東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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過去、最高文字数です。

後半が恐らくグダグダです。


第11斬【狂気の少女】

 一護の夢の中で助けを求めていた少女、フランドール・スカーレットはレミリアの妹だった。

 フランドール・スカーレット――彼女のことをレミリアからある程度は聞き及んだ。

 

 フランは495年間、今なお地下室に幽閉されているらしい。普通の人間なら死に絶える程の年月だ。

 そしてフランが幽閉されているのには、三つの理由が存在する。

 一つ目は何をするにも手加減ができない。

 二つ目はフランの能力の危険制。

 三つ目は気が狂れているから。

 この三つの幽閉理由が特筆してヤバいらしい。

 特に三つ目の気が狂れていると言う理由が、恐らくこの中で何よりも危険だろう。

 フランはちょっとした刺激により、異常なまでに反応し事を行う。例えば弾幕勝負なら、相手の血を一滴も残さずに吹き飛ばしてしまうくらい。

 故に監禁幽閉。そうしないと、幻想郷そのものが危ないからだ。

 

 一護はそれを踏まえた上で、その地下室の前まで五人でやってきた。

 最初はレミリアにも霊夢にもフランと会うことを反対されたが、一護の長い説得により承諾してくれた。

 地下室の扉はかなり頑丈らしく、どんな攻撃も弾き返す特殊な扉で出来ているらしい。故に扉は鍵で開ける必要がある。

 咲夜は懐からその鍵を取り出した。

 それを見たレミリアはもう一度、最終忠告するかのように言う。

 

「本当に良いのね? フランが発狂したら、私でも止められないわよ」

「ああ、分かってる。けど、俺は行かなきゃなんねぇんだ。あいつが俺に助けを求めてんだからよ」

 

 一護を前を、扉を見据えて言う。

 迷いなど元より皆無。やるべきことは変わらない。

 

「……そう、分かったわ」

 

 それを聞いたレミリアは、もう何を言っても無駄だと判断し引き下がる。

 咲夜は扉の鍵穴に鍵を嵌め、解錠した。

 

「ここからは俺一人で行く。お前らはここで待っててくれ」

 

 一護の言葉に霊夢は何も言わない。

 信じているのか、何も言う必要がないのか、それは判然としない。

 

「――行ってくる」

 

 一護はそんな霊夢にそう告げ、重い扉を開き、中へと入った。

 

 

 ガシャン……と、背後で扉が閉まる音が静寂の空間に響いた。

 一護は周囲の空間を見渡す。

 

「…………」

 

 夢の中で見た部屋と同じだ。

 窓もなく、明かりもなく、家具もほとんど無い、暗い牢獄のような部屋。まるで寂しさのみが充実したかのような静謐さだ。

 暗闇に一護の目が慣れてきた時、一人の少女の姿を見つけた。

 少女は体育座りをし、俯いている。

 これも夢と一緒だ。

 しかし夢と違う点は、これが現実と言うこと。少女に干渉できると言うことだ。

 

「――――」

 

 一護は少女にゆっくりと歩み寄る。

 どうしてだろうか、あれは夢だった。夢だったのに、それが現実と同じだった。

 しかし一護はそれには一切驚かずに順応している。どうにも、こういった非現実的感覚に慣れてきているようだ。

 少女は一護の気配を感じたのか、顔を上げ一護の方を見た。

 フランは薄い黄色の髪をサイドテールにまとめ、その上からナイトキャップを被っている。瞳の色は真紅で、服装も真紅を基調としており、半袖とミニスカートを着用。背中からは、一対の枝のようなものに七色の結晶がぶら下ったような特殊な翼が生えている。見た目は10歳未満の少女に他ならないだろう。

 とても狂人になるとは思えない。

 フランが一護の姿を確認すると、ゆっくりと口を開いた。

 

「あなたは、誰?」

「黒崎一護」

 

 一護はフランの目を見て答える。

 

「黒崎……一護。どうして、ここにいるの?」

「俺は、フラン、お前を助けに来たんだよ」

 

 平然と、自分が幽閉されている部屋に現れた少年に驚いた。更に名乗っていない自分の名前を言われても驚いた。

 しかしそれ以上に、あらゆる疑問の中でフランは、助けに来た……と言うセリフが一番の驚愕だった。そも見ず知らずの人がいきなり自分のことを助けに来た、と言い出すんだ。驚いて当然である。

 

