東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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第15斬【一護VS妖夢】

 魂魄妖夢との模擬戦の約束の日は一週間後。

 場所と時間は、正午に人里から西へ1km程にある平原。

 この約束については、霊夢の方にも伝えたが、興味がないのかほぼ無関心だった。本当、他人に対してはあまり見向きしない。

 

 そして、直ぐに一週間が経った。

 

   *

 

「そんじゃあ、行ってくるぜ」

 

 そろそろ頃合の時間となり、黒崎一護は約束の場である平原へと向かう準備を済ませ、霊夢に告げた。まぁ準備といっても、靴を履いてENDだが。

 霊夢は「早く終わらせて帰って来なさいよ」と心底どうでもよさそうに言って、一護を見送る。

 一護は「ああ」と言い、平原へと向かって飛んだ。

 

   *

 

 目的の平原までは空を飛べば直ぐに着く距離だ。

 故に時間の調節を間違えてしまい、少しどころか結構早い時間に平原へと到着した。

 早すぎたかと思った矢先だった――

 

「黒崎さぁん!」

 

 自分を呼ぶ声が聞こえ、一護はそちらへと顔をやる。

 そこには出会った時と同じ姿で、短刀と長刀の二本を背中に携え、傍らには白い幽霊のような生き物を連れている妖夢の姿があった。

 一護が妖夢の目の前に着地すると、感心するように口を開く。

 

「よぉ、妖夢。随分と来るのが早いな」

 

 自分ですらかなり来るのが早かったのに、妖夢は更にそれを上回っていたのだ。

 

「いえ、私自身が頼み事をした故、後から来るのでは黒崎さんに失礼だと思いまして」

 

 何とも律儀な子である。

 どこぞの巫女や魔法使いに爪の垢を煎じて飲ましてやりたい。

 

「そ、そうか。別に俺にそんな気を使わなくていいぞ。そんなんじゃやりづらいだろ?」

「いえいえ私がお願いした身です。黒崎さんはお気楽にお願いしたく思いますゆえ、気など使わないでください」

 

 ――ああ、何て良い子なんだろ。

 一護は涙を流しながら、目の前の煌めく少女に目が当てられないでいた。

 今まで出会った女性は、現世も含めて男顔負けの連中ばかり。こんな優しくていい子、滅多にいないだろう。

 と、感涙した一護は改め、

 

「さてと、どうする? 早速始めるか?」

「あ、いえ、始める前に少し質問してもよろしいですか?」

「別に構わねぇよ」

「……黒崎さんは、外の世界から幻想入りした人で間違いないですよね?」

「間違いねえよ。俺はれっきとした外来人ってやつだ」

 

 外から来た人間で外来人。

 ちなみに外からは人間だけではなく、物なんかも幻想郷に迷い込んだりもする。

 

「私は、実際に外の世界を見た訳ではありませんが、聞くところによると外の人間はそれ程までに強くないらしいんです」

「まぁ妖怪なんかと比べたら、そりゃ人間は無力に等しいかもな。ちょうど人里にいる人間と同じだ」

「そこです。そんな人間である黒崎さんが、どうしてあの吸血鬼を倒し、異変を解決したのかが不思議で仕方ないのです」

「あ~、まぁ確かに疑問に思うだろうな」

 

 並の人間なら、吸血鬼と対峙しただけで足がすくみ、殺気を当てられるだけで失神するのは確実だろう。

 だが外来人は希に異能を身に持つことがある。その能力によっては、強い妖怪に勝つことが可能になるかもしれない。

 しかし問題は、強い能力を持ったところで身体力、精神力、能力を使う際の技術力がしっかりしていないと、相手の殺気だけで気絶モノだ。もしくは能力を使う前に、単純な攻撃で打ちのめされる。

 故に知りたいのは――

 

「黒崎さん、失礼を承知の上で申しますが、黒崎さんは本当に人間なのですか?」

 

 幻想入りしたばかりの人間が、こんなに早く上位の妖怪、吸血鬼を退け異変の解決なんて出来るわけがないのだ。例え博麗の助力があったとしても。

 一護は妖夢の深入りな疑問に対し、

 

「当たり前だろ。俺は人間だ」

 

