惑をかけたと思う。それがあるからこの件で沖田には強く言えない。十代にも、弟が昏睡している時には何度も迷惑をかけた。そのお詫びにと振るった料理で失敗してしまい、何とも微妙な顔をされたのは、いまだに記憶に残っている。

 

「・・・大丈夫だ、みどり。確かに上達は(・・・)してるから。」

「意味深な言葉はやめてちょうだい!上達したのは殺傷力とでも言うつもり?!そんなに言うならあなたたちがやりなさい!」

 

 

  ◇

 

 

「美味しい・・・悔しい・・・。男に負けた・・・。」

「大丈夫ですよ先生。料理出来る男の方が少数派ですから。」

「納豆を加熱するやつを慰める必要はありませんよ、明日香さん。」

「先生は止めを刺さないで!」

「グフッ。」

「先生ー!みどり先生ー!」

「先生が死んだ!」

「この人でなし!」

「仲いいね、君ら。」

 

 安定だなぁ、このネタ。と沖田は思いながらも、食事が無事に済んだことに喜びを感じていた。時々変なことをやらかしてしまう職場の友人に料理を任せるのは少々どころではない不安がある。なぜか定期的に失敗する彼女の料理は、その計算が正しいなら今日のはずなのだ。ジンクスとは分かっているが、だからと言って安心もできない。それが人間なのだから。

 

「どうやら無事に済んだみたいですよ、十代君。」

「みたいだな、先生。・・・三日の悲劇は避けられたみたいだぜ。」

 

 三日の悲劇。十代と沖田の共通認識がそう名付けてしまった彼女の手料理。どうやら彼らは冗談でもなんでもなく本気で失敗すると思っていたようだ。

 

「本当、失礼ね。最近は貴方に教えてもらって失敗の回数も減ったじゃない。」

「・・・前々回の失敗は?」

「確か・・・2週間ほど前?」

「正確には先々週の土曜日です。・・・聞きましたか十代君?どうやら十日の悲劇になったみたいですよ?」

「聞いたぜ先生。間違いなく次は・・・一週間後だな。食堂はやめにいこ。」

「自分も一緒に行きます。」

「失礼ね!!」

 

 だが、この一週間後本当に失敗してしまい、十代達だけでなく翔たちまでに十日の悲劇だと言わしめる出来事になることは、誰も想像していなかった。

 

「ここで死ぬ定めではない。と神は言ってるので、絶対に一週間後は付き合いませんからね。」

「こうなったらとことん付き合わせてやるわ。」

「先生・・・ドンマイ!」

「貴方もよ?十代君。」

「十代君・・・死ぬなら一緒だよ?」

「先生・・・。」

「ハイハイ、先生たち茶番はやめて。さっさとお皿片付けましょう。」

「明日香。」

「なあに?亮。」

「皿とは、どうやって洗うんだ?」

「・・・本気で言ってるのかしら?」

 

 頭が痛くなってきた明日香。このメンバーの時は胃薬がいるかもしれないとひそかに思うが、その予感は1年すれば現実となるかもしれない。・・・彼らに汚染される方が早いかもしれないが。

 

「あ、そうだ曽良。」

 

 みどりが曽良を呼び止める。

 

「はい?」

「あれ、作ってよ。明日土曜日だし。」

「あれって?」

 

 ほかのメンバーは不思議そうにしているが、沖田は察したらしい。

 

「あれ、作るの面倒なんですよ?後片付けも。」

「いいじゃない。」

「・・・片付けは自分でやってくださいよ?」

 

 そう言って沖田は片付けしているシンクの横でニンニクを切り出した。鍋にオリーブオイルを入れて、火をかける。

 

「何作ってるんですか?」

「バーニャカウダ。あと、水気をこちらに飛ばさないでくださいね。作り直さなきゃならなくなりますから。」

「ああ、油ものに水は厳禁だから。」

 

 そう言いながらも、沖田は片付けが終わるころには殆ど作り終えていた。野菜も切り終わり、あたりにアンチョビとニンニクの香りが充満する。沖田は床下からワインを取り出し、みどりに渡した。

 

「やっぱワインにはこれよね。」

「飲みすぎないでくださいよ?今からこの子ら送り返さなきゃいけないんですから。」

「もう無理よ?」

 

 へ?とその場にいる全員が呆けた顔をした。沖田までもがそうなっている。

 

「時間を見なさいよ。もう寮は完全に閉めてしまう時間を越してるわ。鍵をわざわざ寮監を起こして開けてもらわなきゃいけないけど、オベリスク・ブルーの寮監のクロノス先生もオシリス・レッドの寮監の大徳寺先生も速攻で今日は寝てるわよ?明日朝早くから本土に帰るからですって。」

「じゃあ、どうするんですか?」

「明日香さんは私が寮監だから鍵持ってるし送り返せるけど、十代君達は職員寮で寝てもらいましょ。」

「・・・仕方ないですね。部屋は空いてましたか?」

「いいえ、ベットのある部屋はもうないわ。あなたの部屋を彼らに貸せば解決するけど。」

「・・・おう、まさかの。」

「・・・あのさぁ、先生。オシリス・レッドは大丈夫だぜ。」

 

 へ?と沖田は考える。

 

