モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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セキエイに続く日常 18-キンタマ橋で会いましょう ②

 あの夜から、一日が過ぎた。

 

 トールは部屋から出なかった。

 

 起き上がる気にもなれなかった。カーテンを開ける気にもなれなかった。腹が減っていることはわかっていたが、それがどうでもよかった。

 万年床の端に座り込んだまま、壁を眺めて、気づけば時間が経っていた。

 

 このアパートは、自分で金を出して借りている。

 当然、働かなければ家賃は払えない。払えなければ追い出される。

 

 追い出されれば、戻る場所は一つしかない。二度と帰るつもりのなかった、そして向こうも帰ってくることを望んでいないだろう、あの家だ。

 

 それはわかっていた。頭では、はっきりとわかっていた。

 

 それでも、足がすくんだ。昨夜の地下通路から、体がまだ戻ってきていないような気がした。何かをしようとするたびに、あの目が脳裏をよぎる。虚ろで、熱のない、路傍の石を見るような目が。

 

 その時だ。ドアが、激しく叩かれた。

 

 ためらいのない音が部屋に響く。続いてノブが強引に回され、ガタついた鍵が呆気なく外れ、ドアが勢いよく開いた。

 

「おいトール、生きてんのかてめえ!」

 

 親方だった。

 

「無断欠勤かましやがって、ナメてんのか!」

 

 怒鳴りながら部屋に踏み込んでくる。手にはショップの袋、中身は安弁当と冷えたスポーツドリンクだった。

 

 親方は部屋を一目見て、黙る。

 

 荒れ方と、万年床の端に座り込んだままのトールの顔を、順番に見た。

 そして、それ以上怒鳴らなかった。

 

「なんだなんだ、嫌な雰囲気だなおい」

 

 口調は荒いままだったが、散らかった床の荷物を足で退けながら弁当をトールの前に無造作に放り出す、その仕草の中に、別の何かが混じっていた。

 日雇いの頭数として、あるいはこのガキを野垂れ死にさせないための、大人としての本気の心配が、その乱暴な動きのどこかに滲んでいた。

 

「ふさぎこんでる暇があるなら、昼間暇だろ。さっさとこい」

 

 弁当を顎でしゃくりながら続ける。

 

「お前が抜けたせいで、川のヘドロが全然片付かねえんだよ」

 

 いつものトールなら突っぱねていた。

 うるせえ、ほっとけ、それだけ言えばよかった。

 

 だが、その虚勢がどこにも見当たらなかった。

 

 親方の視線が、部屋の空気を支配していた。泥水の中で働き、生活の重みをそのまま体に積み上げてきた人間の、圧倒的な現実の重さだった。

 バトルのプライドとは何の関係もない場所で、ただ地に足をつけて生きてきた人間の凄みが、どんな脅しよりも静かに、トールを圧していた。

 

 膝の上の拳を強く握りしめて、トールは顔を伏せる。

 

 そして、口を開いた。

 

 掠れた声で、ぽつりぽつりと語り始めた。昨夜の地下通路のことを。クロサワが現れて、ボスを連れて行ったこと。

 その後ろにいた、モモナリのこと。

 殺意を向けてみろと言われた瞬間、自分の体がガタガタと震えて、ボールを開くことすらできなかったこと。

 

 語りながら、自分が地下で積み上げてきたものが、いかに一瞬で、いかに惨めに、跡形もなく消えたかを、トールは初めて言葉にした。

 

 親方は黙って聞いていた。

 

 全部話し終えた後、親方は大きなため息をついた。それからトールの頭を、ぶっきらぼうに小突く。

 

「馬鹿がよ」

 

 呆れたような、しかし不思議と怒りの薄い声だった。

 

「リーグトレーナーに凄まれてビビったんだろ。あんなのなぁ、お上が公認してるだけの地方公認のマフィアみたいなもんだ。ポケモン使って合法的に『暴力』を振るうのが仕事の化け物どもだぞ。お前みたいな、ちょっと悪ぶって地下に籠もってるだけの不良の頭程度が敵う相手じゃねえよ。そりゃ当然だ」

 

 親方にとって、ポケモンリーグなどというものは、メシを食う生活の本質には何の関係もない。バトルのプライドがあろうがなかろうが、泥にまみれて生きていけるかどうかの話の方が、ずっと先にある。その現実の重さがそのまま言葉になって、トールを包み込んでいた。

 

「大体なぁ」と、親方は続ける。

 

「そのモモナリたあよお、十歳にならねえうちから、このハナダじゃ有名な『キ印』だったんだ。目があった奴に片っ端から勝負ふっかけて、野生のアーボックと素手でやり合うような狂犬だ。生まれた時からバトルの呪いに脳みそ灼かれてるような化け物と、半端に生きてきたガキのお前を比べるんじゃねえよ。そんな覚悟、持てるわけねえだろ。向こうがおかしいんだ」

