東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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第10斬【吸血鬼VS死神】

《1》

 

 黒崎一護はパチュリーの依頼をクリアし、お礼としてここの館の主の部屋を聞き出した。そして現在、そこに向かって走っている。

 魔理沙は大図書館で調べたいことがあるってことで、あそこに残った。恐らくあの書物の量に目が眩んだのだろう。

 疑問に思うであろう一護の身体の傷は、魔理沙から貰った回復薬が異常なほど効いたおかげでほぼ全快に等しい。

 だがこの回復薬には副作用があるとのこと。

 その副作用はいつ発生するか分からなく、副作用で起こる作用は全身が麻痺し、一時的に体が動かなくなるらしい。飲む前に教えて欲しかったが、状況が状況だけに先に知っていても飲んでいたであろう。

 よって今はそんなことを気にしている暇は無い。

 一刻も早く館の主の部屋に行かなくては。

 

 と、一護が紅い廊下を走っていると、ボロボロになっている霊夢が壁にもたれ掛かって座っている姿を見つけた。

 

「霊夢!」

 

 一護が霊夢に駆け寄る。

 一体、どれほどの激戦が繰り広げられていたのだろうか? 廊下の所々に刺し跡や爆破跡のようなものが残っている。この戦場跡がどれくらい凄まじい戦いがあったか物語っている。

 霊夢は一護の声に反応するように、目を開けた。どうやら気絶まではしていないようだ。

 

「一護……」

 

 顔を上げて一護を確認する。

 一護は駆け寄り、霊夢の傍らに屈む。ナイフに切り刻まれたような傷が所々にあり、赤い血が出ている。一発一発が深い傷では無いのか、驚くほどの血の量ではない。

 

「大丈夫か?」

「ええ、何とかね。それより一護、早くあんたは先に進みなさい。知っているんでしょう、犯人の部屋」

「ああ、分かった。ここで待っていろよ。すぐ戻るからな」

 

 一護はそういい館の主の部屋に向かった。

 

   *

 

 その頃、館の主の部屋では、一人の少女と、一人の男が向き合っていた。

 少女は凄まじい程の殺気を男に向けている。常人なら昏倒してしまう程の殺気にも関わらず、男は全く気にせず涼しい顔をしていた。

 ピリピリとした空気が部屋を間隙なく漂っており、この均等がいつ崩れるかも分からない。

 そんな常識が通じない中で、

 

「本当に、ただ寄っただけなの?」

 

 少女は訝しそうな目で聞く。

 それを聞き、男は欺瞞や戯れに満ちた調子で答える。

 

「否だ。一つ、ここにというより、ここに侵入した者に用があってね」

「侵入者に? どうして?」

「私の計画の終着点が侵入者の一人、黒崎一護に手伝ってもらわないといけないからだよ。ああ別に、手伝ってもらわなくても良いのだが、そちらの方が効率が良くてね」

「……」

「だがまぁ、それでは詰まらん。ゲームは難易度が上がれば上がるほど面白い。破壊、虚無、孤独、蛇、そして博麗の力を借りて、全総力でこのゲームをクリアしてみろ」

 

 この会話を、第三者が理解するは不可能だろう。

 少女はある程度、男のことを理解した上で、挑戦的に言う。

 

「良いわ。受けてたつわよ。でも、その前に私が黒崎一護を殺してしまったらどうする?」

 

 男に一矢報いるように言った。

 しかし男は表情を一切変えずに、

 

「君では、彼を殺すのには力不足だよ」

「ッ! 何ですって……!?」

 

 少女はその言葉にキレかけた瞬間だった。

 ドカッ! と、扉を強く蹴り開ける音が響いた。

 

「邪魔するぜー」

 

 入ってきたのは黒崎一護だった。

 一護が入ると同時に男性は姿を消す。まるで初めから、その場に居なかったかのように。

 

「…………」

 

 暗い部屋だが、ちょうどいい具合に紅い月が窓から部屋を照らし出している。広い部屋な分、窓ガラスも大きい。と言うより、部屋の向こう側が全面ガラス張りだ。

 家具もソファから天蓋ベッド、カーペットまでどれも高そうだ。金持ちの特権のような部屋だ。

 そして一護はその部屋に佇む少女を確認する。

 

「あんたが、この館の主か?」

「随分と礼儀がなっていないわね。まぁ良いわ。私が紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ」

 

