モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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月刊誌スタジアム『ボス達の見解』④

Q あの日、セキエイ高原で何が起きていたのか。

 

 ◯+年度、カントー・ジョウトリーグチャンピオン決定戦。

 そこに響き渡ったのは、歴史を変えた歌だった。

 カントー・ジョウトリーグ併合以降、チャンピオンの座が初めてジョウトリーグ出身者の手に渡った。

 その時、セキエイ高原に居たのは『ほろびのうた』によって戦闘不能となった二匹のポケモンだ。

 一匹は当時チャンピオンのキシのラストであったカイリュー、もう一匹は挑戦者カリンのドンカラス。

 その二匹が戦闘不能になったことで、カリンには虫の息のブラッキーが残り、彼女はチャンピオンとなった。

 二対一という数的優位を押し付けたと言えば単純かも知れないが、あの一戦がそのような理屈で片付けられるものではないことはファンの皆様ならばわかるだろう。

 決してトップクラスの強さを持つポケモンとは言えないドンカラスが、カイリューを相手に逃げ切った。倒れるために逃げるという不条理を、彼等は完遂した。

 今では伝説として語り継がれるこの一戦、あの時、セキエイ高原では何が起き、リーグトレーナー達は何を思っていたのか。

 

 

 

 

A 敗因は序盤中盤戦

(第〇〇代カントー・ジョウトリーグチャンピオン キシ)

 

 強がりに聞こえるかも知れないが、僕はあの『ほろびのうた』以降の動きに問題があるとは思っていない。恐らくこの星で最もあの試合を研究した僕が言うのだから間違いないだろう。周りの天才たちと比べて才能に恵まれたとは言えない僕にとって、あの瞬間は、まさに神がかり的な底力だった。

 あの瞬間以外に敗北はない、そして、試合開始前から敗北していたこともありえない。当時僕が組んでいたパーティは、カリンさんのそれと比べてやりすぎなくらいの戦力であった。

 必然的に、敗因はうなるほどあった戦力差を縮められた序盤中盤戦ということになる。

 だが、未だにはっきりとした失敗がどこなのかを掴めないでいる。それが才能の差なのだということを認めないために、僕はあの試合を分析し続けるだろう。

 

 

 

 

A 不幸があったからこそ

(第〇〇代カントー・ジョウトリーグチャンピオン カリン)

 

 あの試合は、中盤戦までは私の想定内であったと思う。ポケモンをやりくりしながら彼を誘っていた悪い私と、それを頑なに拒否する生真面目な彼。ボスの性格は、必ずパーティに反映される。不真面目かも知れないけれど、私はそういう部分を戦略に組み込むのが好きだ。彼にもう少し誘いに乗るふしだらさがあったら、私はもっと苦しめられていたでしょうね。

 想定外だったのは、サザンドラが急所に一撃をもらって沈んだあの瞬間。

 あれがあったからこそ、私達はこの試合を何が何でも勝たなければならない試合だと思った。

『ほろびのうた』は事前に用意した戦略ではなかった。あの時、私達は用意していた戦略すべてが、恐らく通用しないであろうことを理解していたんでしょう。

 だからこそ、最も遠く。美しく、尊敬され、皆が感心するような勝利から、最も遠い行動を取ろうとした。それが『ほろびのうた』だった。

 同じことをもう一度やれと言われれば難しいかも知れない、あの時、私達は何らかの神域に足を踏み入れていたのだから。

 

 

 

 

A 押しつぶされたからこそ、宝石は美しい。

(元リーグトレーナー クロサワ)

 

 あの場でそれに大騒ぎした当事者としてこう言うのは恥ずかしくもあるが、あの連携そのものをできるトレーナーというのは、探せばそれなりにいるかも知れない。だが、だからといってそれがチャンピオンであることの証明にはならないことはグズでも感覚でわかるだろう。

 重要なのは、あの時、あの場、あの状況で、最良の選択肢としてそれを選ぶことができたトレーナーの胆力。

 あの選択は『やられるためにやられるな』という、人間がされたならばふざけるなと憤る指示だ。それは、ポケモンにすべてを託す選択肢であり、ポケモンに自らの弱みすべてをさらけ出すような行動だ、半端な付き合いであれば、その場で愛想を尽かされてもおかしくはないだろう。

 あの試合を、ひよっこの価値観で図れるはずがない。時代の隅に追いやられ押しつぶされていた黒く汚れた石ころは、あの時たしかに金剛の輝きを放っていたのだ。

 

 

 

 

A 伝説は、対戦相手あってこそ

(カントー・ジョウトAリーガー モモナリ)

 

 僕はカリンさんを尊敬している。

 だからこそ僕は、彼女たちの歌にそれこそ酔いしれた。僕達はその時ただの傍観者であったし、それに酔いしれるのも無理はないだろう。

 だが、浮ついた僕達の気分を現実に引き戻したのは『ほろびのうた』を選択したドンカラスをカイリューが『ちょうはつ』した瞬間だ。

 氷のように冷たい判断だ。目の前に起きていることに心奪われず、あくまでデジタルに状況を理解し打開策を実行。あの時、あれをできたのはキシ君だけであり、それができることも立派な才能であると思う。恐らく、僕はあの時にあれだけ勝利に徹した行動は取れないだろう。良いものを見た、素晴らしいものを見たとゴルダックとそれに見とれていたかもしれない。

 その後の彼の動きにも何一つ無駄はない、強いて言えば『かみなりパンチ』がクリーンヒットしなかったことは不幸だろうが、それはサザンドラのアレとでおあいこだろう。

 あの試合が伝説となったのは、勝利に徹した二人の素晴らしいトレーナーが、カリンに対してキシという好敵手がセキエイに居たからこそだ。

 

 

 

 

 

A その人と同じ目線を持つ高揚感

(カントー・ジョウトリーグチャンピオン クロセ)

 

 当時私はまだ若く、Bリーグからの昇格を決めたばかりだった。その時僕はセキエイの特別控室に居た。あの時そのものには特に何かを感じることはなかったが、周りの先輩方の反応でなにかとんでもないことが起きているのだなということがわかった。

 キシ選手のカイリューから逃げ回るのは容易なことではない。私も同じ状況ならば苦労するだろう。

 試合が終わった後、私が真っ先に思ったことは、来年からは私もこんなに素晴らしい選手たちと同じ目線を持つのだということだ。

 モモナリ選手、シンディア選手、クロサワ選手。彼等は私に当時のBリーグというものがどういう場所なのかを叩き込んだ素晴らしい選手たちだ。だが、Aリーグで戦うということは、彼等との戦いをも過去にしなければならないのだと言うことを、あの試合から学んだ。

 後出しのようで恐縮だが、来季、もしかすればカリン選手と戦えるのかも知れないと興奮していたのを覚えている。




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