東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

13 / 51
遅くなって申し訳ありませんm(_ _)m

とりあえず紅霧異変は終了ですヽ(・∀・)ノ
少しだけ番外編ものせてます。


第13斬【夜の神・ルリミアVS暴走一護】+番外編

《1》

 

「何なんだよ、テメェ……!?」

 

 一護が変貌したルーミアの姿を見て目を丸くする。

 今のルーミアは、姿も雰囲気も完全に変わっている。簡単に例えるなら、フラン以上の狂気に、レミリア以上の圧。

 まるで生きている立ち位置が違う存在。別位相より現実に干渉しているような未曾有な感覚。

 それが目の前に立つ、女だ。

 

「彼女はルリミア。幻獄七夢卿(セプテムカールダ)の一人だった女性だよ」

 

 一護の疑問に、刹蘭が答える。

 ルリミアの姿を見て、どこか楽しんでいる口調に表情だ。

 そしてその言葉を聞いた霊夢が驚愕のあまり、目を見開いた。

 

幻獄七夢卿(セプテムカールダ)ですって!?」

「どうしたんだよ霊夢? 幻獄七夢卿って何か知ってんのか?」

「……幻獄七夢卿(セプテムカールダ)は、私の母様が唯一、恐れていた組織よ」

 

 怯えたように、冷や汗を流しながら答える。

 こんな霊夢の姿は、一護も、そして長年の付き合いである魔理沙ですら見たことがなかった。

 

「そうか、やはり博麗霊華は君にそのことを伝えていたか。存外、賢明な判断をしたということか」

「あんた、私の母上の名を軽々しく口にしないで!」

 

 霊夢が怒りの形相で言う。

 自分の母親の名前を、敵に口にされた事に苛立ったみたいだ。

 博麗霊華……どうやら、話の流れからするに、その名が霊夢の母親の名のようだ。

 更にそれを聞いたルリミアが霊夢の方を見て口を開いた。

 

「へェ~、あんた博麗霊華の娘なの?」

「だから、私の母上の名を軽々しく……」

 

 霊夢が再び同じことを言おうとすると、ルリミアがそれを遮るように言ってはならないことを言う。

 

「――で、博麗霊華は死んだの?」

 

 その一言に霊夢は口を閉ざし、俯いた。どこか悲しげな表情に見える。

 

「……そう、死んだのね」

 

 ルリミアが霊夢の表情を見て察したのか、最悪の結論を言い述べた。

 死んだと――。

 

「それは酷くガッカリだわ」

 

 その言葉に霊夢は顔を上げる。

 敵であるルリミアが、霊夢の母親の死に本気で気落ちしているのだ。過去に何か因縁があったのだろう。故に次に発言する言葉は――

 

「私が殺すはずだったのに。私を封印して死ぬなんてね」

「どういうこと……?」

「私は博麗霊華の手によって封印されたのよ。その赤いリボンの忌々しいお札を媒介にね」

 

 ルリミアが刹蘭の持つお札を指差す。

 どうやら霊華に、赤いリボンのお札の力で封印されていたらしい。

 

「まぁいいわ。だったら同じ博麗の者を殺して、私が博麗より上だってことを証明させてあげるわ」

 

 そういうと、ルリミアの目が覇者の色に変わる。何百年何千年で辿り着けるような境地にはない、遍く全てを滅尽せんと動く覇王の領域。

 同時に一護は直感する。

 こいつは今まで会った敵とは違う。グリムジョーとも、ウルキオラとも、藍染とも。敵とは言っても、敵の力量を推し量るなり、想像するなりはできた。

 しかしルリミアは全く違う。

 人が宇宙の広大さを測ることができないように、一護たちの目にはルリミアが人の形を模した別の宇宙にしか見えなかった。

 

「さぁ、見せてもらうよ。博麗の血を継ぐ者……そして、黒崎一護」

 

 刹蘭がそう呟くと、持っていた赤いリボンを放り投げた。

 

   *

 

「終焉無き月夜の焰――ルリミア・セヴンテイル。さぁ来なさい。私の世界が全てを塗り替えてやるわ」

 

 ルリミアの世界法則が“何か”を塗り替えようと拡大する。

 敵の巨大すぎる密度だけで、本来なら一護たちは完全消滅しても不思議ではないどころか必然だったであろう。

 しかし封印の解除は完全ではない。

 霊華の封印は特殊なもので、封印されている間、急激に力を消失していく。その消失率は並の妖怪なら一秒で存在そのものが消滅してしまうほどだ。

 だがルリミアは十年以上封印されても、全く衰えを見せていない。

 これがルリミア、これが幻獄七夢卿の恐ろしさなのだ。

 一人一人が世界法則そのもの、宇宙そのものと言っても過言ではない敵だ。

 

「この私を舐めないで。神術『吸血鬼幻想』!」

「行くぜ、星符『メテオニックシャワー』!」

 

 そんなルリミアに対し、真っ先に動いたのはレミリアと魔理沙だった。

 二つのスベルによる豪雨のような弾幕がルリミアに襲いかかる。

 

「吸血鬼に魔法使いね。悪くはないと言ったところかしら」

 

 自分より下位の攻撃など避ける必要もないが、霊華の封印の効力がどう働くか分からない以上、ここは避けるのが得策だろう。

 そう得心したルリミアはスペルを唱える。

「ここは“法”に従い、スペルで行こうかしら。夜闇『深淵の道』」

 

 ルリミアの周囲に漆黒の弾幕が展開され、自分に向かってくる弾幕を悉く粉砕していく。この圧倒的な力を前に蹴落とされると思ったが――

 

「隙ありです」

 

 咲夜がルリミアの背後をとっていた。

 時間停止により、いとも簡単に背後をとったのだ。

 ルリミアが後ろを振り向こうとするも、

 

「遅い、穴あきにしてあげるわ! 幻符『殺人ドール』!」

 

 咲夜がスペルを唱えると、大量のナイフがルリミアに放たれた。

 ルリミアは避けるのに遅れ、数本のナイフが体に突き刺さる。

 

「ほう、私にナイフなどが刺さるとは、やはり博麗霊華の仕業か。いやそれ以前に、人間如きの時間停止に抗えなかった時点で、私の弱体化は見るも無残ね。煩わしいわ」

 

 自らが一つの世界であるルリミアは、時間軸すらも個別に存在するがゆえ、時間を操る能力などは一切通じないはずだった。だがそれが霊華のせいで著しく弱まっている。宇宙規模までの弱体化……それはそこに上り詰めた者でしか確認できないであろう領域だ。

 だがしかし、ナイフが何本も刺さったにも関わらず、一切苦悶の表情すら見せずにいる。

 

「次行くわよ! 霊符『夢想封印』!」

 

 霊夢が更に追い討ちをかけるよう、スペルを唱えた。

 複数の光弾がルリミアを滅却せんと一瞬で包み込む。

 瞬間、爆発と共に爆風が砂塵が舞い起こった。

 

「やったか!?」

「分からないけど、恐らくはまだ」

 

 魔理沙の問いに霊夢が即答した。

 恐らく、いや確実にこの程度では倒せていないだろう。

 その証拠に、爆煙が勢いよく掻き消された。

 

「ッ!」

 

 瞬間、晴れた場所から無傷のルリミアが現れた。

 そして更に驚いたのが、咲夜が刺したナイフ傷も綺麗さっぱり消えてなくなっていたのだ。

 

「強いねェ。けど、無駄な体力を使っただけだったね」

「どうして、無傷なのよ。咲夜が確かにあなたに攻撃を加えたはずよ」

 

 不敵な笑みを浮かべるルリミアに対し、レミリアが睨みつけながら言った。

 

「そうだな、教えてあげよう。私の能力は〝夜を操る程度の能力〟。私は自分の好きな時に朝から夜に変えたりできるんだよ」

 

 ルリミアが自分の能力を悠々と述べる。

 

