モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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楽しんで書いた作品ですが作品の本編とは何も関係のない超外伝となります
怒られたら引っ込めます


超外伝 もしもモモナリのポケモンが擬人化してしまったら ①

「突発性人形変異症候群?」

 

 珍しくモモナリ家で何もないハズであったその日。

 ノートパソコンの向こう側に映る友人クシノが放ったその言葉を、モモナリは復唱した。

 だが、聞き慣れなければ言い慣れない言葉でもあった。一度ではイントネーションを掴みきれず、知っているものが聞けば素っ頓狂な発音になっていただろう。

 

「病気なのか?」

『まだはっきりとはわかってないんやが、少なくとも普通の状態ではないってことや』

『なあなあヨーイチローちゃんさあ、つまんない話は良いからさあ、もっと俺とお話しようぜ』

 

 ブラウザに映る友人の顔はいつもと変わらない。

 ただ、いつもと違うのは、彼の肩に手を回し、親しげに彼の下の名を呼び、明確にモモナリを無視するように仕組む短髪ブロンドの男が共に写っているということだ。

 彼は執拗にクシノを覗き込み、彼の耳を齧ろうとして引き剥がされる。

 その様子にさほど驚くことなく、モモナリが問うた。

 

「つまり、ポケモンが突然人間になると」

『まあ、そういうことや』

「無茶苦茶な話だなあ」

 

 そうは言いつつも、モモナリはクシノのその言葉を疑わなかった。

 彼は自分に対してそのような嘘を付くタイプの男ではなかったし、何より自分のことを理解している彼のことだ、つくのならばもうちょっと騙しやすいウソを付くだろう。

 それに。

 

「それで、君の場合はペルシアンがそうなってしまったと」

 

 クシノがそれに頷くより先に、画角の中にいる短髪ブロンドの男がモモナリの方を向いて答える。

 

『お、流石はマナブの兄貴、よくわかってんじゃん』

『まったくや、これまでお前が一番理解が良かったで』

「そりゃねえ」

 

 ドッキリのために呼んだ役者なのだとすれば、彼は演技力が高すぎる。

 クシノの肩に手を回して気を引こうとするところ。耳を齧ろうとして引き剥がされるところ、それでも諦めずに膝や肩に手をかけようとするところ。

 甘えようとする気持ちが空回りしてクシノにうっとうしがられるところなどは、まさに長い付き合いのペルシアンの特徴そのものだ。

 それに、昨日今日あったような役者を相手に、クシノがそこまで気を許さないだろう。

 

『相変わらず、ポケモンに対する観察眼はガチなんやなあ』

『ヨーイチローちゃんがにぶちんなだけだぜ』

 

 そうからかうペルシアンの頬を掴んで画角から引き剥がし、クシノが言う。

 

『とにかく、これまでは海外で年に数例しか報告されていなかったこの現象が、一昨日くらいからこっちでも頻発しとるんや。特にレベルが高くて人間によお懐いてるポケモンがなるらしくてな、リーグトレーナーの手持ちがかかる可能性が高いっちゅうわけや』

「なにか危険はあるのか?」

 

 その質問には、再び画角に現れたペルシアンが答える。

 

『体の調子はすこぶる良いぜ、それに、ポケモンであった頃の感覚も覚えてる』

『一応海外の症例では、かかったポケモンは例外なく一週間以内に元のポケモンに戻っているようやで。まあ、詳しいことは今オークボさんとトミノさんが必死に論文を翻訳してくれてるところだよ』

『俺はずっと人間でも良いんだけどなあ、ただまあ、俺みたいな美丈夫がいつまでも家にいると嫁さんも気が気じゃないだろうし、仕方ねえっちゃあ仕方ねえわな』

 

 饒舌なペルシアンにため息をつくクシノに、モモナリは「突拍子もないことも起こるものだねえ」とどこか他人事のように言った。

 

『ところが、これはそこまで突拍子もない事でもないようなんや』

「というと?」

『ユンゲラーの都市伝説知ってるか?』

 

 そりゃまあ、と、モモナリは頷いた。

 

 ある朝のこと、超能力少年がベッドから目覚めると、ユンゲラーに変身していた。

 

 どういう形であれ、ポケモンに関わる人間ならば一度は耳にするであろう都市伝説だ。

 もちろん、荒唐無稽なまやかしに聞こえるだろう。今どき、これをマジに受け取っている人間などほとんど存在しない。オカルト系雑誌『マボロシ』ですら真面目には取り合わないだろう。