 

 言い終えて、親方は立ち上がった。

 

「いいからメシ食え。明日から仕事来いよ」

 

 それだけ言い残して、背中を向けて部屋を出ていく。ドアが閉まった。

 

 静かになった。

 

 トールは、しばらくそのまま動かなかった。

 

 やがて視線を落とすと、目の前に親方が置いていった弁当があった。床には、二つのモンスターボールが転がっている。キングラーのボール。オコリザルのボール。

 

 親方の言葉は、トールのうぬぼれを解体した。丁寧にではなく、乱暴に、しかし正確に。

 

 だが、残ったものが単なる絶望ではないことを、トールは自分でも少し意外に思っていた。

 

 脳裏に、モモナリの言葉が戻ってきた。

 

 自分が勝てる相手だけを提供されて、強いつもりになってる。

 

 それは正論だった。反論できなかった。できなかったのは、言葉に詰まったからではなく、体が先にそれを認めていたからだ。

 

 では、足りなかったものは何か。

 

 それが何なのか、まだわからなかった。わかるような気もしたし、わからないような気もした。ただ、何かが足りなかったということだけは、はっきりしていた。

 

 トールは床のボールを拾い上げた。

 

 冷たかった。手のひらに、その重さと丸みがはっきりと伝わってくる。

 

 答えは、まだなかった。

 

 

 

 

 路地裏は狭く、日が差さなかった。

 

 ビルとビルの隙間に、見覚えのある顔がいくつも固まっていた。壁に寄りかかっている者、膝を抱えてしゃがみ込んでいる者、自販機の裏に身を縮めている者。昨夜の地下通路にいた連中だった。泥や埃がまだ服に残っていて、誰も一度も家に帰っていないことが分かった。

 

 トールの姿を見た瞬間、一斉に動いた。

 

「トール、良かった、トールが来た」

「地下通路には怖くて近づけねえよ、あのまま帰ったんだろうな、全員」

「ボスがリーグトレーナーの奴に連れていかれちまった、これからどうすんだよ、俺たち」

 

 声が重なって、路地裏に貼りついた。トールは歩みを止めた。

 

 昨夜あれだけ騒いでいた連中が、今は子供のような顔をしていた。縋るものを探している目だった。そしてその目が、全員トールに向いている。

 

「お前が頭をやってくれよ、トール」と、一人が言った。

 

「トールがいてくれりゃ、まだなんとかなる」と、別の一人が続けた。

 

 トールは、その言葉を聞きながら、口を開く気になれなかった。

 

 ボスがいなくなった。

 一番喧嘩が強いのはトールだ。

 だから次の頭はトールだ。

 

 その論理は単純で、この連中の思考の限界をそのまま映していた。

 だが、それを笑えるような立場に、今の自分はない。見捨てることもできなかった。ここで背を向ければ、こいつらはまた地下通路に戻るか、あるいはもっとまずい方向に転がるか、どちらかだ。

 

 腐れ縁というのは、そういうものだ、とトールは思った。

 

 仕方のないことだと思いながら、頷いた。

 

 歓声が上がりかけた。トールは手を上げてそれを制した。

 

 連中が静まる。

 

「おい、静かにしろ」

 

 声は低く、昨夜のモモナリの言葉の残滓が、まだ喉の奥に貼りついているような気がした。

 

「ネオロケット団の活動は、今日をもって、いったん全部中止にする」

 

 しばらく、誰も何も言わなかった。

 

「中止って」と、最初に口を開いたのは昨夜も声の大きかった一人だった。

 

「カツアゲも、別のシマのバトルの話もか」

「全部だ」

「俺たち、これからどうすんだよ」

「地下通路にはもう絶対に近づくな」

 

 トールは一人ずつ顔を見ながら続けた。

 

「ボスがああなったんだ、リーグのチェックが入ってる。今動いたら全員一発で終わりだ。おとなしくしてろ」

 

 不満げな空気が漂った。それでも、誰も正面から反論しなかった。

 

 昨夜のモモナリと同じ匂いがする、と思った者がいたかどうかは分からない。

 だが、トールの目が昨夜から変わっていることは、この連中にも伝わっていた。軽薄なうぬぼれが消えた目だった。それが何なのかを言葉にできる者はこの路地裏にいなかったが、正面からそれを受け止める気にもなれなかった。

 

 路地裏に、静寂が落ちた。

 

 トールは、その静寂の中で、自分の胸の奥にある冷たいものを感じていた。

 

 こいつらの頭になった。だが、もしまたあの夜のようなことが起きたら、自分にはこいつらを守る力がない。ジバコイルの電磁波が走った瞬間に腰砕けになって、ボールを開くことすらできなかった人間が、何を守れる。その問いに答えを出せないまま、王冠だけを受け取った。