「その能力であなたの傷が完治したとでも?」

「そうよ。けど、能力だけのお陰じゃないわよ。私の特異体質〝月夜大星(ツクヨミ・サフナール)〟の力でもある」

月夜大星(ツクヨミ・サフナール)……?」

「そう。月夜大星(ツクヨミ・サフナール)とは私の権能。夜の間は、私がどれだけ傷を負おうが、死のうが、消滅しようが、例え因果律を操ろうが、直ぐさま元通りに元の空間に自身を戻すことができるのよ」

 

 月夜大星(ツクヨミ・サフナール)――その力が有る限り、夜の間はどれだけ倒そうが意味がないということだ。それに、例え朝まで持ちこたえても、ルリミアの能力で夜に変えられてしまう。

 

「さぁ、すぐに終わらせて上げるわ」

 

 ルリミアがカードを取り出す。

 その瞬間、ルリミア目掛けて黒い弾幕が飛来した。

 

「…………」

 

 しかし身体を少し逸らし、黒い弾幕を躱しきり、飛んできた方向に瞳を向ける。

 そこには満身創痍ながらの一護が立っていた。

 

「俺を、忘れてんじゃねぇぞ」

 

 既に立っているのが有り得ない状況下なのに、弾幕を放つというのは異常と言って良いだろう。

 

「そうだったわね。でも、その体で何ができるのかしら?」

 

 一護は先の戦いで体も霊力も限界に達している。

 まともに戦うのは確実に不可能だ。

 

「まだ、やれる……!」

 

 強がっていると言うのが、その場の全員に理解できた。

 

「そう、やれるのね。だったら、見せてみなさい。夜触『淫怪の祭』」

 

 ルリミアの周りに、夜の暗闇から具現化したように複数の黒い触手が現れた。

 それが一斉に一護に襲いかかる。その速さは、今の一護では到底避けられない。

 

「最強のあたいも忘れないでよね!」

 

 そこにチルノと大妖精が一護を庇うように前に現れた。

 迫る黒い触手を恐れず、スペルを唱える。

 

「冷符『瞬間冷凍ビーム』!」

 

 チルノから三本の白いビームが、黒い触手に向かって放たれた。

 そして文字通り瞬間的に全ての触手が凍らされ動きが止まる。

 同時に大妖精がクナイ型の弾幕を放ち、凍らされた触手に止めが刺された。いとも簡単に砕け散り、氷の残滓が空気中に舞う。

 

「ほぉ、妖精の分際で勇気があるじゃないか。褒めてあげるわ」

 

 ルリミアが感心したように言うが、どこか侮蔑の念がこもっていた。

 

「チルノ、大妖精……」

 

 一護が二人の背中を見て呟いた。

 

「一護はあたい達が護るからね」

 

 チルノが振り向き、心強く言う。

 護る……その言葉に、一護は少しむず痒かった。

 いつもは自分が誰かを護る立場だったが、こうして誰かに護られていると思うと、少し遣る瀬無い気持ちになる。

 

「ああ、ありがとな」

 

 一護はお礼と共に答える。

 そうだ、今は一人で戦っている訳じゃない。仲間たちがこうして一緒に戦っていてくれているんだ。これ程、頼りになる仲間はいない。

 

「いいわね、少し興が乗ったわ。夜王剣『終焉ノ裏十字』」

 

 そんな中、ルリミアがスペルを唱えた。

 ルリミアの右手に聖者の十字架を変形させたような漆黒の大剣が現れた。

 

「さぁ行くわよ。これが博麗の終焉となることを願って」

 

 そして、ルリミアが本格的に動き出した。

 

   *

 

 全員が倒れるのに、それ程までに時間は掛からなかった。

 ゆらゆらと夜風に長い金髪を靡かせながら、戦場跡に悠然と佇んでいる。その足元には、ルリミアを倒さんと動いた全員が地に伏せていた。

 だがまだ止めは刺していないのか、全員の息遣いが聞こえる。

 

「やっぱり、この程度か。まぁ、その体でよくやった方だよ。黒崎一護とやら」

 

 ルリミアが倒れている一護に向かって言う。

 倒れている一護も既に虫の息であり、生きているのがやっとと言う状態に等しいのかもしれない。

 

「そんな君は一番先に止めを刺して上げるわ。どうせ、全員殺す。仲間の死に様なんか見たくないだろう?」

 

 ルリミアが一護に歩み寄る。

 それを聞いた一護はゆっくり、絶対に立てない体を無理やり足の力で立ち上がらせた。

 

「俺の仲間は、俺が護る……。テメェなんかに、殺されてたまるかよ……!」

「……ヘェ~、まだ立つの。いやいやこればかりは驚いたよ。けどさ護る……さっきまでは妖精ちゃんに護られていたくせに、よく言えるわね」

「うるせぇ! 俺の仲間にこれ以上、触れるんじゃ――」

 

 刹那、一護の体が崩れ落ちた。

 

(な……何だよ急に……!? 体が、動かねえ!!)

 

 一護は俯せになりながら、心の中で叫んだ。

 まるで身体が死んだかのように、微動だにしない。

 そして、一護はあの時の魔理沙から貰った回復薬の副作用の事を思い出した。副作用は全身が麻痺し、一時的に体が動かなくなること。

 それが、今の最悪なタイミングで一護に起こっているのだ。

 

(くそ……何で、こんな時に……!!)

 

 一護は体を頑張って動かそうとするが、小指一本も動かせない。

 さながら全身に麻酔を打たれたかのように力が入らないのだ。

 

「流石に体がガタにきたみたいね」

 

 ルリミアは一護の前に立ち、倒れている一護を見下ろす。

 

「けどまぁ、この中では一番賞を上げたいくらいだよ。私と戦う前から既に、普通の人間なら死んでいてもおかしくない状態だったのに、それでも私に挑んだ。いやいやあっぱれだよ本当に」

 

 漆黒の大剣を一護に向けながら、最後の言葉をかける。

 

「それじゃあ安らかな永眠を。バイバイ――黒崎一護」

 

 そして何の躊躇もなく、大剣を振り下ろした。

 

 …………だが肉の裂ける音も、血飛沫すらも無い。

 苦悶の声も当然あっても良いが、それすらないのだ。

 

 ――なぜなら、一護がその大剣を片手で掴んでいたからだ。

 

「――――ッ!」

 

 その姿を見た、ルリミアと刹蘭は目を見開いている。

 

「何で、私の剣を……!?」

 

 ルリミアが有り得ないものを見るような目で一護を見る。

 いや、本当に有り得ない。

 身体は死んでもおかしくない状態な上、副作用の麻痺のせいで絶対に身動きが取れない状態だったのだ。しかもルリミアの大剣の一振りは天を引き裂く威力を有している。

 それを片手で掴むなど、人間である一護が成せるはずがない。

 

「――バカが……言っただろうが……テメェに死なれちャア、こっちも困るってよ……」

 

 一護は俯いたまま、独り言を呟く。

 その声が一護の物では無いと、ルリミアも刹蘭も直ぐに気付いた。

 

「質問を変えようか……君は、誰だ?」

 

 ルリミアが俯いている一護に目を向けながら問いかける。

 その問いに一護は、

 

「……誰だと? はッ! 名前なんか、無ェよ!」

 

 ゆっくりと頭を上げた一護の顔には――虚のような仮面が顔半分を被っていたのだった。

 

 

《2》

 

「名前なんか、無ェよ!」

 

 ブワッと、解けていたはずの黒い霊圧を再び身に纏った。

 霊圧が底を尽きているはずなのに一体どうしてか、今の一護は全盛期以上の霊圧を内包している。

 例えるなら神気じみた圧倒的な質量。ルリミアが一つの宇宙であるように、今の一護も一つの宇宙のような測り知れない存在となっていた。

 

「ッ! こいつ……!?」

 

 ルリミアは即座に握られている大剣を、強引に引き離し一護から距離を取る。

 あまり強く握られていなかったのか簡単に引き戻せたが、これは考えを変えると自分の大剣なんぞ何の脅威にもならないことを意味していた。

 舐められている――そう直感し、ルリミアは少し苛立つ。

 だがしかし、舐められても仕方ないのだろう。今の一護に、もはや理性など無いに等しいのだから。

 一護の顔半分には虚の仮面が完全に被っていて、今も顔全体を被うように仮面が徐々に拡がっている。

 