 紅魔館の主は自分の名を名乗る。

 水色の混じった青髪に真紅の瞳。ピンクのナイトキャップを被っている。 ナイトキャップの周囲は赤いリボンで締めている。衣服は、帽子に倣ったピンク色。太い赤い線が入り、レースがついた襟。三角形に並んだ三つの赤い点がある。両袖は短くふっくらと膨らんでおり、袖口には赤いリボンを蝶々で結んである。左腕には赤線が通ったレースを巻いている。 小さなボタンで、レースの服を真ん中でつなぎ止めている。腰のところは赤い紐で結んでいる。その紐はそのまま後ろに行き、先端が広がって体の脇から覗かせている。 スカートは踝辺りまで届く長さ。これにもやはり赤い紐が通っている。 背中には大きな悪魔のような翼が生えている。

 パッと見、悪魔か吸血鬼を連想させる。

 

「さぁ、あなたも名乗りなさい。侵入者」

 

 レミリアは一護の目を見据えて言った。

 

「俺は黒崎一護。早速で悪いが、この紅い霧はあんたの仕業か?」

「そうだとしたら……どうする気?」

 

 レミリアは楽しそうに答える。

 どうやら、紅い霧の犯人はレミリアのようだ。元より予想はしていたため、全く驚かない。

 

「悪いが今すぐ、紅い霧を消せ」

「嫌よ。この紅い霧があれば、私の嫌いな日の光りを見ずに済むからね」

「勝手な事言ってんじゃねぇぞ」

「だったら、私を倒してみなさい。この世界の流儀に倣ってあげるわ。一発でも私に弾幕を当てれたら、紅い霧を消してあげる」

 

 一発でも当てたら勝ち。

 完全に舐めらている。

 一護はそれに対し、少し腹が立ったのか、

 

「上等だ。一発どころか何十発も当ててやるよ!」

「やってみなさい人間。自分の愚かさと、愚昧さを知るが良い」

 

 膨れ上がるレミリアの殺気の妖力。

 横溢しきった力が空間を揺るがし、一護に魂をも圧迫する重圧が襲いかかる。

 

「さぁ来なさい。人間、黒崎一護」

 

 こうして黒崎一護VSレミリア・スカーレットの戦いが始まった。

 

   *

 

「黒符『月霊幻幕』!」

 

 始まった瞬間、まず一護がスペルカードを唱えた。

 一護の周りに三日月状の弾幕が展開され、一斉にレミリア目掛けて放つ。

 レミリアは飛んでくる弾幕を見て、全く警戒せず呟く。

 

「ぬるいわね」

 

 レミリアもカードを取り出し、スペルを唱える。

 

「冥符『紅色の冥界』」

 

 紅い弾幕がレミリアの周囲に展開され、それが一護の弾幕を全て相殺していく。

 

「黒符『天幻月牙』!」

 

 自分のスペルが一瞬で崩されたことに驚いたが、しかし逡巡せず直ぐ様に新たなスペルを唱えた。

 レミリアの周囲の空間から、三日月状の弾幕が展開された。この弾幕は一度逃げ遅れたら回避不可のスペルだ。故に初見でこれを躱すは厳しいだろう。

 しかし――

 

「遅いわよ」

 

 瞬間、レミリアがその場から姿を消した。

 

「なッ!?」

 

 それは目では追いきれない瞬速。

 霊夢より魔理沙より美鈴より、疾風より迅雷よりも――一護が今まで見た中で一番速い。銃弾など鼻歌混じりに追い越す神速に、一護の弾幕など当然当たらない。

 ドゴォォン!……と、部屋の壁面が没落した。それだけではなく、床も家具も何もかもだ。

 音など遥かに置き去り、レミリアは空間を三次元的に飛び回っている。その後を追うように爆破じみた衝撃波。レミリアが真横を通り抜けただけで、普通の人間は五体を粉砕されかねない。

 

「私は吸血鬼。永遠の紅い幼き月 レミリア・スカーレット。あなたのような人間風情が、吸血鬼である私に勝てると思っているの?」

「――!」

 

 吸血鬼――書物などで読んだことはあるが、実際に見るのは初めてだ。吸血鬼の身体力は一説によると、下手をすれば死神を優に追い越せるほどだ。

 そんな奴が相手なのかと、一護は改めて自覚する。

 元よりこのような、とんでもない規模の異変を起こせる時点で並みの妖怪ではないことは承知の上だったが、妖怪の中でも上位種の吸血鬼となると、一言でヤバい。

 

「必殺『ハートブレイク』」

 

 瞬間、一護の後方からレミリアのスペルを唱える声が耳を穿った。

 一護は急いで振り向くも、

 

「ガァアアッ!!」

 

 遅かった。

 光速に等しい勢いで、真紅の槍が一直線に一護の左肩に貫通した。

 鮮血が迸り、灼熱にも似た激しい痛みが左肩から全身に襲いかかる。

 