「オシリス・レッドの部屋、鍵が閉まらないんだ。この前倫理委員会が来た時に潰れたらしくて。だから、俺らは大丈夫だぜ。」

「なら、決定ね。亮君だけそっちで寝かせてあげなさい。」

「俺はどこで?」

「地べたでいいんじゃない?」

「・・・辛辣ですねぇ。」

「冗談よ、半分くらい。私の部屋に泊めてあげるから、寝袋だけ持ってきなさい。どうせまだ持ってるんでしょ?」

「・・・了解しました。でもそれなら自分の部屋で寝ますから、わざわざこっちで寝なくて大丈夫ですよ。」

「・・・チッ。せっかくいろいろ作ってもらえると思ったのに。」

「何を?ツマミか?」

「それだけじゃないわね。例えば・・・子ど「下ネタはやめろ。他にも人がいるんだから勘違いされるようなことは言うな。」冗談なのに。」

 

 その冗談で、明日香の顔が若干赤くなったのは、沖田は彼女のために見ないことにした。

 

「あの、先生。もしかして・・・。」

「付き合ってませんよ。大体、このブラコンとはそういう関係じゃないです。仲がいいのは、彼女の弟と友達なので、どちらかと言えば姉みたいな人ですね。尊敬できないけれど。」

「そうね、確かに弟みたいな子かしら。可愛げがないけど。」

「可愛げがないのは余計です。」

「尊敬ぐらいしなさい、年上よ?先輩よ?」

 

 その醜い言い合いに隼人が呟いた。

 

「いや、どっちもどっちなんだなぁ。」

「「それはそうかも。」」

 

   ◇

 

 

 そんな他愛もない会話を続けて、ふと沖田が何かを思い出したらしい。

 

「ああ、忘れていました丸藤君。」

「ハイ?」

「なんですか、先生。」

「・・・お兄さんの方です。」

 

 そういえば弟もいるんだったなと思い返し、咳ばらいをする。

 

「・・・それで、丸藤君。」

「ハイ!」

「なんですか?」

「・・・今のは確信犯ですね。」

「エヘヘ、ごめんなさい。」

 

 今度はため息をついて、沖田は再度向き直る。

 

「丸藤君。」

「「ハイ!」」

「・・・なんですか?」

「・・・丸藤亮君。」

 

 今度は十代まで入ってきたが、無視しようと沖田は決めた。こういうネタは3度やっては旨みがないというのが沖田の持論である。

 

「デュエルの件ですが・・・今からやりますか?」

「え?」

「観客もいますし。」

 

 観客のところで十代達をさす。

 

「それはいいですが・・・場所はどうします?職員寮は少々狭いですし。」

「狭くて悪かったわね。」

「い、いえ。決してそういうつもりでは。」

「ま、いいけど。確かにデュエルをソリッドヴィジョンでやるには狭すぎるしね。」

 

 職員寮の部屋は決して狭いわけではないのだが、ソリッドヴィジョンを用いるには少々狭い。それは部屋の構造上仕方ないと分かっているので、みどりも本気で言っているわけではない。

 

「それなら、いい場所があると思いませんか?」

 え?と全員が思ったが、沖田は不敵にほほ笑んだ。

 

 

   ◇

 

 

「夜中にデュエルステージを使うのは校則違反じゃなかったんですか?」

「正確には、許可なくデュエルステージを使うことが校則違反なだけです。ほら、私たち教師ですし。」

「人はそれを詭弁と言うのよ、曽良。」

「いいじゃない、みどり。面白そうだし。」

 

 沖田が言っていたのは、かつて十代達も使った(夜中にだが)デュエルステージだった。許可を得るために比較的ノリのいい鮎川先生を巻き込み、許可証を発行し、今に至る。現在午後11時。寮則としては完全にアウトだが、それでもこの場に十代達がいるのはもう完全に見逃されている。沖田は気付いていて何も言わないが、みどりと鮎川先生に至っては酒が回って正常な判断が出来ていないのだろう。現に鮎川先生に至ってはミーハー度MAXで、「亮君頑張れー」と、教師としてはいささか問題がありそうな状況になっている。

 

「・・・さて、先行後攻はどちらがいい?」

「後攻で。」

「・・・まあ、君ならそういうか。師匠の教えかい?」

「ええ、サイバー流の教えです。」

「・・・あそこは、昔から相変わらずなんだよなぁ、まったく。俺はあまりあの教えが好きじゃないんだよね。」

「そうなんですか?」

 

 少し驚いた。サイバー流は今やメジャーな流派の一つである。何人ものプロを輩出し、その知名度と名声、そしてその最大の特徴である『相手をリスペクトし、最大の攻撃を以て相手を受け入れる』というその教えはアカデミアだけではなく、今や世間でも有名なものとなっている。

 

「・・・まあ、その辺はおいおい話してあげるよ。さあ、それよりもデュエルだ。デュエル開始の宣言をしてくれ、みどり!」

「OK!デュエル開始ィ!」

 

 若干お酒が回ってハイになったみどりの宣言で、彼らはディスクを構えた。ライフが彼らの頭上に表示される。デュエルステージの最大の特徴は、観客にもライフが分かるように映し出されるということだろう。

 

「俺のターンから、ドロー。・・・カードを3枚セットする。ターンエンド。」

 

 沖田

  手札6→3

 

「モンスターを出さない?!」

 