「…………」

 

 ザッと、一護の足が半歩動き、

 

「オラ行くぜェ!」

 

 地面が陥没する勢いで蹴り、ルリミアに直進した。

 ルリミアは直ぐ様、スペルを宣言する。

 

「夜闇『フィンスレーゲン』!」

 

 スペルを唱えると同時に、走る一護の頭上に黒い弾幕が現れ、穿ち殺すかのように降り注いだ。

 しかし一護はそれらを難なく躱しながら、いとも簡単に突破していく。

 そも速さの次元は、レミリアを破った時点で、ルリミアは音速以上の速さなんぞ取るに足らんだろう。否、そもそも一つの法則が成立しているルリミアの世界において、速さの概念など存在していない。

 だが不運にも霊華の力により著しく低下しており、更に今の一護は同じ次元に立っているといっても過言ではない。

 故に――

 

「ハッハァァアアアア!!」

 

 既にルリミアは一護の斬程圏に入られていた。

 一護は右腕の膨大な霊圧を刀状と化し、一気に振るわれる。

 

「チッ!」

 

 だが間一髪にも大剣で、一護の刀を防ぎ切った。

 このまま鍔迫り合いになると思ったのも束の間――

 バキンッと、まるでクッキーでも割るかのように、ルリミアの大剣がそのまま斬り砕かれた。

 ルリミアがそれに驚く前に、そのまま漆黒の刀がルリミアを引き裂く。胴体、斜め一閃に斬られ、ルリミアの宇宙に多大なダメージを負った。

 

「グッ!」

 

 苦悶の声が漏れ、再び後方に跳躍し一護から距離を取る。

 かなり深く斬られたらしく、鮮血が絶え間なく流れ出ていた。

 

(バカな……!? 私の剣を、私の宇宙(カラダ)を斬っただと!? いくら私が全盛期の力を出せないからって、有り得ない!? 一体何だ、この男は!? いいや、それよりも――)

 

 ルリミアは自分の斬られた体を一瞥し、

 

(なぜ、月夜大星(ツクヨミ・サフナール)が発動しない!?)

 

 夜の間なら、例えケガをしようとも、死のうとも、存在を消されようとも、因果律を操作されようとも、ルリミアは一瞬で復元できる。

 なのに、それが発動されない。

 意味が分からない、理解できない。

 そんなルリミアが混乱している最中に、

 

「ハハハハハハハッ!! やっぱりテメェは下手糞だ!! 一護ォオ!!! 自分の力の使い方も理解できずに体中が軋んでんじゃねえか! 情けねえを通り越して、可哀想に思えてきたぜ! せっかくだ見せてやるぜ俺が! 力の使い方ってやつをよ!!」

 

 一護は右腕を大きく振りかざし、勢いよく月牙天衝を放った。

 その質量、今まで一護が放ってきた月牙天衝と同じものかと問いたくなる程までに次元が違う。

 ルリミアはそれを透かさず後方に飛び避ける。

 

(何だ!? この出鱈目な力は!? どうなっている!?)

 

 一護の力に慄き、驚愕している一瞬の隙……一護はルリミアの上方に移動していた。

 

「ッ!」

 

 再度放たれた月牙天衝を間一髪のところで避けきる。

 そして刹那的対応で、一護に攻撃を仕掛ける。

 

「舐めるなよ! 夜砲『ティフゼークリダ』!」

 

 ルリミアから漆黒の超極太レーザーが一護に向かって放たれた。

 瞬間、レーザーが一護を完全に包み込んだ。

 

「あははは、やった……」

 

 ルリミアは一護を完全に捉え、破壊の閃光へと追いやった。

 故に歓喜し、勝ったと思ったが――

 既に一護が逆にルリミアの背後を捉えていた。

 気配に気づき、冷や汗と同時に振り向こうとするも……

 

「おせェよ」

 

 冷徹で冷酷な、慈悲も何も無い一閃。

 

「ガハ――ッ!」

 

 吹き飛ばされたルリミアの右腕。

 肩から容赦なく斬られ、鮮血が舞い散りながら肉塊と化した。

 そして一護はそのままルリミアを蹴り飛ばす。

 その衝撃は、ルリミアの内蔵を悉く爆散させ並の妖怪なら五体粉砕は当然の威力だっただろう。

 

「クッソ……!」

 

 荒くなるルリミアの呼吸。月夜大星(ツクヨミ・サフナール)が発動しないせいで、ルリミアの身体は限界に行きかかっている。

 

「クソクソ……ッ! あんた、一体私の身体に何をしたの!?」

 

 恐らく体質効果が発動しないのは、目の前の男が何かをしたからだろう。

 それしか有り得ないし、それ以外に見当もつかない。

 すると一護は、ルリミアの質問に答えるわけでもなく、スッと左手をルリミアの方に突き出した。

 

「ッ!」

 

 それに対しルリミアは身構えたが、特に何もこない。

 

「……ハッ、何構えてんだよ。楽にいこうじゃねえか。戦いの中で緩急を付けるのは大切だぜ。まァ、今頃身構えても、遅ェんだけどな」

「何が、遅いっての?」

 

 ルリミアがそう言った瞬間、ようやく自身の異変に気づいた。

 手が、足が、身体が――

 

(動かない!)

 

 そう、ルリミアはまるで見えない束縛を受けているかのように、全く身動きが取れないのだ。筋一筋、声を発するための筋肉以外、どこも動かない。

 

「あんた、一体何をしたの……!?」

 

 ルリミアは冷や汗を垂らしながら、焦り口調で叫んだ。

 

「質問の多いヤローだな。ガキじゃねぇんだから、テメェで考えやがれ!」

 

 嘲ると同時に、一護は動けないルリミアに向かって月牙天衝を撃ち放った。

 当然、ルリミアは動けないため回避不可防御不可で一護の力をまともに喰らってしまう。

 ドゴォォオオオオン!!……と、凄まじい黒い霊圧の爆破と天を貫く閃光が跳ね上がった。

 

「はははははははははははははははは!!!」

 

 楽しげに哄笑を上げる一護。

 ああ楽しい。愉快だ。戰こそが求める本能。

 弱者は強者に喰われる。自然の摂理であり、ごく普通のことだ。故に一護より弱いルリミアは喰われるのが必然であり、義務でもある。

 

「はっはぁはぁ……ッ」

 

 爆煙を掻き消すかのように、ルリミアが現れた。

 既に満身創痍。立っているのがやっとの状態にも見える。

 それを確認した一護は飽きた玩具を見る感覚で、口を開いた。

 

「何だよ、まだ生きてんのか。しぶてぇヤローだな。まあ……もう一発放てば終わりだけの話だがな!」

 

 再び容赦のない止めの一撃を放とうとした瞬間だった。

 

 ――自分の左手が、ガシッと顔を覆う仮面を掴んだ。

 

 その光景にルリミアも刹蘭も少し驚いた。

 

「ぐ……!? く……くそっ! 離せ……っ!」

 

 一護が自分の左手を強引に引き離そうとするが離れない。傍目からは奇異行為に見えるが、これは内なる一護を消そうと、通常精神の一護が戦っているのだ。

 

『邪魔すんな、消えろ!』

「邪魔はテメェだ、離せ! このまま俺にやらせてりゃ、勝てるってのが判んねぇのか!!」

 

 一護の左手がメキメキと音を上げ、徐々に仮面を剥ぎ取っていく。

 

「くそッ!! くそッ!! バカが……ッ!! ああああああアアアアアアアア!!!」

 

 断末魔のような叫び声を上げると同時に、顔の仮面が完全に剥ぎ取られた。

 仮面の破片は黒い粒子となり消滅していく。

 

「はっはっはっ……ふぅっ!」

 

 そこにはいつもの一護――黒崎一護が立っていた。

 雰囲気も霊圧も全て一護だ。ただ微量ながら先の一護の霊圧が残っており、良く言えば霊圧が少し回復しており、悪く言えば自分本来の力ではない禍々しいもの手にしているに等しい。

