モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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9-キシ君と二人、北へ攻め込む

 大きく報道されたことなので、バトルに興味のない人でもご存知だろうが、先月キシが新しくカントーポケモンリーグチャンピオンに就任することを表明し、前チャンピオンワタルが王座をポケモン協会に返上した。

 キシは来年度からはカントーポケモンリーグチャンピオンとして活動し、来年度のAリーグ優勝者と防衛戦を行う事となる。カントーチャンピオンとして、ワールドトーナメントのチャンピオンズランクにも参加するだろう。

 

 さて、キシ君のチャンピオンとしての最初の仕事は、シンオウ地方のナギサシティジムリーダー、デンジとのエキシビションだ。

 ナギサジムと言えばシンオウでも屈指の難関ジムで、リーダーのデンジ君はジムリーダーでありながらイッシュ地方のバッジをコンプリートしている超一流である。

 デンジ君はジムリーダーとしての責務があるため、キシ君がシンオウに向かうことになったのだが、なんと、僕も彼と一緒にシンオウに向かうことになったのだ。

 理由は主に三点。

 一つ、サポート。キシ君はチャンピオンとはいえまだまだ若い少年なので、社会的なサポートを僕がするということだ。この点に関してはポケモン協会は完全にドジを踏んでいる。

 二つ、露払い。新しいチャンピオンであるキシ君には無鉄砲で生きのいい若人が勝負を仕掛けてくる可能性がある。そういう時に「チャンピオンと戦いたかったらまずは私を倒してからだ」と超カッコイイこと言いながら若人をぶちのめすと言うことだ。おちゃらけて書いているが結構大事な役割だったりする。もし逆に打ちのめされたらどうするのか、と言うことだが、僕に勝てるんだったら挑戦する権利はあると思う。

 三つ、前座。ナギサシティのジムトレーナーにチマリと小さな女の子が居るらしいのだが、これがどうもべらぼうに才能があるらしいのだ。僕は彼女との対戦を組まされている。つまるところ超新星対元超新星と言ったところだ。さ、仕事は子守だけだ楽ちん楽ちん、と思って僕は沢山苦い経験をしているので、本気でやります。

 

 当初の計画では、飛行機でびゅーんと行ってしまおうと考えていたのだが。キシ君が飛行機では不安だとぐずったので、多少時間はかかるが電車で行くことにした。しっかしキシ君、普段カイリューに乗ってびゅんびゅん飛び回ってるのに飛行機はダメなのね。

 

 キシ君は品行方正な少年である。僕はこの旅の間ずっと砕けた雰囲気を出して何とかこっちのペースに持ち込もうとしたが、ついに叶うことはなかった。

「相手のデンジさんは電気タイプのエキスパートだけど、オクタンやエテボースも使いこなす本格派だよ。どんな対策するの?」

 キシ君は対策屋である。彼に対策できない戦術は無い。それでいて最近は読みも鋭く度胸も据わってきている。そりゃ強いわけだ。

「いえ、今回はあまり対策をせずに挑戦しようと思います」

 いつもと変わらず生真面目に彼は答えた。僕は驚いて「ええ、どうして?」と反射的に聞いてしまった。

「やはりチャンピオンとしては、何時どこで、どんな相手でも対戦する心構えで無くてはならないと考えています」

 思わず感心した。ワタルさんからチャンピオンを奪取しただけのことはある。

「スタイルを変えるのかい? 大変なことだよ」

「次のチャンピオン決定戦まで一年もあります。一年あれば十分です。スタイルを変えるのではなく、戻すだけなんですから」

「戻す?」

「ええ、トレーナーなら、チャンピオンは憧れでしょう?」

 そう言って、彼は流れる景色に目を向けた。

 なるほど確かに、最初から対策屋のトレーナーなど居やしない。

 憧れを追いかけ、挫折し、ようやく憧れに届いた少年は、自らが憧れとなる覚悟を決めていた。


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