モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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『我が追想のポケモン達』とは
月刊誌『スタジアム』にて掲載されている。リーグトレーナーのポケモンに焦点を当てた連載。
トレーナーよりもポケモンの個性を重視する珍しい連載として有名。


月刊誌スタジアム『我が追想のポケモン達』①

 第○回 『星を掴ませた悲運のヒーロー サザンドラ(カリン)』

 

 

 

 〇〇□○年現在、我々を含むリーグ観戦中毒者の記憶の中にある彼の姿を一言で表すのならば『敗北』だろう。

 そう思うのも仕方のないことだ、〇△期チャンピオン決定戦にてカイリューに一撃で沈められた姿と、その翌年の◯□年、挑戦者のクロセを相手に気迫の立ち回りを見せながらも最後のポケモンとなった姿、その二つはあまりにも強烈な印象として脳裏に焼き付いている。

 それは、彼のパートナーであるカリンのトレーナーとしてのポリシーと、その対戦者達の執念によるものが大きいだろう。

 今だからこそ彼、カリンのパートナーであるサザンドラについて思いを馳せたい。

 

 彼は◯☓年のカリン-ワタル戦において突如として現れた。珍しいその新戦力の加入に業界が騒然としたのは記憶に新しい。サザンドラそのものはリーグトレーナー間でも評価の高いポケモンであり、実際にパーティの一員として組み込んでいるトレーナーも多い。

 だが、それをあのカリンが組み込んだというのが我々の驚嘆の理由であった。

『好きなポケモンで勝つ』

 名言とも、呪言とも言われる彼女の言葉だ、良くも悪くも、彼女はこの言葉通りの戦いを、人生を体現するトレーナーであった。その彼女がそのポケモンをパーティに加えたことは、カントー・ジョウトリーグが完全に変貌したことを意味しているように思われた。

 だが、我々の知る限り、彼の過去についての記録は乏しい、他地方での小規模大会にてカリンがジヘッドと共に戦っていたという噂はあるが、公式の記録があるわけでもなければ、映像も存在しない。

 つまり彼は、昨今業界のスタンダードになりつつある育成専門スタッフの手がかかっていないのだ、もしカリンが心を許した専門職がいるのであれば、その名が広まらないはずがない。

 

 〇△期カントー・ジョウトリーグにて、彼は要注意ポケモンの一人であったように思う。

 当時のリーグトレーナーは彼らについてこう語っている。

 

オーノ

「強いポケモンはどれかと言われれば全部と答える他ないですね。ただ、怖いポケモンはカリンさんのサザンドラです。強い弱いじゃないんです、全く想像ができない」

 

キリュー

「目を引くのはカリンのサザンドラ、そしてオグラのキノガッサ。サイクル戦において前者のパワーと後者のトリッキーな動きは役割を破壊するのに十分だ」

 

 更にある観戦記者は、カリンの新戦力についてこう語る。

 

「カリンのパーティにパワーが足りないことは彼女のリーグ参戦以来指摘され続けてきたことだ。彼女の耳にそれが入らなかったわけではないだろう。だが、彼女はそれに抗い続けーー彼女自身にその感情があったかどうかは別としてーー技術と絡め手、あるいは彼女自身の人間としての力を持ってしてAリーグに君臨し続けた。彼女にパワーなど必要ないのだろう、そして、それを持たぬままにその道を走り切るのだろう、と恐らくすべての関係者が認めざるを得なくなった頃に、彼女は彼と組んだ」

 

 彼女の変化は、彼らにとっても衝撃的なことであったのだろう。

 そしてサザンドラは、まるでそれが当然であるかのようにカントー・ジョウトAリーグを蹂躙した。当然、Aリーガー達がそれを見過ごしていたわけではない。彼らは持てる全てを持ってその対策をしているはずだったし、サザンドラというポケモンそのものは、C~Bリーグでも見ることのできるポケモンであり、その対策も共有されている。

 ならばなぜ、彼はAリーグでその力を十分に発揮することができたのか。

 プレーオフにて彼と戦ったオグラは当時をこう振り返る。

 

オグラ

「ナチュラルな意味で頭の良いポケモンでした。対策の対策を理解しているし、こちらが繰り出す対策の対策の対策を理解して、カリンさんとのアドリブでその対策を繰り出せる。そういう意味でクレバーなポケモンでしたね。だから資質的にはカリンさんのポケモンたちと変わらないんですよ。技巧派のポケモンがたまたま力も強かった、って感じだと思います。そういう意味では、お互いに良いパートナーと巡り会えたんじゃないかなと思います」

 

 また、Aリーグにて彼と激戦を繰り広げたイツキはこう残している。

 

