モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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19-大人のバーで神を語る

 先日、コガネシティでバッタリとイツキさんにであった。

 こういう出会いは大切にするのが僕である。ささ、早速行きましょうか、と僕達はイツキさんの行きつけのバーに行った。

 

 イツキさんは比較的に若くして世に出たトレーナーで、僕より二つか三つほど歳上なのだが、キャリアも僕より相当長い。僕はイツキさんとは十代の頃からの付き合いだが、彼の歳の取り方は理想的だと思う。若い頃ははっとするような美少年で、それはもう女性からの支持が圧倒的だった。当時のリーグトレーナーの女性ファンの七割は彼のファンであったと断言できる。

 それが今ではバーが似合う大人の男だ、対する僕はといえば何時までたっても落ち着きがなく、静かなバーよりも注文が聞こえないくらいの居酒屋の方が性に合っているといえる。

 

 ところが人は見かけによらないもので、彼は世界中を旅して己の腕を磨き、カントージョウトリーグ四天王にまで上り詰めたゴリゴリの『チャンピオンロード世代』である。

 それでいて若手の頃の狂犬振りは凄まじく、自分より格上のトレーナーを見つけたら取り敢えず噛み付いていた。最も僕はそんな彼に噛み付いていたりしてたんだけど、今ではお互いにいい思い出である。

 ナイスダンディになった今でもその心意気は変わらず、隠された牙が未だ衰えていないのはAリーグ連続在籍の記録を伸ばし続けていることからもわかるだろう。僕は思う、男であるものこうでなければならないと。つまり外面で女性に支持を得て、内面で男に支持を得る、それがイツキと言うトレーナーなのである。

 

 イツキさんはジョウトトレーナー界のドンである。カントーポケモンリーグとジョウトポケモンリーグが併合された際、ジョウト側のトレーナーで四天王になったのはカリンさんとイツキさんだけだった。ジョウト地方のトレーナーにとってカリンさんとイツキさんは憧れだったのである。そしてカリンさんが一匹狼の路線を貫いている以上、イツキさんがジョウトのトレーナーのまとめ役になったのは必然であろう。

 そんな彼と僕とでトレーナーの話が盛り上がらないわけがない。ここにクシノがいたら大変なことになっていたであろう議論が繰り広げられたわけである。

 ふと彼が漏らした「セキエイには神がいるんだよ」という言葉が、その時の僕には意外だった。僕達はそう言う運命論めいたものとは真逆にいると思っていたからだ。

「考えてみなよ、カントージョウトにはとんでもない数のトレーナーが居る、それなのに殿堂入りトレーナーは数えるほどしか居ない」

「レッドやシゲル、ワタルなんかは若くして殿堂入りを果たしているだろう? 逆に遅咲きのチャンピオンは居ない。神に選ばれた人間がチャンピオンになると言われても特に不思議はないと思うね」

「逆になんでこの人がチャンピオンになれないんだ? というトレーナーがそのまま引退することもあった。才能に愛され、神に愛されなかったトレーナーのなんと多い事か」

 耳の痛い話である。

「しかしですね、それを言ってしまうと、僕達の存在意義が無くなっちゃいますよ」

 僕のこの発言自体は、至極当然のように思えるのだが、彼はキョトンとして「え? 逆でしょ」と返した。

「そのいけ好かない神の作ったシナリオをぶち壊すのが僕達の存在意義でしょ、少なくとも僕とカリンさんはそう思ってるよ」

 そのくらい思ってないとダメでしょ、と彼はおしゃれなカクテルを一気に飲みながら言った。敵わないなあ、と思った。


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