 それは、後攻がかなり有利になる行為。カードを3枚伏せている、つまりは妨害札が多い中、突破することが重要にはなる。だが、それを差し置いても、ライフが4000と少ないこの環境においてならばかなりリスクが高い。

 

「どうしてだよ、先生!だって・・・」

「十代君、君の位置からなら、俺の手札は見えているからそう思うんだろう。だけど、サイバー流においていうなら、必ずしもそうじゃないんだ。」

「え?」

「・・・成程、そういうことですか。ですが、それでは俺の攻撃をかわせない。俺のターン、ドロー!」

 

 丸藤亮

  手札6

 

 だが、他のメンバーは意図を理解したらしい。分かっていなかったのは、オシリス・レッドの十代達だけだった。

 

「俺は、プロト・サイバー・ドラゴンを通常召喚!」

 

 丸藤亮

  手札6→5

 

「え?サイバー・ドラゴンを召喚しないのか?!」

「・・・十代君。サイバー・ドラゴンの特殊召喚条件を忘れたんですね。」

「え?」

「アニキ、サイバー・ドラゴンは相手フィールドにモンスターが存在しないと特殊召喚出来ないんす!」

「あ、そうか!だから先生はモンスターを出さなかったのか!」

 

 まあ、サイバー流が相手ならある意味で定石な手段。2100の打点を出させないという手段は、重要なことである。・・・まあ。

 

「俺は、手札から融合を発動!」

 

 このように、融合して打点を上げられてしまえば関係はないのだが。

 

「フィールドのプロト・サイバー・ドラゴンと手札のサイバー・ドラゴンで融合!サイバー・ツイン・ドラゴンを融合召喚!」

 

 丸藤亮

  手札5→3

 

 サイバー・ツイン・ドラゴン。サイバー・ドラゴン2体で融合できる攻撃力2800のモンスター。だが、その真価は能力にある。2800打点で2回攻撃と言う破格の能力を、このモンスターは備えているのだ。

 

「そして俺は強欲な壺を発動!2枚ドロー!融合回収を発動し、墓地の融合とサイバー・ドラゴンを手札に戻す!そして天使の施しを発動!3枚ドローし2枚捨てる!」

 

 丸藤亮

  手札3→4→5→5

 

 優秀なドローソースの強欲な壺と手札交換カードの天使の施し。沖田からすれば、さっさと獄中に行った方がいいんじゃないかと思わなくもないが、だからと言って効果を妨害するわけにもいかない。

 

「手札から、パワー・ボンドを発動!手札のサイバー・ドラゴン3体を融合し、サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚!」

 

 丸藤亮

  手札5→1

 

 サイバー流の切り札、サイバー・エンド・ドラゴン。その攻撃力は4000とトップクラスを誇り、さらに守備表示モンスターを攻撃したとしてもダメージを与えられる貫通効果を持っている。更に・・・。

 

「パワー・ボンドの効果でサイバー・エンドの攻撃力は倍になる!」

 

 この効果により、サイバー・エンドの攻撃力は、8000となる。パワーボンドによるデメリットは存在するが、それはエンドフェイズに発動し、更に言うなら回避可能なため、今の現状ではあまり仕事はしないだろう。彼の手札はあと1枚。それがデメリットを回避するものである可能性は十分にある。

 

「バトルだ!」

「バトルフェイズ前に、罠を発動する。」

 

 やはり来たか、と亮は思った。何もせずに彼が負けるとは、考えられない。

 

「まずは罠カード、堕ち影の蠢きを発動する。これは、デッキからシャドールモンスターを墓地に落とす罠カードだ。そしてそれにチェーンして、発動。針虫の巣窟。」

 

 これは予想外だった。堕ち影の蠢きも針虫の巣窟も、攻撃を止めるカードでもなければ、相手のモンスターを破壊するカードでもない。ここで妨害しなければ、合計攻撃力13600のダメージを受けて負けてしまう。

 

 だが、そんな疑問は沖田と、そしてみどりには存在しない。彼らは、沖田のデッキを知っているからだ。そしてみどりは、この『シャドール』を使った沖田が負けたところを見たことがない。なぜなら。

 

「俺は、針虫の効果でデッキからカードを5枚墓地に送る。・・・そして、デッキからシャドール・ファルコンを墓地に送る。」

 

 墓地に落ちたカードから、少々考え、沖田は糸に釣られた鳥が描かれたカードを墓地に落とした。明らかに狙った行動に、皆が訝し気になる。まあ、みどりはそれですべて理解してしまったが。

 

「じゃあ、チェーン処理が終了したので、新たな効果処理に移る。」

「なんだと?!新たな効果だって?!・・・そういうことか!」

 

 驚くと同時に、納得もいく。おそらく、何かこの状況を打破できるカードを墓地に送ったのだろうと推測できた。

 

 それが意味するのは、墓地で効果が発動するカードの存在。だが、何が墓地に送られたのか。残念ながら、この効果を止めることは出来ない。亮の手札には妨害札が存在しないのだから。

 

「シャドール・ハウンドをチェーン1リザードが2、シャドール・ファルコンが3だ。ファルコンは、効果で墓地に送られると、このカードを裏側守備表示で特殊召喚することが出来る。リザードはデッキからリザード以外の『シャドール』カードを墓地に送る。」