 ただ一番良いのが、魔理沙の回復薬の副作用が完全に回復していることだろう。憶測になるが、先の一護がそれすら打ち破る力を行使したせいで、理論も道理も何もかもを無視して、副作用を消したのだろう。

 

「……悪りぃな。邪魔が入っちまった。さぁ、仕切り直しといこうぜ!」

 

 刀を向け、再戦の意を決する。

 なぜ自分に内なる虚の存在が蘇ったのかは分からない。

 だが今はそんなことに頭を抱えている場合ではない。

 眼前の敵――既に虫の息に等しいがルリミアがいる。状態的には五分五分、いや相手の方がまだ上だろう。故に普通に戦えば勝てない。

 しかし、

 

「クッ」

 

 ザザと、何かが擦れる音がした。

 一護がそちらを振り向くと、ボロボロながら霊夢がゆっくりと立ち上がっていた。

 

「……一護、大丈夫?」

 

 千鳥足よりも不安定な足取りで、一護に近寄る。

 

「ああ心配ねえよ。つか、お前こそ大丈夫かよ?」

「余計な心配よ。博麗の巫女を舐めないで」

 

 ここまでの多少な減らず口が叩ける。お互い大丈夫ではないが、瀕死とまではいっていないようだ。

 

「……かなり弱ってるわね」

 

 霊夢がルリミアに目を向け率直に言う。

 ルリミアは既に瀕死といってもいい。右腕は切り落とされ、身体は深く斬られ、月牙による攻撃も受けた。

 だがそれを差し引いても、ルリミアはまだ一護と霊夢よりは強いだろう。

 

「にしてもあれ、一護がやったの?」

「…………」

 

 霊夢の質問に一護は押し黙る。

 ここで霊夢に自分の内なる虚の存在について言うか迷ったが、これは自分の問題だ。

 そう思ったが故、一護は言わなかった。

 

「まぁいいわ。あいつももう虫の息。一瞬で決着を付けるわよ」

 

 深く聞かず、霊夢は自己完結する。

 

「ああ」

 

 それに対し一護は少しホッとした。

 ……一護と霊夢は既に気づいている。

 ルリミアは消滅させようが倒すことはできない。

 今はどうか分からないが、どうせ消滅させても夜になると復活する。だから、もう一度こいつを封印するしかない。

 一護は刹蘭が放り投げた赤いリボン、お札を一瞥する。

 運よく、リボンは屋根の瓦礫に少し埋もれているだけで、破れたり、飛ばされてはいない。

 

「……霊夢、俺がルリミアを引きつける。お前はリボンを回収して、あいつを再度封印してくれ」

 

 一護はルリミアに聞こえないように、小声で霊夢に言う。その声の量は、ほぼ口パクと言って良いだろう。

 しかしそれを難なく聞き取った霊夢は頷き、前を見る。

 ルリミアは油断せず残り少ない体力でスペルを唱えた。

 

「夜神『闇ノ支配』!」

 

 ルリミアが左手を頭上に上げた瞬間、掌に黒い小さな丸い塊が現れ、それが徐々に膨らみ巨大化していく。

 一護は右腕に霊圧を込め、ルリミアの目を見据えた。

 

「黒崎一護、あんたのさっきの姿は問わないが、私をここまで苦しめた代償はきっちり払ってもらうわよ」

「やれるもんならやってみろよ」

「たく、あんたは、随分と肝の据わったガキね。アイツを思い出して、腹が立つわ――黒崎一護!!」

 

 激昂と同時に大宇宙が震撼し、惑星群なら軽く消し飛ばせる漆黒の闇が一護を塗り潰そうと拡散する。

 その激烈な、次元の違う力を前に一護は、

 

「黒符『月牙天衝』!!」

 

 放たれるは月牙天衝。

 しかし一護の月牙天衝は今、一つの宇宙に挑むに等しい。そんなもの打ち破れるはずがないのは火を見るより明らかだ。

 だが忘れてはいけない。

 今、一護が行使している霊圧は一護のものであって一護のものではない。

 漆黒と漆黒が激突する。

 瞬間、月牙と闇が同化し、まるで何もなかったかのように消滅した。

 

「く……そ……ッ」

 

 ルリミアは完全に体力切れしたのか仰向けに倒れた。

 一護も纏っていた霊圧を解き、なんとか倒れそうな体を踏みとどめる。

 ルリミアが倒れた、その隙に封印できる。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…霊夢、封印を頼む」

「ええ、分かっているわ」

 

 霊夢は仰向けに倒れているルリミアに歩み寄り、傍に寄るとルリミアと目が合った。

 ルリミアは霊夢は見ると、少し嫌な顔をし、

 

「本当、あんたは博麗霊華にそっくりね」

 

 まるで過去を思い出すかのように言った。

 

「……何が言いたい訳?」

「別に。ただ、そっくりだなと思って……。けど、その強気な性格は父親の方に似ているわね」

 

 ルリミアは少し笑みを浮かべながら、懐かしい思い出を話すかのように言う。

 

「父様のことも知っているのね」

「まぁね」

 

 霊夢は「そう」と言うと、リボンに霊力を込め、封印を開始した。

 

「最後に言いたいことはある?」

 

 霊夢が封印する直前で聞く。

 

「そうねぇ。だったら二つ、あんたにいい事を教えて上げるわ」

「二つ?」

「一つ目は、あんたが思ってる以上に幻想郷……いや、博麗の巫女ってのは大きい存在よ。例えるなら、総ての宇宙を捻るような、ね」

「……もう一つは?」

「あんたの“父はまだ生きている”わよ」

 

 そのセリフに霊夢は驚愕した。

 一つ目の壮大なことには全く表情に変化は見られなかったのに対し、二つ目のことには声すらも荒げてしまった。

 

「どういうこと! 何で私の父様が生きてるっていえるの!?」

「それは自分で確かめなさい。あんたはあの、博麗霊華の血を受け継ぐ博麗の巫女でしょ」

「……そうね、そうするわ」

 

 それを聞いたルリミアは微笑んだ。まるで封印されることを良しとするかのような、この世にもう未練などないような。

 その証拠に――

 

「……霊華……“ごめんね、そして、ありがとう”」

 

 刹那、ルリミアから青い光が現れ、その光がルリミアを覆い尽くしていく。

 直ぐに光は消え、そこにはぐっすり眠るルーミアがいた。体の傷も何もないのは、この封印がとても優れている一つの証左だろう。

 

「――なかなか面白いものを見せてもらったよ。黒崎一護」

 

 戦いを傍観していた刹蘭が一護に向かって言う。

 

「テメェ……ッ!」

 

 一護は反射的に駆け寄ろうとしたが、既に身体が言うことを聞かなかった。

 

「今日はもう、これで帰るとするよ。ああ心配するな、また直ぐに会えるさ。ただし、次に会うときはもう少し力を付けていてくれよ。そうでないと、面白くないからね」

 

 刹蘭はそういうと姿を消した。

 一護と霊夢はそれを確認すると、その場に崩れ落ちた。

 もう立つことも動くこともできない。いや、既に意識すら朦朧としてきた。これは屋敷の誰かに見つけてもらわないといけない……な。

 

 一日が終わる。

 紅霧異変が終わる。

 ――こうして一護たちの最初の異変解決が幕を閉じた。

 

   *

 

 数日間後、一護たちは紅魔館で目を覚まし、一護と霊夢は博麗神社へ帰った。

 フランは一護の説得により地下室から完全とまではいかないが開放され、今では紅魔館の中では自由にしている。

 そして、帰る間際に一護はフランと一つの約束をした。

 

「今度、お姉様たちと遊びに行ってもいい?」

 

 その約束に霊夢は頷き、一護は「ああ」と答えた。

 いつ遊びにくるかは分からない。

 だがまぁ、それを生き甲斐に日々を楽しく送ろうと誓った。

 

 一護と霊夢が博麗神社に到着すると、再び平和な日常が訪れたのだった。

 