 

 それが今の自分の限界だった。

 

「じゃあな」

 

 それだけ言い残して、トールは背を向けた。

 路地裏の奥から、表通りに向かって歩き出す。歩くたびに、日の光が強くなった。連中の気配が遠ざかっていく。

 

 ごっこ遊びは終わりだ。

 

 ボールの開閉スイッチも知らなかった。電磁波への対策も知らなかった。プロが当たり前のように持っているものを、自分は何一つ持っていなかった。そして何より、すべてを失ってもなお前に出る覚悟というものを、自分はこれまで一度も試されたことがなかった。試される場所に、自分から行かなかったからだ。

 

 表通りに出た。人が歩いていた。ポケモンを連れた旅行者が笑っていた。

 

 トールはそちらを見なかった。

 

 ハナダジムは、ここから遠くない。正面玄関から入ればいい。それだけのことだった。

 

 足が、前に出た。

 

 

 

 

 ハナダジムは、町の中心部にある。

 

 観光地として知られるこの町において、ジムはその象徴の一つだ。外壁は堂々としていて、扉も重い。押し開ければ、広大なプールが広がっている。水の匂いと、天井の高い空間に反響する静かな音が、外の喧騒とは別の空気を作っていた。

 

 公式戦のコートは水上に設けられており、チャレンジャーはその足元に水面を感じながら戦うことになる。観光客がこのジムの前で写真を撮っているのは、よく見かける光景だ。

 

 トールはこれまで、その扉を押したことがなかった。

 

 同じ町で、同じくらいの年齢で、表の世界に立っている人間がいる。その人間がいる場所に、自分から足を踏み入れることが、できなかった。

 

 今日、初めて、自分の手でそれを押し開けた。

 

 受付にいたのは、トモキだった。

 

 ジムトレーナーのトモキ。

 

 昨夜モモナリに、ハナダジムのトモキさんにすら劣ると言われた、その人間が、書類から顔を上げてこちらを見た。視線が一瞬止まった。トールが何者か、分かったのかもしれない。地下通路のネオロケット団が潰された話は、ジムにも入っているだろう。

 

 プロが動いたとなれば、それはすぐに噂になるだろうから。

 

 トールは、トモキの前で頭を下げた。

 

 深く、黙って、下げた。顔を上げなかった。

 

「俺に、何が足りないのか教えてくれ。頼む」

 

 沈黙があった。

 

 ジムは教育機関も兼ねる、自らのリビドーの発散の仕方がわからない、そして、それが外に向きかねない少年少女の情報は、嫌でも入ってくる。

 

 故に、トモキはトールがどういう少年なのかを知っていた。

 どういう生まれで、どういう育ちで、今何をしているか、そして、昨日何をされたのかを知っている。

 

 頭を下げたまま床を見ているトールには、トモキの顔が見えなかった。自分がどう映っているかも分からなかった。ただ、足音と、続く沈黙だけがあった。それがどれくらい続いたのか、数えていなかった。

 

 やがて、トモキが息をついた。

 

「まあ、上がれ」

 

 

 

 

 プールサイドのコートに立つと、水の匂いがより強くなった。

 

 広い空間だった。地下通路とは何もかもが違う。天井が高く、光が入っていて、足元は乾いていた。それだけのことが、妙に落ち着かなかった。

 

 トモキが向かいに立つ。トールはキングラーを出した。

 

 バトルが始まった。

 

 トモキの動きは、地下通路で相手にしてきた誰とも違った。技を出す前の間の取り方、交代のタイミング、指示の速さ。流れるような攻防の中で、トールのキングラーもオコリザルも必死に食らいついた。押されながらも食い下がった。簡単には沈まなかった。

 

 だが、こちらが一手を仕掛けるたびに、すでに対応が用意されているような感覚があった。地下では感じたことのない感覚だった。

 

 一段落して、トモキが腕を組んだ。しばらくキングラーを眺めてから、口を開く。

 

「悪くない」

 

 短く言って、続けた。

 

「基礎的な部分には問題ない。我流でやってきたにしては、一発一発の技術の質が高い。バッジの一つや二つは取れるだろうな」

 

 その言葉が、トールの胸に妙な形で刺さった。

 

 褒められている。それは分かる。

 

 だが、その言葉が正しければ正しいほど、昨夜の説明がつかなくなる。技術があるなら、なぜあの時に動けなかったのか。技術があるなら、なぜモモナリを前にして、ボールを握ったまま立ち尽くすだけだったのか。使えばいいじゃないか、技術を。

 

「だったら」

 

 声が出た。自分でも気づかないうちに荒れていた。

 

「だったら俺は何をすればいいんだ。技術があるなら、なぜあの時俺は何もできなかった。あいつの前に立った瞬間、なんで指一本動かしてボールを開くことすらできなかったんだよ」