「まだまだいくわよ。呪詛『ブラド・ツェペシュの呪い』」

 

 レミリアは休む暇を与えずスペルを唱える。

 紅い弾幕がレミリアを中心に無数に現れ、それが右往左往と敵の動きを制限しながら活動する。

 一護は左肩を右手で支えながら弾幕を避け続けた。動く毎に、左肩に激痛が走る。そのせいか、少し動きが鈍くなる。

 

「弾幕に気がいきすぎよ。夜符『バッドレディスクランブル』」

 

 休むことを知らない怒涛の嵐。

 レミリアは背後の壁面に高く飛びつき、紅いオーラを纏う。

 質量と共に、そのオーラは美鈴より上。故に当たれば終わりは必然だろう。

 その瞬間、レミリアは紅いオーラを纏ったまま一気に一護へと直行する。速さは実に目視不可。故に――

 

「しま――ッ!」

 

 一護がレミリアの体当たりに気付いた時には既に遅く、レミリアによる攻撃を受けてしまった。

 まるで全身の細胞が蹂躙されたかのような激痛。しかもそれだけでは止まらず、一護はそのまま部屋の豪奢な窓を突き破り、外へと放り出された。

 

「ツゥゥゥウウッ!」

 

 ここから落ちたら死は免れない。

 レミリアの部屋は3階に位置する場にあった。そこから今の状態で落ちれば死があるのみだ。

 故に痛みに悶絶するよりも先に能力を使用し、天に足をつく。

 

「クソッ」

 

 一護は先の部屋を見るが、そこにレミリアはいなかった。

 どうやら同じく外へと出たらしい。

 

(どこ行きやがったあの吸血鬼!?)

「ここよ」

 

 探そうと思った矢先に、後ろからレミリアの声が静寂となった夜に響いた。

 一護は振り返り、声のした方を見る。そこには、紅い霧と紅い月を背景にレミリアの姿があった。

 

「テメェ、いつの間に」

「あなたが遅いのよ。呆れるくらいにね」

「ッ!」

「どう、もう諦める? 最初から分かっていたはずよ。あなたのような人間が、私に勝てないことくらい。自己防衛本能とか働かなかったのかしら。始まる前に失神するくらいの殺気を当ててやったのに」

「うるせぇよ。俺は諦めねえ。まだ動ける、戦える。こんなとこで、負けるはずがねぇ」

 

 言うや否や、一護は最後の切り札を取り出す。

 それは代行証。

 一護が手にとった刹那、卍型の黒い霊圧が噴出し、構える。

 

「……何それ?」

 

 レミリアは一護の持つ武器を見て、怪訝な表情になりながら聞く。

 長年生きてきたが、このような力は見たことない。

 

「自分で確かめろよ」

 

 一護は少し余裕の笑みを浮かべる。左肩の傷の痛みに慣れてきているようだ。

 

「だったら、確かめさせてもらうわ。神術『吸血鬼幻想』」

 

 レミリアはスペルを唱える。

 六つの大弾がレミリアから放たれ、それに続いて通常の弾幕が無数に放たれた。

 無数の弾幕もそうだが、その比にならないくらいに大弾の質力が並外れて高い。

 それを感じ取った上で一護は、最後の切り札を放つ。これでも駄目なら、負けは必須。

 

「黒斬『月牙天衝』!」

 

 カードが光の粒になり、代行証に吸収される。

 一護は代行証をレミリアに向かって振った瞬間、卍型の霊圧が歯車のように回転しレミリア目掛けて飛んだ。

 そして月牙天衝は、レミリアの弾幕を次々と破壊していく。

 

(!?バカな……ッ!)

 

 レミリアはその光景を見て目を丸くする。

 流石のレミリアも自分の弾幕が、一発の一護の放った月牙に負けるとは思わなかったらしい。

 これが人間の底力。これが黒崎一護の底力。

 

「チッ!」

 

 ここにきて初めてレミリアは苦い顔をする。

 飛来してくる月牙を避けると同時に再びスペルを唱えた。

 

「紅符『スカーレットマイスタ』!」

「俺を、舐めるな! 黒符『月牙天衝』!」

 

 再度放った月牙が、レミリアの弾幕を悉く蹂躙していく。

 

「嘘でしょ……」

 

 レミリアは驚愕する。

 ――何だこの人間は、一体何でこんな土壇場でこのような力を出せるんだ。

 その驚愕の、一瞬の隙を突き、

 

「黒符『天幻月牙』!」

 