「……どうして、私を助けに?」

「お前が俺に助けを求めて来たんじゃねぇのか?」

 

 そのセリフにフランは目を丸くする。

 

「私がいつ、どうやって、あなたに助けなんて求めることができたの?」

 

 当然の質問である。

 こんな牢獄の中で幽閉されている現状下で、人に助けを求める事なんて出来る筈が無い。

 

「夢だ」

 

 だが、一護はその質問に答えた。

 

「夢?」

 

 フランが怪訝な表情になる。

 まぁ質問の回答に夢とは、随分と意味不明も良いとこだろう。

 だが実質、本当に一護の答えは夢であっているのだから仕方ない。

 

「ああ、お前は俺の夢の中で、俺に助けを求めたんだ。荒唐無稽な話だから、無理に信じろとは言わねえよ」

「私があなたの夢の中で助けを求めた……」

 

 フランが少し疑惑の目で一護を見る。

 一護自身が何より一番驚いている。夢と現実が繋がるなんて思ってもみなかった。理由も不明だが、今はそれを気にしている場合ではない。

 

「聞かせてくれフラン」

 

 一護は人差し指と中指の二本を立てフランに向ける。

 もうまどろっこしいことは無しだ。

 

「この牢獄に残るか、ここから出て自由になるか、どっちか選べ」

 

 二者択一を迫った。

 それにフランは狼狽える。

 

「え、えっと……わ、私は、ここから、出たい……」

 

 フランは小さい声で言った。

 出たいと、正直な気持ちで言った。

 

「でも、私がここから出ると……お姉様や他の人たちに迷惑がかかるの」

 

 フランは少し悲しそうに言う。

 とても狂人になるとは思えない。

 自分の姉を、他のみんなを思いやっているその気持ち、それは何の陰りもない無謬の思いだろう。故に、フランをどうにかして助け出さないといけない。

 だからこそ一護は、どうにかしたい……いや、フランの狂人を倒す必要がある。

 そうすることによって、その狂人の部分を抑え付けることができると思ったから。

 

「分かった。だったら、俺が今からお前と遊んでやる」

 

 故にフランを自ら狂人化させる必要がある。

 

「お前の好きな遊びは何だ?」

「え、えっと……弾幕ごっこ」

 

 ちょっとした刺激がフランを狂人にさせるなら、それを実際に目の当たりにしなければ話が進まない。

 

「弾幕ごっこか。よっしゃ、んじゃ少しだけ――」

 

 その瞬間だった――一護の頬を光のような速度で通り過ぎた弾幕が引き裂いた。

 

 避けることも、反応することもできない速度。

 一護が戦慄するよりも先に、フランが立ち上がり、口を開いた。

 

「ルールなんていらないよ。一護が悪いんだからね。私を刺激するから」

 

 フランの目が血のように赤く輝き、さっきまでの綺麗な瞳とは思えない殺意に満ちた瞳へと変わっていた。

 そして表情も雰囲気も同じくだ。

 そう、フランは先とは別人と化したかのように、狂気に満ちていた。

 

「――イチゴ、簡単ニ壊レナイデネ」

 

 声のトーンまで少し変わっている。

 ちょっとした刺激で狂人になると言っていたが、まさかここまで速く狂人になるとは思わなかった。

 フランが狂気の笑みを浮かべ、スペルを唱える。

 

「禁忌『レーヴァテイン』!」

 

 フランから巨大な炎の剣が現れ、それを握ると高く飛び、一護に向かって振り下ろした。

 ここまでの動作に1秒と掛からなかった。

 一護は即座に代行証を手に取り、黒い霊圧で体を覆う。

 それにより一護の姿が死神のようになり、同時に右腕の霊圧を刀状に形成した。

 瞬間には、炎の剣と霊圧の刀が空間を揺るがすほどの大激突を果たした。

 

「アハハハハ!! 私ヲ楽シマセテネ、一護!」

 

 フランがその激突の中、無邪気な子供のように笑った。

 

   *

 

 その頃、地下部屋の前で待機する霊夢、レミリア、魔理沙、咲夜は激突する二つの大きな力を感じ取った。

 

「……始まったようね」

 

 激突の力を感じ取って、レミリアが呟いた。

 

「一護がフランの運命をどう変えるのかしら?」

「お嬢様、何か見えたのですか?」

 

 レミリアの呟きに、咲夜が反応する。

 何が見えたのか……とは一体何だろうか?

