東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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遅くなって申し訳ないですm(_ _)m

ようやく書けました。
とりあえず幻想入りした一護以外のキャラが登場します。

駄文ですみませんが、どうぞ


第参章〈東方桜春雪篇〉
第14斬【人里での約束】


《1》

 

 幻想郷――外の世界から結界により隔離された人間や妖怪、神や宇宙人、偉人などが暮らす幻想のような世界。まるでお伽話に出てくるような世界観で、空気の汚れや現代科学の成した電気製品など一切ない一昔前の世界観。

 そんな幻想郷に、外の世界である人間……黒崎一護が幻想入りしてしまった。

 そして博麗の巫女である博麗霊夢に出会い、霧雨魔理沙に出会い、幻想郷での日々が始まる。

 

   *

 

 紅霧異変解決後、紅魔館で戦いの傷と疲れを癒し、数日後に博麗神社へと帰ってきた。

 その次の日にある異変が起きたのだ。

 

 昼――一護と霊夢が食事を終え、ゆっくりとくつろげる時間に一護は新聞を広げ、届いていた文々。新聞を読んでいた。

 勿論、トップ記事は紅霧異変のことが記載されている。

 書かれている内容もほとんど事実のみで、嘘偽りはない。

 だが――

 

「何で、俺の写真が……」

 

 記事内容ではこの紅い霧を解決したのは博麗神社の巫女である博麗霊夢と、そこに居候している黒崎一護のお陰と書かれてある。まぁ問題はないだろう。

 問題がある点と言えば、記事に大々的に掲載されている写真だ。

 その写真はと言うと、まさに一護とレミリアが屋外空中戦を繰り広げている瞬間だった。これ以上ない激写だ。

 いつ撮られたんだ? と疑問に思ったが、あの時は戦闘中だったため周囲の気配など気にしていられなかった。故に気づかなかったに違いないだろう。

 

「…………」

 

 スっと新聞を閉じる。

 まぁ今回の文々。新聞は特に、何も危険な要素はないため大丈夫だろう。

 そして気づく。

 

「にしても霊夢のやつ、遅いな」

 

 霊夢は食後の茶を汲みに台所に行ってから、中々戻ってこない。

 少し気になった一護は立ち上がり、台所に様子を見に行った。

 

 そこで……一護はうつ伏せに倒れている霊夢を見つけた。

 手や足がぴくぴくと、死にかけのゴキブリみたいに震えている。場所が台所なだけにリアリティがある。

 

「お、おい、大丈夫かよ霊夢?」

 

 一護が霊夢の傍らに座り、霊夢の背中を両手で揺さ振る。まるで死人を揺さっぶてるようだ。

 そして、その応答に答えるよう、霊夢が顔だけを一護の方に向けた。

 霊夢の顔は風邪を引いたかのように赤くなっている。

 

「一護……体が痺れて……動かないんだけど……」

 

 霊夢が滅多に見せない弱々しい声音で言う。

 どうやら口を動かすだけでも、精一杯に見える。

 

「……まさか」

 

 霊夢の言葉を聞いて、ふとあることを思い出した。

 魔理沙が紅霧異変の時に持ってきた回復薬だ。

 霊夢はあの回復薬を飲んでいる。

 あの回復薬は異常に効くが、決定的な副作用がある。

 体が全身麻痺し、動けなくなることだ。

 今の霊夢は完全にそれと一致する上、確かまだ副作用に犯されていない。

 

「霊夢、多分それ、魔理沙の薬の副作用だ」

「え?」

 

 この反応、どうやら霊夢は薬の副作用のことを魔理沙から聞かされていないようだ。

 一護はあの時の薬のことを説明した。

 

   *

 

「――つー訳だ。魔理沙から聞いてねぇのかよ?」

 

 説明し終わった一護は、知っていたか確認を取ってみる。

 

「そんな話、知らないわよ……!」

 

 予想通りの答えが返ってきた。

 魔理沙は副作用の説明をしないまま飲ませたようだ。

 

「そういうの普通は飲む前に説明するものじゃないの……?」

「普通はな。ちなみに俺も飲んでから教えられた。長い付き合いだろ、魔理沙に普通を期待すんなよ」

 

 一護は頬を搔きながら、

 