イツキ

「ある意味で、私達全員が騙されていたんです。リーグを勝ち残るために新戦力を手に入れた。そこまでの認識は正しかった。ただ、そこに至る過程を見誤った。彼は技巧派だった、おそらく彼自身もそう自覚していたんでしょう。あの人は勝てるためのパーツを手に入れたわけじゃない、あくまでも自分と世界観を共有できるポケモンと組んだんだ」

 

 彼の賢さを表すエピソードとしては、同期のオーノ、カリン戦での立ち回りだろう。

 オーノのエルレイドに対し、カリンは『かみなりのキバ』を指示、サザンドラはそれを疑うことなく遂行。結果としてはオーノが交代したミロカロスに対して有効な攻撃となり、そのまま勝負を決めてしまった。

 確かに、トレーナーの指示に従うことはパートナーとして当然の資質であろう、だが、苦手であるはずの格闘タイプに対し、その指示を疑うことなく全うすることの難しさは説明するまでもない。

 対戦相手であったオーノは試合後にこう語る。

 

オーノ

「安易な交代でした。ですが、あそこで『かみなりのキバ』を選択できるカリンさんと、それを疑いなく遂行できるサザンドラ。その力量を見誤りました」

 

 交代先への淀みない攻撃に『サザンドラは交代を読んでいた』と言われている。

 

 プレーオフを制した彼らは、勢いそのままにチャンピオン決定戦に望む。対戦相手は事前研究に定評のあるキシであった。

 チャンピオン決定戦での彼の不運は避けては通れない。

 彼はキシのカイリューに対して繰り出され、そして、急所に攻撃をもらって一撃で沈んだ。

 その時の様子を、解説者はこう表現している。

 

クロサワ(テレビ放映解説者)

「どうして、どうして、今、それが起こるんだ。Aリーグ一戦目で起こってもいい、最終戦で起こってもいい、挑戦者決定プレーオフで起こってもいい、この試合の序盤で起きてもいい、中盤で起きてもいい、どうして今この瞬間に運がチャンピオンに振れるんだ。不公平だろう、あまりにも不公平だ」

 

 筆者も、あの瞬間に勝負は決まったと思った。

 そして、それは対戦相手であったキシも同じであったという。

 

キシ(当時チャンピオン)

「山場は越えたと思っていました。もちろんまだまだ勝負が決まったわけではないと思っていましたが、この戦いにおいて最も頭を悩ませていた問題が、すっと取り除かれたような気分になっていたのは確かです」

 

 その後についてはあえて書かない、それは彼の物語ではないからだ。

 だが思うに、おそらくカリンの中で彼の存在はそこまで大きくなかったのではないだろうか、これは決して彼の存在が小さいというわけではなく、つまり彼女にとって、彼は他のポケモン達と同じような存在、特別それに頼っているという存在ではなかったのではないか。彼女が禁断の力に手を出したと思っていたのは、私達だけであったのだ。

 勘違いしてはならないのは、カリンのチャンピオン決定戦進出自体には、彼の存在が必要不可欠であったと言うことだ。だがあくまでもそれはパーティの一員として、他の相棒と同等の存在として。

 

 その翌年、彼はチャンピオンカリンの最後のポケモンとして、挑戦者クロセのポケモンを二体を沈める活躍を見せるが、最終的にはニンフィアを前に敗北する。

 不思議な話だ、彼は間違いなくカントー・ジョウトリーグにおける最強議論に名を連ねて良いはずのポケモンであるのに、あまりに印象的な二つの敗北が、ある意味で当然のように見えてしまう幾多もの、現在進行形でAリーグで積み重ね続けているはずの勝利を打ち消してしまう。

 だが、そんな小さいことを気にしているのは我々のような外部の人間だけなのだろう。

 パートナーであるカリンは、彼をこう表する。

 

カリン(サザンドラのパートナー)

「可愛いところとずる賢いところがあって、バトルの後はいつもサイコソーダをねだるんです。それも倒したポケモンの数だけ。たまに一本余計にもらおうとしてブラッキーに怒られるんです。今ウチでサイコソーダを飲むのはこの子だけだから、わざわざ別に注文してるんですよ」

 

 カリンというトレーナーは、自らのポリシーをよく『星』と表現することで有名だ。

 ただ『星』に手は届かない。あるいは彼女もそれを理解して、手の届かない自分を皮肉っているのではないかと、そう揶揄されることもある。

 だが、彼はパートナーであるカリンに星を掴ませ、彼女がそれを手放すことのないように、最後まで彼女の側に立ち続けた。星は、彼と共にあった。

 悲運のトレーナーに星を掴ませた悲運のヒーローは、再び彼女に星をもたらさんと、今日も戦っている。




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