 そう、人間で間違いない。

 昔は人間の力を超越した死神の力、そして虚の力もあった。

 しかし今では能力がなければ、普通の人間と変わらない。そこらの妖怪にも敵わないだろう。

 

「…………ですよね。愚問でした。おかしなことを聞いて申し訳ありません。質問は終わりです」

 

 ペコリと頭を下げる。

 

「では、そろそろ宜しくお願いします」

 

 妖夢は背中に携えている長刀を引き抜く。まるで斬魄刀だなと思う一護。

 

「この刀は楼観剣。私の大切な一振りです」

「そうか。じゃあ、始めようぜ」

 

 一護はザッと後ろに跳び、距離を置く。

 そして戦いが始まった。

 

 

 妖夢の持つ刀は正真正銘の、鋭利な刃を持った武器。

 故に死神時代の戦いを思い出す。刀と刀が交差していた、あの頃を……

 

「――行きます!」

 

 地面を蹴り、妖夢の鋭い突きが身体ごと飛んでくる。

 

(ハナっからぶっ飛ばしてきやがった!)

 

 速さは美鈴より恐らく上。下手に手を抜いて戦える相手ではない。

 

「黒符『月霊幻幕』!」

 

 咄嗟の判断でスペルカードを唱え、無数の三日月状の弾幕を展開し、間隙なく放つ。

 妖夢は速さを瞬時に落とし、地面が陥没するかの勢いで止まり同じくスペルを唱えた。

 

「幽鬼剣『妖童餓鬼の断食』!」

 

 一閃、刀を振るった瞬間、その軌跡から無数の弾幕が前方に放たれた。

 一護の弾幕と妖夢の弾幕が激突し、相殺し合いながら土煙が巻い大地を衝撃で破壊していく。

 

「チッ」

 

 前方が土煙で視界が悪くなり、一護は必死に気配を探ろうとした時……

 土煙の気流がおかしくなったかと思うと、そこから土煙を引き裂きながら銀色に煌く鉄閃が繰り出されていた。

 一護は間一髪で躱すも、続いて妖夢の剣閃が舞い踊る。

 

「――ッ!」

 

 まるで絢爛な剣舞。

 妖夢の刀は一切隙を与えなく、連続性を帯びながら怜悧に精緻に、無駄のない体捌きで踊り続ける。純粋な剣技だけなら、死神でも上位クラスになれるだろう。

 迅速に、静謐に、妖夢は全霊を持って刀を振るい続ける。

 

「やっぱ強ぇな、妖夢!」

 

 並大抵の修練ではここまで強くなれないだろう。

 故、この子はここまで強くならなければいけない、何か理由があるに違いない。

 一護はそれを感じ取りながら、妖夢の剣戟を掌握し、一気に後ろに飛び退く。

 

「次はこっちが攻めるばんだぜ!」

 

 後退し、距離をとった刹那に、一護は妖夢の背後を俊敏な動きで移動していた。

 しかし妖夢は鋭い瞳でそれを見切り、捷い動きで一護が攻撃の動作に入る前に刀を振るい反撃する。

 

「――ッ!」

 

 まさか反撃されると思わなかった一護は、上半身を反るように避けるも少しだけかすった。

 ヒュッと、衣服が横一閃に裂け皮膚にかすかだが、血が滴る。

 そして直ぐに二撃目が一護を襲ったが、再び後方に跳び退き、体制を立て直そうと図る。下手に拮抗するように攻撃しても、体勢的に妖夢が圧倒的有利だ。

 故に、後方へ跳んだのだが――

 

(今だっ!)

 

 妖夢は一護の跳んだ瞬間を計らい、即座にスペルを唱える。

 

「人符『現世斬』!」

 

 妖夢は前方に踏み込む。

 刹那、全く目視不可な瞬速で一護へと斬り込んだ。

 その速さは、一護が後方に跳んで着地する前の、足が宙に浮いている回避不可な状態で右肩を峰打ちだが斬り抜けていた程だ。

 

(速ェッ!)