 レミリアの周りに三日月状の弾幕が現れる。

 それを見たレミリアは我に返り、間一髪のとこで避ける。

 

「チッ、もうちょいだったのに」

 

 一護は悔しそうに呟く。

 恐らく今の隙が、戦いが始まってからの一番の隙だっただろう。

 しかし、ようやく攻めに入れると、一護の心に余裕の隙間が生まれた。

 

「今のは危なかったわ。ええ本当に、久しぶりに危ないと感じちゃったわ」

 

 レミリアは避けると、直ぐに一護と向き合う。

 

「けど、次は本気でいくわよ」

 

 刹那、レミリアの中でこの戦いを楽しもうとしている自分が居るのに気付いた。

 人間の力――悪くない。いや、これほど素晴らしいのだと、歓喜に満ちている。

 

「ああ、全力できやがれ! 全部、俺が叩き落としてやるよ!」

 

 それは一護も同じだった。

 ようやく勝率を見い出せた。絶望に等しい状況の中で、勝率が上がるということは、なんとも感激に等しく打ち震える。

 

「フフ……ハハハ、ハハハハハハハハハハ!!」

 

 唐突に哄笑を上げるレミリア。

 ああ、これが戦い。これが削り合い。これが歓喜と恐怖。

 戦いの中で、至上の喜びを得た。

 自分が生きていると実感できた。

 

「何が……可笑しいっ!」

 

 レミリアの豪笑を掻き消すように、一護の月牙が放たれた。

 紅い夜を引き裂きながら、レミリアに直行する。

 

「何もかも。全てが、ええ、私が今生きていると声高らかに示せる。長年生きてきて、本当に自分は生きているのだろうかと妙な錯覚に襲われていたのに、こうして、戦いの中で歓喜や恐怖を抽出できると言うことは、自分が今生きている何よりの証になる!」

 

 一護の月牙を身を翻して避けると、一気に一護へ飛ぶ。

 

「負けるかぁッ!」

 

 黒い弾幕を展開し、その状態でレミリアの交戦する。

 しかし弾幕など意に介さず、まるで美鈴のように弾幕を引き裂き、一護を蹴り飛ばす。

 見た目は少女でも、その蹴りの威力は美鈴を超える。

 だが――

 

「どうした、油断してんじゃねえぞッ!」

 

 一護は何と、その蹴りに耐え切った。

 そして黒い弾幕を握るように掴み、レミリアの腹を力いっぱい殴る。

 女を殴るのは気が引けるが、相手は吸血鬼であり妖怪。ならこの程度、痛くも痒くもないだろう。

 

「へぇ」

 

 レミリアは微笑み、後ろへと後退する。

 

「成程、無意識に霊力の膜を張っているか。随分と、戦闘に関しては怖いほど才能があるわね」

「そうかよ。俺としちゃ、そんな才能はいらねぇんだが。まぁいいや、そろそろ終わらせようぜ。戦いも長引けば飽きるからな」

「そうね、そうしよう。さて、では――」

 

 その時だった。

 レミリアが何かを言い切る前に、異変が起きた。

 

 代行証の黒い霊圧が一護を包み始めたのだ。

 

「なッ!?」

 

 レミリアも一護もそれに驚く。

 

「!……何だ……!? 代行証が……!!」

 

 遂に、黒い霊圧が一護の右腕を完全に包んでしまった。

 

 

 

《2》

 

「はっ、はっ……くっ、はぁはぁ……」

 

 息が荒くなる。

 胸が苦しくなる。

 霊力が乱れる、自分に異変が起きていると全身が訴えかけてきている。

 黒崎一護は黒い霊圧に包まれた右腕を左手で掴む。

 

「――!?」

 

 吸血鬼であるレミリア・スカーレットは一護を凝視する。

 長年生きてきた中で、自分が見てきた中で、感じてきた中で、どれにも当てはまらない未知の現象が、自分の目の前で起きていた。

 ――理解できない、何だあれは?