 

 言葉が出続けた。止められなかった。

 

「俺は怖かった。ただ怖かった。それだけだ。なのに、技術があるなら何が足りないんだ。何をどうすれば、あの時の俺は動けたんだ」

 

 プールサイドに、水の音だけが響いた。

 

 キングラーが、静かにハサミを閉じた。

 

 トモキは特に焦った様子もなく、頭を掻いた。

 

「まあ、相手がモモナリなら仕方がねえよ。あいつはハナダの歴史で見てもちょっと次元が違いすぎる。まともな人間がまともに気圧されるのは当然だ」

 

 ジムは教育機関も兼ねる、自らのリビドーの発散の仕方がわからない、そして、それが外に向きかねない少年少女の情報は、嫌でも入ってくる。

 

 故に、トモキはモモナリがどういう少年なのかを知っていた。

 どういう生まれで、どういう育ちで、今何をしているか、そして、昨日何をしたのかを知っている。

 

 その言葉は、慰めとしては十分だった。

 

 だが、トールの中にある何かが、それで納得することを拒んでいた。

 

 モモナリが異常だから仕方ない、それは分かる。

 

 だがそれで終わりにしてしまえば、あの夜の自分は、ただ運悪く化け物に出会っただけになる。それだけのことなのか、という引っかかりが、胸の奥から消えなかった。

 

 それだけは認めたくなかった、それを認めてしまえば、自分のこれまでの人生をすべて否定するような気がした。

 

 技術の問題ではないとトモキ自身が言った。では何が問題なのか。恐怖か。経験か。それとも、もっと別の何かか。言葉にならないまま、答えの手前で止まっていた。

 

 その時、プールサイドに足音が響いた。

 

 振り返ると、少女が立っている。

 

 トールと、さして年が変わらない。髪をサイドテールにまとめていて、ジムの奥から歩いてきたその姿には、トールが今まで地下通路で見てきた誰とも違う、静かな重さがあった。

 

 カスミだった。

 

 十代でジムリーダーの座についた。ハナダが生んだ、もう一人の天才と呼ばれている。

 

 トールがこの町の地下に潜っていた間、同じくらいの年齢の少女が表の世界でジムを束ねていた。トールはカスミのことを知っていた。知っていながら、正面から見ることを避けてきた。同じ町に生まれて、同じくらいの年齢で、あちらは表の世界に立ち、こちらは地下に潜った。その差を直視することが、できなかった。

 

 今、その人間がこちらを見ている。

 

 カスミはトールを一瞥してから、トモキに視線を向けた。トモキが小さく頷く。それだけで何かが伝わったのだろう、カスミは腕を組んで、改めてトールを見た。

 

「バトルを見てたわ」

 

 静かに言った。

 

「技術は悪くない。むしろ高い。トモキの言う通りね」

 

 そこで一度、言葉が切れた。カスミは水面をちらりと見てから、続けた。

 

「ねえ、トール。あなたに足りないのは、技術じゃないと思う」

 

 トールは、その言葉の続きを待った。

 

「『バトルとの向き合い方』よ」

 

 その言葉が、胸の奥で何かを叩いた。

 

 バトルとの向き合い方。

 

 意味は分かる。だがその言葉が具体的に何を指しているのか、摑もうとすると、するりと逃げていく。

 

 自分がこれまでバトルをどう扱ってきたか、考えようとすると、何かが邪魔をするような感覚があった。引き出しの奥に押し込んで、鍵をかけてきたものに触れるような感覚とでもいうか。それが何なのかは、まだ分からなかった。

 

「自分が何のために戦っているのか、もう一度よく考えなさい」

 

 カスミはそれ以上の言葉を継がなかった。答えを与えなかった。問いだけを残して、それで終わりにした。

 

 トールはプールの水面を見た。

 

 コートの照明が水に映って、揺れている。その中に、自分の顔も映っていた。歪んで、揺れていた。

 

 何かが足りない、ということだけは分かった。

 

 それが何かは、まだ分からなかった。分かりそうで、分からなかった。

 

 

 

 

 泥の匂いが、まだ体に残っていた。

 

 仕事を終えてから着替えたが、それでも落ちないものがある。汗と、ヘドロと、運河の底の匂いが皮膚に染み込んでいて、シャワーを浴びても完全には消えない。それを引きずったまま、トールは毎日ジムに来た。

 

 夜間の練習コートは、一般営業が終わった後に門下生たちに開放されている。天井のライトが白く、プールの塩素の匂いが空気に満ちていた。

 

 トールのキングラーが、また相手のポケモンを叩き伏せた。

 

 大きなハサミが着地するたびに、コートが揺れた。相手のジムトレーナーが呆然とした顔で倒れたポケモンを見ている。

 驚いているのか、諦めているのか、その区別がトールにはもう分からなくなっていた。

 