「まぁいいか。取りあえず布団敷くから、そこで横になっとけよ」

「そうさせてもらうわ」

「それじゃあ、少し失礼するぜ」

 

 と、一護は倒れて動けない霊夢を軽々とお姫様抱っこをしてみせた。

 

「――ッ、な、えっ、ちょっと!?」

 

 急なことで顔を赤らめ恥ずかしがる霊夢。

 

「い、いきなり何するのよバカ!」

「何言ってんだよ、動けないお前を引きずって部屋まで運べってのか? こっちの方がいいだろ」

「そ、そういう事を言いたいわけじゃないわよ……!? そ、そういうことをするのなら一言、い、言って、ほしかっただけよ……っ」

「ああ、心配すんなよ。全然、重くねえから」

 

 一護は何の悪気なく言った。

 

「……あ、あんたって人は……本当に何なのよ!」

「いでぇッ!」

 

 なぜか痺れて動けない霊夢から拳を一発もらったのだった。

 そうして一護は動けない霊夢をお姫様抱っこにて、部屋まで運ぶ。実は重く感じていたが、それは全身が動けないせいだろう。決して体重がヤバイ訳ではない。

 部屋に入ると一護は布団を敷き、霊夢を横にさせる。

 

「んじゃ、何かやらねぇといけないこととかあるか?」

 

 動けない霊夢に代わって家事、買い物、その他諸々を済ませなければいけない。

 

「それじゃあ、食料の買出しでもお願いしようかしら」

「買出し……」

「ええ、そうよ。人里まで行けば食料が売っているから」

 

 霊夢はそういうと、買ってきてほしい物を言っていく。口が軽く動き始めたのは、体の麻痺を少しずつ抑制しつつあるからだろうか。

 それ程までに買い出しは多くないためメモはせず、一護はそれを全て記憶する。

 お金は霊夢の財布から言われた金額だけ抜いた。

 

「でもよ、一人で大丈夫か? そんな体でいきなり妖怪なんかに襲われでもしたら」

「心配いらないわよ。神社の周りに結界を張っとくから。それに……」

 

 霊夢の視線が一護から縁側の方に移る。

 その瞬間、いつも通り箒に乗ってやってくる魔理沙が颯と現れた。

 

「よぉ霊夢に一護。遊びに来たぜ!」

 

 魔理沙が箒から降り、地面に着地する。

 と同時に、横たわる霊夢の姿が目に入った。

 

「どうしたんだ霊夢、風邪か? 体には気を付けろよな。情けないぜ」

 

 魔理沙が溜め息混じりに言う。

 瞬間、そのセリフを聞いた霊夢の額から青筋が立った。

 

「一護……早く行ってきてくれない」

 

 霊夢の声調が急激に変化した。例えるなら、氷点下と言ったところだろうか。

 恐怖……殺気を感じた一護は身震いがし、直ぐ様「行ってくる」と言い、部屋から逃げるように去って行った。

 一護が神社から出て、人里に向かって飛び立とうとした瞬間、神社の方から「魔理沙ァッ!!」と霊夢の怒鳴り声が聞こえてきた。

 一護は聞かなかった事にして、人里の方に向かった。

 

 人里に向かって飛んでいる中、一護はふと思った。

 

(そういや、人里に行くのは初めてだな)

 

 霊夢から人里の事は少しだけ聞いた事があったが、行ったことは無かった。

 だから行ってみたいとは常々思ってはいた。

 しかし正直あまり今は行きたくない一護。

 何故かというと、あの文々。新聞のせい。あの新聞には自分の事を異変解決前に、戦闘狂みたいだと書かれていた。

 もし、人里の人達に警戒でもされたら気分的に最悪だ。

 一護は心に不安を募らせながら人里の方にゆっくりと飛んでいく。

 

   *

 

 同時刻、広大な庭に大きい日本屋敷がある、とても風情ある場所に二人の女性がいた。

 

「では幽々子様、今晩の買出しに行ってきます」

 

 少女が買い物かごを手に、目の前の女性にそう言う。

 

「は~い。行ってらっしゃ~い」

 

 女性は微笑みながら、柔らかく脳天気に答える。

 どうやら、この二人は主従関係のようだ。

 少女はペコリと頭を下げ、そのまま人里へと向かった。

 

   *

 

 更に同時刻、竹の生い茂る中にひっそりと建てられている屋敷がある。

 その屋敷から一人の男が出てこようとしている。

 

