モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。   作:rairaibou(風)

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コラム モモナリという男 ――『週刊ポケモン生活』編集部T――

 私が初めてモモナリ氏にお会いしたのは、○□年のサント・アンヌ杯優勝時のインタビュー記事の時だった。

 私はバッジを一つも持っておらず、所持しているポケモンもラッタのチビちゃんが一匹だけだ。自分で言うのも何だが、この業界においてはとても珍しい事だ、特にポケモントレーナーへのインタビュー等はバッジを6つか7つ所持している記者が行うのが通例で、私が派遣されたのは会社の気まぐれに近かった。

 しかし、私だって子供の頃は歳相応に無邪気だった。みんなと同じようにポケモンバトルに熱中し、リーグトレーナーはヒーローだった。

 私と大して年の違わないモモナリと言う少年が、あの『レッド』につぐスピードでバッジのコンプリートをした事も勿論知ってた。むしろその事実により興奮し、彼についての探索を進めた事が、今の私につながっているとも思う。ちなみに『カロスに鬼を見に行った話』のエキシビションのエピソードはマニアの間では有名な話だ。

 ジムバッジのコンプリートは、単純な強さだけでは成し得ることが出来ない。ジムリーダーはトレーナーの品性や才能も見抜いている。

 世界でも歴史の古いカントーのジムリーダー八人が、手放しで彼の存在を褒め称えている。あのコンプリートにはそういう意味もあったと私は思う。

 

 だから当日の私はカチカチに緊張していた。先輩記者に「あの男は癖があるから気をつけろ」とか「トレーナーの中でもかなりの変わり者だ」などと忠告されていたからなおさらである。

 だから「やー、どーもどーも」と炭酸ドリンク片手にモモナリ氏が現れた時には、肩の力が抜けた。そこには緊張感の欠片もなかった。

 取材は驚くほどスムーズに進んだ、特に印象深かったのはつい思わず言ってしまった「強さの秘訣とは」といういかにも素人らしいマヌケな質問に「目標を持たないことです」と大真面目に答えたことだった。私は先輩記者やバッジを所持している記者がモモナリ氏相手に身構えている理由がわかった気がした。

 インタビュー後に私がファンだということを伝えると「それは嬉しい、まだ居たんですねえ。元ファンは多いんですが」とモモナリ氏ははにかんで「この後どうですか?」と手首をひねった。

 その日から、私と彼、全く違う人間の友人関係が始まった。

 

 ある日、Aリーグ戦の記事を書くためにタマムシシティに向かった所、モモナリ氏とバッタリ出会った。

「今から友人と飯を食うんです。良かったらどうですか? 友人も喜ぶと思いますよ」

 モモナリ氏はニッコリ笑って私を誘い。私は喜んで呼ばれることにした。

 

 まさかその友人が当時のカントーチャンピオン、ワタル氏であるとは考えもしなかった。あんなに緊張した食事は初めてだし、恐らく最後だろう。

 この出会いは後に、大きな話題となったワタル氏の自叙伝『「共に生きろ」と言われて』となった。

 

 其の二に続く。


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