 勝ちを重ねてきた。ジムの中で、トールに勝てる門下生はほとんどいない。

 

 技の威力も、ポケモンの闘争心も、普通のトレーナーが相手にできるレベルではなかった。

 

 だが、一ミリも満たされなかった。

 

 どれだけ勝っても、どれだけ相手を押しのけても、胸の中の何かは埋まらなかった。脳裏に、あの夜の声が戻ってくる。

 

 君は負けても失うだけだ、ただただね。

 

 その言葉が、勝った瞬間にこそ鮮明によみがえる。追い払おうとするほど、鮮明になる。だから翌日もジムに来て、また誰かを叩き伏せる。それを繰り返していた。

 

 トモキが、コートの端から眺めていた。

 そして、立ち上がる。

 

「よっしゃ、次は俺とやろうか」

 

 

 

 

 トモキとのバトルが始まると、空気が変わった。

 

 トールは最初の一手から、全力で押しに行った。勝たなければ意味がない。相手を叩き潰すことでしか、この胸の中の何かを黙らせる方法が分からなかった。キングラーを前に出して、力押しで圧倒しようとした。

 

 だが、押せなかった。

 

 トモキの動きには、余分なものがなかった。感情がなかった。トールの攻撃を受けるべき時は受け、捌くべき時は捌き、返すべき時だけ返す。焦りを誘うような間を作って、トールが強引に動いた瞬間に、タイプ相性の冷徹な計算が差し込まれてくる。それがどれほど正確なのか、食らうたびに分かった。

 

 トールはもっと力を込めた。殺気を乗せた。相手を尊厳ごと叩き潰してやるという執念で指示を出し続けた。

 

 空回りしていった。

 

 焦れば焦るほど、指示が硬くなった。次の手を考える前に、ただ力任せに押しつけるだけになった。トモキはそれをいなした。いなして、崩して、最後だけ静かに締めた。

 

 キングラーが倒れた。オコリザルも続かなかった。

 

 トールは膝をついた。

 

 息が荒かった。悔しいとか、怒りとか、そういう感情を言葉にする気力が湧いてこなかった。ただ、膝をついたまま、床を見ていた。どれだけあがいてもトモキには届かない、その現実が、今夜もまた同じ場所に積み重なった。

 

 負けた、という事実が、胸の奥から這い上がってくる。負けた、という事実が何を意味するのか、トールは分かっていた。

 自分の尊厳がまた一枚剥ぎ取られた、ということだ。それだけだ。勝てなければ、自分には何も残らない。そういうものだと、ずっと思ってきた。

 

 床が、冷たかった。

 

 トモキがポケモンをボールに戻す。それから、足音が近づいてきた。

 

 トールは顔を上げなかった。あげることができなかった。

 

 トモキはしばらく、黙ってトールを見ていた。

 

 今夜だけではなかった。この数日間、毎晩このコートでトールのバトルを見てきた。勝った時も、負けた時も。その全部を見た上で、トモキにはようやく摑めてきたものがあった。

 

 言葉にするのは難しかった。技術の話ではない。戦略の話でもない。もっと手前にある、何かだ。その何かが、トールのバトルの節々に滲み出ていた。勝ちに行く時の力の入り方と、押し返された時の崩れ方の、その落差。焦りが走った瞬間に変わる指示の質。それらを見続けて、トモキはおよそのところを掴んだ。

 

 だが、カスミはあの最初の手合わせの後、数分と経たずにそれを口にしていた。

 

 バトルとの向き合い方。

 

 トモキが数日かけて辿り着いたものを、カスミは初日に見抜いていた。

 ジムリーダーというのはそういうものかと、改めて思った。自分とは、見えているものの解像度が違う。

 

 トールは床を見たまま、動かなかった。自分から再戦を請う言葉も、出なかった。出るはずがなかった。またあの敗北を味わうことへの恐怖と、しかしここで立てなければ終わりだという感覚が、両方同時に体を縛っていた。

 

 トモキは、それを見て口を開いた。

 

「おい、トール」

 

 淡々とした声だった。

 

「次はカスミさんが相手をしてくれるってさ。お前のそのバトルの向き合い方、ジムリーダー直々に叩き直してもらいな」

 

 一拍おいて、続けた。

 

「立てよ」

 

 その言葉が、トールの胸に落ちた。

 

 落ちて、広がった。

 

 カスミ。

 

 ジムリーダー。あの人間が、自分のバトルを見た上で、直々に相手をする。それが何を意味するのか、考えた瞬間に、心臓が凍りつくような感覚が走った。

 