 

「はっ、はっ……うおおおおおおァァアアアアア!!!」

 

 一護は右腕を支えながら、天に向かって叫んだ。

 

   *

 

 そんな頃、霧雨魔理沙は廊下の片隅に居る博麗霊夢を発見した。そして一護と同様の回復薬を飲ませ、どうにか体力の回復に勤しんでいる。

 

「……あんたまで、この館に来ていたなんてね」

 

 霊夢は自分の横に座る魔理沙に語りかける。

 傷口の回復、霊力の回復は回復薬での効果を待ち、二人は壁にもたれ掛かって座っていた。

 

「当然だろ。私も異変の解決が好きなんだぜ」

 

 魔理沙は大図書館からパクッた、否借りた本を読みながら答えた。

 私も……とは、それではまるで霊夢は異変解決が趣味の一つのようではないか。随分と人聞きの悪い。

 

「さっき、一護の霊力が異常に変化したの感じた?」

 

 霊夢は俯き聞く。

 それを聞かれた魔理沙はゆっくり本から顔を上げ、

 

「ああ、感じたぜ。急激に一護の霊力が上昇していきやがったぜ」

 

 珍しく真顔で答えた。

 今なお天井知らずに上がり続ける一護の霊力。原因などは実際に感じるのではなく、目で見てみないことには一切見当もつかない。

 それ程、今の一護の身に起きている事は前代未聞の現象みたいだ。

 

「一体何が起きていると思う?」

「分からないわ。実際に一護を見てみない限り」

「じゃあ行こうぜ。気になって仕方ないぜ」

「……そうね。私の体力も回復してきたし」

 

 二人は立ち上がり前に進む。

 これから先に、絶望とも言う展開が待っていることも知らずに。

 

   *

 

 同時刻、湖の畔にチルノ、ルーミア、大妖精がいた。

 三人は湖の先、一護と霊夢が向かった方向を見ている。しかし勿論、紅い霧が濃いせいでその先にある紅い館は見えない。

 

「……大丈夫かな、一護?」

 

 ルーミアが心配そうに呟く。

 敵であった自分を介抱し、優しくしてくれた一護の安否を心懸ける。

 そんなルーミアを見て、

 

「大丈夫に決まってるよ! この最強のあたいに勝ったのに負ける訳ないじゃない!」

 

 チルノが胸を張って答える。

 こういう時のノリは、ウザいではなく随分と心強く聞こえた。

 

「そ、そーなのかー?」

 

 曖昧とせず頷く。

 そんな二人の様子を見て、微笑みながら大妖精が言う。

 

「チルノちゃんも心配なんじゃないの? 一護さんのこと」

 

 それを聞いたチルノは、自分の心の内を読まれたかのように顔を赤らめた。

 

「な、そんな訳……ない、と思う」

「ハハハ、チルノちゃんとは長い付き合いだよ。それくらい分かるよ」

 

 大妖精はにっこりと微笑む。

 そしては二人に向かって口を開いた。

 

「行きたいんじゃないんですか? 一護さん達のとこに」

 

 そのセリフにチルノとルーミアは顔を見合わせ、二人の気持ちを共有したのか、

 

「「うん」」

 

 と、頷く。

 

   *

 

「その姿は何?」

 

 レミリアは一護を見て聞く。

 さっきまでの笑みは消え、少し一護に対して警戒心を強くしている。

 

「俺にもよく分かんねぇ」

 

 分からない、自分にも理解できない。

 だけど、どこか懐かしい感覚がある。

 今の一護の姿は、完全に死神が着ている死覇装の姿である。否、代行証から流れ出ていた黒い霊圧を死覇装に模し、それを纏っている状態にあるのだ。

 更に代行証を持っていた右腕は、完全に黒い霊圧が纏われ見えなくなっっていた。

 そう、例えるなら、今の一護は死神の姿に相違ない。

 

「けど、戦える。さっき以上に戦える」

 

 ご都合主義だが、それが黒崎一護の特権であり主人公の証。

 

「続きと行こうぜレミリア。心配すんな、期待に添えるよう、テメェの生をもっと実感できるよう戦ってやるからよ」

 

 一護はまず自分が初めて入手したスペルを唱える。

 

「黒符『月霊幻幕』」

 

 周囲に三日月状の黒い弾幕が展開された。

 それを見たレミリアが目を丸くする。

 

(ッ! さっきよりも数段込められている霊力が上がっている!)

 

 内包されている霊力が先より段違いだ。

 下手に打てば危険だろう。

 

「渇望する世界を塗り替え 幻想郷を紅魔の世に染めよ『紅色の幻想郷』!」

 

 それは符名の付かない特殊なスペル。

 レミリアから紅い大弾が幾つも発射された。その大弾の軌道上に紅い弾幕が現れる。

 

「――!」

 

 一護は展開しておいた三日月状の弾幕を一斉発射させる。

 レミリアの弾幕と一護の弾幕がぶつかり合う。その間に一護は動く。

 バッと、一護の輪郭が残影と化した。

 比喩ではない。高速度撮影ですら一護を捉えるのは不可能であろう速度で、ぶつかり合う弾幕の小さい隙間隙間を狙い、そのままレミリアの背後を取る。

 

「甘いわよ!」

 