「あら、どこに行く気?」

 

 その男は一人の女性に呼び止められた。

 男は女性の方を見て口を開く。

 

「少し出る」

 

 男は低い声で簡略に答えた。

 

「そう。だったらついでに買い物を頼めるかしら。そろそろ頃合いだしね」

「……好きにしろ」

 

 男がそう答えると、女性は買ってきてほしい物を言った。

 

「それじゃあ、よろしくね――」

 

 女性は見送り、

 

「ウルキオラ」

 

 女性は男の名を言った。

 

 “ウルキオラ”と……

 

 

《2》

 

 人間の里

 幻想郷における、普通の人間達が住んでいる集落。

 妖怪の賢者が保護しており、人間の里の中にいれば妖怪に襲われることはほとんど無い。

 人間が生活する分に必要なものは全てこの里の中で揃う。その為、霊夢はいつも里で食料や道具の購入をしている。

 妖怪も人里に来ることはある。

 だが、ここを訪れる妖怪達は暴れ回ったりすることはないため、人間と妖怪の交流もなかなか多い。特にお酒の飲める店では、人と妖怪が一緒になって盛り上がることも割と日常茶飯事らしい。

 

 一護は今、そういう里に向かっている。

 

   *

 

 ――数分後。

 一護は人里に到着した。

 

「…………」

 

 まるで過去にタイムスリップしたような集落。

 流魂街や日本史の資料で見た、一昔前の風景に似ている。いや、まさにそのものである。現代からは程遠い風景といっていいだろう。

 里の人の着ている服も時代劇でよくみる着物だ。

 だから、一護の着ている外の世界の服は嫌でも目立つし浮く。

 

「……やっぱ、目立つよな」

 

 周りの人々が、里を歩む一護をチラチラと見てくる。とても視線が痛い。

 しかも時折、どこからか囁き声が聞こえてくる。勿論のこと、その囁き声は一護の耳にキッチリと入っている。

 そしてその囁き声の内容はほとんど、あの新聞のことだ。

 詳しくまでは聞き取れないが、人里に何だか居づらい一護は、早めに買い物を済ますことにした。

 何でも揃うスーパーマーケットのような店はもちろん存在せず、八百屋や魚屋、肉屋など一つ一つ独立した店になっている。よってお店を梯子しなければならない。

 

「そう考えると、現代の市場ってのは便利だったんだな」

 

 そう呟いた瞬間だった――

 

「そこのオレンジ頭君、ちょっといいか?」

 

 不意に、後ろから声を掛けられた。

 流石に直接、話しかけられると思わなかった一護は、直ぐに後ろを振り向く。

 そこには、一人の女性がいた。

 腰まで届こうかというまで長い、青のメッシュが入った銀髪。頭には頂に赤いリボンをつけ、赤い文字のような模様が描かれた青い帽子を乗せている。この帽子は六面体と三角錐の間に板を挟んだような形。衣服は胸元が大きく開き、上下が一体になっている青い服。袖は短く白。襟は半円をいくつか組み合わせ、それを白が縁取っている。胸元には赤いリボンがつけてある。下半身のスカート部分には幾重にも重なった白のレースがついている。

 

「……えっと、俺のことっすか?」

 

 一護は自分で自分を指差し尋ねてみる。

 

「ああ。急で申し訳ないが少し時間を頂けるか?」

「……いいですけど」

 

 誰かに声をかけられると思っていた一護は、別にその申し出に断る理由は無かったため承知した。

 

 一護と女性は適当な茶屋に行き、店前に置いてある横幅の広い腰掛けに座った。

 今時、外の世界ではほとんど見ない茶屋なため、どこか新鮮感がある。

 

「で、用件は何すか?」

 

 隣に座す女性に言う。

 

「まぁそう急くことはないだろ。ここの串団子は美味しいぞ。どうだ? もちろん私の奢りだ」

「はぁ、じゃあお願いします」

 

 女性は茶屋の主人に茶と団子を二人前注文する。

 流石、本場茶屋なのか注文して直ぐに茶と団子が運ばれてきた。

 女性はまず茶を一口啜り、

 