「それで、また効果を発動するわけですか。だが、このターンで勝負をつければいいだけの話。サイバー・エンドには貫通効果が」

「そんなことは知っている。それよりも、今はチェーン処理を優先させてもらう。ハウンドの効果。相手モンスター一体の表示形式を変更する。サイバー・ツインの表示形式を守備表示に。」

「なんだと?!」

「やれ、ハウンド!」

 

 犬のようなモンスターが、サイバー・ツインに襲い掛かり、防御形態に強制移行させた。だが、周りはこの状況に違和感を感じる。

 

「なあ、先生!なんでツインの方を選んだんだよ?!」

「それは、エンドの攻撃力が8000で、俺のライフが消え去るかもしれないのにってことですか?・・・まあ、この程度なら大丈夫ですよ。」

 

 その不敵な様子に、少々気分を悪くしたのか亮はバトルフェイズ!と声を荒げた。だが、それを沖田は塞き止めた。まだ、リザードの効果で墓地の送った『シャドール』の効果が終了してなかったからだ。

 

「シャドール・ヘッジホッグの効果で、手札にシャドール・ドラゴンを手札に加える。」

「また新たな『シャドール』モンスターか・・・。」

 

 沖田

  手札3→4

 

 亮は苦々しげに呟く。墓地に送ることで効果を発揮するモンスターと言うことは、おそらく手札抹殺のようなカードも入っているのだろうと推測する。だが、だからと言ってこの状況が変わるわけでもないと、亮は考えた。

 

 ・・・余談だが、周りは亮のターンなのか沖田のターンなのか若干こんがらがっていた。

 

「バトルだ!サイバー・エンド・ドラゴンでセットされたシャドール・ファルコンを攻撃!」

 

 攻撃宣言が行われ、弱小モンスターが狙われる。だが、それを許す筈がない。そう、亮は考えていた。

 

「リバースカード、オープン。」

 

 来たか、と亮は思う。最後のカードこそが本命なのではないかと考えていた。いろんなカード名が頭の中で巡る。攻撃宣言によって発動するカードと言えば、ミラーフォースやコマンドサイレンサー。いろんなカードを連想していくが、沖田の発動したカードはそのどれでもなかった。

 

「神の写し身との接触。」

「え、神の写し身との接触?!」

 

「このカードは・・・まあ、相手ターンで融合する『シャドール』専用のカードと思ってくれればいいよ。効果はそれだけだから。」

 

 いや、十分すぎるだろうと、亮は考える。明らかにオーバーパワーだと思われるそのカードは、速攻魔法の融合と言うだけで悪用できる。シャドール限定と言っても、その肝心の『シャドール』ならデメリットは無いも等しい。

 

「先ほど手札に加えたシャドール・ドラゴンと手札の光属性モンスターで融合。」

 

 沖田  

  手札4→2

 

 そう言って、彼は手のひらを胸の前で合わせた。それと同時に、融合のエフェクトから何かが這い出して来る。

 

「エルシャドール・ネフィリムを融合召喚。」

 

 現れたのは淡い光の糸を背後から出した女性型の人形。どことなく禍々しさを感じる姿に、亮は嫌な予感を感じていた。

 

「これが俺の切り札(・・・・・)だ。攻撃宣言中にモンスターの数が変わったので巻き戻しが発生する。・・・どうする?」

「ネフィリムに攻撃する!エターナル・レヴォリューション・バーストォ!」

 

  サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は8000。超過ダメージは5200。このままだと沖田はジ・エンド。だがそれで終わるわけがない。

 

「墓地の超電磁タートルの効果を発動する。」

「なんだと?!」

 

 その答えに、みどりはやっぱりそうだったかと頷き、同時になにか引っかかったみたいだったが。ちなみに、効果を聞いた十代は自身のカードであるネクロ・ガードナーを連想した。

 

「このカードを墓地から除外し、バトルフェイズを終了させる。・・・参考までに聞いておこうか。どうしてファルコンを攻撃しなかった?」

「それが貴方の切り札(・・・・・・)だと聞いたからだ。サイバー流は常に相手と全力で挑む。それがリスペクト・デュエルで、俺の信じるデュエルだからだ。」

「なら、デュエルディスクで俺のネフィリムの効果を確認したか?」

「ネフィリムの効果?」

 

 そう疑問に思った亮だが、デュエルディスクを操作してネフィリムの効果を読んだとき、その顔が歪んだ。

 

「先生!これって!」

「その疑問は、後で解決してやる。メインフェイズ2だ。・・・その手札、当ててやろうか。一時休戦、だろ?」

「・・・一時休戦を発動します。互いに1枚ドローし、お互いが受けるダメージは次の俺のターンまで0になります。」

 

 当てられてしまった亮は、全ての手の内が見破られたかのような錯覚に落ちいる。沖田の手札が増えるが、パワー・ボンドによる4000のダメージを回避できるのだから安いのかもしれない。

 

 沖田

  手札2→3

 

 丸藤亮

  手札1

 

「・・・ターンエンド。」

「その手札、その表情からしてモンスターかな?俺のターン。ドロー。」

 

 そういう沖田の言葉は、どうやらまたもや当たっていたらしい。ドンドン顔が歪んでいく。

 

「カードを1枚伏せて、手札から、エクスチェンジを発動する。」

 

 エクスチェンジ。それはとてつもなく灰汁の強いカード。

 