 

「何も。でも、私の能力も100%当たる訳じゃないから分からないわ」

「なぁ、お前の能力って何なんだ?」

 

 会話からしてレミリアの能力が噛んでいるだろう。

 故に魔理沙がそう聞いた。

 レミリアは別に隠す必要が無いと判断したのか、魔理沙の質問に普通に答える。

 

「私の能力は〝運命を操る程度の能力〟。能力の説明は面倒だから省くわよ」

 

 能力名は言ってくれたけど、能力説明が無しじゃ全然分からない。

 

「何にせよ、私たちは今、待つことしかできないのよ」

「……遣る瀬無いぜ」

 

   *

 

「うぉぉぉぉおおおお!」

 

 鍔迫り合い――漆黒の刀と真紅の剣が軋り合う。

 一護は胸が熱くなるほどの叫号を上げながら、フランの炎剣を弾き返した。

 

「――ッ!」

 

 フランは自分の炎剣が弾かれたことにより、身体が仰け反り隙が生じる。

 勿論、一護はその隙を見逃すようなヘマは犯さない。

 瞬時にスペルを唱える。

 

「黒符『月霊幻幕』!」

 

 無数の三日月状の弾幕が展開され、一気にフラン目掛けて放った。

 しかしフランも自分の隙を押し殺し、間髪入れずにスペルを唱える。

 

「禁弾『スターボウブレイク』!」

 

 フランから無数の弾幕が一護に降り注ぐように落ちてきた。それはさながらメテオが降り注ぐかのような勢いで。

 その弾幕が一護の放った弾幕を次々と相殺させていく。

 瞬間、フランはその間を狙い動き、牙を剥いた。

 

「――がッ、アアアァァァッ!」

 

 今の速度は音速の百倍を超えるであろう速度を行く、鉄の硬度も超える吸血鬼との正面衝突。そこに発生する運動エネルギーの爆発は、隕石の直撃を受けたのと変わらない。

 一護の纏う霊子が消失していく。しかし霊子の膜がなければ、今の直撃で五体の粉砕消滅は免れなかったであろう。

 

「ッッッ――舐めんなァアアッ!」

 

 一護は力一杯大振りに刀を薙ぐ。

 凄まじい衝撃波と共にフランを吹っ飛ばし、態勢を整える。

 

「スゴイ! スゴイヨ一護! 私、メチャクチャ楽シイ!」

 

 哄笑混じりに、フランが歓喜の声を上げる。

 ああ楽しい、面白い。これが遊び、これが弾幕ごっこ。

 これだから遊びは止められない。

 フランが本当に狂気じみた歓喜に震えた。

 

「そいつは良かったな!」

 

 一護は一気に跳躍し、上空から攻める。

 しかし――

 

「ソレジャア、一護。コレナンテ、ドウカナ?」

 

 途端に、フランは炎剣を消し、新たなスペルを唱える。

 

「禁忌『フォーオブアカインド』!」

「なッ!?」

 

 フランがスペルを唱え終えると――四人に分身した。

 一護は攻撃を急停止させ、目の前の現象に驚愕する。

 一人でも厄介なフランが四人に増えたのだ。

 その上、現状一護はあまり長期戦を望めない。何故ならここに来るまでに美鈴やレミリアと言った強敵と戦い、霊力が限界点を超えかけているのだから。美鈴戦での霊力は魔理沙の回復薬で回復はしたが、レミリア戦では更にそれ以上の霊力を消耗した。

 故に、早めに片を付ける必要がある。

 

「イクヨ、一護!」

 

 四人のフランから同時に弾幕が放たれた。

 

「黒符『月霊幻幕』!」

 

 それに対抗するは、再び放たれる三日月の弾幕。

 だが一護はその弾幕を放たず、自分の周囲に展開したまま、一番左端のフランの方に跳んだ。

 自分に飛んでくる弾幕は全て盾のように、己の周囲に展開してある弾幕に被弾し相殺させていく。こうすることによって、フランに近づくことを可能にしたのだ。

 

「考エタネ、一護。デモ、コウサレタラドウスル?」

 

 左端のフランが不敵な笑みを浮かべながら、スペルを唱える。

 

「禁忌『恋の迷路』!」

 

 フランから弾幕がぐるぐると回転される形で無数に放たれる。

 これは一護の展開している弾幕だけじゃ防ぎきれない。

 

「だったら、黒斬『月牙天衝』!」

 