 しかし相手はそれ以上で動き、動体視力も並外れて高い化物だ。

 背後を取られた刹那には、レミリアの少女のように細い腕が一護の脇腹を捉えた。

 

「ガッ!」

 

 細い腕でも相手は吸血鬼。

 内包された筋肉と力は外観では分からないものの、その威力は鋼鉄すら砕きかねない。

 だが一護は今、全身を霊子で纏い耐久力なら、その程度の攻撃を受けても凄く痛いで済む。

 

「くそッ、まだだぁぁあああ!!」

 

 女に負けるのはどうも釈然としないのか、一護は諦めることなく肉弾術で交戦に入る。

 

「単細胞ね。良いわ、受けてたってあげる」

 

 レミリアが不敵な笑みを浮かべながら、一護に応戦する。

 剣林弾雨の勢いでお互いの拳が飛ぶ。一発一発が重火器以上の威力を有しながら、両者の拳が両者を撃てと疾走する。

 だが、ここでレミリアが異変に気付いた。

 

「これは……」

 

 逸らされている。流されている。

 レミリアは目の前に滅多打ちにしている相手を見失っていた。

 それは一種のゲシュタルト崩壊。視覚映像と現実の手応えが噛み合わないが故の齟齬が、レミリアの認識力に誤作動を生じさせた。

 

「高速を相手取るなら、高速と化すしかねえ。だけど、既に俺はそこにはいねえ」

 

 例えるなら野球で言う可変速球。速球と見せかけて中途減速するスローボールを投じ、打者の時間感覚を奪う詐術を思わせた。

 最短距離で自ら殺到する一護が体現していた高速の凌ぎ合いに、レミリアは反射的に応じ、こうして置き去りとなった。

 激流を緩やかに舞う木の葉のように、レミリアの猛撃を躱し続ける一護。その所業は相手と同じかそれ以上の身体力があっての術。故に今の一護はそれくらいに身体面も急増しているのだ。

 そして攻撃を全て捉えた一護は反撃に入る。

 

「ウォオオオ!」

 

 身を沈め、滝を割るが如くの鉄拳。

 それを腹部に受けたレミリアは、

 

「所詮は小細工ね。その程度じゃ、まだまだ私には届かないよ」

 

 他の身体面が上がっている一護だが、やはり膂力という面と耐久力と言う面ではレミリアの方が上手だ。

 お返しと言わんばかりに、レミリアの弾幕が眼前で放たれた。

 

「チィッ」

 

 一護は間一髪で弾幕を躱しきり、後ろへ後退する。

 それを逃さずレミリアが動くと同時に、一護の背後を先の真似事のように取った。

 紅蓮色に輝く鋭い爪を宿した手を一護を引き裂かんと繰り出される。

 一護は即座に、振り返り様に右腕の濃縮している霊圧でそれを防いだ。

 レミリアがそれに驚くよりも先に、

 

「黒符『天幻月牙』!」

 

 一護がスペルを唱えた。

 レミリアの周囲に弾幕が現れる。一護はレミリアの攻撃を弾くと同時に距離を取ったので、自分の弾幕に被弾することはない。

 レミリアは逡巡せずスペルを唱える。

 

「そんな弾幕は効かないわよ。紅符『不夜城レッド』!」

 

 刹那、レミリアを包むように赤い十字架が立ち込んだ。

 まるで巨大な紅き十字架。その強力なエネルギーが周囲の漆黒の弾幕を否応なく消滅させていく。

 そして更にスペルを唱える。

 

「運命『ミゼラブルフェイト』!」

 

 巨大な紅い十字架から、多数の紅いオーラを纏った鎖が発射された。

 それはまるで意思のある蛇のように、一護を狙って多数の鎖が対象を捉えんと動く。

 

「くそッ!」

 

 一護は鎖を避け続けるも、鎖の一つ一つが意思を持っているかのように一護を追跡する。その上、鎖が無限に伸び続け、一護の逃げ場を減らしていく。

 そして鎖が遂に一護を完全に取り囲んだ。

 

「これで終わりね」

 

 赤い十字架が消え、レミリアが姿を現していた。

 その両手には無数の鎖の根元部分が握られている。と言うより、まるでレミリアの両手から異次元の空間があるかのように、そこから鎖が伸びていた。

 

「年貢の納め時ってわけよ、侵入者」

 

 鎖が一斉に一護に迫る。

 

「ォォオオオオオオオ!!」

 

 一護が黒い霊圧を刀状に形成させ、凄まじい速さで四方八方を切り裂く。

 その姿はまるで、白哉戦の億の刃である千本桜を防いだ時のような錯覚さえ覚えさせる。

 