「まずお互いに手札を公開する。次に俺が先に選び、そのカードを亮君に確認させる。その後君がカードを選び、先ほど同様に選んだカードを俺に確認させる。お互いの選択したカードを手札に加える。」

「・・・テキストのわりに、ややこしいカードですね。」

「そういうな。さて、俺が選ぶカードはそれだけだが一体何だったのかな?」

 

 そういう沖田に、亮は苦々し気に手札を見せた。

 

「これですよ。」

「サイバー・ヴァリーか。優秀なカードだし、何よりもう一ターン延命できたな。ドローするアドバンテージもあるうえに、そのカードはコストで除外する。俺が効果を使っても、元々のプレイヤーはそっちだからドローするのは俺じゃできないな。」

「・・・デッキが答えてくれているんですよ。それで、俺が選ぶカードは・・・?!」

 

 沖田の手札を見たとき、亮の顔が更に変わった。

 

「なあ、みどり先生。どうして皇帝(カイザー)はあんなに驚いてるんだ?」

「・・・曽良の手札に、明らかに亮君のアドバンテージになるカードがあったのよ。」

「え?」

 

 なんでそんなものを持ってエクスチェンジを発動したのか、と思った。それは、ある意味で当然の思考。そんなもの(エクスチェンジ)を発動する必要はない。

 

「・・・シャドール・ファルコンを選択します。」

 

 亮が選択したその時。

 ・・・これだから、サイバー流は。そう、沖田がつぶやいた気が十代にはした。

 

「バトルフェイズ、エルシャドール・ネフィリムでサイバー・エンドに攻撃する。」

「え、それはまずいぜ先生!」

「いいから見ていなさい、十代君。」

「みどり先生?」

 

 沖田の、本来愚策でしかないその行為の末路を沖田とみどり、そして亮は知っていた。

 本来、圧倒的な攻撃力を持つサイバーエンドに2800のモンスターでは太刀打ちできない。

 だが、ネフィリムは違う。その身に内包された能力を最大限に利用する。ネフィリムから出された糸が、サイバーエンドを吊し上げる。それでも抵抗するそのドラゴンは、糸を引きちぎろうとするがその抵抗は空しく、切ることは出来ない。

 その糸を出した張本人が、サイバーエンドの接合部に潜り込む。そして核となる球のところに手を入れ、中から引き釣り出す。

 ギチギチギチと嫌な音がサイバーエンドから出る。そして、その核が取り出された瞬間、サイバーエンドは鉄屑と化した。

 

「ネフィリムは特殊召喚されたモンスターとバトルする時、ダメージステップ時に破壊する。」

「そうか!それで先生は・・・あれ?」

 

 十代は、疑問に思った。それならば、超電磁タートルの効果を使う必要なんてなかった(・・・・・・・・・・・・)じゃないか。

 

「どうして。」

 

 亮がつぶやく。

 

「どうしてさっき超電磁タートルの効果を発動した!」

 

 そして、吠えた。

 

「そんなものを使わなくても、ネフィリムなら突破出来た!使うだけ無駄な行為を、貴方が気付かないはずがない!先ほど確認したネフィリムには、特殊召喚に成功した場合、デッキから『シャドール』カード1枚を墓地へ送る効果もあった!なぜ使わない!それにさっきのエクスチェンジ!あの手札には、あのカード(・・・・・)が・・・!」

「・・・その反応は、今まで君が戦ってきた総員の言葉だ。」

 

 その言葉に、何より疑問に思ったのは亮だった。

 

「今までのビデオを見させてもらった。・・・何より俺が気に入らないと思ったのは、そのプレイスタイルだった。」

「プレイスタイル?」

「・・・サイクロンを打つタイミング。奈落の落とし穴のようなカードを警戒せず召喚した後にあえて意図的に打っていた。さっきも相手のカードの効果を確認しない。ディスクには確認機能がついているのに、使わずに自爆しようとする。戦略はサイバー・ドラゴン頼り。それを悪いとは言わない。だが、だからと言ってまったく除去カードを使わないというのも、相手の切り札をあえて出させて殴りつぶすのも違うだろう。そんなのは、全力を出させるなんてデュエルじゃない。ただの自己満足だ。壁とやってろ、そんなもん。」

「なんだと?!」

「今出せる全力を出す。その為にあえて舐めたプレイをするというのなら、君たちサイバー流の言うリスペクトだと言うのなら、犬にでも食わせておけ。何よりの証拠は、俺の手札にあった、DNA改造手術(・・・・・・・)をエクスチェンジで取らなかったこと!」

「それは・・・。」

「答えろ、なぜDNAを取らずにファルコンを選んだ。」

「・・・。」

「その沈黙は、君の答えだ。よく考えることをお勧めする。」

 

 この言葉に、そこにいる誰もが介入できなかった。十代達でさえも、そこには介入できない。

 

「・・・少し熱くなりすぎましたね。デュエルが関係するとこうなりやすいんです。すいませんでした。」

 

 いや、口調まで変わって言っていたくせに今更どうなんだ、とその場にいる全員が思った。

 

「メインフェイズ2、モンスターを伏せ、カードを1枚伏せます。ターンエンド。」

 

 沖田

  手札0

 

「勘違いするかもしれませんが、デュエリストとしては、サイバー流の教えを全否定するつもりはありませんよ。」

「え?」

 