「自己紹介が遅れたな。私は上白沢慧音。この里で寺子屋の先生をしている。よろしくな」

「へぇ先生ですか。それは凄いっすね。あ、俺は黒崎一護。訳有って博麗神社に世話になっている外来人だ」

「ああ、知っている。新聞に載っていたからな」

 

 新聞……一護に嫌な記憶が蘇る。

 あの嘘八百の文々。新聞……一護の事を戦闘狂と書いた上、強いヤツ大募集という随分と身勝手なことを書いてくれた新聞だ。

 

「……まさか、あの新聞読んでるんですか?」

「まぁな。けど、心配するな。私はあの新聞のことをほとんど信じていない。内容が内容だ。拡張解釈や脚色など多いと思うしな」

 

 それを聞いた一護は一安心する。

 

「うん、美味しい。ここの団子はいつもと変わらず美味だ」

 

 串団子を食す慧音。

 

「君も食べなよ。味なら保証する」

「ああ、それじゃあ遠慮なく、いただきます」

 

 とりあえず、串団子を食べてから本題に入ることにした。

 

「――それじゃあ上白沢さん、用件ってのをそろそろ聞かせてくれねぇか?」

「慧音でいいよ。用件ってのはな、黒崎一護君……君に寺子屋の子供達に、外の世界の事を少し教えてやってくれないか?」

「え?」

 

 あまりにも的外れな用件に一護は目を丸くする。

 

「いや、別に嫌なら断わってくれても構わないぞ。こんなお願い、急にされても困るだろうしな」

 

 慧音が少し焦り口調で言った。

 やはり前振りもなしに言ったのが悪かったと少し反省。

 

「いや、別に断わる理由なんてありませんけど、またどうしてですか?」

 

 今はそれ程忙しくないので、取りあえず了解する。

 そして、その理由を聞いた。

 

「簡単なことだ。近頃、子供達が外の世界に憧れているんだ」

「え、それはまたどうしてですか?」

「新聞でだよ。それで外の世界からきた君の事を子供達が見て聞いて、興味を示したんだ」

「あの新聞ですか」

 

 あんな新聞で自分のことを知られたと思うと最悪だ。

 取りあえず、その子供達にはいくつか間違いがあるという事を教えないと、と思う一護。訂正箇所が多過ぎるが。

 

「そして今日の朝、子供達が新聞を見てきたらしく、その話題で授業が全く進まなかったよ」

 

 今日の新聞と言えば、一護と霊夢が紅霧異変を解決したという内容だ。

 この記事に対しては特に問題ない上、前の新聞の内容が内容だけにその悪評を、今回の新聞で解消できたことになる。

 

「たしか、あの異変の事だよな」

「ああ、その通りだよ。あの新聞で興味から憧れに変わったんだ。今の君は子供たちから見れば、まさに英雄、外の世界風に言うとスーパーマンというやつだ。あの内容は事実なんだろう?」

「あれは本当ですよ。どうやって記事にしたのかは知りませんけど。ちなみに、その前の新聞は丸切り嘘なんで、この場で訂正しておきますね」

「やっぱりそうか。写真まで載せられていたから確信はもてたが、やはり本人に聞いてみないとと思ってな」

 

 慧音は団子を頬張りつつ、

 

「しかし、君が好青年で何よりだ。君が本当に、あの新聞通りの戦闘狂いの悪漢だったらどうしたものかと思ったよ」

「いやだから、それは噓八百なんで忘れてください。……ちなみに、俺がそんな男だったらどうしてました?」

「ああ、もしそうだったら……あなたという存在を歴史から抹消していたわね」

「そうでなくて俺は良かったです」

 

 やはり幻想郷はデンジャラスな人が多い多いと、改めて再確認した一護だった。

 慧音は残りの茶を飲み干し立ち上がる。

 

「さて、そろそろ行かないと。それじゃあ、黒崎一護君。いつでもいいから寺子屋に寄ってくれ。子供たちもきっと喜んでくれる」

「あ、はい。分かりました、時間ができたら行きます」

 

 慧音はその言葉を聞くと、まるで急ぐように走ってどこかへ行った。

 一護はフランに続いて、また約束をしてしまったのだった。

 

   *

 