「ッ! まさか、このスペルまで防がれるなんてね……」

 

 レミリアは目の前の現象に目を疑った。まさか確実に勝てると思った攻撃さえ防がれたのだから。

 今の一護は死神時代の力とまではいかないが、ほぼ同格と言っても良いだろう。

 

「……そろそろ終わりにしようぜ、レミリア」

 

 一護が黒い霊圧を刀状のままにし、レミリアに向ける。

 お互い、そろそろ限界に近いはずだ。

 

「これで最後だ」

 

 そう宣告し、右腕を構える。

 レミリアはそれを聞き、微笑みながら、

 

「ええ、良いわ。あまり長くやると興が冷めるものね。お望み通り次で最後にしましょう」

 

 カードを取り出し、スペルを唱える。

 

「神槍『スピア・ザ・グングニル』」

 

 レミリアのカードが紅い粒となり、それが左手にいき、槍を形成し始めた。

 槍は赤く、とてつもない大きさだ。万象、全てを貫く槍と言っても過言ではないだろう。

 

「黒斬『月牙天衝』」

 

 一護もスペルを唱える。

 カードが光の粒となり右腕に吸収された。

 

「行くぜ、レミリア」

「ええ、掛かってきなさい黒崎一護」

 

 一護は右腕に力を込め、レミリアは投擲の態勢に入る。

 乾坤一擲――お互い最後の力を振り絞り、一護は右腕から死神時代に放っていた月牙天衝を、レミリアは紅い槍を片手で素早く投げた。

 数瞬もせず、月牙と槍がぶつかり合う。全力で放たれた力は、次元すら歪み破壊しかねない衝突。世界が慟哭を爆ぜ、大地を揺るがした。

 月牙の黒い霊圧と紅い槍の真紅の妖力が天にまで上り、拮抗する。

 

「――」

 

 互角……レミリアはそう思った。

 そう思って、油断してしまったのが唯一の小さな傲慢だった。

 

「――まだだ!」

 

 一護が叫んだ。

 そう、月牙天衝は極小ながら生きていたのだ。

 その月牙が油断していたレミリアに――直撃した。

 

「ハハ……」

 

 一護の限界点が突破したのか、纏っていた黒い霊圧が消滅し、元の服装に戻る。

 レミリアも一発喰らってしまったせいで、高価そうな服がボロボロだ。

 

「一発、当ててやったぞ」

「ええ、当たってしまったわ」

 

 いさぎよく、告げる。

 

「私の負けよ。約束通り、紅い霧は消すわ」

 

 これにて激戦は幕を閉じた。

 一護の勝利という形で。

 

   *

 

 それから、数十分後。

 

「――お嬢様、ご無事ですか!?」

 

 紅魔館のメイド長――十六夜咲夜が扉を強く開け放った。

 霊夢との戦いのせいか、頭に包帯を巻いていたり、手や頬にガーゼが張られている。ボロボロになったであろうメイド服は新品のに着替えられている。

 そして最初に瞳に映ったのは、レミリアと一護が何やら平和的に否、和睦しているようにも見えた。

 

「あら、咲夜。どうしたの? そんなに慌てて、客人の前ではしたないわよ」

 

 レミリアが咲夜の方に振り返る。

 

「――……!!」

 

 咲夜の目が大きく見開かれ、一歩後ずさる。

 現在、レミリアの服は破けたりしており、その間近に一護が上半身裸(もう服が臨界点を超えたため見るも無惨だから脱いだ)で立っている。

 咲夜の脳内状況説明。

 場所――お嬢様の部屋。

 登場人物――男(黒崎一護)、お嬢様。

 概略――上半身裸の男(見た目、青少年)がボロボロに破けた服でいるお嬢様(見た目、少女)と一緒に居る。

 つまり……

 

「あ、あなた、お嬢様と一体なんのプレイを!?」

 

 咲夜が赤面しながら、超狼狽えて言う。と言うより、どこか嫉妬しているように感じたのは見間違いだろうか?