 

   ***

 

 

『番外編【みんなで湖水浴】』

 

 紅霧異変が解決した夏の後日譚。

 幻想郷の夏は暑い。

 夏の空は澄み渡り、眩い太陽の光が熱を帯びて気温を容赦なく上げる。

 蝉の鳴き声が心地よさを通り越して五月蠅いと感じていた日の頃、博麗神社では一つの企画が進行していた。

 

「こんなムシムシした部屋はもうたくさんだわ。一護、魔理沙、何か涼しくなる案を言いなさい」

「急になんだよ、藪から棒に」

 

 三人はテーブルを囲うように座り、冷たい茶を啜っていた。そんな中で霊夢が、鬱陶しそうに額の汗を拭いながら突拍子もなく言ったのだ。

 

「いいから、何かあるでしょ? 何のために外の世界からやって来たのよ」

「その為じゃないのは間違いねえよ」

「もう役に立たないわね。次、魔理沙」

「順番なのか。そうだな、一つだけならあるぜ。私の住んでいる魔法の森は年中ひんやりしてるぜ。こう、背筋が凍るような涼しさを感じられる」

「そういう涼しさはいらないわよ。ねぇ一護、外の世界ではこういう暑い時はどうしてるの?」

「そうだな、基本的にはエアコンのきいた部屋にいるけど、まぁここじゃエアコンなんてないもんな」

「エアコンってなんだ?」

「端的に言うと、部屋を涼しくする道具だな」

「お、そんな便利なものがあるのか。香霖堂に行けばあるかな?」

「さぁ?」

 

 魔理沙が目を光らせながら聞いてくるが、あったとしても使えない気がする。電気関係とか、室外機とか諸々の理由で。

 

「まぁあとはそうだな。プールとか海に行くのが王道だと思うぜ。実際、遊んでいるときは気持ちいいし涼しいしな」

「海は文献で読んだことがあるわ。けど、プールって何?」

「水遊びができる場所だな。夏っていえば外の世界ではプールは欠かせないところなんだよ」

「ふ~ん、水遊びね……。ちょうどうってつけの湖が近くにあるし、いいかもねそれ」

 

 霊夢が顎に手を宛がいながら言った。

 

「お、水遊びか。そういえば霖之助がもし水場で遊ぶならいい物が手に入ったとか言ってたぜ」

 

 霖之助とは香霖堂という店の主人。いわゆる古道具屋を営んでおり、外の世界の物まで取り揃えている珍しい店である。

 

「珍しい物? それって何なの?」

「ん、確か水に入るときに着る――」

「水着です!」

 

 瞬間、いつの間にか縁側に立つように、そこに霖之助が出現していた。

 

「うおッ!? 霖之助さん! あんたいつからそこに!?」

 

 一護が声を荒げて反応した。

 

「いやなに、少し通りかかったものでね。君たちが面白そうな話をしていたので、つい盗み聞きをしてしまった。不躾を許してほしい」

「盗み聞きって、一体いつからだよ」

「こんなムシムシした部屋はもうたくさん……と霊夢が言ったところからだね」

「最初からじゃねえか! そんなことしなくても、堂々と入ってくりゃいいじゃねえか」

「ああ、そのつもりだったんですが。盗み聞きというのは、なかなか興奮するものだと知りまして、やめられなかったんだ」

「え、この人ってこんなヤベェ人だったのか」

 

 霖之助の発言にドン引く一護。

 

「ああ、霖之助は真面目そうに見えてすげぇ変態気質なところがあるぜ」

「失礼だな魔理沙。今回は魔が差しただけであって、普段の僕は至って紳士だよ」

「じゃあそれは何だ?」

 

 魔理沙が霖之助の懐を指さす。そこには、何やらカラフルな薄い下着のようなものが顔を覗かせていて……。

 

「おっと気づかれてしまったね。これは水着というものでね、文字通り水場で遊ぶときに着るものなんだ。幻想郷の住民にはあまり馴染み深くないだろうが、これを君たちに贈呈しようと思う」

「怖いまでのすげぇタイミングだな」

「へぇ、水着ってどんなものなの?」

 

 霊夢が水着というものに少し興味を抱いている。実際、海のない幻想郷で水着と言う衣服が流通していないため、見たことがないのだ。

 

「ああ、これだ」

 

 そして霖之助が三着の水着をテーブルの上に置く。

 

「…………」

 

 霊夢が一着を手に取り目を細め、

 

「――てコレ、下着じゃないの!」

 

 バシンッ!と、霖之助の頬に投げつけたのだった。

 

「おおぅ、何ていうか露出が凄いな。生地が下着と違うから、これが水着って奴なのか。確かに、まんま下着だな」

 

 魔理沙が一着の水着を触りつつ言う。

 

「まんまっていうか下着じゃないのこれ!? ちょっと霖之助さん、私たちを騙そうとしているわね?」

「違う違う! 本当にこれが水着なんだ!? だからその振り上げた拳は下げてくれ!」

「どうなの一護、これって本当に水着ってやつなの?」

「ああ、間違いないから安心しろ。霖之助さんに他意はねえよ多分」

「そ、そう。分かったわ」

「良かった、助かったよ一護くん」

 

 安堵の息を吐く霖之助に対し、霊夢はまだ納得がいっていない。

 

「確かに水に入って遊ぶなら、服を着たまま入るわけにはいかないけど……。でも、こんな肌を見せるものでなくてもいいじゃない……」

「いいじゃないか霊夢。こういう趣の違うものを着るって楽しいと思うぜ」

「魔理沙は平気なの? だってこんな、破廉恥な服を着るのよ」

「別に。逆に早くこれを着て泳いでみたいくらいだぜ」

「あんたに聞いた私が馬鹿だったわ」

 

 霊夢が水着を見つつ、自分の水着姿を想像して赤面していた。

 

「ま、着てみたら案外気にならないもんだけどな。それより霖之助さん、他にも水着ってあるのか?」

「当たり前だとも。ビキニタイプ、ワンピースタイプは勿論、ボーイレッグタイプやビスチェタイプ、ホルターネックの水着とお客様のニーズに合ったものを多種多様に揃えているよ。それと試着コーナーも作ってみたから、ぜひ友達を連れてくるといい。歓迎するよ」

「あ、ああ。別にそういうことを聞くつもりじゃなかったんだけどな」

 

 一護の質問に対する霖之助の回答に引きつつ、少し思案した。

 

「一護、あんたなに考えてるの?」

「いや、せっかくだし紅魔館のみんなを誘おうかなって思ってよ。せっかく打ち解けたんだ。一緒に遊んでも問題ないだろうし」

「まぁいいんしゃない? けど、あそこの吸血鬼は日光苦手だけど大丈夫なの?」

「あ、そうだったな。ま、声かけるだけはしてみるよ」

 

 そうして予定が着実に決まっていったのだった。

 

   *

 

 ――そして数日後。

 太陽がかんかんに照らす、まさに夏真っ盛りの気候。空は晴れ渡り、蝉の鳴き声が響き渡る。

 そんな炎天下の空の下、広大な湖の湖畔に一護は水着姿で立っていた。

 

「……あちぃな」

 

 オレンジを基調とした短パン式の水着を着ており、涼しい格好ながらも汗が止まらない。

 

「たく、いつまで着替えに時間かかってんだアイツら……」

 

 汗を拭いつつみんなを待っていると、ようやく二人の人影が現れた。

 

「一護~待たせたな!」

「…………」

 

 そこには元気よく手を振る魔理沙と、恥ずかしそうにする霊夢の姿があった。

 2人とも水着を身に纏っている。魔理沙は黒を基調としたビキニタイプで、腰にはパレオを巻いている。そして霊夢は赤を基調とした、フリルの付いたビキニタイプを着ている。

 

「どうだ一護、似合っているだろ」

「おう、いいんじゃねえか。いつも魔法使いっぽい服だから、なんか新鮮だな」

「だよな。私もこんな布面積の少ないものを着るなんて初めてだから、ちょっと恥ずかしいぜ」

 