 一護はスペルを唱え、月牙を左端のフランに向かって撃ち放った。

 

「アハハハハ! ソレデ私ノ弾幕ヲ防ゲルト思ッテルノ!?」

 

 フランがまるで馬鹿にするように笑う。

 だがその笑みは一瞬で消え去ることとなった。

 何故なら一護の弾幕が、フランの弾幕を全て掻き消していっていたからだ。

 

「ソンナ、嘘デショ……!」

 

 フランが絶望的な表情になる前に、月牙がフランに衝突した。同時に空間に溶け込むようにフランが消失したのだ。

 その光景に残り三人のフランが驚く。

 一護は透かさず空中を蹴り、残り三人のフランのもとに向かう。攻撃に暇はない。

 それを見たフランは油断せずに三人でスペルを唱えた。

 

「「「禁忌『カゴメカゴメ』!」」」

 

 刹那、一護の周りに緑弾が縦や横や斜めに籠目状に並び、一護を完全に捕らえる。

 一護は急停止し、直ぐにその弾幕に対応しようとするも、先に三人のフランが動いた。

 フランから黄色い大弾が放たれる、その質量は、並の弾幕の比ではない。

 

「しま――ッ!」

 

 一護がスペルを唱える前に、黄色い大弾が一護に被弾した。

 衝突すると同時に爆発が起こり、爆破の力が一護を覆い尽くす。

 

「終ワリカナ? 一護」

 

 爆発により発生した爆煙により一護の姿が確認できない。

 だがフランがそう呟いた瞬間、一人のフランの周りに三日月状の弾幕が展開された。

 フランは驚くも、逃げるのに遅れ三日月状の弾幕がフランを襲った。

 纏めて被弾したフランは煙が消え去るように消失する。

 

「ヤッパリ、マダナノネ」

 

 その時、一護が爆煙を霊圧で吹き消し、姿を現した。

 額から血が流れており、所々ボロボロな状態だ。かなりのダメージを喰らったようだ。

 

「危なかったぜ。霊圧を纏って防いでなかったら、今頃この弾幕ごっこは終わってた」

 

 どうやら霊圧を身体全体に覆い身を守ったようだ。

 だが、フランの弾幕の威力が強かったのか、全てを防ぎきるのは不可能だったみたいだ。

 しかし残るフランは二人だけとなった。

 

「禁忌『レーヴァテイン』」

 

 片方のフランがスペルを唱え、巨大な炎の剣を握る。

 

「一護、私ネ、今ネ……」

 

 フランは途切れ途切れに言葉を発する。

 そしてこの瞬間、明快に異変がフランの中に生じた。

 

「楽シイッテ感情ヲ通リ越シテ、勝チタイッテ感情ニ変ワッチャッタ!」

 

 そういうと、炎の剣を持ったフランは一護に向かった。

 一護は霊圧による刀でそれに応戦するも、

 

「私モ忘レチャ嫌ダヨ、一護!」

 

 炎の剣を持っていない、もう片方のフランがカードを取り出す。

 

「秘弾『そして誰もいなくなるか?』!」

 

 スペルを唱えると、それを唱えたフランが消え、代わりに無数の弾幕が一護に向かって飛んできた。

 炎の剣を持ったフランと無数の弾幕による二重攻撃。

 ガギィン! とフランの炎剣が一護に斬りかかる。

 

「クッ!」

 

 一護はそれを防ぎながら苦悶の表情に変わる。

 その炎剣、フランの力とは先よりも強い。

 今のフランは楽しさより勝ちたいという感情の方が強いが故、抑えていた力が完全に全開になっているのだ。

 一護が炎の剣を受け止めていると、もう一人のフランが放った弾幕が接近してきた。

 それを見た一護は直ぐ様、左手でカードを取り出しスペルを唱える。

 

「黒斬『月牙天衝』!!」

 

 フランの炎剣を受け止めている右手の刀から、月牙が撃ち放たれた。

 それにより、急激な力の変化により、フランは月牙と共に後方に勢いよくふっ飛ばされた。

 それを確認した一護は気を抜かず飛んでくる弾幕を躱し続ける。いや、この数の弾幕を避け続けるのは不可能だろう。故に弾幕を惜しまずに使い、最小限に避けながら身を守った。

 フランは月牙と共に吹き飛ばされる中、炎剣を力一杯振るい、壁に当たる直前で両断した。

 そして、再び一護に向かって飛んだと思うと――一護が炎剣により吹き飛ばされた。

 

