「ここか…」
一人の青年がたどり着いたのはとある鎮守府と呼ばれる場所だ。
「さて、これからどうなることやら」
先日、海軍士官学校を首席で卒業した彼はなんといきなり海軍元帥に呼ばれ、ここへの配属を命ぜられた。
何でもこれは極秘プロジェクトだそうで、誰に任せようか上層部も頭を悩ませていたところ元帥と面識の合った彼が選ばれたという訳だ。
「それにしてもボケたんじゃねーかあの元帥殿は…何がいきなり妖精が目の前に現れてこの本を託されただよ」
そう言って彼は持っていた分厚い本を見る。
この本は先ほど記述した通り、突如現れた深海棲艦と呼ばれる未知の敵になす統べなく敗北を繰り返し、海軍本部が頭を悩ませていたある日、元帥の前に現れた『妖精』と名乗る者から得た物だそうだ。
「読んでみたが、未だに信じられんな…艦娘か…」
この本に書かれていたのは『艦娘』と呼ばれる過去の軍艦の魂を宿した少女達が深海棲艦に唯一対抗できる手段だとの事。
元帥も初め、これを読んだ当初はそんな馬鹿なと思っていたそうだが、現在海軍が所持する兵器では深海棲艦には全く通用しないのも事実。
それに目の前に見たこともない生物らしきものが現れたので、当初は反対意見が多数だったが、次第にこれに賭けてみる事になった。
しかし、上層部の人間は色んな対応に追われ、この計画の主になるのは難しかった。
そこで白羽の矢が立ったのが、元帥に面識があり海軍士官学校を首席で卒業した彼である。
「取り敢えずこの鎮守府を見て回るか」
荷物を私室、後に執務室と呼ぶ所に置き彼は探索に出掛けた。
「ここが工廠か…中々に立派なもんだな。ん?あれは…」
そこで見つけたのは小さい、しかしどこか人っぽい物体。そう妖精だった。
妖精は一人だけでは無く彼の姿を見た途端ぞろぞろと集まってきた。
「君達が妖精か?ほー、ほんとに実在したんだな。すまない元帥殿よ」
若干驚きながらも先ほどの元帥に対しての無礼な言葉を詫びる?謝った。
「さて、君達は一体何者なんだ?何故人類の危機に現れて希望を与えてくれる?」
その問いかけに妖精さんのリーダーらしき存在が、ニコッと笑い、握る拳を自分の胸に当てた。
「?…何だ問い掛けには答えてはくれないがサポートはしてくれると言うのか?」
そう言うと妖精は力強く頷いた。
「やれやれ…まぁ、俺達人類は与えられた希望を選ぶしか手は無いわけだ。よろしく頼むよ」
彼が手を差し出すと妖精も手を差し出し、握手を交わした。
妖精との協力関係を築いた彼はその後一通りの設備を見て回り執務室に戻ってきた。
「ふう、これで一通り見たな。意外に綺麗にされててよかった。掃除の手間が省ける。さてと…」
といいながら、これからどうすればいいか分からない彼は例の本を開いた。
「何々?…先ずは建造か。しかし過去の軍艦の魂?記憶を持った女の子を生み出すってどうなってんだよ…建造、開発とかに使う資材は最初に貰ってるし、毎日少しずつでも補給されるみたいだしな。早速やってみるか」
やって来たのは再び工廠。
妖精さんは(ドシタ?)みたいな表情で見てくる。
「建造を頼みたい。資材は…燃料が…鋼材がこれぐらい………………で頼むよ」
妖精さん達は任せろと言わんばかりに敬礼をして、建造に向かった。
「ん?建造時間は、4時間か。となると…戦艦だな」
建造が始まると、建造ドックの前の画面が設備されており、そこに建造時間が表示される仕組みだ。
何故どの艦種が建造中なのか分かったのかというと、あの本に書いてあったからだ。
その他にも装備開発のレシピや、最初はどうしたらいいとかも書いてある。チュートリアルみたいだが、まだ新人であり、全く初めての経験をするの彼にとっては有難い事だった。
と、そこへ妖精のリーダー格が寄ってきてある提案をしてきた。
「高速建造材か、そんなものもあるんだな」
妖精が言っている事だが、何故か理解できた。
なんというかテレパシーみたいに頭が勝手に理解しているような感覚だ。
「まだ一つしかないんだよな。…よし、やってくれ」
実を言うと彼も『艦娘』という存在に興味津々だったので、直ぐにでも見てみたいという欲求が節約という概念に勝った。
その言葉を聞いた妖精は敬礼をすると建造ドックに向う。そして、なにやらバーナーらしき物を取りだし建造ドックへと放つ。
すると瞬く間にまだ3:49:12と表示されていた数字が0:0:0になった。
「建造出来たのか?」
妖精が頷く。
そして遂に建造ドックの扉が開く。
人間と艦娘の初めての邂逅。彼も少し小心に戻り実はワクワクしていた。不思議と怖いとかそういう感情は湧かなかった。
「う…ん…ここは…?」
眠りから覚めたようにドックから出てきたのは、長く美しい黒髪に、いかにも清楚という言葉が似合う風貌を持ち、白と赤が主になっている少し巫女らしい服を着た少女だった。
彼は暫くその光景…彼女に見とれていた。
頭がフリーズしたかのように上手く言葉が出てこない。
そうしていると少女と彼の目が合った。
「あれ?貴方は…どなたでしょうか?」
問い掛けられると彼はふと我に帰った。
「あ、あぁ、自分は○○という者だ。ここの鎮守府で今日から提督を務めることになった」
「…提督…。」
彼女はまだ自分の状況が上手く呑み込めていないようだ。彼女は自分の手や足をゆっくりと見る。
「私は一体…確か私は解体されたような…」
「ああ、それは…」
『提督』は彼女に今までの経緯を話した。
「そんな事が…それで私はこうしてまた生まれてきたという訳ですね」
彼女は提督の話を聞きながら少しずつ落ち着き、今の状況を把握することが出来た。
「……」ボー
「?…提督?どうかされましたか?」
「!?…いや何でもない。それで君の名前は?」
少し慌てた素振りを見せたが、すぐに持ち直しまだ彼女の名前を聞いていなかったことを思い出した提督は聞く。
「私は…」
「私は…榛名。戦艦『榛名』です」
ここに初めての艦娘が生まれた。
この先、彼らを待ち受けるものは…