ダンまち ヘルメス√   作:御子柴

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第七話

それはダンジョンからの帰宅途中、アスフィと共にギルドでの換金を済ませている時だった。

 

見覚えのある容姿をジッと見つめていると、あちらもクロノに気が付いたようでこちらに小走りで駆けてきた。

 

「あ、あのっ、もしかしてこの間ミノタウロスから助けてくれたのは……」

 

こくりと頷くと、兎のような少年は笑顔で手を握り感謝の言葉を並べていった。

 

「本当にありがとう!!キミが居なかったら僕はあのままやられていただろうから……ずっとお礼が言いたかったんだ」

 

あの時はモンスターに必死で分からなかったが、普段はこんなにも豊かな笑い方をするんだなと思った。

 

「いえ僕は何も。お礼ならあの時助けてくれた剣姫に言って下さい」

 

 

----アイズ・ヴァレンシュタイン

 

 

それが助けてくれた女性の名前だった。

 

ロキファミリア所属、冒険者ならば知らない者は無いほどの有名人らしかったのだが、

この街に来てダンジョンについての知識だけを勉強していたクロノが知るはずは無かった。

 

「あー、うん。そうだよね……」

 

歯切れの悪い返答、何か過去にあったのだろうか。

 

「そういえば、まだ貴方の名前を聞いていません」

 

「あ、そうだったね。僕はベル・クラネルと言います。ヘスティアファミリアに所属してるんだ」

 

ヘスティアファミリア、聞いたことがないファミリアだ。

 

「こらクロノ、人に名前を尋ねる時は自分から名乗らなければなりませんよ」

 

換金が終わったのか、アスフィがこちらへと戻ってくる。

 

「貴方を助けたこの少年はクロノ・アーツと言います。私はヘルメスファミリアの団長でアスフィ・アル・アンドロメダ。

ヘスティアファミリアということは、あの方にも遂に団員が出来たのですね」

 

どうやら彼女はヘスティアという神について知っているようだった。

 

「はい、とは言ってもまだ僕一人だけなんですけどね」

 

一人だけ、そういったファミリアも存在するわけだ。

 

ヘルメスファミリアは中堅規模のファミリアである為、構成もそれなりに多い。

 

クロノがダンジョンへ潜るときは必ずアスフィが同行することになっているが、

彼は常に一人で探索をしているということになる。

 

「じゃあ、僕はホームに戻ります」

 

そう言って深々と頭を下げて、ベル・クラネルは走り去っていった。

 

 

 

 

 

「では私たちも戻りましょう。行きますよクロノ」

 

入口まで歩き、振り返ったアスフィの手をクロノは握った。

 

「……あのアスフィさん」

 

「どうしましたクロノ?」

 

「あまり言うのもあれなんですが、男にまで嫉妬されるのは何というか……」

 

ベルに手を握られたあの時、後ろから感じたオーラは恐らくアスフィから放たれたものだろう。

 

尋ねてみると、やはりアスフィは顔を熟れたリンゴ様に赤く染め下を向いてしまった。

 

「だ、だって……私だってクロノと手を繋ぐことなんてあまりないのに……」

 

いつも一緒に居て、ホームでは耳かきやらマッサージやら、挙句に風呂で背中を流そうとするだけでは足りないのだろうか。

 

無論、決して嫌という訳ではないのだが。

 

「言ってくれればいくらでも繋ぎますよ。アスフィさんの手、僕は好きですし」

 

普段は手袋を付けている為見た目には分からないが、ご丁寧にクロノと手を繋ぐ際は手袋を外している。

 

肌理細やかな触り心地はずっと繋いで居たいと思わせる感触だし、そこから伝わってくる体温がクロノは好きだった。

 

「だから-------むぐっ」

 

喋りかけた途端に、クロノの視界と口は柔らかく甘い香りの何かに塞がれた。

 

抱き着かれたのだろうという事は分かっているし、それ自体は嬉しいのだが如何せん苦しい。

 

「あぁもうクロノっ、なんていい子なんでしょう。私は貴方の全部が大好きですよ」

 

ミノタウロスとの戦闘後、アスフィはクロノへの好意を隠すことなく爆発させていた。

 

日頃のストレスなど、考えれば思い当たる節はあったらしくヘルメスも何も言うまいと変わり果てたアスフィを受け入れていた。

 

別段、団長としての仕事を疎かにしている訳ではないので、特にファミリア内から不満が出ることもなかった。

 

