霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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第4話 : 謎の妖怪

 

 

 

 気付くと、私は保健室のベッドで寝ていた。

 まだ体が動くようにはなっていない、ボンヤリと目が見えるだけ。

 私が起きたのにまだ気付いていないのだろう、2人の声が聞こえてくる。

 

「そうか、霊夢が……」

「ああ。 授業中に妖怪に襲われてこの有り様だ。 私がついていながら、情けない」

「まぁそう自分を責めないで。 慧音は悪くないよ」

「……だが、あの妖怪には気付かれてしまったんだろう?」

 

 先生の声と、話しているのは母さんの声だった。

 うまく聞き取れないけど、何か真剣な話をしているのだけはわかった。

 あのちゃらんぽらんな母さんがあんなに真面目な声を出すなんて、私のせいでヤバい額の損害賠償でも請求されているのだろうか。

 そう考えると恐ろしかったので、とりあえず私は寝たふりをしたまま聞き耳を立てることにした。

 

「あの妖怪って……なんで慧音はそんなに毛嫌いするかなぁ」

「当たり前だ。 あんな胡散臭い奴にお前や霊夢を任せられるか」

「あーらら、私もまだ慧音の中じゃ子ども扱い? 一応これでももう、博麗の巫女として認められるようになったんだけど」

「それでもだ。 たとえ何十年経とうとも、お前が私の不良生徒の一人だということに変わりはない」

「はいはい。 ま、それでも慧音もちゃんと話せば仲良くなれると思うんだけどなぁ、紫とは」

 

 紫……?

 誰だかはわからないけど、母さんも先生も妖怪と面識があるってこと?

 それは、私には寝耳に水な話だった。

 

 実は私たちが住む博麗神社は、神様を奉るだけの普通の神社ではない。

 この世界、幻想郷には私たち人間の他に、知性を持つ生き物として妖怪や妖精や神様なんてものがたくさんいる。

 それらは人間とは違って妖力や魔力など特殊な力を使えて、特に人間を食べる妖怪のことは皆が恐れている。

 その昔、偉い妖怪が、人間の里にいる人間を妖怪が襲わないように規則を作ったらしいけど、それでも今回のようにその規則を破って人間を襲う妖怪がいる。

 それを退治するのが、博麗神社の巫女の仕事だと母さんは言っていた。

 それなのに、母さんはその退治するはずの妖怪と知り合いだというのだ。

 私こういうの知ってる。

 確か癒着っていう問題行動だった気がする。

 

 何か聞いてはいけないことを聞いてしまったかのようで怖くなったので、私はもう一度寝ることにした。

 念のため言っておくけど、ここで首を突っ込むのが面倒だったからではない。 念のため。

 

 

 

 

 

 

 ヒリヒリする頬を撫でながら、私は母さんに手を引かれて博麗神社の階段を登っている。

 保健室で私が起きるとともに、先生が頬を叩いたのだ。

 頭突きじゃなくてよかったが、それでも痛い。

 だけど、別に校庭を滅茶苦茶にしたことを怒ったのではないらしい。

 どうやら妖怪を前にして逃げなかったことを怒ったみたいだった。

 一般的には、たとえ低級妖怪でも武器を持った人間の大人2人がかりでも勝てないくらいの力を持っているらしく、寺子屋では妖怪からは絶対に逃げるよう教えられているのだ。

 ケガをしたらどうするつもりだったのかと、二度とやるんじゃないと、あの金髪のことも同じように叩いたらしい。

 それで、その後私のことを抱きしめて「でも、本当に……無事でよかった」って涙ぐむところまでテンプレ。

 私は先生のそういう熱血過ぎるところはちょっぴり苦手だったりする。

 

「む……」

「どうしたの、母さん」

「あー霊夢。 ちょっと紹介したい人がいるから、ちゃんと挨拶しなさい」

 

