今回は妹紅視点です
さてと。 ちょっと遠足のノリでテンション上げ過ぎたけど、ここで少し冷静になってみようか。
まず私、藤原……もとい博麗妹紅と阿求が今回この紅魔館に来たのは、霊夢が初めて解決する予定の異変を安全に執り行うための、いわゆる視察だ。
そのために紫があらかじめここの主である吸血鬼と話をつけていたらしいんだが……まさか開口一番いきなり殺しにかかってくるとは予想外だった。
っていうか視察に来てなかったら、本当に霊夢が殺されててもおかしくなかったぞ、本当に大丈夫なのかこれ。
と、紫に文句の一つでも言ってやろうと思ってたら、ちょうど紫が来た訳だ。
「……ちっ。 やはりお前の差し金か、八雲紫」
「ご明察。 ま、正直ここまでの成果は期待はしてなかったんだけどね」
成果?
まさか、また何か勝手に企んでるんじゃないだろうな。
紫は紫でいろいろと考えた上で行動はしてるんだろうけど、時々少しやりすぎなことがあるから注意が必要なんだよな。
「どういうことだ紫、ちゃんと説明してくれ」
「安心して、今日の目的は本当に視察よ。 ただし、彼女たちが本当に安全な異変を起こしてくれると信頼できる相手かの、ね」
……ああ、なるほどな。 話し合い自体はしてきたけど、本当に信頼に値すると判断できる相手でもなかったってことか。
だからこそ、本人断りなしに抜き打ちでチェックしようとしたってとこかな。
ま、紫らしいっちゃ紫らしい対応だな。
「それについては、話はついていたはずだろう。 こんなくだらないことをしなければ、協力してやるつもりだったよ」
「それを、簡単に信用しろと? 幻想郷に攻め入った前科のある貴方を?」
「……」
何だ、こいつ前にも何かやらかしたことがあるってのか?
そんな奴に大事な異変の運営を任せていいのかよ、本当に不安になってきたぞ。
「前科ってのは、何があったんだ?」
「まぁ、少し伝えられ方にはぼかしてある部分もあるんだけど……吸血鬼異変って、知ってるかしら?」
「あ、私知ってます! 確か昔、吸血鬼の軍勢が幻想郷に攻め入ったっていうアレですよね」
あー、確かアレだよな。 百年以上前、私がまだ博麗の巫女になる前に起こった最後の異変とかいう。
とある日の満月の夜、吸血鬼が幻想郷の侵略に来たという異変。
その圧倒的な力と類稀なるカリスマ性に惹かれた多くの妖怪たちが手下となって、幻想郷を支配下に置こうとしたとか。
「まさか、その時の吸血鬼がこいつだったってことか?」
「そうそう。 孤高の吸血鬼、レミリア・スカーレット。 私たちは昔、彼女たった一人を相手に本当に手を焼いたのよ」
「どの口が言う。 結局お前が止めたくせに」
「互角……いえ、もし藍がいなければ、単純な実力ではそれ以上だったでしょう? この私を相手にして」
……マジか、満月だったらこいつの単騎戦闘力は紫以上ってことかよ。
吸血鬼って種族が月の力の恩恵を受けやすいってのは有名な話だけど、そこまでのレベルの吸血鬼がいるなんてのは予想外だ。
まぁ、月があんまし出てない今でさえかなりの手応えはあったし、確かに満月だったら結構ヤバいのかも。
「だけど、あの時は最終的には無事に話し合いで終わることができた。 貴方が理性的で、そして潔かったから」
「潔かった?」
「ええ。 本当はあの時、私と彼女の勝負はついていなかったはずなのよ。 それでも、彼女はそれ以上の不毛な戦闘を避けて降伏し、幻想郷に二度と害をなさないと誓ったわ。 私たちが、必要以上に彼女に介入しないという条件と交換でね」
「へぇー、そんなことがあったんですか。 なるほどそれは幻想郷縁起の執筆が捗りますね!」
真剣な表情の紫や吸血鬼とは対象に、阿求は何かまた一人で勝手にテンションが上がってる。
そういや阿求の目的は紅魔館の、吸血鬼の実態調査だったしな。
やっぱり隠し階段とかよりも、本能的にこういう知られざる歴史的な情報の方が阿求の興味を惹きつけるんだろうか。