 少し赤面しつつも笑顔で言う魔理沙に、どこかグッとくる一護。ギャップ萌えという奴だろう。

 

「ちょっと一護、なに魔理沙のことじろじろ見てるのよ、いやらしい」

 

 対する霊夢は赤面しつつも額に青筋を立てて、どこかゾクッとする一護。

 

「い、いや別にそういうわけじゃねえよ!」

「どうだかね」

「それに、ちゃんとお前のことも見てたよ。魔理沙ばっかじゃねえ……あれ」

 

 一護は誤解を解くために変な弁明をしたと、発言した直後に後悔する。

 そして霊夢から叱責という名の拳が飛んでくると覚悟したが、そういう展開にはならなかった。

 

「……あ、そ、そう。ふ、ふ~ん……で、私の水着は、どう?」

 

 一護の予想に反して、霊夢は照れながら小声でもじもじしつつ聞いてきた。

 

「え、そうだな。綺麗だと思うぜ。すげぇ似合ってる」

「…………あ、ありがとう」

 

 そう言われ、紅潮した頬を隠すように俯きながらお礼を言う。

 

「はは~ん、嬉しそうだな霊夢。一護に褒められたのがそんな嬉しかったのか?」

「なっ! そ、そんなわけないじゃない! 単にあんただけ似合ってるって言われたのが癪に障っただけよ!」

「図星だぜ一護。霊夢いま凄く喜んでるからな」

「魔理沙、少し黙りなさい」

 

 札を魔理沙の頬にあてがいながら、笑顔で言う霊夢。

 すかさず魔理沙は口を閉じ、降参の意を示すように両手を挙げた。

 

「そういえば、紅魔館のみんなはまだなのか?」

 

 ふと一護は聞いた。

 そう、今回のこの催しに紅魔館のメンバーにも声をかけたのだ。返答は快諾。水着も香霖堂で仕入れたと聞いている。

 

「ああ、もうそろそろ来ると……お、早速来たらしいぜ」

 

 霊夢たちが来た湖畔近くの森林より、紅魔メンバーが現れた。

 

「暑いわね、この日光が腹立たしいわ。咲夜、日傘をしっかりお願いね」

「はい、心得ております。この命に代えても、お嬢様のお肌は私がお守りいたします。日焼け止めクリームを塗る際は、ご遠慮なくお申し付けください。すみずみまでこの咲夜、責任をもって対応させて頂きます!」

「はぁ~全く、私は館でゆっくり紅茶でも飲みながら読書をしたいっていうのに。なんでこんな暑い日に外なんかに……あ、ダメ。頭がふらついてきたわ」

「パチュリー様しっかり! この小悪魔がしっかりサポート致します!」

「ねぇねぇ美鈴! すっごくお水がきれいだよ! ここで遊ぶんだよね! 早くいこ!」

「あぁ待ってくださいフラン様! まずは準備体操をしないといけません! 怪我をしてしまいますよ! あれ、けど吸血鬼だったら大丈夫なのかな……?」

 

 ぞろぞろと、水着を着た六人(レミリア、咲夜、パチュリー、小悪魔、フラン、美鈴)がにぎやかに出てきた。

 

「おう、待ってた……っ!?」

 

 一護の目にまずパチュリーが入り、言葉を失った。

 まさに豊満なボディを体現したかのような、グラビアアイドル顔負けのパチュリー。青紫を基調とした花柄の水着を着ており、ビキニタイプなため自身のアダルティーな要素を惜しげもなく出している。

 圧巻にとられた一護はすかさず視線を反らし、別のメンバーを視界に入れた。

 

「……一護、今かなり失礼なことをしているんじゃない?」

 

 まず目が合ったレミリアが、一護の心を看破したかのように言った。

 

「え、い、いや何言ってんだよ? 何も失礼なことはしてねえぞ」

 

 嫌な汗を流しながら答える。

 レミリアはなぜか、全国の学校でみられる紺色のスクール水着を着ていた。何というか、見た目が幼いためジャストフィットしている。

 

「本当かどうかかなり疑わしいけど、まぁいいわ。それでどう、私の水着の感想は? みんなとは少し変わってるでしょう。日焼けしないために、肌をなるべく出さないものにしてみたの」

「おう、いいと思うぜ。なんか色々と調和が取れてて安心するっつうか、レミリアくらいの子が一番似合う水着だと俺は思う」

「やっぱり少し馬鹿にしてない?」

「いえ、違いますお嬢様。この水着はお嬢様のようなよう……失礼。高貴なお方に相応しいものです」

 

 と、レミリアの横に日傘をさしながら立つ咲夜が口を挟んだ。

 咲夜は全体的に大人の雰囲気を感じさせる、白いフリルの付いたビキニタイプの青い水着である。

 

「下賤な者には、お嬢様の水着の良さなど分からないでしょう。この咲夜、お嬢様の水着選びに抜かりはありません!」

 

 ――ああ、この人が選んだのか納得。

 そう思った一護は次の瞬間、腹部に衝撃が走った。

 

「いちご~! 会いたかったよ!」

 

 その正体はフラン。一護めがけて抱き着いてきたのだ。

 

「おうフラン。元気にしてたか?」

「うん元気してた! ねぇねぇ一護、フランの水着似合ってる?」

 

 フランは自分の水着を見せるように立つ。

 少し背伸びをした子供が着るような水着だ。黄色を中心とした花柄なデザインで、とても可愛らしい。

 

「ああ、よく似合ってるぜ。自分で選んだのか?」

「みんなで選んで決めたんだよ! 一護も水着似合ってるね!」

「おう、さんきゅうな」

 

 フランの頭を撫でながら言う。

 

「まるで親子のようですね。黒崎さんはきっと、いいお父さんになりますよ」

「まだ父親になる予定はないけどな」

 

 競泳水着を着た美鈴が近づいてきた。

 流石は武術家ということもあり、スレンダーでありながらしっかり引き締まった身体をしている。その上で出ているところはしっかり出ている、女性ということを忘れさせないスタイルである。

 

「美鈴、親子じゃないよ! 愛人っていうやつだよ!」

「は?」

「フラン様! どこでそんな言葉を覚えたのですか!?」

「パチュリーが教えてくれたの!」

 

 それを聞いてパチュリーに視線を向ける。

 

「あら、どうしたの?」

 

 こちらの視線に気づいたパチュリーが一護に歩を進める。

 歩く度にたわわに実った乳が、それを惜しみもなく主張してくる。一護が赤面しつつ、視線を少しずらして言う。

 

「い、いや、なんでもねえ……!」

「あれ~、一護、どうしてお顔真っ赤なの~?」

「…………」

 

一護は答えられないため黙った。

 

「パチュリー様、フラン様に愛人と言う言葉を教えたのですか?」

「ん? 突然なんなの? まぁそうね、色んな童話を読み聞かせたりしているから、そういう単語が出てきて覚えちゃったのかもしれないわね」

「あぁ成程、そうでしたか」

「何よ、愛人なんて言葉を意図して私が教えたと思ったの? フランの教育上、そんなことをするわけないじゃない」

 

パチュリーの言葉を聞いて「まぁそうだよな」と思った一護は、少しだけ視線を戻そうとすると……

 

「――あら、急にめまいが」

 

フラッとパチュリーの足元がおぼつかなくなったかと思うと、そのまま倒れそうになった。

 

「ッ、危ねえ!」

 

咄嗟に誰よりも早くパチュリーに跳んだ一護は、倒れる直前で両腕を使い優しく支えた。

 

「おい大丈夫かよ?」

「助かったわ。少し日光に当たりすぎたみたい」

 

お礼を言うパチュリーに、黒色のシンプルなビキニタイプの水着を着た小悪魔が日傘をもって駆け寄ってきた。

 

「パチュリー様ー申し訳ありませんー! 私が油断していたばかりに! それと黒崎さんありがとうございます!」

「気にすんな。それよりパチュリーを頼む……ん?」

 

ハラリと、パチュリーの水着の紐が緩かったのかほどけてしまい、それが露わとなってしまった。

 