 

 峰打ちだが、これが死合だったら右腕は軽く持って行かれただろう。

 それに妖夢の反射神経に応変な対処、動体視力は半端ではない。

 

「やるじゃねぇか。お前、今でも充分強いぜ」

 

 上から目線で悪いが、本当に賞賛に値する強さだ。

 恐らく、今まで血反吐を吐くような努力をしてきたのだろう。努力の天才ってやつだ。

 

「お褒めに預かり光栄です。ですが、黒崎さんはまだ殆ど力を使われていませんね。僭越ですが、少し本気を出しては頂けませんか?」

「……ああ、そうだな。下手に手加減したら、お前に悪いな」

 

 瞬間、一護の霊圧が妖夢の言葉に答えるよう急激に上がった。

 その霊圧に剣呑した妖夢は、力強く刀を握り緊張を解かず、常時全開を心がける。

 

「んじゃ、こっちもマジで行くぜ」

 

 ズボンのポケットから代行証を取り出す。

 そして、いつも通り代行証を中心に黒い霊圧が卍型の形になった。

 

「何ですか、それは?」

「こいつは、そうだな。俺にとって大切な物で、俺に力を与えてくれるもんだ。そんじゃあ、行くぞッ!」

 

 それだけを言い、一護が烈風の如く速さで動き、

 

「――ッ」

 

 代行証の鍔である霊圧を妖夢に向かって振り下ろした。勿論、妖夢はそれを軽く刀で受け止める。

 鍔迫り合い……なのか。一護の霊圧の鍔が妖夢の刀と軋り音を立て、火花が飛び散っている。どちらも気を抜けない力比べ。刀と刀なら妖夢の並外れた剣技で対処可能だが、生憎と一護のは卍型の霊圧による鍔だ。頭にあるどの対処法も適切にはならないだろう。

 

「く……ッ! やりますね、黒崎さん!」

「お前もな、妖夢!」

 

 互いに互いを褒める。

 しかしそんな中も、気を抜けない状態である。

 膠着状態が続く。一護はこの態勢を解けない。下手に解いたら最後、妖夢の刀が颶風と共に飛んでくる。それは妖夢も同じだ。お互い、この状態を下手に解くことは出来ない。

 ――と、思われていた。

 

「ハァァアアアアッ!」

 

 その細腕からは出たと思えない、凄まじい剛力。

 それが一護の鍔を圧倒し、そのまま一気に弾いた。

 

「なッ!」

 

 一護はそれに驚愕するも、直ぐに妖夢の追撃に備える。

 だが再び――

 

「人符『現世斬』!」

 

 凄まじい速さで、一護を斬り抜ける。

 

「クソッ、やっぱ速ェ!」

 

 だが流石に二回も見たら、三回も喰らうことはない。

 勿論、妖夢もそう思ったのだろう、現世斬は使わない。

 

「こいつは、やっぱ近接は不利か。なら――そろそろ見せてやるよ。俺の最強のスペル」

「! 黒崎さんの、最強のスペル……!?」

 

 その言葉に、妖夢の心が打ち震えた。

 これは謂わば、自分の尊敬する相手に認めてもらえたに同義だからだ。

 

「――黒斬『月牙天衝』」

 

 一護がスペルを唱えた瞬間、代行証の霊圧が急激に増し、まるで風車のように回転し始まる。そして同時に、月牙天衝が撃ち放たれた。

 

「ッ!」

 

 妖夢はそれに対抗せず、逡巡せず月牙を避ける。

 本能で、あれとまともにぶつかってはいけないと、判断したのだろう。それが正解だ。あの月牙はレミリアの弾幕でさえも、何の障害にもせず破壊したのだから。

 

「凄いですね。これが黒崎さんの最強のスペルですか」

 

 月牙に圧倒された妖夢。

 あれに対抗できそうなスペルは、恐らくだが無いだろう。

 だが、妖夢は何処かであれとぶつかりたいと思っている。

 

「ああ。これが俺の切り札だからな。そんじゃあ、もう一発いくぜ」

 

 一護は再び月牙を放った。

 妖夢もそれに対抗するようにスペルを唱える。

 

「餓王剣『餓鬼十王の報い』!」

 

 妖夢は先と同じように横に一振りした。

 妖童餓鬼の断食と同じように、刀の軌跡から瀑布の勢いで無数の弾幕が放たれる。しかしその数、勢いは妖童餓鬼を優にに超える。

 だが月牙はその弾幕をも掻き消していく。

 無情に、無慈悲に、情け容赦なく。この月牙を前にすれば、全てが無力のようだ。

 

