モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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42-碧眼の子供達

 自分では気づかないものなのだろうが、寝て起きてバトルして寝てる間に僕もオッサンになった、気づけば「~さん」と呼ぶことは少なくなり「~君」とか「~ちゃん」と人を呼ぶことが多くなった。

 若くて血気盛んなトレーナー(最近は少なくなったように思う)を見て「まるで過去の自分を見ているようだ」となることもある。うわー、おっさんだよ僕。僕が僕というのは文章上のものであり、実際の僕は僕なんて言わないが、そろそろ本気で僕とか私とか言わないといけないかもしれない。

 なんで今になってこんな事を思うのかというと、全部クシノが悪い。

 

 僕はAリーグ二勝二敗で何とか踏みとどまり望んだ五戦目、相手はシバタ君、四戦全勝である。勘弁してくれ。

 勝利の内容もすごい、キシ、ワタル、キリュー、クロセ、当たり年である。と言ってもAリーグではどこ切り取っても凄いのだが。

 しかし、僕としてもここに勝てばまだチャンスがある、口で勘弁してくれと言いつつ、心は若く闘志を燃やして望んだ。

 結果から言うと、僕は勝った。売店などで売っているスポーツ紙の一面を堂々と飾ってくれたからご存じの方も多いだろう。キクコさんは言っていた「負けてニュースになるのが一流だ」と、僕もまだまだである。逆にシバタ君は一流である。

 相手の土俵に踏み込んで真っ向からインファイトを仕掛けたのが良かったのだと思う、こっちが踏み込めば相手は踏み込むだけのスペースが無くなるというわけだ。

 

 さて、事件はその後である。僕が帰り支度を進めているとクシノが訪ねてきた。これはいいと思った、僕はとても高揚していたし、クシノとはリーグが違うから一緒に飲むこともできる。

 ところが、である。クシノには連れが居た。本来なら喜ぶべきことである、人がいれば居るほど飲むのは楽しい。誰かを酔い潰し、あいつはダメだと残ったやつで笑って、また誰かが酔いつぶれるのを待つ。最後の一人は達成感と引き換えに酔いつぶれた人間の面倒を見るという超めんどくさい仕事をするハメになる。こういうのが楽しいのだ。

 しかし、クシノの連れは一人の少年と二人の少女だった、さすがに少年少女と飲みに行く訳にはいかない。僕はもうそういうのを止める側の人間なのである。

 

「出来ちゃったのか…」

 と、おちゃらけると「ちゃうわ!」と頭を叩かれた。取り敢えずおちゃらけては見たものの、結局彼らが何者なのかはわからない。

「親戚?」

 と恐る恐る聞くと、クシノは僕の無理解を理解してくれたようで、まるで彼等に接するときにそうするかのように僕に目線を合わせて優しい声で教えてくれた。

「弟子や」

 弟子? と僕は素っ頓狂な声を上げた。

 この業界において、弟子と言うものの存在自体は珍しいものではない、例えばキクコ一門なんかは相当有名だし、ワタルさんもドラゴン使いの一族に限定すれば弟子のような存在は幾らでもいるだろうし、そもそもジムトレーナーは言い換えてしまえばジムリーダーの弟子みたいなもんだし、トレーナーズスクールの生徒だって教師の弟子みたいなもんである。

 しかしリーグトレーナーにとってはまた別の話である。あのキクコさんですら弟子をとったのは引退後である。

 クシノはおちゃらけてはいるがバリバリのBリーガーである、弟子を取るのはちょっと早いように思う。

「それはジムやスクールの仕事だ」

「こいつらの住んでるところにはジムねーから」

 一瞬何を言っているのか理解できなかったが、もう一度彼等の顔を見ると、みーんな眼の色が碧い、なるほど理解が出来た。

 つまり彼等はこの国の人間ではないのだ、どうりでAリーガーの僕を目の前にしても何の興奮もしないはずである。

「じゃあ住み込みかよ」

「当然や、海外から通いはきっついわ」

「じゃあお前つきっきりかよ」

「当然や。大変なんやで、この国で碧眼のガキが生きていくのは」

「じゃあなんで呼んだんだよ碧眼のガキを」

「才能があるからや! 俺はお前やキシやクロセを見てきたんや、才能の良し悪しは誰よりも分かる」

 クシノは彼等の肩をそれぞれ叩いて言った。

「長い目で見れば必ず良い方向に転がる、遅すぎたくらいやで」

 今冷静になって考えれば、彼のやっていることは何も間違っていないと思う。長い目で見れば必ず良い方向に転がる、それも間違ってない。

 でも、僕はその時、なにか形容しがたい気持ちを覚えていた。今でもその感情の定義付けが曖昧だ。寂しさと、嫉妬と、焦りが混じっているような気がする。変化を恐れているようにも思えるし、そのくせ変わらない「何か」を恐れているような気がする。

 だから僕はその時精一杯に笑顔を作って「頑張れよ」と言うしか無かった。その言葉には嘘偽り無い、僕はクシノのことは好きだし、彼のやることが間違っていない以上、応援するしか無い。

「お前も頑張りや『俺の親友はチャンピオンになる男だ』ってこいつらに言ってもーてるからな」

 僕はその言葉がたまらなく嬉しかった。単純な男である。




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