「…………」

「あんたは何やってるのよ!!」

 

 目を奪われ呆然としていた一護に向けて、霊夢の跳び蹴りがとんできた。

 

「どああーーー!!」

 

 吹っ飛ばされる一護。

 水着を結びなおすパチュリー。

 

「……おかしいわね。ちゃんと結んだと思ったのに」

「おっぱいが大きいから、紐が耐えられなかったんじゃないのかパチュリー」

 

 魔理沙がヘラヘラしながら言った。

 

「うるさいわよ魔理沙。まぁお胸の小さいあなたからしたら、縁のないことでしょうけど」

「何をーー!」

 

 魔理沙とパチュリーがガヤガヤ言う中、一護は少し冷や汗をかいていた。

 

「一護~、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。霊夢はああ見えて、手加減してくれたからな」

「鼻血出てるけど……」

 

 フランが一護を案じつついると、霊夢が近づいてきた。

 

「……あんた、能力を使ったわね?」

「!? 霊夢、どうしてそれを……?」

「パチュリーを助ける際、能力を行使したでしょ。あんたの足元が一瞬光ったの、私はしっかり見ていたわよ」

「さいですか」

「そしてあんたはそのままパチュリーを支えると、再び能力により水着に宿る魂を操って紐を解かせた。これで合ってるわね?」

「はい、100点です。けど水着に関しては、わざとじゃねえよ。手違いで続けざまに能力使っちまっただけなんだよ」

「そんな必死になって弁解しなくていいわよ。あんたがわざとじゃないってことは分かってるから。心配しなくても、その辺は信用してるから」

「…………」

 

 ――じゃあ蹴るんじゃねえよと思う一護だった。

 

「ねぇねぇ早く遊ぼうよ!」

「そうだな、ここにいても暑いだけだし、水に入るか」

 

 そうして、みんなで水遊びをした。

 幻想郷の湖なだけあって、とても綺麗で不純な物が見当たらない湖である。完全に澄み切っており、神々しさすら感じる広大な水面、日光が水底まで差し煌めいている。そんな水の中で遊んでいた。

 遊泳、ボール遊び、水かけから思いつく限り色々と遊んだ。

 そして少し経った頃、フランが小首を傾げていたのだ。

 

「ん~、ん?」

「どうしたフラン?」

「うんとね、咲夜のおっぱいって、あんなに大きかったかなって思って」

「…………」

 

 何やらとんでもないことを口にしたフラン。

 

「一緒にシャワー浴びる時、あんなに大きくなかったもん。絶対におかしいよ」

「そ、そうなんだな。まぁその、あんまり気にしてやるな」

「いやいや気になるぜ! これは調査が必要だな!」

 

 ヌッと、水の中から聞き耳を立てていたのか魔理沙が目の前に現れた。

 

「うおっ、ビックリした。急に出てくるんじゃねえよ。つうか聞いてたのか」

「そんな面白い話、私が聞き逃すわけないぜ。これは調べ上げないといけないぜ。早速、作戦開始しよう」

「わーい私もやる~!」

「ろくな事にならねえのは目に見えてんな。言っとくけど、俺は関わらねえぞ。あっちで泳いでくる」

「待てよ一護。この作戦にお前は必要不可なんだぜ」

 

 去ろうとする一護の腕をがっつり掴む魔理沙。

 

「……言っただろ、俺は参加しねえ。その手を離せ」

「いいのか一護。フランはあんなにお前に期待の眼差しを向けてるんだぜ」

「は?」

 

 一護がフランに視線を向けると、そこにはキラキラな眼をしたフランが祈るようにして一護を見ていた。まるで子供が親にお願いをするかの如くその姿に、なぜか一護は胸を締め付けられたのだ。

 

「…………しょうがねえな。くそっ、分かったよ手伝ってやるよ」

「それで屈する一護もどうかと思うぜ。子供に頼まれたら断れないタイプだな」

「やったー! 作戦作戦♪ ねぇねぇ作戦ってなにするの?」

 

 フランがキャッキャしつつ魔理沙に尋ねる。

 

「簡単だぜ。一護の能力を使って咲夜の水着をほどいてしまうって作戦だ」

「やっぱ断っていいか? この作戦、全責任が俺にくる。間違いなく殺される」

 

 パチュリーの時は事故で済んだが、これはバレたら事故では済まない。

 

「心配するな。そこに至るまでの作戦もしっかり考えてるぜ」

「何でそんな瞬時に作戦を思いつくんだよ」

「ここは湖。つまり水場だ。私が盛大に水飛沫を飛ばして、みんなの視界を奪うからそこを一護が狙うんだぜ」

「完全に急ごしらえの作戦だな」

 

 一護は頭を抱える。

 

「フランも手伝うよ!」

「お、いいぜ。私と思いっきりやろうぜ!」

「おー!」

「フランの教育に絶対に悪いよな」

「よっしゃぁあ! いくぜフラン!」

「うん分かった!」

 

 他メンバーはそれなりに密集している。狙うなら今である。

 そしてこちらの意図をバレないようにしなければいけない。よって……

 

「霊夢ー、遊ぼうぜ! 水につかった中で私の弾幕に当たったら負けなー!」

「は?」

 

 うきわでプカプカ浮いていた霊夢が、こちらを見た途端だった。

 

「星符『メテオニックシャワー』!」

 

 魔理沙は何の迷いもなくスペルを唱えた。空から星型の弾幕が容赦なく降り注いできた。

 

「ちょっと魔理沙ー! 何してるわけ!?」

「全く、あんたは友達を選んだ方がいいわよ。普通、なんの躊躇いもなく弾幕放ってくる友達なんていないから」

 

 レミリアは冷静に諭す。

 ザバンザバンと弾幕が湖に落下し、噴水の如く水飛沫を上げていく。

 

「今だ一護いけぇえ!」

「何でこんなことやらされてるんだ俺ェ!」

 

 一護は水中に潜り、能力を使い一気に泳いでいく。

 おかげで魚の如く速く泳げているが、魔理沙の弾幕のせいで水中での視界が泡と弾幕で悪い。

 とにかく気配を探りながら、咲夜がいたであろう場所まで泳いでいった。

 

(――つうかそろそろ弾幕やめろってのアイツ。ん、いた、多分あれだ!)

 

 手を伸ばし、泡まみれだが誰かの水着に触れた。

 

「よし当たった!」

 

 一護は手ごたえを感じると、そこから離れて水から顔を出す。そこには……

 

「あー! 私の水着が急に破れましたぁあ!」

 

 美鈴の競泳水着がまるで弾けるように破けていた。同時に艶やかな体が露わになった。

 一護は心の中で謝罪と猛省をし、再び水中に潜る。

 

(クソッ! 俺は何やってんだ!? 冷静に考えてなにやってんだ俺!? とりあえず勢いでやらねえと心が折れちまう)

 

 一護がそう決意する最中、水上ではフランがスペルを唱えていた。

 

「次は私が行くよー! 秘弾『そして誰もいなくなるか?』!」

 

 無数の弾幕が湖を飛びかう。

 

「ちょっと! あんたの妹も躊躇いがないわよ! どういう教育してるわけ!?」

「きょ、教育はパチェに任せっきりだから……」

「責任転嫁してるんじゃないわよレミ。あんたに似てきてるだけよ」

 

 霊夢たちがそのような言い合いをしている中、一護は水中にて「次こそは」という思いで泳いでいた。

 

(くそ、みんな同じ場所にいるな。間違えて別のやつに触れてしまいそうになる)

 

 苦悩しつつその上、相も変わらず弾幕が激しいせいか水の中の視界は最悪だ。

(けど……これ以上の被害を増やすわけにはいかねえ!)

