モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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38-好きなポケモン

 先日、僕はプライベートでトキワジムにお邪魔した。

 Aリーガー効果はすごい、行くとこ行けばバンバン声をかけられる。プライベートとはいえリーグトレーナーは客商売の側面もある、迷えるジムトレーナー達の悩みにはバンバン答えてあげた。答えてる僕自身も結構悩みを抱えていたりするのだがそんなもんはお構いなしである。

 さて、もちろん僕は悩めるジムトレーナー達を救うためにトキワジムに訪れたわけではない、ジムリーダーシゲルとの調整試合が目的である。

 シーズンオフとはいえカントー最難関ジムで調整試合ができるとは、持つべきものは友である。

 今回はガブリアスを中心にしたパーティを試した。書き損ねていたが、チャンピオン決定戦から数日後にガバイトが進化した、ドラゴンポケモンであることを考えるとかなり速いペースである。一気に大きくなった体に我が家(僕一人とポケモン達)は大困惑である。

 ガブリアスは思った以上の働きをした。木の実大好きとはいえやはりドラゴンである。

 シゲルは「使うのか?」と意外そうだった、当然である、僕との付き合いが長ければ長いほどそう思うだろう。

 

 僕はずっと『何が何でもガブリアスやドラゴンポケモンを使わない、むしろ使ってたまるか、ゴリゴリに対策してやる』という側だと思われていた。いや、僕自身もちょっとだけそういった立ち位置が居心地良かったのは確かである。

 『強いポケモンを使う』と言うのは何か違うのではないかと思っていた。むしろ『強いポケモンを作り出す』事がトレーナーである意義だと思っていた。

 だからワタルさんからタマゴをもらった時にも、孵化した時にも、進化した時にも、ガブリアスをパーティに組み込むかどうかというところは何となく考えないようにしていたような気がする。現実感がなかった。

 しかし、家族の一員としては早くから歓迎ムードだった。寝て起きてバトルしてまた寝るをかれこれ十数年は繰り返してきたオッサンと仲間達である。突如現れた無邪気で好奇心旺盛な末妹にゴツくて硬いポケモン達はメロメロだった。ある種箱入り娘的に育てられたと言っていい。

 

 最近、僕は外では半袖を着ないようにしている。今年の夏は地獄だった。

 理由は右腕の傷跡だ、僕がフカマルに噛まれた時結構縫ったのだが、その後が割とくっきり残ってしまっているのである。あまり見せても気持ちのいいものではないし、逆にやたらに興味を持たれても困る。仕方なしにやっているのであるが、ファッションセンスが上がったとよくからかわれる。

 また、フカマルへの配慮もあった。僕が怪我をしてから彼女はちょっと覇気をなくしていた、故意では無かったにしろ罪悪感があったのだろう。完治してから僕はなるべく彼女の前で右腕を動かしてみせた、こういう時には僕達人間側が仕方ないと割り切ってポケモンに歩み寄るしか無いと僕は思う。

 

 彼女がガブリアスに進化した日、僕がロフトベッドで寝ていると(家ではなるべくポケモンをボールから出すようにしているので、寝返りで潰されないために)右腕のくすぐったさで目を覚ました。

 電気をつけるとガブリアスと目があった。彼女は気まずそうに目を伏せた。僕の右腕、特に傷跡の部分は濡れていた。

 そう、彼女は僕の傷跡を舐めていたのである。ガブリアスになってようやくロフトベッドに届くようになったのだ。

 その時、僕はガブリアスがとても愛おしく見えた。ドラゴンタイプを育てるのは初めてだったが、心優しい良いドラゴンに育ったと思う。

 僕はその右腕でガブリアスの頭をなでてやると、ベッドを下りてその夜は彼女と共に眠りについた。その日以来、ガブリアスが僕の傷を見て落ち込むことはなかった。

 

 好きなポケモンと一緒に戦って何が悪い。




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