(やはり、この程度のスペルでは歯が立ちませんか。では……)

 

 月牙の攻略を諦め、月牙の軌道から外れた場を移動し、一護を狙って斬りかかる。

 一護はそれに直ぐに気づき、対処するためスペルを唱えた。

 

「やっぱ、そう来るかよ。黒符『月霊幻幕』!」

 

 小型の月牙が無数に放たれる。

 妖夢が刀に力を込めたら、弾幕を切り伏せることも可能だが、数が数だけに不可能だろう。

 故に――

 

「魂魄『幽明求聞持聡明の法』!」

 

 妖夢がスペルを唱えた瞬間、一緒にいる幽霊のようなものが妖夢の姿を模った。刀も携え、幽霊にありながら物理法則に則り質量も宿している。

 まるで妖夢が二人になったようだ。いや、今は二人なのだろう。

 二人の妖夢が一護の弾幕を、並外れたチームワークで効率よく斬っていく。純粋に二倍の戦闘力。否、そのチームワークを見るにそれ以上とみていいだろう。

 

「おいおい、どんなスペルだよ」

 

 フランの禁忌『フォーオブアカインド』のような感じだ。

 しかしこの分身はフランの四人と違って、まるで姉妹かのように意思を共有しているかのように攻めて来ている。

 

「一対二か。厄介だな。けど、やれねえことはねえ」

 

 近接は不利だと思ったが、やはり死神時代はこういった戦いをしていたため、昔の一護の血が騒いでいるのだろう。

 再び代行証で妖夢二人へ挑んだ。

 

 

 ――近接戦が始まり、激闘して数十分。

 一護と妖夢は疲弊を隠しきれず、息が荒れていた。妖夢の分身も消え、再び幽霊となり浮遊している。

 

「やっぱり、充分強ぇぞ妖夢」

「いえいえ、私などまだまだです」

 

 あくまで謙遜する妖夢。そんなことは一切ない。実力で言うと美鈴くらいは余裕で強いかも知れない。

 一護は潮時だと思ったのか――

 

「妖夢、そろそろお前の最強のスペルを見せろよ」

「そうですね。これ以上の戦いは、あまり良くはなさそうですし。……最強かどうかは分かりませんが、これで最後にします」

 

 遂に、最後の激突が始まる。

 妖夢は刀を前に構えスペルを唱える。

 

「断迷剣『迷津慈航斬』!」

 

 妖夢の刀の刀身に青い大量の妖力がつぎ込まれ、巨大な刀身が作り出された。

 その妖力、恐らく今まで見た妖夢の力の中で無謬の本気だろう。あれに注ぎ込まれた力は、恐らく月牙天衝に負けない程の質量。

 

「すげぇな。けど、俺も負けねぇぞ。黒斬『月牙天衝』!」

 

 一護の代行証の卍型の部分が歯車のように高速回転する。

 一護も妖夢に応えるべく、自分の霊力を力一杯込めた。

 

「では、行きます!」

 

 妖夢は刀を頭上に振り上げ、一気に一護に向かって天空を引き裂きながら振り下ろされた。大地を劃かつほどの力を有している刀を前に一護は、

 

「負けねぇぜ!」

 

 真っ向から挑む。

 放たれた月牙は妖夢の刀と激突し、拮抗し始めた。

 空間が振動し、凄まじい力と力が火花のように飛び散る。

 

「はぁぁあああああああ!!」

 

 妖夢は気合の咆哮を上げ、力一杯に一護の月牙に負けないように振り下した。

 そう、遂に振り下ろし切った。月牙が真っ二つに割れ、天に向かって飛翔していく。

 

「勝った!」

 

 妖夢が歓喜に満ちた瞬間だった。

 しかし既に一護は元の場所には立っていなく、妖夢の背後へと移動していた。妖夢に隙があり過ぎたのだ。一護の月牙に集中するあまりに。

 妖夢は直ぐ様振り向くが、一護の拳が妖夢の顔に当たる寸前で止められる。

 

「く……っ」

「俺の勝ちだな、妖夢。ちょっとした慢心が、負けに繋がるぜ」

 

 一護は拳を向けたまま言う。

 妖夢は参ったかのように目を閉じ、

 