 だが、実はこの説、明確に否定はできてないのである。

 人間がユンゲラーという種の誕生を目の当たりにしていない以上。これを完全に否定することが出来ないのだ。

 そして、話をさらにややこしくしているのが。

 

『人間とポケモンの遺伝子はめっちゃ近いらしいねん』

「んな馬鹿な」

『これはトミノさんも言ってた真面目な話や、分かりやすい根拠に、メタモンが人間に変身することができるっちゅーのがある』

 

 その例えに、急にモモナリは真面目な表情になり「なるほど」と頷いた。

 確かに、すべてのポケモンに変身できるメタモンが人間に変身できるという事実は、ポケモンと人間が近しい種であることを表しているのかも知れない。分かりやすい例えだ。

 

『全くありえない話じゃないっちゅうこっちゃな』

『事実なってしまってるんだから仕方ないわな、というわけでヨーイチロー、もっと喋ろーぜー』

 

 今度は引き剥がそうとするクシノの手を払い除け、ペルシアンがクシノの耳を齧った。

 痛い痛いと声を上げながら、クシノは顔を赤くしてそれを引き剥がそうとする。

 はたから見ればとんでもない光景だが、モモナリは特にそれを不思議に思わない。

 相変わらずポケモンとのコミュニケーションに苦労してるなあ、程度の認識であった。

 だが、突然女の『いい加減にしろ!』という声と共にペルシアンの頭が叩かれたのには流石に驚いた。

 

『なんだよ、本気で殴ることはねえじゃねえかよ!』

『騒がしいと思って見に来れば、なんてことをしているんだ!』

『手持ちとトレーナーの健全なコミュニケーションだろうがよ!』

『どこが健全だ! そもそもお前は昔から主人を困らせすぎだ!』

『はあー!? ヨーイチローはにぶちんだから少しくらい過激なコミュニケーションじゃねーと伝わらないんだよ! お前だっていつもいつも気持ちが伝わらないって悩んでるじゃねーか!』

『馬鹿! それを今言うな!』

『なー聞いてくれよヨーイチロー! こいつさあ、いっつも澄ました顔してっけどよお、本当はもっとお前に構って欲しいんだよ!』

 

 さらにペルシアンが続けようとしたその時、第三者の手が彼を画角の外へと引き剥がした。

 その一瞬写った姿は、銀髪の少女であった。

 

『貴様許さん! 地の果てまで『ふきとばし』てやる!』

『はい残念でしたあ! 翼のない今のお前じゃ吹き飛ばせませーん!』

『じゃあ代わりに息の根止めてやる!』

『お前の攻撃力で俺を落とせるんですかあ!? ほれ『ねこにこばん』!』

『痛っ、貴様どこから小銭を!?』

 

 しばらくバタバタとした騒動が続いたが、どうもそれが止む気配がないことを察知してからモモナリが告げる。

 

「人間になるとこれまでの技は使えなくなるようだな」

 

 イタタと、少し赤くなった耳を撫でながらクシノがそれに頷く。

 

『まあそういうことやな』

「それだと、リーグはどうなるんだ?」

『今リーグ用の特別規定を製作中や、早けりゃ今日の夜にも発行する』

「仕事が速いね」

『新任理事やからな、信用はスピードで勝ちとらな』

 

 振り返って『お前ら大概にしとけよ!』と一つ注意してから、クシノが『じゃあ、そろそろやな』と呟く。

 

『こっちの仕事もあるし、報告は以上や』

「別に特別扱いしてもらわなくてもいいのに」

『アホか、お前が一番何するからわからんから釘を差したんや』

「別に何もしないよ」

 

 更にモモナリは「でも良かったな」と続ける。

 

「レベルが高くて、よく懐いている。お前もそうだったってことだ」

『アホ、そういうことは今言うな』

「せっかく言葉が通じるんだからしっかりコミュニケーションとってやれよ」

『わかっとるって』

『なあなあヨーイチロー! なんとか言ってくれよ、こいつ本気でやってくるんだよ!』

『こいつにこそ一言言ってやってくれ! あなたはこいつを甘やかしすぎる!』

 

 再び画角に入ってきた二人に手を振りながら、モモナリがマウスに手を伸ばす。

 

「それじゃあ、ペルシアンとエアームドによろしく」

『よう分かるなあ』

 

 通信を切り、モモナリは一つ伸びをした。

 なんとも妙なことが起こるものだ。

 だがまあ、自分には関係のないことだろう。

 なんとなくだが、彼はそう思っていた。

 予感がしていた。

 そういう面白いことは、自分には起こらない。

 その時は、そう思っていたのだ。




こういう作品は今まで手を出してこなかった部分なので受け入れていただけるかどうか不安です

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