「ガァッ!」

 

 訳の分からない攻撃を受け、一護は地に落下していく。

 しかし地に落下するよりも速く、暴狂の嵐が一護の腕を、足を、胴体を四方から打ちのめす。

 空中で踊らされる一護は差し詰め竜巻に弄ばれる木の葉。いや、それよりなお酷い。

 繰り返される特攻の神速の域。音速など四桁は超えている最速の連撃が、衝撃波を伴って肉体を引き千切りながら切り刻んでいく。

 更に最悪なのが意図せずして聴覚を無用のものと変えた、この――

 

「ハハハハッハハハハッハッハハ!!」

 

 耳を掠めた風切り音。咆哮が連撃の後に辿り着く。

 軽く十度は打ち据えた後になってから、ようやく連撃の絶叫が届くのだ。

 

「グァァアアア!!」

 

 一護はそのまま蹴り飛ばされ、壁に激突する。

 神話の凶獣のようなフランの動きに、一護は全くついていけなく蹂躙された。

 

(クソッ、全く見えなかった……! こんなの有りかよ!?)

 

 ダメージは大きい。だけど、まだ戦える。

 満身創痍になりつつ、ゆっくりと立ち上がる。骨が軋む、細胞が立つな立つなと訴えかけてきているのが分かる。

 ――けど、ここで勝たねえと、フランを助けられねえ。だから……

 

「負ける訳にはいかねえんだよ!」

 

 一護は無理を超え、スペルを唱える。

 

「黒斬『月牙天衝』!」

 

 黒い月牙が炎剣を持つフランに放たれる。

 威力は高いが、それは当たればの話。

 フランは再び光速で動き、

 

「ホラ、コッチダヨ!」

 

 月牙を避け、一護を引き裂かんと炎剣が振り下ろされた。

 

「ぐぅぅゥッ!」

 

 ガシィン! と炎剣を奇跡的に、否、経験則にも似た行為でフランの炎剣を一護は間一髪で霊圧刀を使い防いだ。

 一護の足元が陥没し、足が悲鳴を上げている。

 噛み締めた歯が砕ける勢い。両手の爪がめくれあがり、骨に亀裂が走っていくが一切無視する。

 ――気合入れろ。全霊を振り絞れ。ここで退いたら全てが終わる。

 みんなが信じてくれてるんだ。みんなが待っててくれてるんだ。

 霊夢は何も言わずに信じてくれた。魔理沙は心配そうにしていたが最後まで見守ってくれた。レミリアは敵だったが、自分を信じてくれた。咲夜は会ったばかりで会話どころか喧嘩を最初にしたが、やっぱりあいつも心のどこかでは自分を待っていてくれている。

 それにルーミア、チルノ、大妖精ともまた会うって約束したんだ。

 だから――

 

「見てろよ。絶対に俺が勝つ!」

 

 破壊の炎剣を防ぐ中、一護は吠えた。

 

「狂気に侵されたテメェに負けてたまるかよッ!」

 

 全身全霊で再びスペルを唱える。

 

「黒斬『月牙天衝』!」

 

 月牙天衝による急激な運動エネルギーにより、フランは再び後方に月牙と共に吹っ飛ばされた。

 

「アハハハハハハ! コンナモノ、モウ効カナイヨ!」

 

 炎剣を大きく振り、月牙を両断しようとするフラン。

 だがその前に――

 

「まだだ! 黒斬『月牙天衝』!」

 

 二発目の月牙天衝が、フランに向けて放たれた。

 二重の月牙による相乗効果により、月牙の威力が莫大に膨れ上がる。

 

「!?ソンナ――」

 

 流石のフランも二発も防ぎきる事はできず、月牙に飲み込まれた。

 ドゴォォォンッ! と凄まじい爆発が起こりフランは爆風と共に消え散る。

 それと同時に弾幕も止んだ。

 

「これで、三人……」

 

 もう体力も霊力も既に限界点を超えている。もはや立っていることじたいが、奇跡に近いであろう。

 そんな中、本物のフランが一護の目の前に現れた。

 

「一護、本当ニスゴイヨ。私ヲココマデ苦戦サセルナンテ」

 

 狂気状態のはずが、冷静にフランが一護に感心の声を上げる。

 そのはずだ。今まで、人間とここまで対等に遊んだ事がないからだ。

 

「デモ、私ノ本気ハコレカラダヨ」

 