というか、逆にその矛先を一身で受けるクロノに同情の声が聞こえることもあった。

 

ただ、クロノはアスフィからの好意を迷惑と思ったことは一度もないし、今の関係をとても気に入っていた。

 

「アスフィさん、そろそろ帰りましょう。早く戻らないとヘルメス様達が飢え死にしてしまいます」

 

「そうでした、今日の食事当番は私とクロノでしたね。早いところ食材を買って戻るとしましょう」

 

名残惜しそうに離れるアスフィだったが、クロノが再び手を握ると満足そうに微笑み、今日の献立について案を考え始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョンへ潜ってみたい。但し、アスフィの同行無しで。

 

いつかの朝食の際にそんな話をしてみたところ、アスフィはパンを千切る手をピタリと止め、

次の瞬間にはガタガタと震えだし挙句にその瞳に涙さえ浮かべ始めてしまった。

 

「わ、わたっ、私が何か、クロノの気に障る事をっ…して、してしまったのでしょうかっ」

 

嗚咽しながらその場で在らぬ方向へ勘違いをしてしまったアスフィを、クロノは慌てて宥めた。

 

「ち、違いますって!!アスフィさんばかりと潜っているのもどうかと思ったのと、この間のヘスティアファミリアの人、覚えてますか?」

 

「ぐすっ……えぇ、確かベル・クラネルとかいう少年でしたか」

 

「はい。ミノタウロスに襲われたのがきっかけというのも何ですが、僕も男友達が欲しいなと思いまして。

彼は一人でダンジョンに潜っているようでしたし、一緒にパーティを組めないかな、と」

 

一人のファミリアという話を聞いてからずっと考えていた。

 

クロノはずっとアスフィと一緒での探索であったが、彼女が居てくれたからこそダンジョンで過ごした時間は掛け替えの無い時間となった。

 

誰かと共に助け合い、笑い合い、傷つき合う、それが冒険の醍醐味でもあるはずだ。

 

それにずっと一人きりなんて、なんだかとても寂しいじゃないか。

 

折角、知り合えたのだからクロノはその縁を大事にしたかった。

 

「優しい子ですね、貴方は」

 

話を聞き終えたアスフィは、そういう事ならと探索を許可してくれた。

 

無論、先日のような場合は必ず戦わずして逃げること。

 

探索はアスフィの指定した階層まで。

 

更には門限までも指定されてしまったのだが、許可を貰えただけ感謝しよう。

 

それと、何故か朝食のスープをアスフィに食べさせると言う謎の条件まで付いていたが、それで彼女が満足するなら良しとしよう。

 

因みにその食事中のアスフィの顔は、これ以上にないくらいには幸せそうであったそうな。

 

 

 

 

 

 

「そうだ、クロノ。これを渡しておきましょう」

 

朝食を終え、ホームを出ようとしたところでアスフィに呼び止められた。

 

何かのアイテムかと思い受け取った品を確認すると、中には一振りの剣があった。

 

ただ、クロノが引き抜いた途端に剣は目に見えなくなってしまった。

 

しかし、確かに重さはちゃんとそこにあり、剣は確かにそこにある。

 

「私からの餞別です。私が武器を作るなんて滅多にないことなんですからね」

 

彼女のスキルや二つ名は知っていた。

 

レアスキル、アイテムメーカーの所持者であり万能者の名を持つヘルメスファミリアの団長。

 

彼女が他人の為に武具を作るのは滅多にないことなのだと、ヘルメスからも聞いていたのだが……。

 

「勿論、貴方は特別です。その剣には私のアイテムメーカーとしての技術を--------」

 

ここから剣の性能と、如何にクロノを愛した結果、素晴らしい武器が完成したのかを切々と語ろうと意気込んでいたアスフィだったが、

それも直後の衝撃によって跡形もなく吹き飛んでしまった。

 

覚えているのはクロノに抱き締められた感触と、頬に柔らかなものが触れたという事実。

 

「アスフィさん、大好きです!!」

 

それと、愛の告白くらいだった。

 

 

 

 




剣の性能は、クロノの込めた魔力によって属性が変化するという感じ。
あと刀身が見えなくなるのは、fateの風王結界から引っ張りました。
剣の名前は考え中。
感想欄にティンと来るものがあれば採用するかも。

剣は、ちゃんと次回お披露目します。
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