 沖田は、突然そんなことを言い出した。

 

「サイバー流の教えは、普通に考えればいいものです。ただ、だからと言って除去や定石を軽視するのが許せない。デュエルは、そういう戦略も重要なのにそれを卑怯と言い出すような輩が、サイバー流の教えとしてプロに感染させるかのように吹聴して回ったのが嫌なだけです。」

「先生?」

「ただ、それでも今の君みたいに、手札に加えれる自分の切り札をみすみす逃すような手や、『サイバー』カテゴリにおける最大の切り札を禁じ手などとほざいて使わないのが、製作者側(I2社社員)としてもデュエリストとしても許せないだけです。・・・心当たり、あったんじゃないんですか?」

 

 確かにあった。どこかで、そんなことは卑怯だと考えていたのは事実。デュエル最大の魅力とはモンスター同士のバトルであり、それを避けるようなカードは使わないなどと考えていたのは紛れもない事実だし、そういう考え方が強いサイバー流の門下生はかなり多かった。

 

「・・・俺のターン。ドロー。」

 

 色々考えたせいで、どことなく弱弱しい様子の亮に、沖田が追い打ちをかけるようにカードを発動した。

 

「DNA改造手術、発動。選択するのは機械族。」

「なっ?!」

「さて、お前は全力を出せるのかな?」

 

 この男は。

 この男は、言っているだ。サイバー流の禁じ手を出せと。確かに、そうじゃなければ突破は出来ない。

 だが、それは・・・。

 

「・・・天よりの宝札を発動します。お互いの手札が6枚になるようにドローしてください。」

 

 沖田は6枚。亮は5枚ドローする。そのドローした手札は、亮が今まで引いた手札とは一線を引いていた。

 

「・・・師範。貴方の教えを今だけは破ります。」

 

 亮は、自身の師匠である鮫島に心の中で謝った。だが、沖田はその言葉に満足したのか、今までとは打って変わって笑顔になる。

 

「ソウル・チャージを発動!サイバー・ドラゴン3体とプロト・サイバー・ドラゴン、を選択し、発動!」

「チェーンはない。どうぞ。」

 

 丸藤亮 4000→2000

  手札6→5

 

「・・・フィールド上の、サイバー・ドラゴンと自分、相手フィールド上の全ての機械族モンスターで融合する!吸収しろ、サイバー・ドラゴン!」

 

 サイバー・ドラゴンに吸収されていく機械達と沖田のネフィリムは、抵抗されることなくその姿は吸い込まれていった。

 

「キメラテック・フォートレス・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 キメラテック・フォートレス・ドラゴン。それは、相手を巻き込むことで除去を可能にする、サイバー流において禁じ手と言われ、使用を制限されたカード。単なる破壊でも、墓地に送るでもないこのカードの利点はやはり、チェーンブロックを作らずに相手を墓地に送ることが出来るからだろう。そして、6体を融合したことで、その攻撃力は6000となる。

 だが、それを出されても沖田は意に介さず墓地の効果を発動した。

 

「融合素材のネフィリムが墓地に送られたことで、ネフィリムの効果が発動。墓地のシャドール魔法、罠を手札に加えることが出来る。墓地の影依融合を手札に加える。」

 

 沖田

  手札6→7

 

「新たなモンスターが出てくる前に片を付ける!パワー・ボンドを発動!そして速攻魔法、サイバネティック・フュージョン・サポートォ!」

 

 丸藤亮 2000→1000

  手札5→3

 

 サイバネティック・フュージョン・サポート。その効果は強力無比。ライフポイントを半分支払い、融合素材を手札、フィールド、墓地から除外することで融合素材を確保できるカード。

 

「墓地のサイバー・ドラゴン3体を除外し、サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚!」

 

 再び現れたのは亮の切り札であるサイバー・エンド・ドラゴン。その攻撃力は、パワー・ボンドの効果で8000となっている。

 

「バトルだ!キメラテック・フォートレス・ドラゴンで裏側守備モンスターに攻撃!」

「この時リバースしたシャドール・ファルコンの効果が発動!墓地の『シャドール』モンスターを裏側守備表示で蘇生させる!ネフィリムをセット!」

 

 フォートレスの攻撃でソリッドヴィジョンによる煙が巻き上がり、アリーナは誰にも見えない状況になる。だが、それでも叫ぶように聞こえるデュエリストの声は、アリーナの全員に伝わった。

 

「だが、先ほどセットしたサイバー・ヴァリーが残されている!サイバー・エンド・ドラゴンで攻撃ィ!撃滅の、エターナル・レヴォリューション・バーストォ!」

 

 慢心のない、その一撃はセットされたカードを破壊しようと動き出す。その声とその一撃で、誰もが勝敗は決したと感じた。一番その爆心地に近い亮にすら勝敗は分からない。

 

 だが、やはりと言うべきか。

 

 沖田は、無傷でその場にいた。沖田の罠から、無数の鎖がサイバー・エンドを苦しめる。

 

「攻撃宣言時にデモンズ・チェーンをサイバー・エンド・ドラゴンに対して発動した。攻撃は中断される。」

「・・・やはり、妨害の札は持っていましたか。」

「・・・いや、危なかったよ。見直した。」

 

 それは、沖田の嘘偽りない本音だった。

 