 そう言うとフランが右手を前に突き出し、手の平を上に向ける。

 すると、そこから目玉のような赤い物が現れた。どこか不気味な雰囲気があり、まるで自分の核を敵に握られている感覚が生まれる。

 

「何だ、それ?」

「知ッテル、一護? 全テノ物質ニハ目トイウ最モ緊張シテイル部分ガアッテ、ソコニ力ヲ加エレバ簡単ニ物質ヲ破壊デキルッテコト」

「目……だと?」

「ソウヨ。私ハネ、ソノ目ヲ自分ノ手ノ上ニ作ルコトガデキルノ」

 

 それを聞いた一護は目を見開く。

 フランの説明している意味が理解できたからだ。

 

「まさか、テメェ……!」

「理解ガ早クテ助カルヨ、一護」

 

 一護は慌ててスペルカードを唱えようとする。

 もしフランの言っている言葉が本当なら、あれを握り潰されたら――

 

「遅イヨ」

 

 冷酷な笑みを浮かべながら、フランはその目を軽く握り潰す。

 

「――きゅっとしてドカーン」

 

 何の躊躇もなく、ちょっと握力を加えただけで目が粉砕された。

 

 その瞬間――一護の身体が爆発粉砕した。

 

 霊子の膜も何も関係なく、脇腹あたりが破壊される。否応などない。破壊されるべくして、破壊されたのだ。

 

「ぐぁぁああああアアアッ!!」

 

 絶叫が響き渡り、一護は倒れ伏す。

 急に脇腹が破壊されたことにより、生命力までも限界点を超えてしまったのだ。脇腹から鮮血が流れだし、床を赤色に染め上げ続ける。

 

「……一護、モウ終ワリナノ?」

 

 そんな状況を見て、フランは少し悲しそうに倒れている一護に語りかける。

 勿論、反応はない。呆気のない終わり方だ。

 

「ヤッパリ、終ワリナノネ。マタ、私ハ壊シチャッタ」

 

 フランは自己嫌悪に陥りだした。

 ああ、やっぱりそうだ。自分を抑えられない。人間はちょっと本気を出したら簡単に壊れてしまう。柔肌を撫でただけでも砕けてしまう。

 この世は総じて繊細に過ぎない。

 だから――悲しい。

 私は自分の狂気に一切抗えない。故に全てを破壊してしまう。

 

「……私ハ、ヤッパリココニ居タ方ガ、イインダヨ」

 

 フランは一護に背を向ける。

 もう終わった。そして結論に至った。自分が自由になるなど、不可能だと。

 瞬間だった。

 背後から、物音が聞こえた。それは誰かが立ち上がる音だった。

 

「まだ、終わってねぇぞ……!」

 

 その声に、フランは振り返る。

 そこには血みどろになっている一護が、フラフラながら立ち上がっている姿が確認できた。

 

「――――」

 

 その姿にフランがパァっと明るくなる。

 

「ヤッタ! 壊レテナカッタ!」

 

 危ない発言だが、嬉しそうだ。

 一護はその表情を見て、口を開いた。

 

「……何で、さっき、悲しそうな顔してたんだ?」

「!」

 

 その言葉にフランは目を見開く。

 同時に笑顔が消えた。

 

「お前は、俺に勝ちたいんじゃなかったのか?」

「カ、勝チタイヨ……」

 

 フランは小声で答える。

 

「だったら、何であんな悲しそうな顔すんだよ?」

「ソ、ソレハ……」

 

 フランは一護から顔を背ける。

 戦いの中、フランは勝ちたいと思った。しかし心のどこかで、こんな勝ち方は望んでいなかった。勝った後もお互い笑い合える、そんな勝ち方をしたかった。

 それを一護もどこかで理解し、

 

「お前は、あんな勝ち方を望んでねぇんだろ?」

 

 言ってやった。

 真髄を突いてやった。

 故にその言葉にフランは目を丸くする。

 

「そうじゃなきゃ、あんな顔する訳ねぇもんな」

 

 フランは背けていた顔を再び一護の方に向ける。

 

「フラン、お前は自分の力が恐ぇか?」

「エ……?」

 

 急な問いかけにフランは狼狽える。

 

「自分の能力が恐ぇか? それとも、自分の狂気が恐ぇか?」

 