「そこからは、平和だったわ。 何も起こさず、貴方は本当に平穏を守ってきた。 ……表向きはね」
「表向き? どういうことだ」
「孤高の吸血鬼レミリア・スカーレットは、吸血鬼異変の時も、いついかなる時も一人だった。 その力に惹かれて集まってくる有象無象がいても、それでも彼女は本質的には孤高の存在だった。 ほんの数十年ほど前までは」
「それって……」
「ええ。 体術で藍と張り合うレベルの武術家に、あらゆる属性を司る万能の魔法使い、極めつけは時間を操る力を持つ得体の知れない人間。 それまで孤高を貫いてきたはずの貴方は、この数十年足らずで突然、強大な力を持つ彼女らを自ら集め始めた」
「……」
「特に彼女が、十六夜咲夜が現れてからは、私の不安は本物になっていった。 彼女の力は、私の能力さえも超えるわ。 彼女の能力に覆われてからというもの、紅魔館内部の境界を見つけることができなくなったから」
マジかよ、それって結構ヤバいことだよな。
そんなことができる奴なんて……まぁ、私は他にも知ってるけど、そいつらは例外として。
そもそも紫の『境界を操る能力』は、幻想郷を管理する上で不可侵であることが必要な能力だ。
一応、博麗の巫女が博麗大結界を張ることで幻想郷を現実から切り離してるんだけど、それも紫の能力があってのことだし。
だから、紫の能力の範囲を簡単に超えてくる奴なんて、幻想郷の安定を考えるのなら、そうそういちゃいけないはずなんだけどな。
「でも、それまでの貴方の在り方とあまりにかけ離れたその行動は、明らかに不自然なのよ。 だから、私は一つ仮説を立てたの」
「仮説?」
「ええ。 ……ねえ、貴方は機を窺っていたのではなくて? もう一度、彼女たちの力も借りて、今度こそ幻想郷を支配できる日の」
「くだらん仮説だな」
レミリアとかいう吸血鬼は、それを聞いても眉一つ動かさない。
少なくとも動揺しているようには見えないし、むしろ本当に紫に落胆したかのような、そんな目をしていた。
「ええ、馬鹿馬鹿しく思える話かもしれないわ。 でも、私は不安を抑えきれなかった。 だから―――少し調べさせてもらったわ、貴方の過去を」
「―――っ!?」
だが、そこで初めてレミリアの表情が変わったように見えた。
それは、怒りとかじゃない。
誰もが一目でわかるほどの、明かな戸惑いだった。
「貴方は両親がともに真祖の吸血鬼という、吸血鬼のサラブレッド。 もし仮に貴方の父君と母君、スカーレット夫妻がご存命であれば……吸血鬼が一人でなかったのならば、吸血鬼異変は今とは違う歴史を紡いでいたかもしれない」
「……存命であれば、ってことは」
「ええ。 幸いにも、というのも心苦しいけど、彼らは吸血鬼異変よりも前に死んでいるわ。 不死の吸血鬼がいつ、どうして亡くなったのかは知らないけど、2人の墓標も確認済みよ」
そうか。 当たり前だけど、こいつにも親がいたのか。
まぁ、妖怪とかにはそういう概念がない奴もいるから、当たり前ってことはないだろうけど。
でも、孤高の吸血鬼とか言ってたし、ってことは両親を亡くしてからこんな小さな子がたった一人でこの広い屋敷に住んでたってことか?
それはそれで、ちょっと可哀想な気もするな。
なんかナイフで壁に磔にしたままってのも可哀想な気がしてきたし、そろそろ下してあげてもいい気がしてきた。
でも、流石にこのシリアスな空気で話遮るのも空気読めてない感じがするし、どうしようかな。
「……やめろ」
「ん?」
だけど、そのレミリアの表情には、また少し変化が現れてるように見えた。
最初の能面のような面影など、全く感じさせない。
それは戸惑いではなく、まるで何かに怯えるかのような。
「だから、その件については別に問題はないわ。 ただ――――」
「やめろっ!!」
そして、紫が大きく息を吸うとともに発した、
「スカーレット夫妻には、子供が2人いたはずなの」
その言葉で、レミリアは完全に沈黙した。