 その後、一護は適当に里をブラブラ歩き回った。

 直ぐに買出しを済ませて帰ればいいんだが、ついでに人里がどんなとこなのかを自分の目で確認する為に適当にぶらついているのだ。

 周りの視線もそれ程気にしなくなった。

 と言うのも、慧音から新聞のことで思っていたより悪い風評は耳にしなかったからだ。

 それに周囲の視線も改めて思い直すと、自分が過剰に反応していただけだったのかもしれない。

 故に堂々と、あまり気にせず里を堪能できた。

 

「――さて、そろそろ買い物して帰るか」

 

 ぶらついて二十分くらい経っただろうか。

 満喫した一護が適当な店に入ろうとした瞬間だった。

 ある一人の少女が一護の姿を見て、駆け寄ってきた。

 

「あの、お忙しいところ申し訳ありません」

「ん?」

 

 背中に物騒な二本の長刀と短刀を携えている少女。

 さらさらとした銀色の髪をボブカットにし、黒い質素なリボンを付けている。そして白いシャツに青緑色のスカート。

 その少女の傍らには白くて大きい幽霊みたいなのがいる。

 何やら本当に、幻想郷にいる子は個性的というか、外見が特筆過ぎる者が多過ぎる。

 

「えっと、何か用か?」

 

 一護が聞くと、少女はペコリと頭を下げ、

 

「はい。あなたがあの、紅い霧の異変を解決した黒崎一護さんですか?」

 

 セリフからするに、新聞のことで一護のことを知ったのだろう。

 一護は端的に答える。

 

「ああ、そうだけど」

 

 それを聞いた少女の表情が明るくなった。

 

「やっぱりそうですか! あ、申し遅れました。私は魂魄 妖夢と言います。以後、よろしければお見知りおきください」

 

 妖夢という少女がペコリと、再度お辞儀をする。

 

「あ、俺は黒崎一護といいます」

 

 その姿を見た一護も、ほぼ反射的にお辞儀をし名乗った。

 なぜか丁寧語になってしまった。相手が礼儀正しいせいだろうか。

 一護と妖夢はお互い顔を上げ、一護が口を開く。

 

「で、俺に何の用なんだ?」

「はい。早急で極まり無く不躾なんですが、一つお願いしても宜しいでしょうか?」

「……構わねぇけど」

 

 これと言って断る理由が無いので承知する。まぁ頼む内容が洒落にならないことなら断るが。

 

「ありがとうございます!」

 

 妖夢は深く頭を下げる。

 律儀な子だ。霊夢や魔理沙も見習うべきだと思った。

 

「では、そのお願いですけど……私と、一戦交えて頂けませんか?」

 

 さっきと同じくらい予想外の願いに少し驚く。

 これで今日までに三つの約束をすることになるが……

 

「別にいいけど、どうして俺なんだ?」

「今日の文々。新聞を読んで尊敬したんです。幻想入りしたばかりの人が異変を解決した上、あの吸血鬼と互角以上に戦った」

 

 本当に、一護を敬っているかのように言う。

 何か逆に恥ずかしくなる一護。

 刀を持っているから、やはり研鑽を積みたいのだろう。誰だって、強くなりたいと思うのは必然だし、この幻想郷は物騒だ。

 だから戦うものとして練度は欠かせない。

 

「それで俺と戦いてぇのか?」

「いえ、本当の理由は別にあります。しかし、不遜ながら私はあなたに憧れを抱きました。そんなお方と手合わせ願いたいのは当然です。受けて頂けないでしょうか?」

 

 もう一度聞いてくる。

 本当の理由というのが分からないが、特に気にすることはなかった。それに何やら真剣味を帯びていたため、一護は「ああ」と言い約束をした。

 

「ありがとうございます」

 

 妖夢はもう一度お礼を言う。

 しかしながら、このような少女まで強くなりたいと思うのは、やはり外の世界ではほとんど有り得ないことだ。

 外の常識は全く通じない。あながち間違いではない。

 こうして一護はまたまた約束をしたのだった。

 

   *

 

 一護はあの後、妖夢に模擬戦を行う日取りと場所を言われ去った。

 妖夢……多分だが、あの子は中々の強者だろう。憶測になるが、何故かそう思った。

 と言っても、レミリアクラスではない。美鈴レベル……か、それより少し下。しかし強いことに変わりはない。

 

 そして霊夢に言われた買い物を終え、一護は人里を出ようとしていた。

 この里に来て一護は二つも約束をした。

 慧音とは寺子屋の子供達に外の世界を教える約束。

 妖夢とは戦いをする約束。

 一護は一つ溜め息をつくと、博麗神社に向かって飛ぼうとした。

 

