モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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22-僕のとても長い一日

 この話を、書け書けとありとあらゆる方面から言われた。挙句の果てにはリーグの相手トレーナーにも言われる始末である。

 本誌の担当も、催促の手紙がひっきりなしに届くという。僕としてはこの話はありとあらゆるところでさんざん話したことなのではあるが、これで一週埋まるなら万々歳である。

 

 その日、僕は朝早くに起きた。何の事はない、そうしなければラジオに間に合わないからだ。

 「オーキドはかせのポケモンこうざ」僕が出演する最後の日は、僕が育てているタマゴをスタジオに持って行って、動いている様子や中から殻を叩く音を聞いてもらうと言う段取りだった。僕としてもこれを断る理由はない、人間、そのくらいのサービス精神無くては人生楽しくない。

 しかし、このタマゴを外に持ち出すのが一苦労なのだ。僕のポケモン達が有りもしない母性本能をくすぐられていた事は前にも書いたと思うが、僕が寝ている間はゴルダック、アーマルド、カバルドンの三匹がガッチリとタマゴを守っているのだ、さすがにこの三匹からタマゴを奪おうと考える野生のポケモンは居ないだろう。

 この子煩悩共の親ばかっぷりときたら、僕への忠誠心を軽く上回っている。『お前のような奴にこの子を任せられるか!』ってなもんである。僕の朝はこのピリついた三匹を説得して、なんとかタマゴを明け渡してもらうところから始まった。

 

 さて、文明の利器というものは非常に便利なもので、ヤマブキからコガネまではリニアでピュンである。こんなにも安全にカントージョウトを行き来できるとは子供の頃は思いもしなかったなあ、と思っていた。ここらへんで胸に抱えたタマゴがコンコンと非常に元気に動いていたので「これは番組も盛り上がるなあ」とのんきに考えていたのである。

 

 「オーキドはかせのポケモンこうざ」では、一週間頑張った僕へのご褒美に、サプライズでケーキを用意してもらったり、非常に珍しいヤンヤンマの大量発生が起きて番組が一時盛り上がったり、非常に楽しく進んだ。

 そしてタマゴの話題になり、僕は満を持してタマゴをマイク前に置いたわけだ。

 僕の思い通り、タマゴは非常に元気にノックを聞かせてくれて、番組を聞いてくれた人も満足していただけたと思う。オーキド博士もタマゴやフカマルについての話や、教え子であるウツギ博士のこぼれ話などしてくれた。

 

 一番先に異変に気づいたのはクルミさんだった。

「あれ? これ割れてませんか?」

 え? と僕はデスクを回ってクルミさんの方からタマゴを見た。

 すると、ヒビが入っていた、入っていたと言うより現在進行形でヒビが増えていた。

「あ、生まれる!? これ生まれます!」

 あんなに素っ頓狂な声を出したのは生まれて初めてだと思う。

 ええ! とクルミさんもオーキド博士も慌てふためいた、もちろん一番慌てていたのは僕である。そしてその間もラジオは続いている。

「え!? これどうすれば!?」

「触らないほうがいいぞ!」

「だけど、あれ、机ビチャビチャになりますよ!?」

「構いませんよ! うわー凄い! 孵化ですよ孵化! 私初めて見ます!」

 こういう時に百戦錬磨のクルミさんは強い。この一言でこのスタジオ内で孵化をさせるというのは決定事項となったのである。

 その時、僕の腰のボールの一つがブルブルと震えだしたのである。

 僕はまずいと思った。一応僕もプロだから、モンスターボールは最高級のものを使用してはいる。しかし、これはちょっとただ事ではない。

「オーキドさん! クルミさん! 僕から離れて!」

 オーキド氏は察するのが早かった、彼はクルミさんと彼女のペルシアンを誘導してサッとスタジオの隅に逃げてくれた。さすがは過去にトレーナーとしてブイブイいわせていただけのことはある。

 それを確認してから僕はアーマルドをボールから繰り出した。ボールが壊れる事はないと思うが、万が一である。

 皆さんに報告しておく、あの時に聞こえたなにか凄い鳴き声というのは、僕のアーマルドです。

 そうして僕とアーマルドとオーキド博士とクルミさんとペルシアンは、フカマルがタマゴの殻を少しずつ割って出てくる様子を固唾を呑んで見守っていたわけである。

 ちなみにこの時、すでに番組は終了の時間だったらしいが、スタッフの判断でそのまま垂れ流しだったらしい。

 

「わぁ、可愛いですねぇ」

 クルミさんは、手と服がベトベトになるのを全く気にせず、生まれたばかりのフカマルを抱きかかえた。

 ペルシアンとアーマルドはそわそわと落ち着かない。じゃあなんでお前は出てきたんだ。

「ふむぅ、背びれに切れ込みがない、ということはこの子はメスじゃなぁ」

 この二人の肝の座りようには敵わない。

 僕は僕で、生まれたばかりのフカマルに上げるミルクを作るのにテンヤワンヤしていた。生まれたばかりのポケモンは殻を破るのにエネルギーの殆どを使っているので、すぐにミルクを与えなければならないのは、僕の横でオーキド博士が言っていたとおりだ。

 ラジオ局からお湯を借り、煮沸消毒した哺乳瓶でミルクを作り、ゴルダックと協力してそれを人肌まで冷やす。一応常にセットを携帯していたとはいえ、こうなるとは思わなかった。

 そうしてフカマルがミルクを飲んでぐっすりと眠り、僕がそれをボールに入れるまで放送は続いていた。この間、局の電話は鳴りっ放しだったらしい。ちなみに僕のポケッチにも不在着信とメールがどっさりだった。

 

 この場を借りてもう一度謝りたい、コガネラジオ塔の皆様、「オーキドはかせのポケモンこうざ」スタッフの方々、オーキド博士、クルミさん、番組を楽しみにしていた方々、本当に申し訳ありませんでした。

 

 その後僕はラジオ局の隅から隅まで頭を下げて回り、スタッフやクルミさん、オーキド博士との打ち上げも早々に切り上げ(これが一番ダメージがデカい)家に帰ると今度はポケモンとフカマルとの顔合わせである。

 トレーナーになってから結構経つが、こんなにも疲れたのは初めてだった。

 これが、事件の全貌である。




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