「はい、私の負けです。ありがとうございました」

 

 こうして、妖夢との模擬戦は終わった。

 

   *

 

「黒崎さん、今日は本当にありがとうございました」

 

 深々と頭を下げる妖夢。

 相手に対しての敬意が行き届きすぎている。何だろう……こっちにきて、久々に真面目な普通の人に会えた気がする。

 

「ああ、こっちも久々に鈍ってた体を動かせて良かった」

 

 異変が解決してから、特に小さい異変もなかったし妖怪に襲われることもなかった。

 故にちょうど良い運動となったのだ。

 

「えっと、あの、黒崎さんは私がこの模擬戦を申し込んだ理由、知りたいですか?」

 

 やはり最低限の礼儀として、しっかりと言ったほうが良いのだろうか思った妖夢だが、

 

「別に構わねぇよ」

「え、ですが――」

「あんたの刀を通じて分かったんだ」

 

 一護は妖夢の言葉を遮り言う。

 

「あんたは誰かを護る為に刀を振ってんだろ?」

 

 妖夢は目を見開く。

 なぜ言ってもいないそのことを、一護に見透かされているのだろうかと。

 

「ちょっと変だけどよ、俺は相手と剣を合わせると相手の考えが少し分かるんだ。別に心を読めるとか、そんなんじゃねぇけど、どういう覚悟で剣を振るってんのか、俺を見下してんのか認めてんのかも含めてな」

「す、凄いです黒崎さん。まさか相手の心まで理解できるなんて。感服しました」

「いや、そこまで褒められると逆に恥ずかしい。そこまで大層なことじゃねえからよ」

「……そうです。私はある方を護る為に刀を振るい、そして強くならなければいけません」

「その為に、俺と戦ったと」

「その通りです。沢山学ばせて頂きました」

「そいつは良かった。……これからどうする? 一緒に飯でも食うか?」

 

 特にこれから予定がないため、適当に誘ってみた。

 

「あ、ごめんなさい。私、これから少し用事がありまして。えっと、このお礼はいつか必ずさせて頂きます!」

 

 と、断られた。

 

「そうか。まぁ、そのお礼ってやつを期待しとくぜ。じゃあな妖夢」

「は、はい! では、また」

 

 こうして一護は飛び、立ち去った。

 

「…………」

 

 妖夢は一護が見えなくなると、森の方に顔を向け口を開く。

 

「そのような場所でコソコソと隠れていないで、出てきてくれませんか?」

 

 まるで敵意を向けるかのように、森の中に居る何かに向けて言葉を吐く。

 するとガサガサと茂みの音がなり、そこから一人の男が姿を現した。

 

「るせぇな。テメェが黒崎と戦っていたから出て行けなかったんだよ」

 

 男は少し怒り混じりの声音で言った。

 妖夢の眉間がピクリと動く。

 

「黒崎……何故、あなたが黒崎さんのことを知っているんですか?」

「あ? テメェには関係ねぇだろうが」

「そうですね。関係などありませんでしたね。して、用件とは何ですか?」

 

 妖夢と男は不仲なのか、無駄な会話など一切せず、単刀直入に本題に入ることにした。

 

   *

 

 一護が博麗神社の前まで帰ってくると、中から色んな人の談話する声が聞こえてきた。

 

(……誰か来てんのか?)

 

 客人とは珍しい。

 博麗神社に来る者など、今までに魔理沙くらいしか見たことない。勿論、参拝に来る人間などもっといない。

 こんな言い方をしては悪いが、神社としては機能していないに等しいだろう。

 とりあえず一護は玄関の戸を開け「ただいま」と言い帰宅する。

 その瞬間だった――

 

「一護ぉーー!」

 

 少女の声が聞こえたかと思うと、急に誰かが一護に抱きついてきた。結構勢いが良かったため、腹部にズシンときた。

 一護は自分の胸囲に飛び込んできたものを見る。

 黄色い髪に七色の羽、赤い服に少女のような体格。

 そいつが抱きついたまま一護の方に顔を上に向ける。

 その顔に、一護は見覚えがあった。どころか忘れてはいけない少女だった。

 

「――フラン!」

 

 そう、抱きついてきたのはフランだったのだ。

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