 

「あんた何か変に勘ぐってねえか?」

 

 まぁ最悪な誤解をされているのは必定だ。一護はとりあえず説明しようとするも、そんな暇はなかった。

 

「よくも私のお嬢様に手を上げましたわね!」

 

 あながち手を上げたとは間違っちゃいないが、主旨が違いすぎるだろう。

 咲夜が銀製のナイフを取り出し、一護を睨みつけた。

 

「いつから私はあなたのものになったのかしら?」

 

 レミリアが小声で小さく呟く。

 普通逆だろうと突っ込みたかったが、咲夜の瞳には一護しか映っていない。

 

「お、おい。なに変な誤解してんだよ! 俺がこんな子供にそんなことする訳ねえだろ! いや、手を上げたってのは若干間違ってねえが」

 

 一護は咲夜の誤解を必死に解こうとする。

 しかしある単語がレミリアの癪に障ったらしく、

 

「……子供」

 

 俯きながら、静かなる赫怒に満ちていた。

 

「おいレミリア! お前もこいつに何とか言ってやってくれ!」

 

 鋭利なナイフを構えている咲夜に対し、命の危機を感じた一護はレミリアに助けを求める。

 瞬間、ヒュッとナイフが空気を裂きながら飛来してきた。

 

「うおっ!」

 

 一護はナイフをギリギリ避けた。

 

「危ねえな! 当たったらどうすんだよ!」

「心配には及びません。肉が裂け、血が出るだけです」

「それが危ねえってんだよ!」

 

 平然と答えた咲夜に戦慄する一護。

 いや本当、どんな狂人だよ。

 

「つかレミリア! 早くこいつを止めてくれ!」

 

 と、一護はレミリアに助けを求める。

 

「そうね、分かったわ……」

 

 レミリアは俯きながら答えた。なぜか声が震えている。

 そして、

 

「咲夜……少しそいつを痛めつけて上げなさい」

 

 レミリアはそう言った。

 ……あれ、聞き間違いたかな?

 レミリアがナイフ女を刺激するようなことを言ったような。

 

「はい、お嬢様。少し痛めつけますね。全治三ヶ月ほどの痛みでよろしいでしょうか?」

「よろしくねえな!」

 

 どうやら刺激するようなことを言ったらしい。

 咲夜は再びナイフを構える。

 

「おい、待て! ナイフが一発でも当たったら痛いどころか致命傷もんだぞ!」

「問答無用です」

 

 再びナイフが放たれた。

 しかも一発ではない。まるで弾幕かのようなナイフの嵐。当たれば少しどころか死に至る。

 

「うぉぉぉおおおおお!!」

 

 一護はナイフから陸上選手もビックリするくらいの猛ダッシュで駆ける。

 

「レミリア! テメェ、何てこと言いやがる!」

 

 ナイフから逃げながら一護はレミリアに向かって叫ぶ。

 しかしレミリアは一護の言葉なぞ知らんぷり。ガキのようだ。

 

 ――その時だった。扉が再び破壊されるんじゃないかというくらい強く開け放たれた。

 

「一護、大丈夫!?」

 

 入ってきたのは博麗霊夢と霧雨魔理沙だった。

 

「一護ぉ大丈夫か?」

 

 と霊夢と魔理沙が言った刹那に、

 

「大丈夫じゃねー! このナイフ女をどうにかしてくれ!」

 

 一護は霊夢に向かって言う。

 その様子を見た霊夢は溜め息をつき、仕方なく一護を助けることにした。

 

   *

 

 それから数分後、ようやく茶番劇が治まり全員が落ち着いた。

 一護はこれまでの事を全て霊夢と魔理沙に話した。勿論、咲夜の誤解も解けている。

 ついでに霊夢もあの魔理沙の回復薬を飲んだことを聞いた。副作用について知っているかは不明のままだが。

 

「じゃあ、この紅い霧は明日までに消えるのね?」

「ええ、そうよ」

 

 霊夢は最後にレミリアに確認を取る。

 一応、これが博麗の義務であり、筆録書に記すためだろう。

 

「それじゃあ、これで異変解決ね。帰りましょうか、一護」

 

 異変は解決。

 もう、帰っても大丈夫だろう。

 しかし、一護は、

 

「待ってくれ、霊夢」

 

 何か用があるのか霊夢を止めた。

 

「何よ、まだ何か用事があるの?」

「ああ、ちょっとな」

 

 一護はレミリアの方を見る。

 

「レミリア・スカーレット……お前の名前を聞いた時、ある人物を思い出したんだ」

「ある人物?」

 

 レミリアは一護のセリフに首を傾げる。

 回りくどい言い方は面倒だったので、一気にその人物に名前を出す。

 

「お前――フランドール・スカーレットって女の子、知ってるか?」

 

 一護がそれを言った瞬間、レミリアと咲夜が目を丸くした。

 まるで触れてはならない物に触れてしまった感覚に等しい。

 

「……どうして、あなたが“私の妹”の名前を!?」

「! 妹……だと……!?」

 

 そのセリフに一護も驚愕した。

 夢の中に出てきた少女がレミリアの妹だったのだ。

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