 さて、少し話が逸れたが、ここからが本題だ。

 母さんは紹介したい人と言うが、私には人じゃないことはわかっていた。

 保健室で少し話を聞いていたからというのもあるが、流石にこれほどの妖力が神社から溢れていたら嫌でも気付く。

 多分、私が今まで会ったことがないほど高位の妖怪。

 神社にそんな奴を入れること自体、どうかと思う。

 そうして階段を登りきった私たちの前には、腕を組んだ一人の妖怪が立っていた。

 

「久しぶりだな」

 

 それは、もう見た瞬間にわかった。

 獣が妖怪となった、いわゆる妖獣というやつだ。

 基本的に妖獣は尻尾の本数でその格が決まるといわれ、私は四本の尻尾を持った妖獣と一度だけ戦ったこともあるけど、その時は逃げるので精いっぱいだった。

 それが、九本。 九尾の妖狐、多分存在を確認されている中で最多の尻尾を持つ最強の妖獣。

 話しかけるのも躊躇われるような厳かな雰囲気に、押しつぶすように重々しい妖気を纏った妖怪。

 正直、私は立ってるのがやっとだった。

 だけど、母さんはいつも通りだった。

 

「おお、藍じゃないかー、久しぶりー!」

「……相変わらずだな、お前は」

「ってあれ? 紫は?」

「紫様は二度寝中だ。 突然冬眠から起こされたから寝覚めが悪くてな。 すぐ起きてくるとは思うが、しばらくは私が対応する」

「あー、そっかー」

 

 あー、こいつは話に出てた紫って奴ではないのね。

 しかも紫様ときたよ、九尾の妖狐が様つけ始めたよ。

 何? これ以上の妖怪がいるっていうの? やだー、もうおうちかえりたいー。

 だが、ここがおうちだ。 現実逃避はやめよう。

 

「それで、その子の件だが」

「ああそうだ。 ほら霊夢、挨拶しなさい」

「……博麗霊夢です、よろしくおねがいします」

「八雲藍だ」

 

 そして、沈黙。

 「~だ」とか名前だけ紹介して終わりの人初めて見た。

 普通はよろしくとか言うもんだと思ってたのに。

 私が言えたことじゃないけど、そうとうぶっきらぼうだねこの人。 あ、人じゃなかった。

 あれ、でも何か八雲って名前は聞いたことあるぞ、何だっけ? まあそれは別にいいや。

 とりあえず敵意は感じないし、せっかくだから私は勇気を振り絞って言うべきことを言っておくことにした。

 初対面の目上の人と会う時に注意するのは、ちゃんと丁寧な言葉を使うことだ。

 

「それで、今日はどういったご用件でしょうか」

「なに?」

「博麗神社は、幻想郷を守る神聖な神社です。 本来なら高位の妖怪が無断で立ち入ることは禁じられているはずですが」

「……霊夢?」

 

 母さんも隣の妖怪もキョトンとしてた。

 でもそんなの知ったことか。

 こういう話し合いは、母さんより私の方が冷静に進めることができるのは自分でもよくわかっている。

 だから、任せてと私は母さんに親指を立てる。

 

「ですから、まずは…ひゃいっ!?」

 

 そこで突然、首筋にヒヤリとしたものが当たった。

 一瞬見た限りでは、それは細長い指のようなものだった気がする。

 だけど後ろには誰もいなかった。

 それでも、声だけが聞こえてくる。

 

「あははははは、「ひゃいっ!?」だって! あんな真面目な口調で話しておきながら、聞いた? 藍」

「……紫様、お戯れが過ぎます」

「いいじゃないの別にー」

「誰っ!? どこにいるの!?」

 

 周囲を見回しても他に誰も見当たらない。

 そんなはずはない。 私は今、確かに誰かに触れられた。

 前! いない。 後ろ! いない。 右! いない。 左! いない。 上! いない。 下……

 

「こんにちはー」

 

 いつの間にか私の胸から女の首が生えて、話しかけてきた。

 何が何だかわからなかった。

 この世のものとは思えない光景を前に、私は気を失った。

 

 

 

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