 逃げれば終わりだ。不良としての、勝負師としてのプライドが、完全に死ぬ。だが、このまま立ち上がってカスミの前に出ても、この歪んだ心のまま戦えば、モモナリの言葉が現実になるだけだ。負けても失うだけの、無価値な敗北をもう一度味わう。尊厳の残滓が、また一枚消える。

 

 どちらに動いても、破滅しかなかった。

 

 出口が、なかった。

 

 トールは床を見たまま、動けなかった。プールサイドのライトが、白く、冷たく、頭の上から降り注いでいた。

 

 

 

 

 体が、重かった。

 

 スコップを動かすたびに、昨夜のコートの感覚が残っていた。膝をついた時の冷たさ、息の荒さ、トモキの足音が近づいてくる音。それらが体のどこかに貼りついていて、剥がれなかった。仕事の動きがいつにも増して鈍いことは、自分でも分かっていた。筋肉が疲弊しているとか、睡眠が足りていないとか、そういう話ではなかった。もっと芯のところに、何か詰まっているような重さだった。

 

 ゴールデンボールブリッジの近辺は、今日も観光客が多かった。橋の上を人が行き交い、ポケモンを連れた旅行者が欄干から身を乗り出している。その頭上の景色を、トールはほとんど見ていなかった。

 

 見てしまったのは、偶然だった。

 

 スコップを一度止めて、顔を上げた瞬間だった。

 

 橋の上を、一人の少年がふらふらと歩いていた。

 

 見覚えのある歩き方だった。目的地があるのかないのか分からないような、あのきょろきょろとした動き。一瞬だったが、それだけで分かった。

 

 体が、固まった。

 

 見つかりたくなかった。合わせる顔がなかった。昨夜のコートで膝をついたまま動けなかった自分が、あの男の前に立つことを、全身が拒んでいた。反射的に、トールは近くで作業していた親方の背中に回り込んだ。

 

 親方の背中は、広かった。

 

 親方は振り返らなかった。だが、トールの動きに気づいていないはずはなかった。少しだけ足を広げて、立ち位置を変えた。それだけだった。何も言わなかった。ただその広い背中が、橋の方を向いた。

 

 橋の上のモモナリが、一瞬こちらに目を向けた。

 

「何か用か」

 

 親方が、平坦な声で言った。見上げるでもなく、睨むでもなく、ただ仕事をしている人間の顔のまま、それだけを言った。

 

 モモナリは「いいえ」と答えて、視線を外す。

 

 トールは親方の背中の後ろで、息を殺していた。ハイティーンの体が、大人の背中に隠れている。それがどういう図かは、分かっていた。分かっていても、動けなかった。

 

 

 

 

 しばらくして、橋の上が少し騒がしくなった。

 

 子供の声だった。

 

「おいお前、リーグトレーナーなんだろ!」

 

 トールは顔を上げた。

 

 短パンを履いた小僧が、モモナリの前に立ちはだかっていた。泥だらけの短パンで、バッジも何も持っていないような年齢だった。カントーのどこにでもいる、普通の子供だった。

 

「俺と勝負しろ! 俺のコラッタは強いんだぞ!」

 

 大声だった。怖いもの知らずの、無邪気な大声だった。

 

 トールは親方の背中越しにそれを見ながら、心の中で毒づいた。

 

 バカが。早く逃げろ。あいつがそんな雑魚の相手をするわけがない。

 

 自分という、ハナダジムの上位に食い込めるだけの力を持つトレーナーが、得るものが何もないと虫ケラのように切り捨てられた。それがあの男だ。コラッタの一匹や二匹、一瞥して終わりに決まっている。早く行け。そう思いながら、目が離せなかった。

 

 モモナリが、子供を見た。

 

 その口元が、わずかに緩んだ。

 

「うん、いいよ」

 

 間もなく、嬉しそうに言った。

 

「やろうか」

 

 トールは、その言葉を聞いた瞬間、スコップを持つ手から力が抜けた。

 

 なんでだ。

 

 声が、出なかった。出るはずがなかった。親方がこちらを一瞬見たが、トールは気づかなかった。

 

 なんであいつは、あのガキの勝負は受けるんだ。俺のキングラーやオコリザルは、あんなコラッタの何百倍も強い。基礎の質だってプロ並みだと言われた。技術の問題ではないとも言われた。なのに俺は得るものが何もないと切り捨てられて、あのガキは選ばれるのか。

 

 橋の上でバトルが始まった。

 

 モモナリが繰り出したのは、ゴルダックだった。

 

「『たいあたり』!」

 

 コラッタが突進する。

 

「『ねんりき』」

 

 ゴルダックがそれを受けた。受けて、軽く体重を乗せ返して、弾く。コラッタが体勢を崩してよろめく。

 

「『でんこうせっか』!」

 

 子供が叫んでもう一度指示を出す。

 コラッタが今度は速く動いた。ゴルダックが半歩引いて、それを躱す。

 