「・・・カードを1枚伏せて、サイバー・ジラフを召喚します。このカードをリリースすることでこのターン受ける自分のダメージを0にします。ターンエンド。」

 

 丸藤亮

  手札3→1

 

「じゃあ、終わらせようか。俺のターン、ドロー。」

 

 沖田は、ドローしたカードを見て、ニッタリと笑った。

 

「手札から、影依融合を発動!このカードは相手フィールドに融合デッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合、素材をデッキから墓地に送ることが出来る。」

 

 沖田

  手札8→7

 

「デッキ融合だと?!」

「デッキのマスマティシャンとシャドール・ヘッジホッグを融合。エルシャドール・シェキナーガ。」

 

 現れたのは、機械に身を宿したネフィリム。その効果は、ネフィリムとはまた違った厄介さを持っている。

 

「ヘッジホッグの効果で、シャドール・ビーストを手札に加える。そして、シャドール・ハウンドを召喚し、装備魔法、魂写しの同化を発動する。このカードは、シャドールの属性を変更させ、更に手札、フィールドのモンスターとこのカードを装備したモンスターを墓地に送り融合することが出来る。水属性を選択。手札のハウンドとビーストを融合させ、融合召喚。エルシャドール・アノマリリス。」

 

 沖田

  手札7→8→5

 

 さらに降臨したのは、水属性のシャドール。エルシャドール・アノマリリス。ネフィリムが氷の衣装を纏うその姿は、アリーナの全員を魅了した。

 

「先生。」

「なんだい、亮君。」

「・・・どうして、そんなに融合して手札が減っていないんですか?」

「・・・仕様です。ビーストの効果で1枚ドロー。ハウンドの効果でキメラテック・フォートレス・ドラゴンを守備表示に。」

 

 沖田

  手札5→6

 

 そう考えるのも無理はない。OCGの9期においてこのカードは一部、生まれたのが間違いとまで称され、後に影霊衣カテゴリが出来るまで環境トップを誇ったのだから。

 少々、このデッキを使うのは大人げなかったかもしれませんね、と彼は後日話したという。

 

「バトルだ。サイバー・エンド・ドラゴンにネフィリムで攻撃。」

 

 またもやサイバー・エンド・ドラゴンにネフィリムの魔の手が襲い掛かる。ダメージステップに入る前にまたもや破壊されていくサイバー・エンドを亮はどことなく達観して見つめていた。

 

「サイバー・エンド・・・。」

「キメラテック・フォートレス・ドラゴンにシェキナーガで攻撃。」

 

 いくら攻撃力が高くても、フォートレスの守備力は0。抵抗することなくスクラップにされていく。

 

「止めだ。アノマリリスでダイレクトアタック!」

「異次元からの帰還を発動!サイバー・ドラゴン3体を特殊召喚!」

「うち1体に攻撃する。」

 

丸藤亮 1000→500

 

 アノマリリスの攻撃が、サイバー・ドラゴンに襲い掛かる。

 

「・・・メイン2、貪欲な壺を発動する。墓地のファルコン、ハウンド、ビースト、ヘッジホッグ、マスマティシャンをデッキに戻し、2枚ドローする。手札を4枚伏せて、ターンエンド。」

 

 沖田

  手札6→7→3

 

「・・・俺の。」

 

 亮は、今だけは勝ちたいと思った。それは亮にとっては珍しい気持ち。今までは楽しんでデュエルをすればいいと思っていた。だが、そうじゃないのだと気付く。

 勝てなくてもいいじゃない。勝ちたいのだ。それが、本当のデュエルの形。

 

「ターン!」

 

 勢いよく引いたそのカードは、亮が最も信じたカード。その名は。

 

「パワー・ボンド発動!サイバー・ドラゴン2体で融合召喚!サイバー・ツイン・ドラゴン!」

 

「・・・3積みしてたんですか。」

 

 まさかのデッキの脳筋さに沖田は驚きを隠せなかった。シャイニングドローでカード創造してないよなと半ば現実逃避をしかける。

 

「攻撃力は5600!そしてサイバー・ツインは2回攻撃できる!アノマリリスとシェキナーガを攻撃すれば、俺の勝ちだ!」

「・・・。」

「バトルだ!サイバー・ツイン・ドラゴンでエルシャドール・アノマリリスに攻撃!エヴォリューション・ツイン・バーストォ!」

 

 今度こそ、と亮は思った。それは観客も同じ。流石にみどりも沖田の負けかなと考えたが、沖田はこれで終いだと言わんばかりにカードを発動した。

 

「永続罠 革命-トリック・バトルを発動。」

「何?!」

「自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスターと相手フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスターが戦闘を行う場合、攻撃力の低いモンスターは戦闘では破壊されず、攻撃力の高いモンスターが戦闘によって破壊される。」

 

 沖田 4000→1100

 

 戦闘ダメージを受けたものの、亮のサイバー・ツインはネフィリムとサイバー・エンドの時のように、破壊される。逆転の術は、亮には残されていない。パワー・ボンドのデメリット効果により、亮の敗北が確定した。

 

「・・・ありがとう、ございました。」

 

「こちらこそ、ありがとうございました。」

 

「すいません、少し、席を外します。」

 

「・・・そこの倉庫は防音だから、どれだけ叫んでも大丈夫だよ。」

 

