賑やかな喧噪が聞こえて来る大通りから外れた路地を、一人の冒険者が黙々と進んでいた。
擦れ違えば思わず声を掛けたくなるであろう美貌の持ち主だったが、
残念ながら虫の居所が悪いらしく、その表情は苛立ちに染まっていた。
(全く、今度という今度は私も堪忍袋の緒が切れました。ホームへ戻ったら覚悟して貰いましょう…)
毎度のことながら、主神によって散々面倒なことを押し付けられている彼女も切れるときは切れるのだ。
わざわざメインストリートではなく、一つ外れた路地を歩いているのも、今の表情をあまり他人に見せたくないという考えからだった。
彼女のとっておきを使えば、誰にも見られることなくすぐさまホームまで跳んで帰れるのだが、そんな事の為に自分の傑作を使うのは、流石に製作者としてのプライドが許さなかった。
と、そんなことを考えている途中、ホームまでもう少しという所で彼女が目にしたのは、複数の男たちに囲まれ、
ずた袋のようになっている少年の姿だった。
幸い、まだ向こうはこちらに気付いておらず、彼女が見なかった振りをすれば、
何事もなくホームへ戻り主神への不平不満を存分にぶちまけることができるだろう。
そうだ、何を迷うことがあるだろうか。
自分はこのままホームへ戻り、主神へ今の労働環境の改善を訴え、ゆっくりと湯浴みを済ませ、
一日の疲労を感じながらぐっすりと自室で眠るのだ。
今日一日、主神によって奔走させ続けられた自分の選択を誰が責めることが出来るだろうか。
こっそりと背を向け、気付かれないように歩き出そうとした時、彼女と少年の目が逢った。
---しまった
これで自分の存在が彼らにばれてしまう。
諦めて腹を括ろうと思い、向けられる怒声に備えるが一向にそれらしきものは聞こえてこない。
見ると、少年は既にこちらを見ておらず、それどころか彼女の居る場所とは反対の方向に、這いずり始めた。
「おい小僧、どこへ行くっていうんだよ。お前はこれから歓楽街に行って、
俺たちの為にたっぷり稼いで来なきゃならないんだ……ぜっ!?」
のろのろと這いずる少年の脇腹に、男の蹴りが見事に入った。
しかし少年は重い呻き声を上げるだけで、またゆっくりと前進し始めた。
(まさかあの少年、私から彼らを遠ざけようと……)
真意がどうなのかは分からない。
だが、ここまで来てしまった以上、彼女もこのまま少年を見捨てることは憚られた。
短く溜息を吐きながら、彼女は静かに懐の短剣を取り出し男たちの背後に忍び寄った。