 その瞬間、後ろの方から強い視線を感じた。

 

 少し殺気が込められた視線。

 一護はバッと後ろを振り向く。

 だが、そこにはそういう視線を送っている人物はいない。

 けどあの爛れるような、迸ったかのような強い殺気は、一瞬だったが確かにあった。それは一護の粟立ちが如実に物語っている。

 まるで少しでも気を緩めていたら刎頚されていたかもしれないような、出鱈目で洒落にはならない無謬なる殺気だった。

 

「…………」

 

 放っておけば危ない。いずれ自分らの脅威になるだろうと、直感的に感じ取る一護。

 とりあえず深く詮索するのは止め、そのまま博麗神社へと帰った。

 例え人里で見つけ出しても、戦えない。

 あんな無辜の民が平和に暮らす場では……

 

 

 一護が飛んで行くと同時に一人の男が物陰から現れた。

 その男は角が生えた仮面を左頭部に被り、痩身で真っ白な肌をした黒髪の男。貫通した孔が喉元に開いており、緑の両眼の下に、垂直に伸びた緑色の線状の文様がある。そして、コート状の死神のような白い死覇装を着ていおり、腰には一本の刀を差している。

 

 そう、この男は死神時代の一護と壮絶な戦いをした破面――ウルキオラ・シファー。

 だがウルキオラは一護との死闘の末、消滅した。

 その男が平然とそこにいるのだ。

 消滅した男がそこに……

 

「黒崎一護……やはり、幻想郷に来ていたか」

 

 ウルキオラはボソリと呟き、その場から姿を消した。

 

 一護はまだ知らない。

 自分以外にも、幻想入りしている者がいることを。

 

 

 一護が博麗神社に戻ると霊夢の副作用は治っており、魔理沙が床の上で気絶していた。

 

 

《3》

 

 自己愛――他人に対して優しくするのは自己意識であり、自己愛。他人を助けるのは自己満足であり、自己愛。他人を嫌うのは自己防衛であり、自己愛。他人を陰で貶すのは自己欺瞞であり、自己愛。他人から評価を求めるのは自己顕示であり、自己愛。

 生き物は全て自己愛の巣窟。

 何てことを――

 

「刹蘭さんは言ってるわけだァ、こりゃまた捻くれ放題のお人!」

 

 何処にいるのか、どんな場なのかも表現できない、ナニかなる場所に、一人の男は立っていた。

 

「いやいや賞賛すべき対象だ。狂ってると言うべきなのか、それこそ生き物の在り方を認知しているお人なのか判然しきれないねェ、アハハハハッ!」

 

 こんなにも言葉を軽々しく言っている人間はいるのか? と感じてしまう虚無の塊であり、空っぽな男。

 恐らく善悪共に相容れない存在。誰とも仲良くなれない存在。否、恐らく総てを侮蔑、逆撫でする対象になってしまうであろう、世界が認めない存在。

 そんな男は、一体誰につぶやいているのかすら分からない。

 

「しっかし、刹蘭さんの言う通り、ホントにあの少年が幻想郷へ来たんだ。バッカだねェ! もしかして、“あの女”、あの男に期待とかしちゃってる訳なのかな?」

 

 独り言……なのだろうか?

 それとも刹蘭と言う男に言っているのだろうか?

 

「うんうん、まぁ期待するだけ損だと思うけどねェ。幻想郷にはバカな連中が多いから。自己陶酔ってやつなのかァ? そんな連中の淫らな溜まり場みたいな? ……うっわキモォ、アッハハハハハ!」

 

 男は紡ぐ言葉を制止させ、口角を不気味に吊り上げ、

 

「じゃぁ、刹蘭さんの言う通り、高みの見物といきますかぁ。三流映画を観る気分で、ご堪能しよう。――観客の目はないが、役者は総じてご覧あれってね」

 

 瞬間、男は全てを意図的に仕組み、支配し始めた。

 それこそ、これからの事象すべてが誰かの掌の上で躍らせるかのように。

 

「踊る阿呆に見る阿呆、飛び入り大歓迎のパーティーってことで――お一つよろしくゥ!」

 

 男の哄笑と共に、全てが始まる。

 

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