モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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5-才能が浮き上がる時代

 先日、トキワシティの友人の家を尋ねた。戯れに「ぼんじゅーる」と言ったらケツを蹴られた。チャンピオンロード世代は暴力的で困る。

 理由の一つはトキワシティのトレーナー達との手合わせだが、これは特に滞り無く終わった。トキワシティのトレーナーは基本がしっかりとしている。これもジムリーダーの働きが大きいだろう。

 もう一つは海外で行われているダブルバトルの初の世界戦を友人と一緒に観戦する事だった。友人の家のテレビはデカイし綺麗、衛星放送で世界各国のチャンネルを見ることができるし、奥さんの飯が旨いしで、申し分ない。仲睦まじい夫婦なのであまり遊びに行けないことだけがネックだ。

 

 ダブルバトルと言うのはその名の通り二人一組で行うポケモンバトルである。必然的に場には自分達のポケモンが二体と相手のポケモンが二体、四体のポケモンが同時に現れる。我々が行っているシングルバトルに比べより複雑で、見る側も忙しい。ホウエンのフウラン姉弟が有名で、件の世界戦にも出場していたようだ。

 ダブルとシングルは目的こそ同じものの全く違う競技と捉えて良い、ちなみに僕はほとんど分からない。

 友人はダブルバトルにも造詣が深く、彼の解説はとても頼りになる。

 旨い料理に酒が進み、ほろ酔い気分で観戦していると、ベスト四の試合で面白いものが見れた。

 目下優勝候補と称されていたペアが、なんとパチリスを繰り出したのだ。

 パチリス。そうあのパチリスである。あのちょこちょこと可愛く尻尾はもこもこで、カントーのピカチュウに並び称される。シンオウのパチリスである。

 

 四体のポケモンが動き回るという性質上、ダブルバトルは決定力と速さ、ある程度の攻撃を耐えることが出来る硬さが重要となる。勿論そんなポケモンは限られており、ダブルバトルで活躍できるポケモンはある程度固定されていると言って良いらしい。情報化によってある程度の行き詰まりを見せている僕達にも聞き覚えのある話だ。

 ではこのパチリスという選出はどうなのか、と友人に問うと。トキワジムリーダーでもある友人は「全く無いわけではない」と噛み締めるように言った。僕はなるほど、と感心した。

 情報化が進んだ結果、誰もが望みさえすれば『強いポケモンと戦術』を知ることが出来るようになった。ポケモンリーグでもメンツとその対策にある程度の固定化が見られているのは先に書いたとおりだ。

 しかし、それには罠も潜んでいると僕は思う。情報と自分の考えを天秤にかけなければならなくなった時、情報を否定し、自我を押し通せる強さがなければ、未来はないと思うのだ。

 

 彼等は世界戦と言う、大きく言えば人生さえも変えかねない舞台で、自我を押し通した。最も、彼等はその選択こそが自分達を勝利に導く選択だと信じて疑っていなかったのだろうが。

「強いな」

 思わず僕は声に出してしまった。冷静さを取り戻そうと、辛めの料理を口にして、酒を煽った。

 僕達が使う『強い』という言葉は、絶対評価的な意味合いのものと、相対的な意味合いのものと二つある。前者は割と気楽に使うが、後者はあまり使いたくない、自尊心の問題だ。

「ああ」

 友人も目を細めていた。もしかしたら彼は、あのパチリスにピカチュウを重ねていたのかもしれない。

 

 パチリスは大活躍をした。戦場を引っ掻き回し、『このゆびとまれ』という技でファイアローとギャラドスを電気技から守った。特性により、パチリスは電気技を受け付けないのだ。

 パチリスはじしんに耐え、流星群にも耐え、頬を擦り付けることで相手の行動を縛り付け、その前歯で相手の痛いところをがじっといっていた。

 彼等は準決勝を危なげなく勝ち抜け、続く決勝でもそれは変わらなかった。パチリスは最後まで倒れず、可愛らしい勝ち名乗りを上げた。

 

「パチリスを使うトレーナーが増えるだろうね」

 僕はため息混じりにそう言った。友人は画面の向こうで木の実をかじるパチリスを見つめ「ああ」と答えた。

 彼等の自我は情報となり、世界各地を回るだろう。

 しかし、だからこそ、彼等の素晴らしい才能は、こうして輝くのだ。


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