 一護は一気に沢山の事をフランに問いかける。

 その言葉はかつての仲間に言われたセリフ。自分もフランのように自分の内なる力に怯えていた時に、叱責と同時に自分を信じてくれた仲間のセリフだ。

 フランは一護の言葉を聞き逃さず、そして答える。

 

「私ハ……全部恐イ……。ダカラ、ココカラ出タクナカッタ。ココカラ出タラ、私ハ、沢山ノ人ヲ苦シメルカラ」

 

 それを聞いた一護はゆっくりと口を開く。

 

「だったらよ、自分の力が恐けりゃ、それを抑えるくらい強くなりゃいい。自分の能力が恐けりゃ、もうそれを使わないとみんなに誓えばいい。自分の狂気が恐けりゃ、それすらぶっ潰すまで強くなりゃいい。例え他の連中がそれを信じなくても、俺はお前を最後まで信じるぜ、フラン」

 

 その言葉を聞いたフランは狂気の状態から、徐々にいつもの状態に戻る。

 

「まだ会って、急にこんなことを言うのも変だけどよ。お前と弾幕ごっこをして、お前の剣に触れられた時、お前からは悲しさばかりが俺に流れ込んできた」

 

 フランから戦いで感じたものは、自分を救ってくれる光。だけどそんなものは淡い期待であり、有り得ない夢物語だとフランは踏んでいた。

 故に悲しみしか生まれないのだ。

 だけど、やっぱり心の奥底では……

 

「お前は……その悲しみから抜け出すために、必死で心の中で願ってたんじゃねぇのか? 助けてほしいって。自分にも明るく、温かい未来が来て欲しいって」

 

 一護の言葉を聞いて、フランは――

 

「……私は……誰かに、助けてほしかったの。でも、何百年願っても、誰も来てくれなかった。だから、私は……」

 

 フランの紅い瞳から涙がこぼれてきた。

 それこそがフランの渇望であり、真に願うこと。

 しかし何百年願っても、誰も助けになんて来てくれなかった。光なんて、ただの幻影に過ぎないと思った。

 だけど、

 

「最初に言っただろ。フラン、俺はお前を助けに来たんだぜ」

 

 一護はフランに優しく微笑みかける。

 そう、それこそフランが求めた光だった。幻影なんかじゃない、真なる光。

 フランは涙を流しながら、自然と少女らしい笑顔を向けた。

 

「来いよフラン。最後の弾幕ごっこだ。ここで、お前に眠る狂気の器を超えてみろ。いや、もう超えているだろうが、不安だろう。まだ残っているんじゃないかって。だけど心配すんな、俺が全部、受け止めてやる」

 

 そうだ。

 これで終わりにしよう。

 そして証明するんだ。フランが自分の狂気を乗り越えてみせるって想いを。乗り越えたっていう証左を。

 

「狂気なんてもんは、自分の心が弱いから発生するんだ。俺も昔、そうだったように」

 

 過去、一護は自分に眠る内なる虚を恐れた。だからフランの気持ちは誰よりも分かる。だけど、このままではいけない。

 フランには頼る仲間が、友が絶対に必要だ。何故ならそれこそが、自分を優しく支えてくれるから。

 

「ルキア……」

 

 かつての仲間の名を口にする。

 その人物こそ一護を救ってくれた、大切な仲間なのだ。

 

「だから今度は俺が、お前を支える友達になってやる。さぁ来いよフラン。お互いに笑い合える戦いにしようぜ」

 

 それを聞き、フランは、

 

「う、うん!」

 

 フランが笑顔で答えた。

 刺激による狂気化もしない。ああどうやら、やっぱりフランはもう狂気などと言うものは既に乗り越えている。自分にも光と言うものがやって来たからだ。

 だったらもう安心だ。

 最後の、紅霧異変最後の弾幕ごっこだ。

 二人が最後の笑い合える戦いが始まる刹那だった。

 

 ――フランに向けて、一発の小弾が打ち抜かれた。

 

 フランから笑みが消え、そのまま冷たい地に倒れ伏す。

 何だ、一体、何が起きた?

 訳が分からない、理解できない。一護がこの状況に、全く頭が回らない。

 

「フラン!!」

 

 一護は倒れたフランに駆け寄る。

 

「黒崎一護」

 

 不意に自分の名を呼ばれ、足を止める。

 そして、声のした方を見る。

 いつからそこに立っていたのだろうか、一人の男が佇んでいた。

 

「誰だ……テメェ!?」

 

「私は刹蘭。君を頂きに来た」

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