 

 一護の手が伸びる。

 泡まみれになった水中で、もはや運任せになりつつも誰かに触れた。

 そしてすかさず水中から顔を出すと、一護の目の前には――

 

「きゃあーー! 見ないでください! きゅ、急に水着がほどけてしまって……! てか何で目の前に出てくるんですか黒崎さん!?」

 

 小悪魔の水着の紐がほどけ、美しい形をしたソレが露わになっていた。

 

「……すいませんでした!」

 

 一護は素早く水中に潜る。

 

(駄目だ、何かもう成功するビジョンが見えねえ! つうか上のみんなもう弾幕ごっこ状態になってるし。そりゃそうだよ、あんなやり方したらそうなるわな)

 

 どこか諦めにも似た表情になりながら、湖の上を見つめた。

 フランの弾幕を発破に霊夢が弾幕を展開し、同じくして他メンバーまで参戦してしまっている。

 

(……待てよ、今なら狙えるんじゃねえか。この弾幕ごっこの状態なら、水中から何ていう分かりづらい場所から狙わず、弾幕ごっこに紛れて狙える。行ける、次こそ成功させてやる!)

 

 一護は一気に浮上する。

 水から出ると、そこは弾幕ごっこを繰り広げるみんながいた。しかし、ごっこなどという生易しいものではなく、優しさの欠片もない弾幕の応酬であった。

 

「何でこいつら弾幕が絡むと手加減ってものを忘れるんだよ。もう涼みに来たってより、弾幕ごっこしに来た感覚だ。いやまぁ、これの原因作ったのは俺たちなんだけど」

 

 水上に出た一護は弾幕を避けつつ、咲夜を探そうとあちこち視線を動かす

「――いた、レミリアの近くか。しかもレミリアのことをジロジロ見てるおかげで隙だらけだな」

 

 まるで夜一さんを見る砕蜂の眼に似ている。

 

「けど、チャンスは今しかねえ!」

 

 一護は一気に咲夜に向けて跳躍する。

 針の穴を縫うように弾幕を躱しながら、一気に突っ切っていく。

 

「いける、いけるぞ。いや、いくしかねえ!」

 

 そして遂に咲夜に触れそうになった……その瞬間

 

「何用ですか? 黒崎さん」

 

 レミリアを舐めるように見ていたはずの咲夜が、こちらに視線を向けてきたのだ。

 

「――なんだと!?」

「甘いですね黒崎さん」

 

 ヒュッと風切り音を上げて、ナイフが一護の頬を掠めた。

 

「私がお嬢様に夢中になっているのをいいことに、何かお嬢様にやましい事をしようとしたのでしょう。そうはさせません、この咲夜がいる限りお嬢様に近づくことは許しませんよ」

 

 ナイフをチラつかせながら咲夜が一護に言う。

 

「……やっぱそう簡単にはいかねえよな」

 

 何やら咲夜が盛大に勘違いしているが、正直どうでもいい。

 咲夜に触れさえすれば、それでこれは解決するのだから。

 

「私はしっかり見ていました。あなたが能力を使いパチュリー様や美鈴、小悪魔に触れて水着を取っていたのを。何とも羨まし、じゃなかった。何とも不埒で最低極まる能力の使い方でしょう。この咲夜、是非ともお嬢様にその技をかけて、ではありませんでした。お嬢様を下郎なあなたから死守する必要があります」

 

 所々、本音が出ていたが、今は正直どうでもいい。そして盛大に誤解もしているが、そんなこともどうでもいい。

 一護は構え、

 

「あんたには悪いが、触れさせてもらうぜ。ここまできたら俺は、引き下がるわけにはいかねえんだよ」

 

 そして一気に咲夜に向けて動いた。

 咲夜もそれに応じるように動く。

 互いの弾幕とナイフが飛び交い、ここでも死闘が繰り広げられてしまった。

 

「ッ! くそ、隙がねぇ!」

 

 流石はメイド長である咲夜。一護の弾幕をもろともせず、そして近づけさせもせず対抗している。

 

「この程度ですか黒崎さん。そんなことではお嬢様に触れるなど到底不可能です」

「別に……触りてえつもりで戦ってるわけじゃねえよ……。触らなきゃいけねえから……戦ってんだ……!」

「凄いセクハラめいた台詞ですね。あなたのその助平心はこの咲夜も感服です。しかし……」

 

 咲夜はナイフを構え、

 

「お嬢様の水着はこの私がお持ち帰りするもの。あなたに触れられては美鈴同様、破られるかもしれません。それは許されざる所業ですよ。これ以上、よこしまな感情でお嬢様に近づくようでしたら、本気で容赦しませんよ」

「そうかよ、なら俺も……本気で行くしかいかねえな」

 

 一護はそう言うと、手に代行証を握りしめる。

 その瞬間、代行証から黒い霊圧が噴き出し、一護に纏われていく。そして徐々に死覇装を象り、その姿は死神のそれになっていた。

 

「こっからは手加減なしだ。全力で触れさせてもらうぜ」

「いいでしょう、私も紅魔館のメイド長として、全力でお相手いたします」

「――黒符『月霊幻幕』!」

「――傷符『インスクライブレッドソウル』!」

 

 決死の覚悟をした両者のスペルが大激突をしたのだった。

 

   *

 

 そして少し時が経ち……

 一護と咲夜も体力の限界が近づいていた。

 

「はぁ、はぁ……まさかこれ程とは……! 認めましょう、あなたは強い。いえ、欲望に怖いくらい忠実と言った方がいいかもしれませんね」

「……うるせぇよ」

 

 息も絶え絶えの中、一護は再度構える。

 それを見て咲夜は目を細めた。

 

「しぶといです……。そんなにお嬢様に触りたいんですか……!?」

「……バカ野郎。触りたいんじゃねえ、触るんだ!」

「!?」

 

 瞬間、一護はスペルを唱える。

 黒符『天幻月牙』……咲夜の周囲に漆黒の弾幕が包囲した。それらが一斉に自分に向かってくると思った咲夜が身構えるも……

 

「……こない? いえ、これは!」

 

 周囲の弾幕が動かずに展開されたのみ。

 頭で来ると思って次の動きをシュミレートしたが、その予測が外れ脳が数舜だけ停止する。

 

「今だ――黒斬『月牙天衝』!」

 

 その一瞬だけの隙を狙い、一護は月牙天衝を咲夜に放った。

 

「ッ!?」

 

 咲夜は弾幕を展開し、周囲の一護の弾幕を掻き消して回避に転じた。

 その動きを予期していた一護は、一気に咲夜に向けて跳躍する。

 

「――しまった! お嬢様!」

「いける!」

 

 そして……遂に咲夜の水着に触れ、その勢いのままレミリアに疾駆した。

 

「これで決めてやる!」

 

 霊夢や魔理沙、フランたちと弾幕ごっことなったレミリア。その背後から一護の手が、見事に当たったのだった。

 

「え?」

 

 レミリアが急に触れられ、キョトンとする。

 その刹那――レミリアのスクール水着が弾け飛んだ。ビリビリに破れた水着から、レミリアの素肌が露わになってしまった。

 同時に咲夜の水着もほどけ、胸元が露わになる。

 

「あーー! やっぱり咲夜のおっぱいちっちゃい!」

 

 遠目で見ていたフランが指をさして声を上げた。

 咲夜の胸はまな板のようで、どうやら水着の下に胸パッドを付けていたらしい。そのせいで胸が大きく見えていたのだ。

 

「お、任務達成だな! やっぱりパッドだったわけだ。ははん、これじゃメイド長ってより、PAD長だぜ!」

 

 魔理沙が馬鹿にしたかのように笑い飛ばす。

 

「…………」

 

 二人が達成感に包まれる中、一護の冷や汗が止まらなかった。

 完全にみんなにバレた上、なぜか勢いでレミリアの水着までブレイクしてしまった。言い訳もくそもない事態である。

 

「……黒崎さん、お命頂戴いたしますね」

「一護、少し怒ったわよ。死ぬ覚悟はできているわよね」

「あんたは一体……何してるのよぉお!!」

 

 そして激怒した三人から、容赦ない弾幕を浴びせられるのだった。

 

「はぁ~、涼みに来たのに何してるのかしらアイツら」

 

 湖面に仰向けに揺られるパチュリーの溜息と、一護の悲鳴が湖に木霊したのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。