 亮がどんな気持ちなのか、けしかけた沖田には分かったのだろう。亮は倉庫に入り、中から少々叫び声のようなものはうっすら聞こえる気はするが、こちらまでは響かなかった。

 

 

 

    ◇

 

 

「畜生!」

 

 ガンッ!とこぶしでロッカーを殴りつけた音が反響する。手が出てしまうくらいに、亮は狼狽していた。

 

 負けた。

 

 全力で挑んで、負けた。

 

 今までとは違う、壮大な敗北感が亮を襲う。全力だった。持てるすべは全て出し尽くした。それでも負けた。

 

「・・・だが、何だろうな。」

 

 どこか、清々しい。それは亮が今まで一度も味わったことのない思い。

 

「・・・ダメだな、今のままでは。」

 

 亮の中には、デュエル中に沖田に言われた言葉が響いていた。

 

『そんなのは、全力を出させるなんてデュエルじゃない。ただの自己満足だ。』

 

 ああ、確かにそうだったのだ。今までは、接戦をあえて演じていたのかもしれない。そう思うと、急に今までの対戦相手に申し訳なくなってきた。

 

『お前は全力を出せるのかな?』

 

 多分、間違いなく沖田は亮のそういう本質に気付いていた。そうでなければ、エクスチェンジなんて入れることのないカードだったのだろう。あれは間違いなく沖田のメッセージだったのだ。

 

「先生。」

 

 絶対に超えてやる。次は勝つ。その為にも。

 

「・・・今日は徹夜で、デッキを見直すか。」

 

 改めて、自分を見直そうと。亮はそう思った。

 

 

    ◇

 

 

「・・・全く、そのためのエクスチェンジだったのね。いきなりエクスチェンジ持ってないか?なんていわれたからびっくりしちゃったわよ。」

「助かりました、みどり。」

 

 デュエルが終わり、レッド寮に十代達を届け、明日香を女子寮に連れて帰った後、沖田とみどりはそんな会話をしていた。

 

「でも、亮君って貴方があの『シャドール』を持ち出すほどに強かったの?あれ、貴方の本気用でしょ?」

「・・・まあ、正確にはそんなに本気用にカスタムしてませんでしたし。何よりエクスチェンジを使いながらアドを取るデッキが他に思いつかなかったんですよ。」

「まあ、あのサイバー流の考え方に思うところがないわけじゃないし、別にいいけどね。」

 

 そこで沖田も気付いたらしい。

 

「そういえば、貴方もサイバー流の風潮でデッキを変えざるを得なくなったんでしたっけ。」

「おかげでね、クリスティアが使えないの。あのカード綺麗なのになぁ。」

「パーミッションやロック戦術、バーン戦術は最近は嫌われやすいですからねぇ。」

 

 まあ、ある種仕方がないところはあるのではないだろうかとは思う。召喚条件の割りに強力すぎる効果を持つクリスティアは、I2社の中でも度々議論されたカードの一つだからだ。

 

「・・・知っていますか、みどり。サイバー流がプロやI2社でどんな評価を受けているのか。」

「知ってるわよ。弟が現役プロよ?」

「その弟に危なげなく勝てる貴方は何者なんですか。」

 

 一瞬の沈黙の後、沖田は続ける。

 

「大衆を味方につけた卑怯者。それがサイバー流の隠れた評価です。パーミッションを否定し、バーンを禁止にまで追い込んだあの風潮を作り出した戦犯者。」

「だから、今のうちにああやって現実を見せようとした。」

 

 沖田の内心を、みどりは見透かしていたようだった。

 

「・・・サイバー流は、プロに何人も輩出する名門です。ですが、それと同時に最も地下に行くことが多いデュエリスト達でもあるんですよ。」

 

 地下。

 アンダーグラウンドとも呼ばれるそれは、いわば非合法のVIP専用のプロ大会。地上で行われるのとの相違点は、命がかかっているかどうかだろう。下手をすれば命はない。そこで命を落とせば、亡骸すらが家族のもとには帰らず、人知れず消えていく。その命は、臓器提供のドナーとして病院で取引されるからだ。

 

「・・・あんなところに、若い人たちを追いやるわけにはいきません。」

「それは、元アングラデュエリスト最強(・・・・・・・・・・・・・)とまで言われたあなたの言葉?」

「・・・。」

 

 その言葉に、思わず沈黙してしまう沖田。

 

「・・・少し、意地悪だったわね。」

「・・・いえ、そんなことは。」

「貴方が、後悔してるのは知ってる。でも、いつまでも引きずるわけにはいかないでしょ?」

 

 その言葉に、強く、そして静かに反論した。

 

「いつまでも後悔してますよ。だから、彼をあのままプロに追いやるわけにはいかない。本当の敗北を知らなかった彼は、このデュエルできっと今までで一番悔しかったはずだ。・・・彼が成長したその時は。」

 

 本当の、本気のデッキで挑みますよ。それだけのポテンシャルが、彼にはあるのだから。

 

 そういう彼の言葉に、みどりは、何も言えなかった。

 

 月明かりが眩しい、満月の夜に出した彼の言葉は。

 

 誰よりも苦しい、本音だったのだとみどりは確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




作者はあまりADSでシャドールを回したことがありませんので、もし効果処理が間違っているなどあれば感想にお願いします。

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