モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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30-異次元

 今年もカントー・ジョウトポケモンリーグが開幕した、僕はなんとか初戦を勝って一勝無敗でトップタイである。

 今年のBリーグは、かなり激しい状況となっている。まず、Cリーグからの昇格組はクロセ、シンディア、シバとなっている。この三人はCリーグの器でないとともに、Bリーグでも上位を狙えるほどの実力がある。これまで、昇格したトレーナーはリーグ間の壁に苦しむ展開が多く、昇格者がそのまま降格者になることも少なくはなかったが、この三人に限ってはそのようなことはないだろう。

 また、BリーグからCリーグに降格した三名は皆ベテランのトレーナーである。僕にとっても対岸の火事ではない、気がつけばBリーグにもベテランのトレーナーは少なくなっている。世代交代の波が押し寄せてきているのは間違いないと思う。

 

 先日、クロサワさんとバッタリ出会った。彼は僕よりいくつか年齢が上のベテラントレーナーであり、前年度Bリーグ順列九位である。

 彼は酒が好きなトレーナーである。僕はこれはいい友を得たと思い「今晩どうですか」と誘った。

 ところが彼は、首を振ってそれを断った。僕はとんでもなく驚いた。これは事件だ、それもとんでもない事件だ。カンナさんが心変わりして炎ポケモンのエキスパートを目指す宣言をするレベルである。

「今年は酒もギャンブルもタバコもやらないようにしたんだ」と彼は辛そうに言った。彼はギャンブル好きとしても有名で、なんというか、非常に古いタイプの刹那的なトレーナーだといえる。

 一瞬嫌な予感がして、体ですか? と僕は聞いた。すると彼は「今更そんなことに未練はねーよ」と僕を小突いた。

 

 タバコを抜くと、コーヒーがまずいんだ。と彼は喫茶店でもマトマジュースを飲んでいた。僕は彼が酒とコーヒー以外のものを飲んでいるのを初めて見た。

「もう未練はないんだ、本当に」と、彼は笑った。

「若手の頃は、俺こそが一番才能があると思ってたし、チャンピオンにだって当然なれると思っていたが、俺よりもはるかに才能がある連中を目の当たりにし続けてしまったからな。Cに落ちたら引退するよ、もう上がり目はないだろうから」

 僕は、なんとなくその言葉を受け入れていた。クロサワさんならそう思っていても不思議ではないと思った。

「けど、今年は頑張るぜ、今年だけは頑張る」

「今年のBは異次元だ。将来必ず語られるようになるだろう。だから何が何でも名を残してやる、チャンピオンになることは出来なかったが、将来のチャンピオンに一太刀入れることならできる。そのチャンスは今年しかねえ」

 彼は、本人の才能も素晴らしいが、トレーナーの才能を見ぬくことにも長けていた。キシの名を誰よりも先に広めたのは彼である。シンディアの移籍時にも「トレーナーとしては大歓迎だが、リーグトレーナーとしてはあまり嬉しいニュースではない」とコメントしている。

「酒やタバコがあるとダメだ、負けに言い訳ができる。キシ相手には不甲斐ない戦いをしちまったからな、今度は健康体で挑むぜ」

 僕は、彼と考え方が似ている部分がある。僕達は古いトレーナーだから。

 だから僕は、彼に問いかけた。

「歴史に名前を残したいわけじゃないでしょう? 将来のチャンピオンがふとあなたを思い返した時に、強いトレーナーだったと思ってくれれば、それでいいんでしょ」

 彼はニッと笑って、残っていたマトマジュースを一気に飲んだ。マトマジュースといえばそのあまりの辛さゆえ、チビチビと飲むのが普通である。それは気付けだったのだろうと思う。




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