 トールには分かった。

 

 ゴルダックは、本気を出していない。出そうと思えばいつでも出せる。あの体から放てる力の何分の一かで、今は動いている。それでいて、崩れなかった。コラッタの必死な攻撃を、余力を残したまま丁寧にいなし続けていた。

 

 そして、モモナリの目が、違った。

 

 あの夜の、虚ろで冷たい目ではなかった。熱があるわけでもなかった。だが、穏やかだった。コラッタの動きを追いながら、何かを確かめるような、静かな目だった。嬲っているのではない。叩き潰そうとしているのでもない。ただ、バトルそのものに向き合っているような目だった。

 

 トールは、泥の中に立ったまま、動けなかった。

 

 あいつ、楽しそうにしてる。

 

 あの雑魚の相手を、手加減しながら、楽しそうにしてる。俺に対しては百パーセント俺が勝つと冷たい声で言って、刃物みたいな目を向けてきた男が、コラッタ一匹の相手をしながら、あんな目をしている。

 

 バトルはほどなく終わった。コラッタが倒れて、子供が悔しそうに声を上げた。モモナリが何か言って、子供が笑った。

 

 トールには、その声が遠かった。

 

 なぜだ、という問いだけが、頭の中を満たしていた。

 

 なぜ俺ではなく、あの子供なのか。何が違うのか。強さではないなら、何なのか。カスミの言葉が浮かんで、しかし答えにならなかった。霧の中に手を伸ばしているような感覚だけがあって、何も摑めなかった。

 

 橋の上で、モモナリがまたふらふらと歩き出した。

 

 トールはその背中が見えなくなるまで、泥の中で立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 橋の向こうに、モモナリの姿が消えた。

 

 川のせせらぎが戻ってきた。ヘドロの臭いも、観光客の話し声も、変わらずそこにあった。何も変わっていなかった。ただトールだけが、泥の中で棒のように立ち尽くしていた。

 

 ズブッ、と、重い音がした。

 

 親方がスコップを地面に突き刺して、大きく息をついた。それから振り返って、トールを見た。

 

 何も言わなかった。しばらく、ただ見ていた。

 

 作業着のポケットからタバコを取り出して、火をつける。紫煙を一口吐き出してから、橋の方を親指で指した。

 

「おい、トール」

 

 低い声だった。

 

「別にあんなのと同じ土俵で争って、劣等感を覚える必要なんてなくないか」

 

 トールは答えなかった。

 

 親方はタバコを一口吸ってから、続けた。

 

「あいつは生まれた時からの『キ印』だ。まともな人間が比べるような相手じゃねえよ。戦うことが生きることになってるようなマフィアの波長に、お前が無理に合わせる必要なんかどこにあるんだよ」

 

 タバコの煙が、川の上に流れていく。

 

 苦い顔で、続けた。

 

「お前はまあ、この前無断欠勤はしやがったが、こうして泥にまみれて、それなりに真面目に働いているじゃないか。このヘドロ浚いのきつい仕事を、黙々とこなせる十七歳のガキが今時どれだけいると思う。お前はちゃんと自分の力でメシを食おうとしてる。それだけで、十分に立派だろ」

 

 不器用な言葉だった。しかし本気だった。

 

 親方がバトルの勝ち負けに何の価値も置かない人間だということは、トールには分かっていた。リーグトレーナーをマフィアと呼ぶ人間だ。地に足をつけて泥水をすすりながら今日を生きることの方が、どんなバトルの結果よりも先にある、そういう価値観で生きてきた人間だ。その人間が、今この瞬間、自分に向かって本気で言っている。

 

「あぁ」

 

 トールは、泥水を見つめたまま言った。

 

「分かってるよ、親方」

 

 声が掠れた。遮ることも、反論することも、しなかった。親方が自分を心配して、慰めて、前を向かせようとしてくれていることは、痛いほど伝わっていた。真面目に働いて生きているだけで立派だという言葉が、人間として百パーセント正しいことも、頭では分かっていた。

 

 だから、飲み込んだ。

 

 だが、飲み込んだその奥で、何かが暴れた。

 

 嫌だ。

 

 言葉にならないまま、それだけがあった。それだけで立派だという言葉に甘えて、ここで引き下がることへの、本能的な拒絶だった。親方は間違っていない。正論だ。優しさだ。だからこそ、それに頷いて収まってしまうことが、どうしても嫌だった。

 

 ここで納得したら、あの夜のままだ。

 

 モモナリに君は負けても失うだけだと切り捨てられた、あの夜の空っぽのままだ。カスミに向き合い方を問われたまま、答えを出さないまま、一生あの背中から逃げ続けることになる。それが嫌だった。それだけが、今の自分の中で、唯一はっきりしていることだった。

 

 トールはスコップを引き抜いて、握り直した。

 

 親方はもう何も言わなかった。タバコを一口吸って、自分のスコップに手を伸ばした。

 

 表面上のざわめきは、収まっていた。

 

 だが、トールの瞳の奥では、何かがまだ燻っていた。答えの出ない問いと、納得のいかない焦燥と、それでも消えない執念が、暗く、静かに、火を保ち続けていた。

 

 

 

 

 橋の上には、光が降り注いでいた。

 

 初夏のぎらついた光が、遮るものなく広場を白く照らしている。ヘドロの臭いはここまで届かない。代わりに、子供たちの笑い声が響いていた。

 

 トールは仕事を一時抜け出して、橋の袂まで歩いてきた。

 

 最初は理由が分からなかった。気づいたら足がそっちに向いていた。

 

 視線の先に、短パンの小僧がいた。

 

 負けていた。コラッタと一緒に、さっきモモナリに完敗したはずの子供だ。だが、その顔には悲壮感の欠片もなかった。

 他の子供たちに交じって、ボールを構えて、いけーっと叫びながら泥臭いバトルを再開していた。コラッタが相手のポケモンに突進して、弾かれて、また立ち上がる。少年が笑い声を上げた。

 

 リーグトレーナーと戦ったという事実が、彼らには勲章として機能していた。負けたことなど、もうどこにもなかった。

 

 トールは、その光景を前に、立ち止まった。

 

 たまらなかった。その言葉しかなかった。自分の中にある何かが、それを許せなかった。トールは広場を横切って、少年の前に影を落とすように立った。

 

「おい」

 

 少年が顔を上げた。

 

「お前、悔しくねえのかよ」

 

 少年はポカンとした顔をした。ボールを抱えたまま、突然現れた泥だらけの兄ちゃんを見上げて、戸惑っている。

 

 子供が怯えていることに、トールは気づいた。自分の体格と、自分の顔から漏れ出しているものが、目の前の子供を怯えさせている。

 それが分かって、激しい自己嫌悪が走った。だがここでキレたら完全にただの不審者だ。奥歯を噛み締めて、喉の奥で舌打ちを殺した。声を限界まで低く抑えて、続けた。

 

「さっきのバトルのことだよ。手も足も出なくて、ボロ負けして、おまけに思いっきり手加減までされてよ。お前、それが悔しくねえのか。屈辱じゃないのか。舐められて恥ずかしくねえのかって聞いてんだよ」

 

 少年の顔が変わった。

 

 戸惑いが、怒りに変わった。楽しい時間に泥を塗られた子供の、純粋な怒りだった。キッとトールを睨みつけて、口を開く。

 

「いじわる言うなよ」

 

 一歩も引かなかった。

 

「負けたけど、コラッタは『つぎは絶対ぶっとばす』って超怒ってて、さっきより格好いいんだもん。また何回もやればいいじゃん」

 

 トールは、その言葉を聞いた瞬間、何かを言い返そうとした。

 

 負けたら終わりだろ。負けたら全部なくなるんだろ。それのどこがいいんだ。そう言おうとして、喉の奥で言葉が引き裂かれた。

 

 目の前に、コラッタがいた。

 

 さっきのバトルで傷ついたはずの体で、それでも前を向いて、少年と一緒にトールを真っ直ぐに睨みつけていた。敗北を恥じていなかった。戦う前より強い目をしていた。

 

 終わっているのは、どちらか。

 

 その問いが、頭の中に落ちてきた。

 

 トールの右手が、腰のボールにかかった。

 

 力で分からせてやろうか、という思考が走った。キングラーを出して、このコラッタをねじ伏せて、負けたらどうなるか教えてやろうか。その考えが一瞬、本気で頭をよぎった。

 

 指先が、震えた。

 

 違う。

 

 自分が何をしようとしているのか、分かった瞬間に、全身から何かが抜けた。このガキを力で黙らせて、それで俺に何が残る。それで俺が強くなったことになるのか。ただの八つ当たりだ。子供のコラッタに八つ当たりする大人だ。それのどこが、強さだ。

 

 無様すぎる。

 

 その言葉だけが、頭の中に残った。

 

 トールはボールから手を離して、深く息を吐いた。それから、何も言わずに背を向けた。子供たちの笑い声の中を、泥だらけのまま、光の当たる広場から這い出るようにして歩き出した。

 

 背中に、声が飛んできた。

 

「いくじなし!」

 

 足が、止まりかけた。

 

 止まらなかった。止まれなかった。あの夜、地下通路でボールを開けなかった自分。親方の背中に隠れた自分。

 

『いくじなし』文字通り、その全部を、真っ直ぐに射抜く言葉だった。

 

 トールは拳を握った。手のひらに、爪が食い込んだ。

 

 顔を伏せたまま、歩き続けた。




次回投稿は6/11です。



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